主人公のアビドス生活スタートです!
それではどうぞ
あの怒涛の出会いから数日が経過した。
あれから改めてユメさんたちと話し合い、俺たちがアビドスでオーパーツを捜索するにあたって、いくつかの条件が決められた。
一つ目
俺――神城ミナトは、アビドス高等学校生徒会の“外部協力者”として、アビドスの復興に協力すること。
二つ目
オーパーツの捜索地点は事前にアビドス生徒会へ共有し、原則として
三つ目
アビドス自治区内で発見されたオーパーツは、一度アビドス側の所有物として扱う。その上で、俺が必要とする物については、査定額の半額で買い取ること。
ちなみに最後の一つに関しては、俺から提案したものだ。アビドスの資金難についてはアイギスから聞いている。そんな状況で見つけたオーパーツをタダで貰うというのはさすがに虫が良すぎる。
……そう思って提案したのだが、
『でもミナト君にはアビドスの復興を手伝ってもらうんだよ?それなのにお金まで貰うのは……』
とユメさんが難色を示したことで話し合いは難航。俺もユメさんも一歩も譲らなかったため、折衷案として『査定額の半額』というところでどうにか話がまとまった。それでもユメさんは最後まで渋っていたが、小鳥遊さんが、
『貰えるものは貰っておきましょう、ユメ先輩。今のアビドスにそんな余裕ないんですから』
と説得してくれたことで、ようやく納得してくれた。
……あの値段がついたオーパーツを平然とタダで渡そうとしてくるあたり、ユメさんのお人好しは筋金入りらしい。
そんなわけで晴れてアビドスの“外部協力者”となった俺が、この数日何をしていたのかというと――
「ミナトく~ん、そっち終わったー?」
「もう少しで終わりです!」
「分かった!じゃあ終わったらこっちお願いね!」
「了解です」
――掃除である。
箒を動かすたび、廊下の隅に溜まっていた砂埃がさらさらと音を立てて集まっていく。久々の教室掃除に感慨深さを覚えながら手を動かしていれば、窓から吹き込む風にせっかく集めた砂を攫おうとするので慌てて窓を閉める。
アビドス高校に来てからというもの、やったことといえば書類の整理、備品の片付け、校舎の掃除。昨日は倉庫を整理した。一昨日は古くなった机や椅子をゴミ捨て場まで運んだんだったかな……その前は確か――何をしたっけ?
まあとにかく、ここ数日そんなことばかりしている。
最初は高校の復興というくらいだからス〇ールアイドルでもやるのかと、二人がアイドル衣装を着ている姿とか想像していたが、そんなことはあるわけもなく。
現実はなんとも地味なものだったが、考えてみれば当たり前か。人手が足りないと言っていたのだからこういった肉体労働が主であるのは少し考えれば分かるし、学校運営なんて素人の俺に分かるわけないのだから。
アビドスの復興に協力する。そういう条件でオーパーツの捜索を許可してもらったのだから、引き受けた以上はちゃんとやるつもりだ。それにそもそもオーパーツ捜索には、小鳥遊さんの監視……同行が必要であり、肝心の小鳥遊さんがここ数日は自治区の見回りだの何だので忙しくしているのだから仕方がない。
「なあアイギス、掃除機になれたりしないの?掃き掃除疲れてきたんだけど……」
《そのような機能は搭載されておりません》
「でもこの前オーパーツ取り込んだじゃん。新しい機能使えるようになったんだろう?」
《肯定。ですがここで使用した場合、この校舎を半壊させてしまう可能性があります》
「物騒過ぎるだろッ?!そんなことしたら俺が小鳥遊さんに半殺しにされちゃうだろ……」
小さく息を吐いて、再び箒を動かす。
まあいいか……小鳥遊さんの手が空けば、また探しに行ける。それまでは目の前のことを一つずつ片付けていけばいいだろう。
残った砂埃を塵取りに掻っ込み終え、ユメさんのいる教室へ移動する。
「ユメさん、あっちの教室終わりました」
「お、やるね~感心感心!ミナト君、段々手際もよくなってるから、予定より早く終わりそうだよ!ホント助かっちゃう!」
「当然のことしてるだけですよ、ここが終わったら後は上の階だけですよね?」
「もう素直じゃないな~、でもこの調子なら午前中には終わりそうだね!よぉし、がんばっちゃうぞ~!」
えいえいおーと言いながら片手を上に突き出すユメさん。何故かこちらをチラチラ見ているんだが……もしかしてやらないといけないのそれ?やめて、そんな期待した目でみないで……
ユメさんの視線に気づかないフリをして、掃除に取り掛かろうとした時、校舎の奥から聞き慣れてきた声が響いた。
「ユメ先輩、ただいま戻りました」
「――あっ!ホシノちゃん、おかえりなさい!ねえねえ、聞いて聞いて!教室のお掃除もうここまで来たんだよ!ミナト君と一緒にがんばったんだッ!すごいでしょ~」
「……そうですね、いいじゃないですか」
「やったぁ!ホシノちゃんに褒められた!」
「ちょッ!もういきなりくっつかないでください!暑苦しいです!」
えへへ~と笑いながら小鳥遊さんに抱きつくユメさん。その結果、小鳥遊さんの顔が否応なく
「……なんですかその目は、撃ちますよ?」
まあ、俺に対しては相変わらずこんな感じである。あの日から数日経ったものの、小鳥遊さんから向けられる警戒心は未だ健在。出会い頭にショットガンをぶっ放された頃に比べれば多少マシになった……と思いたいが、少なくとも仲良くなったとは口が裂けても言えない。うーん、ジト目が突き刺さってくる……
「そういえばホシノちゃん、今日は早かったね?」
「今日は早めに終わったので、私も掃除手伝いますよ」
「ありがとう!いや~みんな優秀で私助かっちゃうな~……あ、そうだ!ホシノちゃん、こっちの掃除も午前中には終わるから、そうしたら午後は暇だよね?」
「そうですね、何かあるんですか?」
「ううん、私の方も特にないんだけど……」
そう言って俺の方を見るユメさん。今度は何をするのだろうか、そういえばユメさんが砂嵐の影響で割れた窓ガラスの修繕しなきゃって言ってたから、多分それかな……
「ミナト君と一緒にオーパーツ探し行ってもらおうかなって!」
「…………」
その言葉に小鳥遊さんの眉がほんの僅かに動いた。だがそれも一瞬……
「……分かりました」
思っていたよりもあっさりとした返事だった。
「掃除が終わったら出発するから、それまでに準備しておいて」
「……分かりました」
「じゃあ、私は向こうをやってきます」
そう言って箒を手に取ると、小鳥遊さんは隣の教室へと向かっていった。その背中を見送っているとユメさんが話しかけてくる。
「ねえ、ミナト君」
「……何ですかユメさん?」
「ホシノちゃん、ミナト君にはあんな感じだけど……本当はとっても優しくて思いやりがある子なの。だから、勘違いしないであげてね?」
小鳥遊さんが消えていった扉へ目を向ける。警戒心は強いし、当たりも強い。それでも、ここ数日のユメさんとのやり取りを見ていれば、多少は分かるつもりだ。きっとユメさんといる時のあれが、小鳥遊さんの素なのだろう。
「……分かってますよ」
そう答えると、ユメさんは嬉しそうに笑った。
「……ふふ、そっか!ありがとうミナト君!」
「今感謝されるところありました?」
「ほらほら!細かいことはいいから、ちゃっちゃと掃除終わらせちゃお!」
そう言ってスキップしながら掃除に取り掛かるユメさん。そんなユメさんに首を傾げながら、俺も掃除に戻る。小鳥遊さんとのオーパーツ捜索に思いを馳せながら。
《マスター、目的地点まで残り約二十分です》
「分かった、引き続き頼む」
アイギスの操縦する車が砂を巻き上げながら、広大なアビドス砂漠を進んでいく。車内に響いたアイギスの声に短く返答し、窓の外へ目を向ける。そこに広がっているのは、相変わらず代わり映えのしない砂漠だった。照りつける日差しに熱せられた空気が景色を揺らし、窓から乾いた風が頬を撫でていく。
ただ前回と違うことが二つある。一つはアイギスの探査精度が格段に上がったことだ。前回のオーパーツを取り込んだ結果、アビドス自治区内に残るオーパーツは六つ。大まかな範囲しか分からなかった以前とは違い、今ではそれぞれの反応をかなり正確に捉えられるらしい。このことはユメさんたちにも共有済みだ。
そして二つ目は――
「…………」
「…………」
……気まずい、この前はユメさんがいてくれたから多少マシだったんだけどな……
バックミラーへちらりと目を向ける。後部座席の小鳥遊さんは頬杖をつき、窓の外を眺めたまま一言も喋らない。俺から話しかけようにも、何を話せばいいのやら……そこ、ヘタレとかコミュ障とか言わない!
《前方の砂丘を迂回します》
「はいよ」
……ありがとう、アイギス。今はお前の声がものすごくありがたい。
しばらくして砂丘を越えると、窓の外に異質なものが見えてきた。
「……あれ」
砂の中から、建物の上半分が突き出している。それも一つだけじゃない。屋根、街灯、標識――かつて街を形作っていたものが、あちこちで砂の中から顔を覗かせていた。砂嵐に呑まれ、街そのものが埋まってしまったのだろう。
「…………」
再び何の気なしにバックミラー越しに、小鳥遊さんを見る。
彼女は何も言わない、表情だっていつもと大して変わらない。
それでも――
「…………」
なんとなく、ほんの少しだけ、寂しそうに見えた。
《マスター、間もなく目的地点へ到着します》
「……分かった」
俺もそれ以上は何も言わず、前へ視線を戻す。やがて車は砂に呑まれた街の一角へと入っていった。
《到着しました》
エンジン音が止まり、車を降りた途端、むわっとした熱気と乾いた風が身体へまとわりついた。
「暑っ……」
《目標地点は右前方、約十五メートルです》
「はいはい」
アイギスの案内に従って歩く。小鳥遊さんも少し遅れて車を降り、黙って後ろについてきた。
《その地点です》
「……ここ?」
足元には、何の変哲もない砂地しかない。
《肯定、目標物は地下に存在します》
「やっぱり掘るのか……」
前回の捜索を思い出しながら、アイギスに声をかける。
「アイギス、シャベル出して」
《了解です、マスター》
出発前にアイギスの中に格納しておいたシャベルを受け取り、足元の砂へ突き立てる。
「さてと……掘りますか」
ザクッ、と乾いた砂を掬い上げる。アイギスの探索精度を信じるなら、今回は掘れば確実に出てくるわけだし、前回より遥かに楽だ。小鳥遊さんも待たせているわけだし、ちゃっちゃと終わらせて帰りますかね。
そう思っていたのだが……
「なあ、アイギス」
《何でしょうか、マスター》
「ちなみに、あとどれくらい掘る?」
《目標物まで約二・七メートルです》
「…………」
シャベルを持つ手が止まった。
「……マジ?」
《肯定》
思わず足元を見る。まだ掘り始めたばかりの穴が、こちらを見返している。
「……やるしかないか」
ため息を吐いて、再びシャベルを突き立てようとすると、背後から声が飛んできた。
「……もう一本ないの?」
「え?」
振り返ると少し離れたところで見ていた小鳥遊さんが、こちらへ手を差し出していた。
「このままだと日が暮れそうだから、早く帰りたいし手伝う」
「……いいのか?」
「いいから早く」
「お、おう……」
急かされるままに格納していた予備のシャベルを取り出し、小鳥遊さんへ渡す。
「さっさと終わらせるよ」
「……あぁ、助かる」
それからは二人並んで、黙々と砂を掘り続ける。ザクッザクッと二本のシャベルが交互に砂へ突き刺さる。まあ二人掛かりでもそれなりに時間がかかるだろうと気合を入れて掘り進めていたのだが――
「……小鳥遊さん、速くない?」
「普通でしょ」
「いや絶対普通じゃないって……」
小柄な身体のどこにそんな力があるのか、俺が一杯分の砂を放り出す間に、小鳥遊さんは二杯、三杯と掻き出していく。
《マスター、掘削速度が今までの約二・六倍まで向上しています》
「数字にされると余計悲しくなるからやめて」
「喋ってないで手を動かして」
「はい、すいません……」
再びシャベルを突き立てながら、しばらく二人で掘り進めていると――
カツンッ
「……ん?」
砂とは違う硬い感触が、シャベル越しに手へ伝わった。
《マスター、目標物を確認しました》
「おっ、やっとか!」
シャベルを置き、残った砂を手で掻き分ける。指先に触れた硬い物体を慎重に掘り起こし、そのまま両手で持ち上げた。
《照合完了、目的のオーパーツで間違いありません》
「よっしゃ……!」
思わず声が漏れる。アイギスを信じていなかったわけではないが、前回は散々ハズレを引かされたこともあって、一発で目的の物に辿り着けたのは素直に嬉しい。これならすぐにでも目的が果たせそうだ。
「これで残り五つだな」
《肯定》
砂を払いながらオーパーツをアイギスへ格納する。
「見つかったなら帰るよ」
「あ、小鳥遊さん」
穴から上がり、車へ向かおうとする小鳥遊さんを呼び止める。
「手伝ってくれてありがとう、おかげで助かったよ」
「…………」
小鳥遊さんの足が止まる。こちらを振り返った彼女は、少しだけ目を細めた。
「……別に、あなたのために手伝ったわけじゃないから」
「……分かってるよ、早く帰ろう――」
「分かってない」
「え?」
先ほどまでとは違う、明らかな拒絶を含んだ声だった。
「私は、ユメ先輩が守りたいアビドスを守りたい。だからアビドスを脅かす奴は、誰であっても許さない」
「………」
「ユメ先輩はお人好しだから……あなたみたいな怪しいやつでも簡単に信じちゃう」
小鳥遊さんの眼差しは相変わらず鋭い。いつもと変わらず敵でも見るように、じっとこちらを睨んでくる……とはいえ、この数日で俺も大分慣れた。最初なら反射的に目を逸らしていただろうが、今ではその眼差しも真正面から受け止められるようになった。
「だから私は、あなたのことを信用しない。あなたが何をしようと」
「………」
「約束だから、オーパーツが全部見つかるまでは協力する。でも、それが終わったら――」
一度言葉を切り、小鳥遊さんははっきりと言い切った。
「アビドスから出ていってもらう」
真っ直ぐに向けられたその言葉を、黙って受け止める。目の前にいる小鳥遊さんは相変わらず俺を睨んでいて、警戒心を隠そうともしていない。とことん嫌われたものだ……そんな中ふと、今朝ユメさんに言われたことを思い出した。
『ホシノちゃん、ミナト君にはあんな感じだけど……本当はとっても優しくて思いやりがある子なの。だから、勘違いしないであげてね?』
……どうやら俺が思っていた以上に、小鳥遊さんにとってユメさんとアビドスは大切なのだろう。それなら、俺に対するこの態度も多少は頷ける。
「……そっか」
「……何?」
「いや、なんでもない」
シャベルを担ぎ、小鳥遊さんの横を通り過ぎる。ユメさんの言っていたことは、やっぱり間違っていなかったらしい。
「大丈夫だよ……全部終われば出ていくから」
小鳥遊さんの反応を待たずに車へ向かう。ここまで嫌われていると、さすがに少しくらい思うところはある。別に嫌われたいわけじゃないし、できることなら普通に接してもらいたい。とはいえ、信用できないという小鳥遊さんの言い分も分からなくはない。
……
「だから、それまではよろしく小鳥遊さん」
小さく呟いた言葉は、砂漠の風に攫われて消えていった。
ここまで読んでいただいたありがとうございます!
やっぱり過去ホシノはユメパイセン以外にはトゲトゲに限りますね~
ご意見・ご感想あれば、是非お待ちしています!