ハロー、ヤンチャ娘
ロアの街に到着したのは夕方。ロアの街はこの辺りで一番の街らしく、それらしい発展と活気がある。デカい城壁があって、大きな門に多くの馬車が出入りしている。交易都市としてなら十分だろう。
「ルーデウス。もう街に着くいい加減屋根から降りたらどうだ」
「はいはーい」
門をくぐると始めは商区。露店や宿、馬小屋があったりしてザ・商人のいる場所。会話を盗み聞く感じ行商人の馬車に乗せてもらうことも出来るみたい。まあ俺は魔術でどうにか出来るからあんま関係ないかな。
他にも、酒場や鍛冶屋、冒険者などのギルドもこの区画にあるらしい。ギレーヌに聞いた。
次の区画は武器や防具を扱う店が増え、冒険者用の店が多くなる。
更に奥に行くと町人の区画になり、道沿いには町人向けの店。奥には住宅がある。
正にナーロッパの街。モンスターの襲撃を想定した街づくり、そうなれば、街の外側に貧民が中心には貴族が。
中心にあるのはこの街一番の屋敷というより城。この馬車も其処に向かっている。
「あれは?ギレーヌ」
「領主の館だ」
「ふーん。彼処に僕の生徒はいるの?」
「ああ」
「どんな子?」
「会えば分かる」
「ふーん」
館に入り、応接間と思われる部屋に通された。執事に、
「そちらにお座りください」
そう、二つあるソファの片方を指されたが、立っておく。理由は何となくだ。何となくコイツを信頼出来ない。
「もうじき若旦那様がお戻りになられるので、しばしお待ちください」
執事は、客人用であろうカップに茶を注ぐと、入り口脇に控えた。香りからして紅茶だろう。まあ飲まないが。普通に客人にしか出されておらず、主人側の人間の誰もが口に付けないのは飲まないだろ。
パウロが邪魔で俺を殺そうしている奴が運命が変わったことによって、この家に居るかもしれない。一番怪しいのはお前だよ、執事。なんでまだ入り口にいるんだよ呼んでこいよ、主人。
ドタドタと大男の足音が聞こえてきた。………ギレーヌをからかうか。
「ここか!」
乱暴に扉が開いて、筋骨隆々とした一人の男が入ってくる。年齢は50歳ぐらい。ザ・武人と言った風貌の男だな。
「………ここにはいないのか?おい、パウロの息子は何処にいる」
「は?いや此方におられるはず……いない?」
ははっおもしろ。今、俺は魔術で出した水や氷で光の屈折を操って周りに見えないようにしている。
「だから言うておるではないか!パウロの息子は何処だ!」
「儂に言い訳するのか?」
「い、いえ!大旦那様ただほんの先ほどまでこちらの部屋にいたのです!」
「……もうよい」
おっどっか行った。ギレーヌは困惑顔だな。いやーいい表情するわ。嵐のような男とはあの男の事をいうよな。はい、解除。
しばらく後
「どうしたトーマス。扉が開けっ放しじゃないか。あと、父さんがやたら不機嫌だったけど、何かあったのかい?」
父さんという言葉から察するに、この人がパウロの従兄弟だろうが、似てねえ。雰囲気が全然似てない。あんな武官の息子がこんな文官とは………母親似かな?
「これは若旦那様。申し訳ございません。先ほど大旦那様がルーデウス様を探しに来られたのですが、ここにルーデウス様がおらず……」
「ん?ルーデウスは此処にいるじゃないか」
彼はそう言うと、俺のいる場所の丁度対面のソファに座る。流石上流階級。相手がいるのに挨拶もせずに座るとは
「初めまして、ルーデウス・グレイラットです」
ギレーヌに聞いていたように、右手を胸に当て、少しだけ頭を下げるようにして挨拶する。
「ああ、私はフィリップ・ボレアス・グレイラットだ。挨拶も丁寧で悪くはない。座ってくれ」
座れと言われたら座らないとな。
「話はどこまで聞いている?」
「五年間、ここでお嬢様に勉強を教えれば、魔法大学への入学資金を援助してもらえると聞いてます」
「それだけ?」
「はい」
「そうか……」
フィリップは顎に手を当て、何かを考えこむようにテーブルに視線を落とした。
「君、女の子は好きかい?」
「父様ほどではありませんが」
「そうかい、じゃあ合格だ」
ハッあの浮気男以上の女好きがいるわけない。そもそも合格、不合格は無くて俺がアンタの娘に合うかどうかが本題だろ。
「今のところ、あの子が気に入った教師は礼儀作法のエドナと、剣術のギレーヌだけだ。今までに5人以上解雇している。そのうちの一人は王都で教鞭を取っていた男だ」
ほらな。
「ハッキリ言って、君にはあまり期待していない。パウロの息子だから、とりあえず試してみようってだけだ」
「かなりハッキリと言いますね」
「なんだい、自信でもあるのかい?」
「ありますよ」
「ふ~ん」
コイツかなり腹黒いな。まあ、その方が貴族としてはいい。
「とはいえ、会ってみないことには始まりません。会わせてもらえますか?」
「確かに、そうだ。トーマス案内してあげて」
んー。正に火属性な女の子だ。コレは文官じゃなくて武官だ。フィリップじゃなくて大旦那似だな。
「始めまして、ルーデウス・グレイラットです」
「フン!」
彼女は俺の姿を一目みた瞬間、おじいちゃんとそっくりの鼻息を一つ。まあかわいらしい。
腕を組んで仁王立ちして、明らかに見下した態度で、上から見おろしてきた。
俺より背が高いのだ。
「なによ、私よりも年下じゃないの!こんなのに教わるなんて冗談じゃないわ!」
分かる。年下に教わるのって嫌だよな。でも貴族ならそういうのは態度に出さないほうがいいぞ。
「そうは言いますがお嬢様。教師に必要なのは年齢ではなく教養です」
「なに!? 私に文句があるわけ!?」
「ええ。私は師を尊敬しているので私が愚弄され黙っていたら師の顔に泥を塗ることとなりますので」
おお、怒ってる怒ってる。でもガキンチョが怒ったところでな。
そうして内心小馬鹿にしながら会話を続けていくと……
パァン!
と、いい音が鳴る平手打ちをプレゼントしてくれました。いやーありがたいですね。全然嬉しくはないですけど。
「なんで殴ったんでしょうか?」
「年下のくせに生意気だからよ!」
「なるほど……それだけですか?」
「ええ!」
まったく、しょうがないな。ニヤニヤ
「じゃあ、殴り返しますね」
「は!?」
ペチン
まあ、そんなに痛く無いようにするけど、
「さて、お嬢様。人を殴ると殴り返されるのです。ですから嫌なことがあるのでしたらまずは言葉で言うようにしましょう」
うーん。誰だ?こんなになるまで甘やかしてたのは、十中八九大旦那だろうけどさぁ……。
そんな事を考えていると殴りかかってきたので、避ける。避けて、避けて、避けまくる。部屋としては広いけど戦う場としては狭いんだけど。
「誰に手を上げたか! 後悔させてやるわ!」
後悔させれたらいいですねー。ほーら、当たりませんよー最初の一発はまぐれだったんですかねー?口には出さないけどそんな事を考えながら避け続ける。
そしたら涙声で、
「今日の所はこれで勘弁してあげるわ。もし次に同じ事をしたら承知しないんだから」
と言ってベットに入って行った。相当悔しかったようだな。反省はしないだろうし、夜襲もするだろうけどどうにかなるからいいか。
さて、フィリップの所に戻ると彼は苦笑していた。
「大人げないね」
「子供にそれ言いますか?」
「でも君はあの子の家庭教師だろう?」
「ふむ確かに。それはさておき、お嬢様の今後のことです。フィリップ様はどちらが良いですか?抑圧か芝居か」
「抑圧は分かるが芝居はなんだい?」
「お嬢様は此処で花のように育てられたように思えます。ですので一度屋敷の外を知る機会を設けてみては?と思った次第で」
「それが、どう芝居に?」
「ただ、一緒に外に出て行くだけではお嬢様は反発するでしょう。ですので、不可抗力で外に出される機会をと思いまして、方法は問いませんフィリップ様が用意できるもので構いません。こちらで調整します」
「ふむ。こちらの暗部にやらせよう。つまり、今までのやり方では通用しない所に連れ出して、勉強の大切さに気づかせるということだね?」
「そういうことですね。ではよろしくお願いします」
そして、俺は部屋を退出し用意された部屋へと足を進めた。
首にいつも下げてるペンダント(お守り)は二つともあるけど植物図鑑が無い。はぁ、家に取りに帰るか。