倉庫から出たら、知らない町だった。城壁も見えないし、ロアとは全然別の街だろう。誘拐され、運ばれた時間からしてそこまで遠くには連れて行かれてはないから……子供でも3日程で帰還できるはず。
「ふう、ここまでくれば大丈夫ね!」
それはどうかな?まだ倉庫からはそんなに離れてないし別に彼奴らを閉じ込めたわけでもない。なので……
「クソが!!ガキどもどこ行きやがった!!」
といった怒声が聞こえてくる。
「どうします?まだ安全じゃなさそうですけど」
「な、なんとかしなさいよ。先生なんでしょ?」
「ええ、先生ですから授業をします。今回は復習です。こういう時はどうするべきだと思いますか?」
「え?えっと……え?」
「どうするべきだと思いますか?」
「は、はい!えっとまずは情報を集める。そしたら、安全を確保して逃げる、です」
「上出来です。流石サウロス様のお孫様ですね」
「そ、そう?えへへ」
「ではお願いします」
「え?」
「ですからお願いします。ご覧の通り私はボロボロなので」
「……わかったわよ」
正直に言って彼女が一人で今回のミッション――つまり情報収集だが、今まで甘やかされた子供では相手にされないだろう。さて、今のうちに治療するか……
あーなんか骨足りなくね?気の所為か?―――よし治った。
お嬢様は……ははっまだ誰にも相手されてないな。おそらくお貴族様の冷やかしとでも思われているのだろう。なんで商人に聞いているのだか。
お嬢様が苦戦しているのを横目に集めた情報から分かった事は此処はウィーデンで、想定していた隣町とは違ってロアから二つ離れた町ということ。馬車は調べていた町やロアと同じように2時間おきに出ているみたいだ。
うーん。これだと最短でも1泊する必要があるな。コレは最短距離だと奇襲を受けるかも……まあそれも教訓としてもらおうか。
あ、これ買いません?綺麗な造花でしょ?十本銅貨一枚でいいですよ。
そうしているとお嬢様の聞き込みが一段落したらしい。
「どうですか?何か分かりましたか」
「………何も」
「まあ初めてですし、分からないこと、出来なかったことがあっても大丈夫です。これが終わって授業を受ければできるようになりますからね」
「さて、1泊する必要があるみたいです。隣町に行って宿を探しましょう。この町に居てはまた見つかるかもしれませんからね。お嬢様、馬車を選んでください」
「……先生がしてくれたらいいじゃない。体治したんでしょ」
「今回は私がいますけど次はお嬢様一人かもしれないんですよ?出来た方が良いと思いますが」
そんな会話をしていると聞こえてくるのは誘拐犯の怒号。
「どこだこらぁ!」
「逃げきれると思ってんじゃねえぞ!」
ふむ。町中では声は聞こえても見かけないと思ったら町の外側を探していたのか。
「お嬢様安全の確保です。何処に逃げますか?」
「え?えっと、あの……彼処!」
トイレか……一応は個室だけど逃げ場はないから悪手何だが……それを言っても仕方ない。
行ったか。ん?どうした?服掴んでさ、彼奴らどっか行ったし外出ようぜ。
「ね、ねえ」
「何ですか?トイレなら外に出ますよ」
「い、行かないで」
「どうしてですか?」
「こ、怖いから」
「では、これを」
怯えているお嬢様に渡したのは大好きなギレーヌのデフォルメ人形(水)。精巧な人形を作ろうとしても細部が分からなくて出来た産物。それがデフォルメ人形だ。水だとほぼぬいぐるみだけど。
そうして、用が済んだお嬢様と一緒に商人の所に行く。
「さて、お嬢様次の授業です。お支払いをしてきてください」
「何でそんな事しなくちゃいけないのよ」
「戻って来たら教えてあげます。こちらお金です」
「……まったく何で私がこんな事を」
そうぶつくさ文句を言いながらお嬢様は御者にお金を渡した。もちろんお釣りはちょろまかされた。うーん、流石お嬢様。大体相場の2倍は渡したんだけどな。
「払って来たわよ。これが何なの」
「お釣りはどうしましたか?」
「………無いわよ。そんなの……ちょうどだったでしょう?」
「いえ、大体相場の2倍は渡しました。あちらを見てください」
そうして指差した先は料金表。言ったことがそのまま書いてあるが、お嬢様は読めないだろう。俺は文字を教える先生でもあるんだから。
「……あれが何?」
「あれは料金表です。馬車に乗せてもらうにはどれくらいお金を払えばいいのかが書いてあります」
「……騙されたってこと?」
「ええ」
「アイツ!!!」
「お嬢様が勉強していればこうはならなかったんですよ?ギレーヌのように冒険者を目指しているであればああいう商人を相手にすることもあるでしょう」
「たった一言お釣りは?と聞けばよかったのです。それをできなかったのはお嬢様です。分かりましたか?」
「……はい」
「よろしい。では乗せてくれる御者に感謝して乗りましょう。いつ人攫い達が来るか分かりませんからね」
隣町までの道中お嬢様は怯えながらギレーヌ人形をむにむにしていた。あーギレーヌの耳が!しっぽが!引き伸ばされてる!
本日の宿はこちら!うーんどちらかというとコレはホテルですね!部屋も綺麗で、ベットもふかふかです!
いわゆる高級宿。こんな中世の世界どんな感染症があるか分かったもんじゃないからな。ある程度のグレードの宿じゃないと安心出来ない。俺まだ解毒魔術取得してないからな……行こうかなミリス教会本部。神級さえ取得出来たら他いらないだろ。
ゆっくり寝なよ明日には屋敷に帰れるんだからさ。ほら猫ちゃんもあげちゃう!え?もっとほしい?仕方ないなー今日は頑張ったからネズミさんもあげちゃう!
あーよく寝た。やっぱり高い宿ってのはその分良いね。荒れた客も居なかったし、朝食も美味しかった。
お嬢様1回人形返してくれませんか?え、嫌だ?えーお願いしますよー。他にも作ってあげるから、ね?これから授業するんだよー。
「お嬢様、早速ですが昨日の復習です。お金を渡すので支払いをお願いします」
「ふ、先生。一度教えてもらえれば出来るってこと見せてあげるわ!人形の約束覚えててなさいよ!」
「もちろんです」
宣言通り今回はキチンとお釣りも貰って来た。いい子いい子してあげる。もう恐怖が最高潮だろうしな。ここからは屋敷に着くまで特にやることはないから甘やかしてあげよう。
あー大丈夫ですよー。人攫いが来てもいいように冒険者が護衛に着いている馬車にしたんですから。
こうゆう事も覚えておいて損は無いですよ?冒険者を雇う人もいれば商会のお抱えに任せる人もいますからね。前者じゃないと乗せてもらえませんから。
おー城壁が見えて来た。ここまで来るとお嬢様も安心したようであらぬ姿になっていた人形達が元の姿に戻っていた。魔術で作ったから大丈夫だったけど普通のぬいぐるみだったらねじ切れてるよ。
後にしてくれる?
はい、到着。今回の授業ではお嬢様は満点あげます。言われたことをキチンと次に生かして自分で行動出来たからですね。これからもよろしくお願いしますね。
「先生!」
「どうしました?いきなり大声出してサウロス様ならここで待っていればメイド達が連れて来てくれますよ」
「そうじゃないわ!お嬢様呼びはもう辞めることよ!これからはエリスと呼びなさい!」
「はい、エリス様」
「様はいいわ!エリスと呼びなさい!」
そう言い終わるとエリスは腕を組んで仁王立ちのまま仰向けに倒れ込んだので風で受け止めてあげる。
さて、此処はメイドに任せて俺はやることをやろうか……