エリスを屋敷に送った後に俺が向かったのは凍りついた誘拐犯のいる路地裏。
コイツらはここでエリスの事を待ち伏せしていた。確かにエリスはロアの街に帰還するのを目指すのでここで待ち伏せするのは正しい。が、もう授業をする為の脅しの役割を終えたコイツらに俺が容赦する必要は無い。
口をきけるようにして質問を始める。
「誰に指示された?」
「ハッ誰が言うか」
……指先だけを解凍して燃やす。ゆっくりと。炙るように。
「誰に指示された」
―――
そうして拷問をして分かったことはダリウスという変態貴族と繋がりを持っていたトーマスが今回の偽誘拐事件を利用したようだ。
因みに拷問した意味はあまり無く報告する前にトーマスがゲロったのでこの拷問について知っているのは俺だけってことになる。ボレアス家の者は実行犯は作戦が失敗したとして逃げ出したとでも思っているだろう。
……ていうかアイツを前もって殺せばよかったのでは?―――いや、それはどうだろう。この世界は前の世界よりも運命というものが強い。殺せたとしてどうなるだろうか……。
結果論としてはそもそも偽誘拐事件を起こそうとしたら本当の誘拐事件が起こるのだろう。今回はその誘拐事件が必要だったからいいが今後は考えなくてはいけないな。
さて、このだるまさん2人はどうしようかその変態貴族の所に送るか。持っていても仕方ないし、持ち主に返そう。
そうそう今回の事件。通称チワワ誘拐事件を解決したのはギレーヌってことになっている。なので誘拐犯達は風の刃で綺麗に斬っておいた。
解決したのをギレーヌってことにした理由には今後の予防とボレアスの地位を知らしめるのもあるみたいだ。剣王ギレーヌは剣神流では4番目の実力者として知られているからかなりの箔がある。おかげで他の貴族がちょっかいをかけにくくなる。
明らかにお貴族様の戦いだな。これを考えたのはサウロスではなくフィリップだろう。
「ということだ。いいね」
「はい、もちろんです。どんな時でも、ですよね?」
「ああもちろんだ。」
今回の一件はロアの街で起こったこととして町長である。フィリップが対処したこととなった。事実そうだろうが、ここには領主であるサウロスがいる。なんとややこしいことか。
「ではこれからのこと、エリスの家庭教師についてだけど」
バァン!
と、フィリップと今後の事について話そうとしていると、またドアを乱暴に開け放って、入ってくるのはサウロス。扉頑丈だな。
「聞いたぞ!」
彼は応接間にズカズカと入り込んでくると、俺の頭をガッシリと掴みガシガシと撫でてくる。首もぐつもりかってくらいぐわんぐわんするけど。
「エリスを助けてくれたらしいな!」
「お嬢様を助けたのは私ではなくギレーヌです。サウロス様」
そう答えるとサウロスの目がぎらりと光る。
「貴様! この儂に嘘を付く気か!」
「フィリップ様の指示です」
「フィリィップ!」
サウロスは俺の言葉を聞くと何の躊躇もなしに振り向き、目にも留まらない速さで拳を振るう。
これを見るとエリスもまだまだだな。
ボグンと嫌な音が鳴りフィリップは顔面に拳を受けて、ソファの後ろに転がった。
「貴様! 自分の娘を救ってくれた恩人に! 礼の一つも言わず!貴族同士のくだらん芝居の真似事をさせるのか!」
アンタ当主だろ。そんな態度でよく地位を維持できたな。周りの反発凄いだろグレイラット家であっても。
フィリップは倒れたまま、動じずに応じた。起きろよ。
「父上。パウロは勘当されたとはいえ、グレイラット家の血を引いています。となれば、その息子であるルーデウスも当然、グレイラット家の血を引く我が家の一員です」
「上辺だけの労いや報奨より、家族として温かみを持って接するのが礼と考えました」
慣れてるな。なら対策すればいいのに先に話をするとかさ。
「ならばよし!貴族の真似事大いに結構!」
アンタも貴族だ。
「ルーデウス!」
サウロスは腕を組んで、顎をそらして、上から目線で、俺を見下ろす。エリスがやっている奴の本家だ。エリスがやっているとかわいらしいけどサウロスがやると圧が凄いな。
「頼みがある!」
人に頼む態度ではないが……貴族だから本当の意味で頼む必要は無いからなこれでも十分だろう。
「エリスに魔術を教えてやってほしい」
「それは「儂からそう頼むように、先程エリスに頼まれた。ルーデウスのつかった魔術を自分でも使えるようになりたいとな」
ずっと抱っこしていたしな。ギレーヌ人形はプレゼントしたけど女の子ってのはぬいぐるみで部屋いっぱいにしたがるものだしもっとほしいんだろう。
「教えるのは構いませんが、サウロス様はエリス様をこれからもサウロス様だよりな娘に育てるおつもりですか?」
「ほう! 言うではないか! その通りだ!」
サウロスは振り上げた拳で膝をドンと叩き。痛くないのかな……大きく頷いた。
そして、大音声。
「エリィィス! 今すぐ応接間に来なさぁい!」
鼓膜が破れるかと思った。貴族何だから沢山いる使用人を使えよな。何のために屋敷にいるんだよ。
フィリップがソファに座り直したので頭を治癒魔術で治療。いなくなったのとは別の執事アルフォンスが、開きっぱなしだった扉を閉める。
後で知ったことだが、サウロスは嵐のようにやってきて、嵐のように去っていくことが多いから、すぐには閉めないらしい。こういう時は使用人を使うのか……
しばらくすると、タタタタっと走る音が聞こえてくる。
「ただいま参りました!」
祖父ほど勢いは無いものの、扉を元気よく開けて、エリスが入ってきた。エリスはやっぱり犬じゃないかな。大好きなご主人に呼ばれてくる犬そのものだよ。少なくとも淑女の仕草ではないよね。
エリスは俺が座っているのを見ると、くっと顎を上げて睨んできた。それ、必要?
「お祖父様、先程の件は話していただけましたか!?」
サウロスはバッと立ち上がり、腕を組んでエリスを見下ろす。だからそれいる?
「エリィス! 頼みごとをしたいのなら、自分の頭を下げろ!」
エリスは、ムッと口をへの字の結んだ。
そのエリィスってのは何ですか愛称だったりします?
「お祖父様、頼んでくださると言ってくれたのに……」
「貴様が頼まんのなら、ルーデウスの雇用は無しだ!」
「く、くぅ………」
エリスは顔を怒りと屈辱に染めてこちらを睨んでる。お前なんか地の果てまで追いかけてひき肉にしてやるって言ってる。声に出してないけど顔がそう言ってる。けど大好きなおじいちゃんが居るから出来ないんだろうな。
フッ1回も攻撃を当てられたことないくせに。
「お、お願いしま……」
「それが人にモノを頼む態度か!」
アンタも人のこと言えないよ。
そんな事を考えているとエリスが長い赤髪を根本から掴んだ。
側頭部で二つ、尻尾を作る。即席ツインテール。そしてそのままの格好で、バチコンとウインク。
「え、エリスに魔術を教えてくださいニャん☆」
これ笑っていいのかな?もう口の端がピクついているのが自分でもわかるんだけど。
「読み書きはいらないニャん☆」
つ、続けるのかよ!俺の腹は限界だぞ。
「算術もいらないニャん☆」
いや、教えるけど。そんなに面白いお願い方されても教えることは教えるよ。教師だもん。
「魔術だけでいいニャん☆」
これどうにか記録に残せないかな……あースマホがほしい。カメラでもいいけどこうパシャってしたい。この面白い絵面を残したい。
魔術で出来ないかな~。………出来た。やっぱり魔術ってイメージの世界だな。
ていうかそんなに屈辱的ならやらなければいいのに。まあさっさと了承しろって怒りだろうけどさ。
「おぉ、お~、エリスたんは可愛いのう。もちろんおっけーじゃよ。なあルーデウスや」
―――これ教えたのもしかして貴方だったりします?
「大旦那様は獣族が大好きなのでございます。ギレーヌ様を雇用なされた時も、鶴の一声で」
この屋敷に獣人メイドばっかりなのは主の趣味ってわけね。いや、どう見ても獣人には見えないけど。
「エリス」
「もっと腰をつきだしてしなを作らないとダメじゃないか」
なるほど、一族の趣味ってわけね。
フィリップ、それはもうお願いじゃなくて誘いだろ。つか教えたのお前か。
ていうか獣人ってのはこうだろ。
その日は俺が出した等身大の獣人フィギュア達に興奮した親子三代によって有耶無耶となった。余りにも興奮するので一人一体プレゼントして解散。
後日、ギレーヌを始めとする屋敷にいる獣人族の人達からお礼を言われた。何でもセクハラの数が減ったとのこと。
そして俺の家庭教師としての仕事に魔術を教えることが追加されたのだった。