事件が解決してからの俺の生活はエリスとシルフィの二人を中心としたものとなっていた。
エリスの授業がある日は屋敷で暮らし、ない日はブエナ村まで空を飛んでシルフィと過ごす。まあギレーヌの稽古があって屋敷にいる日もあるが……
そうした二人の生徒を受け持っている俺だが、二人の生徒の授業態度は大違いだ。
まずエリスだが、全然言うことを聞かない。読み書きや計算の授業はどっかに行きやがる。魔術の授業だけだキチンと聞いてくれるのは。
それに比べてシルフィよ!この娘は前々からずっと楽しそうにこちらの授業を受けてくれている。おかげで彼女は読み書きと四則演算はできる。素晴らしい!今では授業の時間は一緒に魔術を使う時間になっている。
「さて、エリス。今日は魔術の授業ですが……逃げないんですね」
「先生私が逃げるとでも思っていたのかしら?」
「ええまあ。何と言っても読み書きや算術の授業の日は逃げ出して受けていないですから。私はずっとギレーヌに対して授業していましたよ」
「まあ魔術の授業に出てくれたのでいいとしましょう。今後は逃がしません」
「先生にできるかしら?」
「出来るに決まってるでしょう。さて、授業の話に移ります。始めての授業ですし慣らしでやって行きましょう。まずは基礎六種と言われているのはなんですか?」
「そんな事より魔術教えてよ」
「土、水、火、風、治癒、解毒の6つだな」
「ギレーヌ、正解です。」
エリスは未だにわがままだな。ちょっと待てば教えるってのに。
「私は解毒を使えないので……お見せすることは出来ませんが他の五つなら見せる事が出来ます」
そう言い終わると同時に5種類の魔術の玉を出してそれぞれの特性に合わせてた変化を起こすとそれぞれを動物に変化させる。
土はカチコチモグラ。水はプクプクイルカ。火はメラメラトカゲ。風はフワフワフクロウ。治癒は思いつかん。チョウチョでいいや。
「こんな風に魔術にはそれぞれの特性があり、状況に合わせた使用が魔術師には求められます。さて、それはどんな状況でしょうか?エリス」
「―――わからないわ!それより早く教えなさいよ!あと、その水の奴初めて見たわなんて言うの!?」
「コレはイルカと言われるものです。ではギレーヌ、状況に合わせた使い方とはどんなものですか?」
「……森では火属性の魔術を使わない、とかだろうか?木々に引火してしまうからな」
「正解です。流石S級冒険者ですね。ということでお嬢様魔術をお使いになるときは周りをよく確認して行ってください」
「わかったわ。早く魔術を教えなさい!」
「よろしい。では早速魔術を教えましょう。魔術の発動は詠唱、無詠唱、魔法陣の3種類があります。今回二人に教えるのは初級魔術の詠唱です」
そうしてエリスは水の初級魔術を、ギレーヌは土の初級魔術をその日の内に取得した。
俺と違って1回で詠唱を覚えられたのは納得いかない。おかしくね?
現在、朝ご飯を食べる為に移動しているエリスに会ったので今日は算術の授業であると教えておいたのに来なかったので縛って連行中。
「お嬢様ー?私から逃げられるとお思いでしたかー?残念でしたー。逃げられませーん」
「キィーーー!!!」
さて、そうやって連行し終えたので授業を始めたいが……このまま始めてもエリスは真面目に受けようとしないだろう。なのでここはギレーヌに協力してもらう。
協力とはいってもギレーヌと一緒に授業をするわけではなく、ギレーヌが何故今になって読み書きや計算をできるようになりたいと思ったのかを話してもらおうというものである。
剣王という正に剣だけで生きていける。そんな人物が何故今更学ぼうとしているのか……何かしらの理由があるはずである。
………いや、よう生きてんな。普通死ぬぞ。―――だから今まで学んできてなかったのか。獣人ってすごいな色んな意味で。
「と、言うわけでギレーヌは算術の重要性を理解して学ぼうとしています。エリスはどうしますか?このままではギレーヌと同じような目に遭いますよ。次も私が居るとは限りませんからね」
「わかったわよ……」
そうしてやっと授業を受けてくれる事となった。
エリスは授業を真面目に受けようとはしないが一時期学校に行っていた為簡単な足し算は出来る。今回は四則演算について教える。実際に計算していくのはまだ先だがこれから学ぶことを知っておくのも大事。
「先生ー」
「なんですか?問題を解く手が止まっていますよ」
「わり算ってのは何で必要なの?」
「一つのものを均等に分ける時に必要だからですよ」
「前の教師も同じことを言っていたわ!だから、どうして! 均等に! 分ける必要があるの!」
「ギレーヌは経験があるかも知れませんが、エリス旅をするときは何時でも買い物ができるとは限りません。道中が森で会ったり砂漠、ダンジョンであったりして人里離れた場所を進むことがあります」
「そんな時に使えるのが割り算です。物資を人数分に分けたり、次の人里までの日数で分けたりできるのです」
「ルーデウスの言うとおりだ。前に迷宮で食料を落として引き返すことにしたことがあったのだが。残った食料を帰りの日数分で分けようとして、失敗した。 三日も飲まず食わずだった。死ぬかと思った。」
「途中、耐え切れずに落ちていた魔物のクソを食ったが、腹を下した。吐き気と腹痛、下痢に耐えていると周囲に魔物の群れが―――」
いや、だから何で生きてんだよ。普通死ぬだろそこまでいったら。
「………」
ほら見ろよエリスが絶句してんじゃねえか。なんて言ったって大好きな姉みたいな人が糞食って腹壊したって話聞いたんだもんな。そらそうなるわ。
………コレは俺が悪いのか?割り算を知りたいと思ったエピソードを話してと言った俺が悪いのか?
「だから割り算は覚えたい。授業の続きを頼む」
マイペースだな。この空気をどうにかしてくれよ。授業しづらいんだけど。
俺とギレーヌの関係はお互いが互いに対する先生と生徒という関係でややこしい。が、それはお互いに折り合いをつけており、授業中は生徒は生徒として扱うとして納得している。
そんなギレーヌが教師をやる剣術の授業はエリスが真面目に受ける授業であり、やる気が一番の授業である。
俺とエリスの実力差は剣神流に限ればエリスが上で他の3大流派だと俺が上。コレは教えている教師であるギレーヌが剣神流の剣士であり、他の流派を覚えてないからエリスは教わっていないからだろう。いや、エリスが水神流を覚えられるとは思えないな。
つまり、剣神流のみの打ち合いであればエリスが勝ち越し、持ちうる技術(3大流派)を全て用いるのであれば俺が勝つ。
なのでエリスが俺からの扱いに対する鬱憤を晴らす機会というのはギレーヌの授業の中でしか訪れない。なんて言ってもギレーヌが教えるのは剣神流だからな。授業の中では剣神流しか俺も使えない。
剣神流はエリスというほぼ同格の格上(才能あり)と打ち合いしているので伸びている実感はある。
……パウロは打ち合う相手としては強すぎるんだよな。ただ早くて、力強くて、差がある。それしかわからない。手本としてはいいんだけど、何と言ってもパウロは3大流派の全ての上級に至っているからな。
そういえば他の流派は何処で教わろうか剣神流はギレーヌに教わるとして……道場に行くのはどうだろう……道場と言えば道場破りだよな……いいなぁ憧れるなぁ。やってみたいなぁ道場破り。
そんな事を考えているのは俺がエリスに負けて反省の時間だからだ。この世界には白旗の概念はないらしい。降参と言ってもギレーヌがやれと言い、エリスが打ち込んで来やがった痛え。
「ルーデウスはまだまだね!」
倒れ伏した俺を見下ろして、エリスが腕を組んでみおろしてる。わざわざ腕組むのか……。
ギレーヌがそんなエリスを窘める。
「自惚れるな。エリスの方が剣を持ってからの年月が長い。そのうえ年上だ」
「わかってるわ! それにルーデウスには魔術もあるしね!」
「そうだ」
魔術以外にも水神流とか北神流もあるんですけどー?
――もしかしてパウロ伝えてない?マジで?
そんな日々をボレアス家では送っている。とはいえ俺も毎日エリスに授業をするわけでもない。エリスにも他にすることはあるし、俺の授業は4回に1回程授業の代わりに宿題を課している。まあ、エリスはほとんどしてこない。
では空いた時間には何をしているのかというと、先程も言った通りブエナ村でシルフィと時間を共にしている。
シルフィと何故過ごす事になったのかというと、事件前に俺が家に植物図鑑を取りに帰った時にシルフィが俺のベットに潜り寂しいと言っていたのでそれなら来れる日は帰って来よう。ということになったためである。
あのワンコは俺がロアに行っても大丈夫だったようだ。……本当になんだろうこの犬。
シルフィとはいつも一緒に魔術を使った実験や遊びをしたり、近況を報告しあったりする。
シルフィと一緒に魔術を使うのは中々有意義だったりする。彼女は人に合わせるってのが得意みたいで一緒に色んな混合魔術を使える。
無詠唱だと一人で混合魔術を出せるが、やっぱり二人で技を出すってのはロマンがある。シルフィも凄く楽しんでくれてる。シルフィもロマンがわかるみたいだな。かっこいいよな二人で一つの強力な技を繰り出すってのは!
ただエリスの事を話すと決まって不機嫌になる。なんで?シルフィが俺の生活を知りたいって言ったじゃんか。
「ルディ、私そのエリスって人の話は聞きたくないな。ルディの事だけが知りたい」
とか言うんだよ?ムズくね?いや、だって俺エリスの家庭教師でボレアス家に住み込みだよ?エリスと関わることが多くなるに決まってるじゃん。それなのにエリスの事を抜きにして話すのはちょっと、ね?
後、シルフィは俺が帰って来るとすぐに抱きついて来るようになった。そんなに寂しいかね?村にちゃんと友達いるし、遊んでるでしょ?
「ルディ」
「ん?なに?」
「ちゃんと帰って来てね」
「ああ、うん。帰って来るよ。これまでもキチンと帰って来てるでしょ?」
「絶対だよ」