無職が来る前の世界で頑張ってみよう   作:思いついたら書く人

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やってくるぜ、ダンスパーティが!

 エリスの家庭教師になって大凡一年が経った。

 

 エリスの教育は順調に進んでいる。剣術は筋がいい為、彼女は10歳になる前に中級へと上がった。中級ということは一般的な騎士と渡り合える力がある、ということ。9歳と同じ実力の騎士ってもういる意味ないだろ。

 

 中級になったとはいえ授業外で俺に一撃を与えたことは未だない。エリスの攻撃は読みやすいからこの調子だと当てられるのはまだまだ先だ。

 

 ギレーヌいわく、数年中には上級に上がれそうとのこと。まだ9歳なのに……うちのお嬢様は天才じゃなかろうか。俺が言ったら嫌味にしかならないから言わないが。

 

 因みに俺は?と聞くと、目を逸らされた。逸らすなよ。合わせろ。ガン見しろ。

 

 エリスは読み書きも、まあ出来る。ギレーヌが空気が凍りつく体験談を語ったからだ。文字が読めなければ何も出来ない、色んなヤツに騙され、挙句は奴隷として売られてしまう。そう言われれば、必死に憶える。

 

 算術の成長は遅い。エリスが将来どんな事をするようになるのかはわからないが、フィリップは冒険者をさせようと思ってるように思える。

 

 半年ほど前から郊外学習を取り入れてはいるが中々上手くいかない。エリスはまだ暗算が出来ないので計算ミスをしてしまう。

 

 この世界では高度な数学は必要ないようなので、ゆっくり教えていこうか。俺が家庭教師をする五年で四則演算をマスターさせるそれくらいで良いのかもしれない。

 

 魔術やや行き詰まり。詠唱による初級魔術はだいたい出来る。が、それでもマスターしたとは言えない。

 

 エリスは土以外の系統をほぼマスターしたのに対し、ギレーヌは火だけ。とりあえず4属性の弾と初級治癒魔術は習得したのでいいか。

 

 同じ授業をしているのに差があるのは才能か、年齢か。

 

 水、風、土がギレーヌの苦手系統なのだろう。エリスが、土属性をあまり習得してないのは土属性があまり興味をそそられないからだそう。

 

 土属性も便利なのに……

 

 魔術教本に書いてあるものを詠唱すれば出来るというものではないのは分かっていたが、ここまで差があるとは……。

 

 シルフィも苦手属性ってのが無かったからギレーヌのは矯正するのはちょっと難しいな。狩人方式でいくか?

 

 最近は無詠唱を練習させているが全然。コレは彼女達が魔術師ではなく剣士ってのも関係してるのだろうか?

 

 

 

 

 シルフィもこの1年で成長した。

 

 まずは上級魔術の無詠唱を習得。後、俺が習得していない解毒魔術を習得している。羨ましい。俺にも教えてくれないかな。

 

 苦手にしていた混合魔術も前よりは流暢に発動できるようになっていた。

 

 そうそう混合魔術といえば二人で混合魔術の発動を練習している時に爆発的な出力の上昇現象に出くわした事があった。どのような時になるのかは検証中だが、おそらく完全に同等な出力の魔術が混ざる事で起きる現象だとは思われる。

 

 これを俺は融合魔術と名付けた。かっけぇ。すげぇかっこいいよ。シルフィもニコニコしていたし、やっぱりロマンがわかるんだろう。いいよね!

 

 後、シルフィのスキンシップが増えた。二人でいる時に俺の手とかをずっと触ってる。「楽しい?」って聞いたら「うん」とだけ返ってきた。ホンマか?最近マメとかアザできてるんだけどな。楽しいのならいいか。

 

 

 が、順調なのは俺のであってエリスの礼儀作法の授業はそうはいかないようだ。

 

 エリスの十歳の誕生日会は貴族らしく打規模のパーティを行うらしい。

 

 館の大広間と、それに続く中庭が開放され、領民中から贈り物が届けられ、町中の貴族が招かれる。

 

 サウロスが無骨な武官であるため、当初は無頼な立食酒飲みパーティという形で計画が進んでいた。が、フィリップが口出しして、近隣の中級貴族も参加しやすいようにと、ダンスパーティへと形を変えた。

 

 ダンスパーティ。これに一番迷惑したのは、エリスである。なにしろ、彼女はダンスを踊れない。一番簡単なステップも踏めないのだ。剣士だから体を動かすのは得意そうなのに不思議だな。

 

「主役であるお嬢様がダンスを踊れないのは問題です」

 

 と、礼儀作法の教師であるエドナがフィリップに進言したらしい。その結果エリスの授業はダンスと剣術、魔術の三つになりダンスを集中してやることとなった。

 

 5歳の時はどうしたのかというと、アスラ王国貴族でダンスが必修とされるのは10歳からということで踊る必要がなかったとのこと。

 

 なかったからってそのままにしておくなよ。5年あったんだからさ、どうにかならなかったのか?ならなかったんだからこうなっているんだろうけどさ。

 

 何故か俺もエリスの礼儀作法の授業に参加することとなった。

 

 理由としては俺もパーティに参加してダンスを踊る必要があるらしい。おい、俺はまだ9歳だ。ダンスは必修じゃないぞ。

 

 そんな事を雇い主に言えるわけも無く………

 

 来てしまいました。ダンスレッスンの日。

 

 

 

 ダンスレッスンに参加して分かったことはエリスは筋は悪くない。むしろいい方だろう。一つ一つのステップはキチンと踏めている。ただテンポが合ってない。俺がエリスに合わせたら踊れたし。かなりハイテンポだったが。

 

 つまり、エリスが踊れない原因はエドナにあると言っていいだろう。別にエドナが悪いってわけではない。ただ彼女のスキルツリーがエリスには合わないってだけ。

 

 エリスは感覚派ではあるが、学ぶ時はキチンと理屈があった方がいい。実際剣術はそれで上手くいってる。ああしなさい、こうしなさいでは上手くいくわけがない。

 

 というわけでパーティ本番まで俺がペアになって踊り、少しずつテンポを遅くしていったり、魔術で作った人形で自身のダンスを客観視してもらいダンスの精度を高めていった。

 

 すると、俺がペアにならなくても大丈夫なくらいには上手に踊れるようになった。

 

 ただエリスの元のダンスも俺は好きだったなー。

 

 

 

 

 エリスのお誕生日会兼ダンスパーティの当日。俺は部屋の隅とは言わないが端の方にいた。あんまり目立たないようにするためである。

 

 パーティの序盤。

 

 グレイラット家に取り入ろうという群がってきた中級貴族や下級貴族を、フィリップと奥方が上手に捌くという感じで進んでいく。二人は流石というべき立ち回りで、誰一人として付け入る隙を見つけることは出来ない。

 

 ならばとサウロスに直接取り入ろうとしたのは、あの大声と理不尽かつ一方的な対応で、這々の体で逃げ出していた。いや、知っとけグレイラットの当主のことくらい。

 

 逃げ出した彼らは、最後の望みとばかりに、このパーティの主役であるエリスの所へと行く。が、エリスには何の権限も無いし、政治的な話はわからない。だから、どうかお父様にお伝えくださいね、と伝えてる。

 

 お嬢様がお嬢様ぽい。

 

 中には我が息子を紹介しましょう、と育ちのよさそうな青年や中年を連れてきている。同い年ぐらいの子も何人かいたが、ほとんどはすでにかなり脂ぎっていた。

 

 うーん身なりは整えた方がいいぞ。家の中で甘やかされて育ってきたのだろう。これではパウロの貴族の女は良くない発言が意味を成してしまう。

 

 そんな事を考えているとダンスの時間となった。

 

 エリスの始めのパートナーはエリスの実力が上がったので俺以外のこのパーティに参加しているいい感じの子息が担当することとなった。

 

 エリスは緊張でガチガチだったけれど練習の成果が出たようで大きな失敗は無かった。何回か相手の足を踏み抜くとこだったがしてないのでセーフ。

 

 それからは緊張も解けたようで失敗も少なくなり綺麗に踊れている。良かった良かった。

 

 さて、心配事が終わったのでお食事タイムと行こう。貴族のパーティだから食事は豪華。普段の食卓ではお目にかかれない料理ばかりが並んでいる。

 

 それらをパクついていると涎を垂らすギレーヌと目があう。食べたい?と口に出さずに聞くと涎が増えたのでメイドにギレーヌの好物を取っておいてもらい俺の部屋に運んでもらう。後でギレーヌに来てもらうようにしてるのでその時に食べてもらおう。

 

 ………エリスもあんまり食べれてないようだ。エリスの分もお願いしようか。

 

 あらかた料理を運び終えた頃、ふと気付くと目の前に可憐な少女が立っていた。お初にお目にかかります、と前置きをおいて名乗る少女。中級貴族の娘とのこと。名前は忘れた。

 

 縁は大事ということで枝付きの桜(造花)をプレゼントした。

 

「綺麗ですね。始めて見ました何という名前ですか?」

 

「その花は桜というのですよ」

 

「素敵な花をありがとうございます。次、踊っていただけませんか?」

 

「もちろん。いいですよ」

 

 広場で軽く踊って彼女とは別れた。

 

 そうして戻って来ると次々と誘われたので身長差がある人以外とはダンスをし、桜を渡しておいた。

 

 誘ってくる中には幼い子もいたのでその娘には小さな動物もプレゼントしておいた。これで、貴族としての仕事をあの子も果たせただろう。

 

 俺の所に何故多くの子女が来たのかと後日フィリップに聞いたところ酒に酔い、気分を良くしたサウロスが俺をグレイラットの人間であるとゲロったとの事。まあ、おかげで俺も貴族との縁ができたからいいか。フィリップとしてはよくないだろうが。

 

 最後にきた女の子はエリスだった。

 

 今日のエリスはいつものような活発なスタイルではなく、碧を基調としたドレス姿。髪はアップで、花のあしらわれた髪飾りをつけていて、大変かわいらしい。これがあのチワワだとは普段のエリスを知っている者は気づかないだろう。

 

 初めてのダンスパーティで、知らない大人から次々に声を掛けられて、さすがの彼女も疲れている。けれども、自分が主役のパーティがうまく行っているせいか、興奮もしていた。

 

「わたくしと、踊っていただけませんか?」

 

 そこに、いつもの大声、大股、無遠慮、無作法のエリスはいなかった。礼儀作法の授業の時のカタコトな敬語でもない。今まで俺に声を掛けてきた女の子に勝るとも劣らない、お淑やかお嬢様。

 

 彼女の誘いに乗りホールに出ると、俺たちが習っていない、ちょっとだけ難しい、変調で速いリズムの曲が流れる。エドナ〜ちゃんとしろよ〜。

 

「あ、うぅ……」

 

 エリスは一発で仮面が取れた。まあこれまで演技できていたことを褒めるべきだろう。

 

 どうしよう、と目線で訴えてきたので、ダンスではなく剣術の方にシフトする。目線や力の入れ方でフェイントを作りエリスの動きを誘導する。

 

 変調だが、むしろこういう曲の方がエリスにとっては踊りやすいはず。

 

 もっとも、ステップの方は適当。だって知らないもんこんな曲。

 

 エドナに見せれば呆れられるか怒られるかするだろう。が知らん教えなかったお前が悪い。

 

 手をつないで、いつもの剣術の稽古のように踏み込んだり引いたりする。

 

 それは音楽に合わせてはいるものの不規則で、周囲から見れば奇異にも映っただろう。

 

 しかし、エリスは楽しんでいるようで。今日一番の笑顔。いつもムッとするかムスッとしてばかりいる彼女が、歳相応の顔で笑っていた。子供はこんな風に笑うべきだろう。

 

 ちょっと授業を優しくしてあげよう。

 

 踊り終えると拍手が起こった。

 

 サウロスが走りこんできて、俺たち二人を肩の上に乗せ、嬉しそうに笑いながら中庭を走り回った。元気な爺さん。

 

 周囲もそれを見て笑っている。うん。楽しいパーティだった。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティが終わった後、俺はギレーヌとエリスと一緒にいた。

 

 テーブルに広げられた食べ物に、エリスはお腹を鳴らした。やっぱりあまり食べられなかったらしい。数々の料理を魔術で温める。

 

 そして、戸棚から果汁100%ジュースを取り出す。このジュースは俺のお手製である。わざわざ街で果実を買って搾って作った。

 

 三つのグラスにジュースを注ぎ乾杯!

 さあ始めようか二次会を!

 

 

 

 

 二人が料理を食べ終えたようなのでプレゼントを渡そう。

 

「本日、二人に来てもらったのはプレゼントを渡すためです」

 

 俺はそう言って、ベッド脇の棚の中から、二本のワンドを取り出す。

 

 

「なに? これ?」

 

「魔術の師匠が弟子に送る杖です。作り方がわからなかったので渡すのが遅くなりました。どうぞ」

 

「えー、こんなのより、そっちがいい」

 

 と、エリスが指さしたのは、最近俺が魔術の訓練として作っているロアの街のジオラマ。かなり緻密に作っておりこれが敵の手に渡ったらロアが大変な事になるくらい精密に作った。

 

 の隣にある。可動式十六分の一スケールのギレーヌフィギュア。前にギレーヌが自分の体をよく見たいということでフィギュア製作を依頼され、作成に協力してくれた結果生まれたもの。

 

 頼まれたフィギュアはギレーヌから見てもそっくりにできた。ギレーヌに渡したのは可動式では無かったため肉体観察に役立ったようだ。

 

 

 それはさておき。

 

 ギレーヌはそれを聞くとやおら立ち上がり、恭しく片膝をついた。

 

 剣神流の門弟が師匠に敬意を払う時のポーズをとる。

 

「ハッ、ルーデウス師匠。ありがたく頂戴いたします」

 

「はい、どうぞ」

 

 ギレーヌはなんだか嬉しそうな顔でワンドを見ていた。

 

「これで私も魔術師を名乗れるのか」

 

 名乗れるとは思うけど、剣王が初級魔術師と名乗るのは詐欺すぎるからやめた方がいいと思う。

 

「えっと、エリスはこっちが欲しいんでしたっけ?」

 

 十六分の一ギレーヌを手にとると、エリスはぶんぶんと首を振った。

 

「違う! そっち、そっちの杖! 私もそっちのがいい!」

 

「はい、どうぞ」

 

 パッと受け取って、しかしギレーヌの畏まった態度を思い出したのか、すぐに姿勢を正し、うやうやしくワンドを両手で捧げ持つ。

 

 そんな事しなくてもギレーヌフィギュアもあげるのに、ていうか誕生日プレゼントって言ってるのにギレーヌと同じ物をあげるわけないじゃん。

 

「あ、ありがとうございます、ルーデウス師匠」

 

「そんなにかしこまらなくていいですよ。後、こちらの人形もあげます。お誕生日おめでとうございます。エリス」

 

「え、えへへ。ありがとうルーデウス」

 

 そして、エリスはチラッとギレーヌを見る。ギレーヌもその視線に気付き、数秒固まった後、ガサゴソとポッケをいじる。えー、其処に入れてたの?

 

「私の種族にはそのような習慣がなくてな。だが先日ルーデウスが教えてくれ準備しておいた」

「一族に伝わる魔除けの指輪だ。付けていると夜に悪い狼に襲われないと言われている」

 

「い、いいの……?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 エリスは怖々とそれを受け取った。右手の薬指に付けると、ぎゅっと胸元で両手を握った。

 

「た、大切にします」

 

 良かったなエリス。お姉ちゃんからプレゼントもらえて。

 

 良かったなギレーヌ。こんなに喜んでもらえて手を傷つけた甲斐があったな。

 

 そうして、エリスの十歳の誕生日会は幕を閉じた。

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