昨日の夜エリスの話やルイジェルドの手紙を見て今後の予定を決め、8日後に此処を発つ事になった。その事をパウロに伝えようと滞在している宿を訪れてもあいにくの留守。ロールズも同じく留守のため知り合いがいない……。
仕方ないのでその場にいた一般人に捜索隊の本部らしき所を教えてもらい移動。
そこは何の変哲もない二階建ての建物。とても有力貴族の支援を受けている組織だとは思えない。
そこの会議室のような場所で、パウロは実に真面目に働いていた。ロールズを含めた十数人の男たちの中で、話し合いをしている。
何やら大きなプロジェクトが動いているらしい。断片的に聞いた感じフィットア領に救助した人達を送る計画だろう。
こうしてパウロの働く姿を見ると確かに貴族らしい。流石にフィリップほどの傑物ではないがサウロスよりは貴族している。
やっぱりやる時はやる男なのだパウロは。
じっとしているのも何なので建物を散策しているとある一室で同年代の子供達と積み木で遊んでいるノルンの姿を見つけた。しばらく観察していると、ノルンもこっちに気づいた。
「あっ、お兄ちゃん」
「久しぶりノルン」
「お兄ちゃんも一緒に遊ぶ?」
「暇だしそうしようかな」
それから俺はノルンとしばらく遊んでいた。
「お兄ちゃん、これどうなってるの?」
ノルンの目の前には角のみで床から天井までに積まれている積み木がある。――誓って魔術でズルはしていない。ホントだ。ちょっとしか使ってない。
大作を作り終えた事に満足していると昨日の話し合いの席に居たヴェラがやって来た。
「おはよう」
「おはようございます、今日はどうしました?」
「父さんに会いに来たんだけど会える?」
「ええと、ここ一ヶ月ほどの仕事が溜まっているので、しばらくは忙しいと思います」
「ふーん、じゃあ父さんの予定……夜だけでも空いてる日はない?8日後には此処を発つつもりなんだ」
「7日ですか?随分と急なんですね」
「いや、そこまで急でもないよ。いつも通りさ」
「そうですか……わかりました、今シェラを呼んできます。少し待っていてください」
「お兄ちゃん、またどっかいっちゃうの?」
「ああ、友達の家に行かなきゃいけないんだ」
「そうなんだ……また会える?」
「ああ会えるさ。今度はリーリャやアイシャと一緒に」
ヴェラがローブ姿の治癒術師を連れて戻ってくる。彼女は俺の視線を受けると、ウッと一声漏らして、ヴェラの後ろに隠れた。……傷つく。
「団長の予定は詰まっていますが、五日後の夜に時間が取れます。お食事でしたら、その時にお願いします」
「りょーかーい。場所は?昨日の酒場?」
「いえ、普段から団が使うレストランを予約しておきますので、そちらに直接お越しください、場所は――」
男にひどい目をあわされたのだろうに彼女は俺からの質問に真摯に答えてくれた。食事場は『レイジ・ミリス』という、商業区にあるレストランだそう。
「お連れ様はいますか?」
と最後に聞かれたので、
「エリスっていう女の子とルイジェルドっていう男の人の二人います」
「わかりました」
打ち合わせが終わったので建物を出た。ノルンがばいばいって言ってくれたのが可愛かった。
さて、滞在するのは約一週間。
旅の目的の一つであるスペルド族の名誉回復は正直この国では出来ない。無理矢理するのであれば出来ないことはない。
例えば俺が神子とか神級解毒魔術書を奪って、それをルイジェルドが取り戻すとか。けど、ルイジェルドがあまり好まないし、一度失敗したやり方なので却下。
因みに神級解毒魔術書はもうコピーを取ってある。神子の髪の中に忍ばせておいた精霊を使って昨日のうちに……これで俺は名実共に神級魔術師だ。
………まだ詠唱出来てないけど。何だったら公表するとミリス教を敵に回すから神級魔術師名乗れないけど。
一気にスペルド族の名誉回復はできないので少しずつやっていこう。というわけで、ミリシオン郊外の村々が出した依頼を解決し、スペルド族ひいては魔族はそこまで恐ろしくないよということを伝えていった。
会食の前日になってちゃんとした服が無いことに気づいた。俺達が持っている服は魔大陸で買ったもので日々の冒険で擦れたもの。とてもレストランに着て行ける服ではない。
ということで二人を伴って服屋を見て回っている。だが、悲しい事に俺達のパーティにはオシャレさんはいない。悲しいね。
と、いうことで何か知ってはいませんか?ルイジェルドさん。会ったんでしょ?ガッシュ・ブラッシュっていう御偉いさんに
「見たが、あの様な服は職人に依頼して作るものだ今からでは間に合わないだろう」
……どんな御偉いさんだ?このガッシュ・ブラッシュって人。調べても知ってる人いないし。
仕方無いのでそのへんのお店で気に入ったものを各自で買うことにした。
俺とルイジェルドはまあ、うん、そうだよね。という感じの服装。可もなく不可もない感じ。けれど意外な事にエリスはオシャレ着を買った。黒い生地に白い薔薇の刺繍が入ったワンピース。
「あれ?どうしたのそんなの買っちゃって」
「……なによ、悪いの?」
「いやー何でも」
エリスも女の子ってことかな。オシャレしたい時期になったんだろうね。これからはお小遣いあげないといけないな。
やって来た会食の日俺はいつもの三人で会場へと向かっていた。道中服が汚れててはたまらんので屋根の上を行く。
ぴょんぴょん飛んで行けばほら着いた。
着いたのは客層が異なるだけで酒場。店に入り、給仕係の人に名前を告げると、席に案内された。そこには、何故か笑ってるパウロと腕をこちらに振っているノルン。可愛い。
「あれ?待った?」
「いいや……悪かったな、シェラがなんか張り切っててよ。別にいつもの酒場でいいって言ったんだがな……」
「冒険者がよく来る酒場なんかにノルンが食べるものあるの?塩辛いものばかりじゃない?」
「いや、案外ノルンも酒場に来るんだよ」
「へぇー、何食べてるの?」
「おいも」
「………おい」
「………すまん」
変な空気になっちゃったのを切り替えて、改めて互いに自己紹介。
「エリスよ。ルーデウスと一緒に冒険者パーティを組んでるの、よろしく」
「ルイジェルドだ。エリスと同じくルーデウスと冒険者パーティを組んでいる」
「パウロだ。一応、フィットア領捜索団の団長をやっている」
「ノルンです」
「ルーデウスです。もちろん皆知ってるよね?」
「お兄ちゃんもちろんだよ」
「お兄ちゃん?……なあノルンお兄ちゃんとは何時仲良くなったんだ?」
「えーっと大きな木の下でアイシャと一緒に魔術を教えてもらったときに」
「へえーそうか。ありがとうノルン」なでなで
「えへへ」
可愛いねー。嘘をつかなくてホントのことを言うのは良いこと何だけどさー悪いのは俺なんだけどさー。それを言っちゃうと………ほら~パウロが俺が約束を破っていた事に気づいちゃったじゃ~ん。
「父さん、ここのオスメメ料理何?」
「ん、そうだな。南の海の方で取れる魚介類のシチューがうまい。それから、牛だな。このへんでは牛を飼っている農家が多いんだ。アスラの牛肉とはまた違った味わいで、煮込む事が多いんだが……」
「それは楽しみですね。魔大陸では肉がまずくてまずくて」
「大王陸亀だったか? 魔物の肉ってなぁ、大概まずいもんだ」
「それはルーデウス達が軟弱だからよ。大王陸亀は中々美味しいんだから」
「大王陸亀もそうだが肉は煮込んだら食べられるようになる」
「ルイジェルドは兎も角エリスはいつの間に魔大陸に染まったの……」
その後は5人で他愛もない話をしていた。ただ俺を中心とした集まりだからか俺のことばかりが話題になる。俺のことを話すことなるとルイジェルドすらも饒舌になるけどどうしたの?ノルンもお兄ちゃんすごい!と目を輝かせているし。
そうやって話をしていると料理が運ばれ、エリスとルイジェルドの認識を改めてもらう。人間っていうのは古今東西食のこだわりってのがあるものだ。どうだい?美味しいだろう?
………日本の料理の方が断然美味しいけど。まあそれでもロアの街にいた時の料理よりも美味しい。流石世界2位の大国の首都ってことかな。
流石に俺の話のネタは尽きたらしい。ご飯食べている間もリレー形式に話していたらそら尽きるよ。
すると、話はゼニス母さんの実家に移った。ゼニスの実家は優秀な騎士を何人も輩出している名家。けれどゼニスは勘当同然で、俺の祖父母に当たる人物は捜索に乗り気ではなかったらしい。だが、ノルンを見て態度を一変させた。
どこの世界でも、祖父母は孫に弱い。俺も弱かった。もうすんごい弱かった。妻が嫉妬するくらいに甘やかしていたからなぁ。
ゼニスの実家の話をしているとエリスが首を傾げていたのは何だっただろうか。
そんな話をしながら、楽しく食事をし、パウロ、ノルンと別れた。楽しい時間だった俺にとっても父さんにとっても。
あっという間に旅立ちの日になった。今いる場所は、冒険者区の入り口。
馬車に乗って、さぁ出発!と思っていたところ、パウロが見送りにきた。
「ルディ。もう少しだけ滞在してもいいんだぞ?」
「お兄ちゃんもう行っちゃうの?」
「俺達は行くよリーリャ母さんやアイシャを助けに行くために、フィットア領に一度帰るためにエリスだって家族に会いたいだろうしね」
「そうか、だがボレアス家はおそらく……」
「父さん。エリスの両親は生きてるよ」
「……そうか。お前がそういうのならそうなんだろう。だが、あまり、楽観視するなよ。もしフィリップ達が無事に帰りついたって、あの災害の規模じゃ、どうなるかわからない」
「フィリップの兄貴が、保身のためにどっちかに全部の責任をおっかぶせる可能性だってあるんだからな。それこそエリスやお前に責任を負わせようとするかもしれない」
「何かあるようなら、お嬢様はお前が守ってやれ。貴族の義務を持ちだして来る奴もいるかもしれねえが、構うことなんてないからな」
「安心しなよ、アスラで俺を殺せるのはギレーヌだけだからさ」
「ははっ!それもそうだな!ほら、ノルン、お兄ちゃんにお別れの挨拶をしろ」
「またね、お兄ちゃん」
「またね、ノルン。あっ父さん言いたい事があった」
「何だ?」
「ちゃんとノルンの事を見てあげてくださいね?じゃっ!」