2ヶ月の月日をかけて港町であるウェストポートに到着した。
道中寄った町で依頼の張られている掲示板を見るとメリュジーヌと思われる魔物に討伐依頼が出ていたのを発見したのは驚いた。アイツ何したんだ?
[貴族の屋敷の地下に幽閉されていた奴隷を解放するために暴れ、地下を掘り脱出。結果、地盤沈下を引き起こし、屋敷を倒壊させた]
さて、ウェストポートはザントポートに似た街並みだが大きい。明らかに活気に差がある。昔の大阪とか長崎の出島みたいに国の港として大きく発展していっているのだろう。
街に入ると俺達は最初、関所に向かった。ウェンポートの時とは違い今回はルイジェルドの渡航費はガッシュ・ブラッシュがどうにかしてくれるからな。密航する必要がない。ルイジェルド様々。
さて、カウンターで受付を終えると34の番号札をもらった。なんか現代的。それともこれが現代にも通用するほど先進的なのか……
周りを見渡すと番号札を持っている人が多い。しばらく待つ必要がありそう。席に座るとエリスが隣に座ってきたがルイジェルドは立ったまま。
「しばらく待つ必要がありそうだよ」
「そうか。……礼状は渡さないのか?」
「今は、貴方の対応をする準備をしています。準備が出来たら番号で呼びますって時間だから呼ばれてから礼状は渡すよ」
「そういうものか……」
するとエリスがそわそわ
「ルーデウス。なんか見られてるわ……」
「何かエリスがしたんじゃないの?」
「してないわよ!」
「そう?甲冑姿の人達はあの子が?って顔してるけど」
「甲冑で顔なんて見えないわよ。何でわかるのよ」
「………何でだろうねー」
やべぇ、普通に透視眼使ってた。エリス感がいいし気をつけないとバレるかも。
「34番の方、どうぞ」
呼ばれたので、立ち上がってカウンターへ。受付嬢に書状を渡し、渡航したいと告げる。彼女は始め笑顔で書状を受け取ったが、裏面の宛先の名前を見た瞬間、怪訝そうな顔をし、
「少々お待ちください」
と告げ、裏に。……嫌な予感がする。
すると、何やら裏でゴタゴタし始める。誰かの怒鳴り声や衛兵がバタバタ動く足音。何やら肥えた御偉いさんがあの礼状に文句があるらしい。
「申し訳ありません、おまたせしました。バクシール公爵がお会いになるそうです」
しばらくすると、緊張している受付嬢がそう告げて来た。
「ミリス大陸税関所長、バクシール・フォン・ヴィーザー公爵である」
なんというか悪役貴族そのものという感じのあの怒っていた御偉いさんが直接来た。というかいた。
「ふん、薄汚い魔族がこんな書状を持ってこようとはな」
バクシールは革張りの椅子に座わり立つ様子は見せない、いや、もしかしたら一人では立てないのかもしれない。あまりにも太っているからな。
すると、立つことなく、手に持った紙を、パンと叩きつけ、こちらを睥睨する。
高級そうな執務机の上には、大量の書類と共に、封の破られた見覚えのある便箋が見える。
「すごい名前を出したものだ。封もまた本物によく似ておる。だが、儂は騙されんぞ。これは偽物だ」
バクシールはバッと紙を放り投げた。ひらり、と舞う紙を無視して公爵を見る。
前、透視した時に見た内容は確かこんな感じの内容だった。
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この者、スペルド族なれど、我が大恩を受けた者也。
言葉少ななれど、心意気や天晴。
渡航費用を無料にし、丁重に中央大陸へと送り届けるべし。
教導騎士団団長・ガルガード・ナッシュ・ヴェニク
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「大体、あの無口な男が手紙など書くわけがない。儂はあの男をよく知っておる。筆不精どころか、必要な書面すら書かない男だ。それがお前のような魔族のために儂に書状?冗談もほどほどにするがいい」
「何故?」
「は?」
「何故、偽物だと断定出来る?」
「……そもそも何だお前は子供は引っ込んでいろ」
「質問をしているのだけど。何で偽物だと断定出来るの?って」
「教導騎士団の印は偽造品が出回りやすい。それにあやつはものを書かん。偽造するのにはうってつけの人物である。筆跡を知るものがおらんからな。それが理由だ」
「貴方はこの文が教導騎士団団長・ガルガード・ナッシュ・ヴェニク殿のものではないとおっしゃるのですね?」
「そうだ」
「では、神殿騎士を早くこちらに呼んでください」
「何?」
「貴方が私達を教導騎士団団長であるガルガード・ナッシュ・ヴェニク殿の名を騙ったものであるとそう断言するのであれば神殿騎士が必要でしょう?魔族を連れた私達を捕らえなければいけないのだから。それとも教導騎士の方がいいですか?私としてはそちらのほうがいいですけどね彼らが来た場合、貴方がどうなるかは関係ないですし」
「この地には神殿騎士も教導騎士もいない。だから私が貴様らを断罪するのだ」
「嘘は良くありませんよ、バクシール卿」
コンコン。
と、その時、ちょうどいいタイミングで部屋がノックされた。
「なんだ、今は取り込み中だぞ?」
バクシールが怪訝そうな顔をするが、扉は返事を待たずに開いている。そこには、青色の甲冑(神殿騎士の隊服)に身を包んだ、金髪の女性が立っていた。
「失礼、こちらに『ライデンシャフトのルイジェルド』がいると聞いたのだが」
「これはこれは……左遷されたばかりの神殿騎士殿が、いかなる用だ?」
「やはりいるではありませんかバクシール卿。神殿騎士である彼女に確認してもらいましょうか。私達が嘘つきかどうか」
「お前は黙っていろ小僧。で、何のようだ」
「ミリス国内にスペルド族が現れたのだ。仕事熱心な私がここにくるのは当然だろう?」
「お前の着任は10日後からだ。首を突っ込むな」
「首を突っ込むな?おかしな話だ公爵。確かに私はまだ正式には着任していない。しかし、前任はすでにミリシオンへと発ち、この場にはいない。税関にて問題が起きた時は神殿騎士が事を運ぶはず」
「だというのに、この場には私以外の神殿騎士の姿が見当たらない。一体これはどういうことか?」
その通りだよ全くさー何でなんだろうな?公爵?どうせわかっているんだろう?お前。
「税関の守護は二つの頭にて行われるべし。それはミリス教団の定めた絶対の鉄則。よもやバクシール卿。ミリス教団に弓引くつもりではあるまいな」
「まさか、そんな事はない。ただ、そなたもまだこの町にきて間もない。ゆっくりと羽を伸ばされてはどうかとだな……?」
「必要ない」
「それで、どんな話になっているのか?」
この国の騎士の立ち位置は他と比べて高いようだ。本来貴族ってのは騎士の立場も共有したりするのだが……ここは宗教国家だからか騎士と貴族の立場が異なるみたいだな。
よりミリス教に深い立場の人間の方が上のようだ。公爵が、ただの騎士より下となる理由はそんなところだろう。ただの公爵よりも神子の護衛の方がミリス教の深部にいると言えるからな。
「実は……」
と、バクシールが説明する。が、時折印象操作ががあったので、的確に補足する。
女騎士は、それを黙って最後まで聞くと、こちらを、特にルイジェルドを強い目で一瞥。
「ふむ……確かに魔族だな……」
だが、エリスを見た瞬間、その目線が緩み、俺に目が合うと、はたと考えるように顎に手を当てた。
「……君、母親の名前を聞いても?」
「ゼニス。ゼニス・グレイラット」
「父親の名前は?」
「パウロ・グレイラット」
バクシールの眼が見開かれる。何だ?ゼニスの名前には反応しなかったのにパウロの名前には反応する………パウロは特に悪いことは……してるな奴隷の誘拐してるわ。
「そうか」
女騎士はそう言うと、しゃがみこんで俺をギュっと抱きしめた。
「………?」
いきなりの抱擁。
「大変だったな……」
いや、別にそこまでじゃないけど。
………鎧痛いんだけど。父さんとの抱擁の方が良かった。
エリスの方を見ると、眼を見開いて拳を握り締めていた。怖い。
俺が転けた村の女の子を抱きとめた時のシルフィと同じ顔してる。………思い出すとシルフィの方が怖かったわ。なんか髪逆立っていたし。
女騎士はぽんぽんと俺の頭を撫でてから、すっくと立ち上がった。
そして、俺の方を見ず、バクシールに宣言した。
「彼らの身柄は私が保証しよう」
「なに! 魔族もいるのだぞ!」
……魔族排斥派いや、差別する奴ってやっぱりめんどくさい。
女騎士は書状をいつの間にか拾っていたルイジェルドから奪い取ると、サッと目を通す。
「書状も問題ない。ガルガード殿の筆跡だ」
「まさか、神殿騎士がミリス教団の教えに逆らうというのか……」
そこで、エリスが「あっ」と声を上げた。女騎士がエリスに向かい、ウインクする。
やっと思い出したのかな?そうだよエリスが助けたうちの一人だよ。
「神殿騎士団『盾グループ』の中隊長ミドルリーダーであるこの私が言っているのだ」
「くっ、部下に大怪我を負わせてこんな所に左遷されてきた分際で」
「ふん。その言葉、そっくりそのままお返ししよう。もっとも、任務を果たした私と、途中で断念したあなたとでは、随分と立場が違うがな」
バクシールの目が、憎悪に染まっていく。
「貴様、いくら高貴なる出自だといっても、あまり図に乗ると……」
バクシールの文言は最後までは発せられなかった。言い切る前に女騎士がぺこりと頭を下げたから。
バクシールが下手に出ていたのは騎士の家が関係していたのか………予想が外れたな。
「いや、すまん。言い過ぎたな。こんな所にきた以上、私もお前と仲たがいするつもりは無いのだ。今回は、私的な件も絡んでいるのだ。許してほしい」
いいタイミングだ、言いたい放題言ったのち、あっさりと謝る。バクシールの怒気も、今の一言でスルリと抜け、意識が反れる。
「私的な件だと?」
「うむ」
バクシールの怪訝そうな顔に、女騎士はこくりと頷き、俺の肩にポンと手を置く。
「この子は私の甥なのだ」
へー知らなんだ。
テレーズ・ラトレイア。彼女はミリス貴族であるラトレイア家の四女であり、若くして神殿騎士団の中隊長に成った新進気鋭の騎士である。
実家はラトレイア伯爵家。ゼニス母さんの実家もラトレイア伯爵家。
俺が彼女の身内であると知ると、バクシールは何かを諦めたような顔になり、大きなため息をついて、俺達の渡航費用をタダにしてくれた。
こうなるなら最初にゼニスの名前を出すべきだったかな?いや、ゼニス母さんは勘当されているからな意味ないか。
にしてもガッシュ・ブラッシュは役に立たなかったな。ルイジェルド友人は選んだほうがいいな。もっと口が上手い人の方がいいよ。
現在、俺はウェストポートの宿屋で、テレーズに抱きかかえられている。気分はぬいぐるみ。
部屋にいるのは、俺とテレーズとエリスだ。
ルイジェルドは空気でも読んだのか、この場にはいない。居てほしい。切実に。
「ルーデウス君。君の事は姉様からの手紙で知っていた」
「へえー。ゼニス母さんはなんて?」
「すごく可愛いと実物を見て、まさかと思ったが、確かにこれはすごい可愛い」
俺の事を可愛いっていうのはゼニス母さんくらいだから言われたのは久しぶり。他の俺を幼少期を知っている人はヤンチャ、ヤンチャ言うから。
「テレーズ。そろそろルーデウスを離しなさい」
エリスは頬杖を付いて、テーブルをトントンと叩く。何をそんなに怒る必要があるのだろうか?俺がテレーズのものになるわけでもないのに。
「エリス様。お気持ちはわかりますが、いつまたルーデウス君と会えるかわかりません。そして、きっと次に会う時はこの可愛らしさは失われているでしょう。ほんのひと時の思い出なのです。どうかご容赦を」
テレーズは悪びれもせず、俺の身体を撫で回してくる。………ぬいぐるみで満足してくれないかな?別れる時にお礼で渡そうか。
「ああ、それにしてもルーデウス君は可愛いな。食べてしまいたいくらいだ」
「食べても美味しくないでしょ」
「どうだろうか。食べてみたら案外くせになる味かもしれない」
「食べたらなでなでは終わり」
「しかし、ガッシュ団長は相変わらずだな」
と、俺をなでなでしながら、テレーズは話題を変えた。―――この人食べる気だろ。
「バクシールにあんな手紙を出せば、ああなることはわかりきっていただろうに」
すると、テレーズはガッシュがどういう人物か語り始める。俺を撫でながら。
まとめるとガッシュという人物は優秀だが口下手。バクシールが言った事とあまり変わらないな。仕事でも印鑑のみで済ませるため筆跡もほとんど知るものがいないというところも。
「ねえ、いつまでくっついているのよ……」
エリスがだんだんとマジギレ五秒前な感じになってきたので、ちょうどいいタイミングかな。俺はテレーズから離れた。
何とか食べられ無かった。
「あぁ……ルーデウス君の温もりが……」
テレーズが名残惜しそうな顔をするので俺の体温を再現したぬいぐるみをプレゼントしておく。
「わー私だけのルーデウス君だー」
―――対面してみると結構、かなりニマニマしてる。流石姉妹ゼニス母さんそっくり。
「ルーデウス、こっちにきなさい」
エリスがそう言いながら隣を叩くので、座る。すると、キュっと手を握られた。
「…………」
いきなり何だ?と、エリスの顔を見れば、耳までリンゴみたいに真っ赤になっている。
そんなに恥ずかしいならしなければいいのに。
ひとしきりぬいぐるみを撫でたテレーズはため息を一つついて、真面目な顔をした。……いや、できてないなまだ少し口元が緩んでいる。
「そうだ、ルーデウス君。一つだけ忠告をさせてもらおう。もうすぐミリスを発つ君には意味のない忠告になるかもしれないが……」
「国内でスペルド族の名前は出さない方がいい」
「どうして?」
「ミリス教団の古い教えには、魔族は完全に排斥すべし、というものがある」
魔族は全てミリス大陸から叩きだすべし。
それがミリスの教えである。現在は形骸化されているが、神殿騎士団はそれを従順に守っている。
スペルド族のように有名な種族は、例え偽物であっても全力を持って排除しなければならない特に神殿騎士は。
「ルーデウス君が世話になったとあっては私も見逃さざるをえない。だが、本来なら絶対に見逃さないところだ」
「無理ね」
真面目な顔のテレーズに答えたのは、冷めた顔をしたエリスである。手は握ったまま。
「あなた達では、何人で掛かってもルイジェルドには勝てないわ」
「そうですね。エリス様の言うとおりです」
「完膚なきまで、何も出来ずに負けるのだとしても、立ち向かわ無くてはいけない時が人にはあるんだよ、エリス」
テレーズの気持ちはよくわかる。何も変わらないのだとしても人にはやらなきゃいけない時がある。
船旅は順調に終わった。テレーズは船旅に必要なものを全て用意してくれていたおかげである。旅の途中の食料から、船酔いの薬まで。始めての船では酔う人がいるから念のためと持たせてくれた。
この世界は薬学はあまり発達していないと思ったけど、魔術だけがこの世界の医療というわけではないらしい。漢方とかの飲み薬はあるみたい。
船酔いの薬はかなり高価であるのだか、俺とエリスの為にと用意してくれた。使ったのはエリスだけだけど。
船に乗ると凄く不快そうな顔をしていた。ので、薬を飲ませたがまだ気分が良くないということで使いました。神級解毒魔術!―――意味なかったです。三半規管とか身体のズレで起こるのは治癒魔術なんですって。残念ながら使うタイミングではなかった。
仕方ないので治癒魔術をかけ続けるとエリスの気分は遂に良くなり、船の中では常に俺にくっついていた。が、海を見てはしゃげるほどの元気を取り戻した。
良かった良かった。前の海渡りでは一気に渡って皆でゲーゲーしただけだもん。
さて、次は王龍王国か。
テレーズがルーデウスがゼニスの子だと気づいたのは目と雰囲気です。この二つでなんとなく似ている?と思いました。彼女的にはもしかしたら……?くらいで聞くだけの気持ちで尋ねました。