【大森林の雨季が過ぎ去り通行が出来るようになってからしばらくたったある日の昼。大森林から離れたミリス神聖国が首都ミリュシオン近郊の森にて一つの馬車が襲撃を受けていた】
【人数に差があるとはいえそもそもとして馬車を護衛する騎士と襲撃者とでは実力の差がかなりあり、数巡の斬り合いを果たすことなく護衛の騎士4名の内3名は地に伏している。彼らはもう起き上がることは無いだろう】
【生き残りの騎士いや、女騎士が護衛対象であろう少女を身一つで守りながら声を上げる】
「貴様ら!この御方がどなたか、わかっているのだろうな!」
「無論だ」
「ならばなぜ!」
「言うまでもなかろう」
「貴様ら!教皇派か!」
【少女と女騎士の絶対絶命のその瞬間1枚の紙が空から舞い降りる】
「何だ?」
「………」
【紙がひらりはらりと落ちていくのを両者が警戒し注視している。そうして紙が地面に着いた瞬間閃光が迸り、大量の紙がバサバサと落ちて互いの視線が途切れる】
【その一瞬の隙を逃さないとばかりに女騎士は少女を馬に乗せその場から逃走。襲撃者たちもすぐに追おうとするが何故か紙が絡みつきその場から動けない。彼らがその場から動けるようになったのは二人の姿が遠く向こうに行ってからだった】
『予告状
世界に一つだけの秘宝をいただきに参ります
怪盗ルパン』
「どうしますか?」
「至急教皇様にご報告を」
【その日の内にミリス教の魔族迎合派代表ミリス教教皇と魔族排斥派代表ミリス教枢機卿の両者が一堂に会す話し合いが行われ、保管されている聖ミリスの遺物を守るために両派閥の対立を停止。怪盗ルパンに対抗及び殺害するためにミリス教の全力を尽くすことを決定した。具体的には神殿騎士の全団員の招集とミリシオンに臨時の結界を新たに形成するといった対応を行った】
うーん。やらかしたかな?まさか1枚の招待状でこんな大事になるとは……。そんなにやばいものかな?神級解毒魔術。それでしか解毒出来ない毒で暗殺とかしてるの?
さて、大森林の住民には俺が聖獣様の使徒ではないとは伝えたものの何故か全然信じてくれなかったんだよな〜。2ヶ月くらい説得しても意味なかった。どうしよう?これ、俺のやり方次第では獣人たちがミリシオンに侵攻してきたりしない?しないと信じるしか無いか……。まあ頑張りますか。今戦争を起こすつもりは無いからね。俺はアリエルをアスラ女王にするのに忙しいんだ。
ーー記憶の神子ーー
【記憶の神子は珍しい外出からの帰りで受けた襲撃から逃れてから教会の奥にて治癒魔術を受けてからしばらく待機していた。そして、ミリス教の全力での怪盗の対抗が決定して枢機卿からの招集を受け、地下の聖遺物を警護する騎士の記憶を見て身分の担保を依頼された】
「ねぇテレーズ」
「何でしょう神子様」
「私達を助けてくれた人に何で私達は感謝を言うこともできないの?」
「それは彼の者がミリス教の敵であるからです。確かに彼は神子様の命の危機をお救いになりました。されどそれはただの時の運。彼の目的は予告状を枢機卿や教皇に届ける事でした。我々が救われたのは偶然です」
(そうだとしても感謝は伝えるべき……だよね?ミリス様も『汝、礼を失することなかれ、恩を忘れる事なかれ』って言っていたよ?)
【それから彼女は日ごとに交代する何十人もの神殿騎士と聖堂騎士の記憶を覗き込み怪盗ルパンが教会内部に侵入していないことを検査していくこととなった】
【そうして今日から聖遺物を護衛する神殿騎士の検査をし始めてから5人目。これまでの騎士はミリス教に対する想いを記憶に焼き付けていたが……その騎士は違った。ミリス教の事を四六時中考えておらず入り組んだ教会内部の構造に目を向けていり、教団でも数人しか未だ知らない予告状についての記憶を持っている。そして何より彼の記憶の中には命の危機に瀕している記憶の神子とテレーズの姿があった。そこで記憶の神子は思う。この人は私達の命を救ってくださった怪盗ルパンではないのか?と。それを胸に留めておけば良かったのだがそれはまだ子供である記憶の神子には分からなかった】
「貴方は怪盗ルパン様ですか?」
「………いえ?違いますよ?」
「貴方は怪盗ルパン様ですよね?私達を助けてくれた」
【神子の言葉は続かない。既に側にいたテレーズにより引き下げられ側に控えていた七名の神殿騎士が騎士に化けていた怪盗に向けての王級の結界魔術を展開し分断した為である】
「おっと……。どうしました?皆さん。私は皆さんの同僚じゃないですか?」
「黙れ異端者」「喋るなグズ」「口を開くな耳が腐る」「姿を見せるな目が腐る」
「あら手厳しい――そんな!我らは共に同じ志を持つ同志ではないのですか!?」
「黙れ異端者」「喋るなグズ」「口を開くな耳が腐る」「姿を見せるな目が腐る」「今すぐ塵となれ、神子様が穢れる」
「それでは審問を開始する!被告人ルパンは、質問に正直に答えるように」
「嫌だと言ったら?」
「神子様に見てもらいます」
「………」
【彼は観念したのか神殿騎士としての青い甲冑と鎧を脱ぎ怪盗としての装いへと着替えた】
「被告人ルパン。貴方はミリス様の聖遺物を盗もうと画策しましたね?」
「いや、どうでしょう?私が予告したのは世界で一つだけの秘宝。それは確かに貴方の言う聖ミリスに関するものかもしれませんし、ミリス教が独占している魔術に関するものかもしれませんし、そちらにいらっしゃる神子様かもしれません」
「審問の結果。被告人ルパンを異教徒及び聖敵と認定します!」
「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」
「あれ?一回のみの問答で決めつけるのですか?ミリス教はそんなに野蛮な人たちの集まりだったのですか?」
「貴様のようなクズの為に言葉を交わす必要など無い!」
「そうですか。……5」
「その通り!聖ミリスの遺物だけで無く、神子様の命を狙っていたとは何たる悪党!」
「正に聖敵である!神子様のお手を煩わせる必要も無い聖敵であるのは自明だ!」
「……3。そうですね……。神子様貴方はここで生活していて幸せですか?もっと自由になりたくはないですか?」
「……え?」
【その時二人の目が合い神子が、怪盗の記憶を読み取る。すると先ほどとは違う記憶が見える。それは……周りにいる神殿騎士が昼間自分の命を狙っていたあの襲撃者であるということ。……ならば彼女が此処に留まる理由はない。元より無理矢理連れて来られ半ば奴隷のような日々未練は……無い】
いや、一つある隣にいる騎士テレーズは一緒に居たい。なぜなら襲撃あった時も今この瞬間も私を守ろうと頑張ってくれているから。だから彼女とは離れたくない。
「自由に、なりたいです。此処で、死にたくない。もっと色んな事を知りたいし、友達だってもっとたくさん欲しい。私もいつか素敵な人と結婚して幸せになりたい!だから!たすけて!!!」
「良いですよ。お嬢さん。では今回のお宝は貴方ということにしましょう。ではお気をつけて下さい」
「?――……!テレーズ!!!」
「…ッはい!」
【怪盗の記憶には此処に潜入する前からとある魔術を仕掛けているものがあった。そしてその魔術術者の接続が途絶えると術者に向けて発射される。つまり此処に急速に接近している。神子は全力で壁面までテレーズを引っ張り彼女の盾と結界で共に全力で防護する】
「……ゼロ」
【入り組んでいるの建物内部を高速で進む火の鳥が結界ごと騎士を呑み込み大きな爆発を起こす】