ロキシーから「もう座学は終わりです。明日は少し遠くに行って最後の授業、卒業試験を行います」と言われた。遂に水聖級魔術を習う時になってしまった。もう少し長引かせたかったな。ロキシー先生との授業は本当に楽しかった。
その日は快晴だった雲は一つもなくむしろ鬱陶しい。
馬の手綱を握るロキシーの前に座り村の外へとカッポカッポと進む。少しこれまでのロキシーとのおよそ3年の日々を振り返っていると村の子供にからかわれる。シルフィは何やらぷんすかしていた。
明日ロキシーが家を離れて何処かへ行くということが分かっていながら特に話そうともせず静かしてる間にも馬はカッポカッポと進んでいる。
遠く離れた草原に生えている1本の木の近くに来た。ここで卒業試験を行うのだろう。ロキシーは俺を抱えて降ろした後、馬を木に繋いでから此方に向き合う。
「これからわたしは水聖級攻撃魔術『
「わたしは実演するために一分ほどで散らしますが、そうですね……………。一時間以上振らせ続けることができたら合格としましょう」
「一時間先生は何処にいるんですか?」
「近くにいますよ。まあ濡れないようにカラヴァッジョと一緒に魔術で作ったドームの中にいます。準備が出来たらお伝えするのでその後に始めてください」
「分かりました」
ロキシーは天に向って両手を上げ、詠唱を始める。こちらも無詠唱魔術を準備する。不安要素はいくらでも潰すべきだ。
「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ!
我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし、矮小なる存在に力を見せつけよ!
神なる金槌を金床に打ち付けて畏怖を示し、大地を水で埋め尽くせ!
ああ、雨よ! 全てを押し流し、あらゆるものを駆逐せよ!
キュムロニンバス!」
ロキシーが一つ一つの単語を、噛み締めるようにゆっくりと詠唱している。時間にして一分以上。そして唱え終わった瞬間、一瞬にして周囲が暗くなった。あんなに快晴だった空に暗雲が立ち込めている。
数秒のタイムラグの後に、叩きつけるように雨が落ちてくる。あーあ服がビチョビチョ。凄まじい暴風が吹き荒れ、真っ黒な雲が稲光を伴い出す。空気を切り裂いて、落ちる前に魔術を間に合わせる。
バガァァン!!
雷は木に落ちることはなく僅かに逸れて地に落ちる。馬は無事だ。全くロキシーは何を考えてこんなところでこんなに危ない魔術を使ったんだ?まあ無事に済んだからいいか。
雷はこちらで雨粒を誘導することで逸らさせてもらった。が、馬は近くに雷が落ちたので暴れている。さもありなん。俺だって
鼓膜が雷鳴でジンジンしてるし、目だって雷光でチカチカしてる。
ロキシーはパウロが大切にしている馬を逃げないように抑えながら詠唱を行い、土の上級魔術である『
「さぁ、やってみなさい。この通りカラヴァッジョはわたしが守っておきますので」
さて、俺の悪癖である一度で詠唱を覚えられないというものは今でも改善出来ていない。というか一分以上の詠唱を一度で覚えられるわけがない。ならどうするのか?答えは簡単。詠唱を記録しておけばいい。
というわけで記録した詠唱を見ながら
「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ!
我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし、矮小なる存在に力を見せつけよ!
神なる金槌を金床に打ち付けて畏怖を示し、大地を水で埋め尽くせ!
ああ、雨よ! 全てを押し流し、あらゆるものを駆逐せよ!
キュムロニンバス!」
うん。見ながら言ったからスムーズに詠唱ができたな。さて、一時間はロキシーはかまくらから出ないだろうしアレンジしてみるか。
暗雲を竜の形にしてみる。うーん、カッコいい。
その竜を動かして雷を纏わせる。すっごいカッコいい。
楽しくなって竜を動かして遊んでいると、
「ルディ!もうそろそろ一時間経ちます。解除の準備をして下さい」
もうそんなに時間が経ったのか、こんなに大きな魔術を使うのは始めてで興奮しすぎてたのか時間が過ぎるのが短く感じる。
俺が魔術を解除するのと同時にドームが崩れロキシーが出てくる。ちゃっかり服を乾かしてるなズルい。
「ルディ。合格です。これで貴方も水聖級魔術師です。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
あー楽しかった。
次の日、ロキシーは俺の予想通り旅装を整え、二年前に来た時と寸分変わらない格好で玄関にいた。父も母もロキシーが来た時と、あまり変わらない。いや、ロキシーに向ける目線が異なる。偏見がなくなっただけでなくかなり親睦を深めたのだろう。俺は木に縛りつけられることもなく玄関に立ちロキシーを見送っている。あの時と違い彼女を見上げている。
ロキシーから卒業祝いにペンダントを貰った。これでお守りは2つ目。大事にしなくては。
これまでありがとうございました。先生。
さて、そんなお別れをロキシーとして何日か経った後、母さんの妊娠が分かった。その時はキチンと心から祝福の言葉を送った。けれどこの後の事を知っていると……。
この村医者いたんだ。
1ヶ月後
うん。まあ、知ってた。
リーリャが妊娠したと家族が揃っている場で報告してきた。
うん。知ってる。
いや、妊娠を知ってるというわけではなくヤッたということを知ってた。
さぁ、凍りついた空気をどうするよパウロ?ゼニスはお前を睨んでるぞ。
「す、すまん。た、多分、俺の子だ……」
正直に話すのは美徳だよ父さん。ほら見て?俺の脱走の時なんて比べものにならないくらい母さんが怒ってるよ。あーあんなに振りかぶってその手は何処に行くのでしょうか?答えはもちろんお前の頬さ!パウロ!
バチン!!!
綺麗な紅葉が出来ました。
さぁて!始まりました!家族会議!家族会議開催は十を超えてから数えていませんが今回の議題はいつもと違うようです。いつもはヤンチャ坊主をどうするかでしたが今回は家長の浮気とメイドの浮気によって誕生する子供についてです。いやーこれは難しい議題です。
脳内でふざけている間にゼニスとリーリャの間では話し合いは済んだらしい。
リーリャは死を覚悟して帰郷し子供を育てるつもりらしい。そしてゼニスは産後のリーリャを追い出して見殺しにはできないけれど彼女に裏切られたという負の感情がある故に葛藤している。
この状況をどうにかするべきなパウロが役に立たないので俺がどうにかするしかないな。やれやれ貸し一だぞ?
「母さん。リーリャはお母さんになったの?」
母さんにまず尋ねる。子どもがいきなり解決策を話したら変だからな。
「……えぇそうよ」
「じゃあ、リーリャなんで出て行こうとしてるの?」
「―――それは私が奥様を裏切ったからです」
「なんで裏切ったら家を出ないといけないの?」
「悪いことをした人は罰を受けないといけないからよ。ルディ知ってるでしょ」
もちろん知ってる。沢山罰を受けてきたから。
「じゃあ………リーリャ逃げないで下さい」
「は?」
「リーリャは今、楽な方向逃げようとしています。しかも、母さんを傷つけて」
「………」
「リーリャがするべきなのは母さんに裏切った事を謝って許してくださいと言うことです。自分勝手に決めて逃げることではありません」
「」
「そして父さん」
「な、なんだ?」
「父さんも母さんを裏切ったので謝ってください。僕はいつもちゃんと謝って来ましたよ」
本当にたくさん謝った。まあ反省はしていなかったが。よく許してくれたよ。おそらくシルフィの家に行っていたのがバレていたからだろうが。
「ご、ごめんなゼニス」「申し訳ありませんでした奥様」
「母さん。僕はリーリャを許してほしいです」
「はぁ。ルディに免じて許すわ。リーリャ、貴方は家族よ勝手に何処か遠くに行くのは許さないわ」
「………はい奥様」
「そして、パウロ。話があるんだけど」
「…ああ」
さらばパウロ。お前の愚行は忘れない。