「あ、あっぶねぇ……」
気絶した我が子を見ながら、息を整える。
今日で剣術を教えるのは最後だし、ちょっと本気出して怖がらせて父親の威厳ってヤツを見せつけてから気絶させようと思ったら、すっげぇ反応速度で魔術を使いやがった。
それも闇雲な攻撃としてではなく、確実に俺を倒す為に、だ。しかも、全部違う魔術だった。
「さすがオレの息子だな。戦いのセンスがある。ここまでだとは思っていなかったが」
時間にしてみればそこまでだったが、完全な奇襲であったにも関わらず、結果は体力のあるオレがギリギリで勝つといったもの。敗北と言ってもいいだろう。
特に最後の魔法は、使われていたら状況はあいつ有利になり、完膚なきまでにやられていただろう。
魔術師相手に完全な奇襲でこの結果だ。
他に仲間がいれば、どんな奴であっても負けただろう。あるいはもうちょっと距離があれば、勝てなかった。
まず、オレの殺気に一切の動揺を出さずに4つの魔術を同時に使い、始めの一撃を制した。
足場を泥にして場を崩し、閃光で視界が閉ざされ、目を開けると霧で遮る。そして、自分自身は離れる。この時点でもうルーデウスが逃げの一手を選んだら負けていただろう。
次に自分が場を支配するためにこちらの動きを誘導する為に、霧を晴らされる前に風の刃で切り裂く。そうしてオレがルーデウスのいる方向にあたりをつけて攻撃を仕掛けると影が見えたので斬るとそれは土塊だった。騙された。そう思ったら直に構えるとルーデウスが切り込んで来た。
そう、あいつは魔術師でありながらオレと剣による決着を求めていたんだ!
そうして競り合いに負けたルーデウスは木剣を離し、体勢を崩したオレに向けて氷の剣を振りかざす。が、その一撃は受け流し、ルーデウスを蹴り飛ばした。そして、動かなくなったのを見て決着を確信した。
その瞬間だ、あいつが爆炎と共にこっちに飛んできたのは。おかげでまともに顔面に一撃を食らった。男の魂の拳だ。
久々に良い一撃をもらった。
だが、ルーデウスはそれを決めたあと地に伏した。
「さすが水聖級魔術師の自信を喪失させた天才か……」
我が子ながら末恐ろしい。だが、嬉しい。今までは、自分より才能があるヤツには嫉妬しかしなかったが、不思議と自分の息子だと、嬉しい気持ちしか湧いてこない。
「っと、こんな事言ってる場合じゃないな。早くしないとロールズ達が来てしまう」
すぐに息子を縄で縛ろうとすると、
「………やあ、シルフィ。元気してる?」
「ルディ!?」
いつの間に来ていたシルフィが縛られたルーデウスを見て、助けようとでもしたのか、いきなり中級の攻撃魔術を無詠唱で二つぶっぱなしてきた。ルーデウスが難なく受け流したが、無詠唱な上に、威力も速度も申し分ない魔術だった。
オレでも受け流せはしただろうが……。ルーデウスめ、なんてもんを教えてやがるんだ。
ギレーヌに手紙を渡し、ルーデウスを馬車に放り込み、御者に出るように伝える。チラリと見れば、ロールズがしゃがみこんで、シルフィに何かを教えている。
そうそう。教育は親の役目だ。ルーデウスにまかせていた分は、自分で取り戻さないとな。ロールズ。
ほっと息を吐いて、温かい目で見守っていてやると、しばらくして風に乗ってシルフィの声が聞こえてきた。
「わかった。ルディを僕のものにできるぐらい強くなる……!」
「……?」
んー、愛されてるね。我が息子は。何か言ってることが怖いけれど、愛の形はそれぞれだからな。ていうか、こうなるまで放置したルディが悪い。
それを見ていると、家の中から二人の妻が出てきた。危ないので見ているなら家の中から、と言ってあったのだが、見送りに来たのだろう。
「あぁ、私の可愛いルディが行ってしまう」
「奥様。これも試練でございます!」
「母さん、行ってくるねー」
「わかっているわ、リーリャ。ああ、ああぁルーデウス! 旅立つ息子! そして一人息子を奪われて可哀想なわたし!」
「奥様。もう一人息子じゃありません」
「息子は一人でしょー?」
「そうだったわね。妹が二人生まれたわね」
「二人……! お、奥様!」
「いいのよリーリャ。私はあなたの子供でも愛して見せるわ!
だって、私は、あなたを、愛しているのだもの!」
「ああ! 奥様わたくしもです!」
「息子は?ルーデウスは?こんなにも声出してるじゃん!ねえ!ゼニス母さん治癒魔術、可愛い息子にかけてくれてもいいんだよ?」
「ふふ、分かっているわ。ルディ頑張ってね。母さんは応援してるから」
「行ってらっしゃいませ。ルーデウス様。お部屋は清潔に保っておきます」
「はーい。頑張ってきまーす」
やたらと芝居がかった口調で馬車を見送る。ルーデウスは優秀だからか、この二人もそんなには心配していない。ルディが縄で縛られていながらピンピンしているのもあるんだろうが。
それにしてもこの二人、仲がいいなー。オレとも仲良くしてくれると嬉しいんだけどなー。てか、仲良くオレをイジメるのをやめてくれると嬉しいんだけどなー。
「しかし、下の子たちが物心ついた時には、ルーデウスはいないのか……」
ルーデウスも、残念なことだ。可愛い娘の愛情は、父親が独占することとなるのだ。
ぐへへへ。
や、でも待てよ。
これからルーデウスはあの剣王ギレーヌから英才教育を受ける。5年後というと、12歳。身体はもう立派だ。
帰ってきた時に模擬戦とかやったら、俺ってルーデウスに勝てないんじゃないか?今でもギリギリなのに。
ヤバイ、五年後の父親の威厳がヤバイ。
「母さん、リーリャ。ルディもいなくなったことだし、俺も少し鍛える事にするよ」
ゼニスのシラッとした顔。リーリャがひそひそとゼニスに耳打ちする。
「ルーデウス様に負けそうになって、いまさら危機感を憶えたんですよ」
「昔からそうなのよ。負けそうにならないと努力しないの」
時すでに父親の威厳がヤバかった。
(まぁ、威厳なんてなくてもいいんだけどな)
無駄に威厳ばっかりあった父親に心当たりがあるだけに、心からそう思う。だからオレは、もう少し女にだらしないダメオヤジのフリをするのだ。威厳なんてない、親しみのある父親を目指すのだ。せめて、三人の子供が大人になるまでは……。
チラリとゼニスを見る。子供を二人も生んだとは思えない、いい身体だ……。
(まぁ、四人目、五人目が出来たら延長するけどな。うひひ)
ま、四人目の話はさておき。
(ルーデウス……)
こんなやり方は、オレだって好きじゃない。けど、お前は言っても聞かないだろうし、オレも言って聞かせられる自信はない。
かといって、何もせずに見ているのも親として失格だ。力不足で他力本願だが、こういう事をさせてもらった。強引かもしれないが、賢いお前ならわかってくれるだろう……。
いや、わかってくれなくてもいい。お前の行く先で起こる出来事は、きっとこの村では味わえないものだ。わからずとも、目の前の物事に対処していけば、きっとお前の力になる。
だから恨め。オレを恨み、オレに逆らえなかった自分の無力さを呪え。オレだって父親に押さえつけられて育ってきたんだ。それを跳ねのけられなくて、飛び出した。その事には後悔もある、反省もある。お前に同じ思いはさせたくない。
けどな、オレは飛び出したことで力を手に入れたぞ。 父親に勝てる力かどうかはわからないが、欲しい女を手に入れて、守りたいものを守って、幼い息子を押さえつけられるぐらいの力はな。
反発したけりゃするといい。そして力を付けて戻ってこい。せめて父親の横暴に負けない程度の力をな。
ルーデウスの乗った馬車を見ながら、パウロはそんな事を考えていた。
因みに魔術で勝つなら、離れた後にファンネル四獣を展開して弾幕でパウロに何もさせずに勝てます。