2112年 11月27日――
厚生省 公安局 ビル内 分析室
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捜査開始から3日目。
分析室には刑事課一係の面々が集められ、分析官である
「うちの可愛い鑑識ドローンが頑張った結果、
「はい、拍手」と唐之杜さんが促すも、当然誰ひとり反応するものは居らず一人分のパチパチという音が響く。
「なのに誰かがネット上で葉山のコミュフィールドを運営し、葉山のアバターで彷徨き回っていると」
「
「怪談だね。成仏出来ずにネットを彷徨う幽霊ってか」
「誰かが成り代わってるのか?」
「どうだかね。葉山は失踪する以前からふざけ半分に偽装IPを使ってたみたい」
というか、偽装IPなんて普通にソーシャルネットを使っていれば使用の機会なんてない。
あの日、
〈人は見かけによらない〉という言葉があるけれど、人を殺して他人のアバターを乗っ取り運営する。
そんな人間のサイコパスは一体何色なんだろう。
「アクセスルートの追跡は?」
「試してみても良いけどさ、なぁ〜んか明らかに胡散臭いプロキシサーバー経由してるからねぇ。まぁ間違いなく逆探知対策は講じてるだろうね。下手に追跡かけると先方にも勘付かれるよ」
唐之杜さんはタバコを咥え、一息つく。
「でもさぁ、少なくとも葉山のアバターを使ってる奴は自分が怪しまれてるなんて気付いてないはず。それってチャンスなんじゃない?」
「ある意味今回の容疑者は逃げも隠れもせずに目の前をほっつき歩いてるわけだ」
「上手く誘導すれば正体を掴む手掛かりになるようなボロを出すかもしれない」
征陸さん、狡嚙さんと来て宜野座さんはその意見を採用することにしたらしい。アバターに接触してみようという話になった。
しかしいくらバーチャルとはいえ執行官が使用するには許可や申請が必要だろうから、それ以外の4人から考える必要がありそうだ。
「
「私たちは二人とも養護施設育ちなのでソーシャルネットにあまり馴染みが無くて。まずはアバターを作って慣れてみるところから、ですね」
「となると……」
タリスマンに接触したことがあってある程度心得のある常守がやるのは決定として、もう一人が宜野座さんになるのだが……
ちらと本人の方を見るとそこまで嫌がってはいなさそうだ。
アバターについても何も言って来ないことから持ってはいるのだろう。
「では、宜野座さんと常守さんでお願いします。私たちはこれからやってみます」
葉風ちゃんの言葉に
それよりも常守の中では二人が養護施設で育ったという事実の方が衝撃だった。
だから2人は学生ではなかった。
自分とは同じ環境ではなかったのだな、と納得しそれが葉風ちゃんの不思議な魅力になっているのだろうか? と考えた。
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ブリーフィングが終わった後、捜査を宜野座さんと常守さんに任せて、私たちはソーシャルネット接続に必要な機材を買いに行った。
頭から被るゴーグルのようなものとグローブ型のデバイスを2セット買う。
私は薄い紫。椋羽ちゃんは水色だ。
「これで何ができるの?」
「タリスマンみたいなアバターを作って、コミュニティフィールドを作ったり訪れたり出来るんだと思う」
「葉風ちゃんは五感フィードバックいる?」
「どうせやるならしっかりやりたいからアタッチメント付けたいな」
ソーシャルネットには触れたことが無かったけれど、内装ホロも服装ホロも似たような技術だ。だったらそれを応用してきっと色々できるはず。
細かいところまで作りこみたくなるのは悪い癖だが、どうせ作るならもう一個の現実にしてしまいたい。
まずはアカウントを作ってアバターを作成する。
アバターの作成にはかなり自由度があるみたいだが、私たちは出来るだけ現実の姿に近い方がありがたい。
しかしリアルに寄りすぎないように多少デフォルメを効かせる。
よって選択したのは3頭身。
私は髪色を白に変え、天使をモチーフにしたアバターに。
椋羽ちゃんは髪色はやや落ち着かせつつ、セイレーンをモチーフにしたアバターを作成した。
「やっぱり空と海のモチーフって良いよね!」
「そうだね」
楽しそうに見た目や服装を調整する椋羽ちゃんを見つつ、私はこの真っ白な世界に何を作るか考える。
まずは空と海を作ろう。
そしてこの世界だけの美しい景色を作ろう。
私の見たいを詰め込んで、誰にも縛られることのない自由な世界。
そうしたらきっと椋羽ちゃんは、家を作るとか椅子を置くとか、橋を作りたいとか、言ってくれるだろう。
「椋羽ちゃん、私ね」
「うん」
「ここに
「分かった!」
そうして私たちは、操作に慣れる為にもこの真っ白の空間に世界を作ることにした。
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2112年 11月28日――
厚生省 公安局 刑事課 一係
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結局、デバイスを買いに行ってから一晩中コミュフィールドを作るのに夢中になった。
気付けば空や海を作り、洞窟を作り、草木が風に揺れるようにして匂いまで付けた。そのため寝るのをすっかり忘れてしまったのだ。
椋羽ちゃんは楽しそうに置きたい家具などをカタログから見繕っていたが眠気の限界を迎えて寝落ちていた。
朝起きた時に聞いた彼女の驚愕の声が一つの達成感になってしまったので、しばらくコミュフィールドの作成に時間を費やしてしまいそうだ。
とは言っても仕事は仕事。
居住区から一係へ出勤し勤務を開始したところで、昨日宜野座さんと常守さんがタリスマンのコミュフィールドへ行ったことを聞いた。
タリスマンは、同じく自らのコミュフィールドを運営するスプーキーブーギーのコミュフィールドへ移動したため追跡を試みた。そこで常守さんがスプーキーブーギーからチャットルームに誘われたらしい。
その時のログを見せてもらいながら彼女のことを
ただ、存外悪い人でもないらしい。嫌な感じはしなかった。
「じゃあスプーキーブーギーは常守さんの同級生なんですか?」
「そうみたい。卒業アルバムと睨めっこして探してごらんなさい、って言われた」
「常守さんって有名なんですね」
〈アバター名:Spooky Boogie〉はコミュニティフィールドを運営するカリスマアバター。国家や既存の秩序に縛られない自由を標榜するアナーキストとして人気を博し、数多くのフォロワーを持つネット上の著名人だと聞き及んでいる。
公安局の幹部候補に恩を売っておくのも悪くない、という発言からもしたたかな女性なのが良く分かる。
「有名ってほどじゃないよ。学生時代の最終考査で700点満点で13省庁6公司でオールAだっただけ」
「それって選び放題だったってことですか」
「500人の学生の中で公安局の判定がAだったのは私だけだったからさ」
素直にすごいな、と思う。
別に私は職業何てなんでも良かったし、そも
ともかく、常守さんはそれだけ優秀ということでもある。
「それで、オフ会の話になったんですか?」
「そう。普段ネット上のコミュフィールドに集まっているユーザー同士がみんなでソーシャルネットでのアバターと同じホロコスを被ってパーティーをするの」
「妙なことを思い付くもんだな」
征陸さんの言い分が分からんでもないが、一旦流して狡嚙さんの意見を聞く。
「で、そのイベントには間違いなくタリスマンも参加するのか?」
「あれで欠席したらタリスマンの人気はガタ落ちです」
自分も始めたてなので良く分かっていないが、なんでも〈ホワイトクラウン〉というものを賭けてデュエルマッチを行うらしい。
つまりは決闘だと思うので、それを蹴るというのは体裁も悪い。
「葉山の代わりにタリスマンを演じているのが誰にせよ、あれだけ熱心にコミュフィールドの運営続けているんです。きっとオフ会にもタリスマンに成りすまして出てくるはずです」
「どんなホロコスを被っていようと、そいつが執行対象になるだけの犯罪係数が計測できればこっちのもんだ」
「場所は?」
「六本木のクラブ〈エグゾゼ〉です」
かなり前向きに話を聞いてくれている宜野座さんと狡嚙さんからの質問に常守さんが場所を答える。
どうやらそこがご対面の現場になりそうだ。