PSYCHO-PASS【UU】   作:胸に牡丹

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14 痕跡

 

 

 

ブリーフィングを終えた常守(つねもり)椋羽(むう)ちゃん、征陸(まさおか)さん、狡噛(こうがみ)さんは一係に戻ってきて狡噛さんのデスクを囲んでいた。

 

狡噛さんの〈気になる件〉というのが何か分からない。

 

しかし宜野座(ぎのざ)さんや葉風(はかぜ)ちゃんたちと別行動になった以上、常守はここにいる必要がある。

 

 

「こういうアバターとかバーチャルとか、俺にはいまいち理解できん。息をして汗をかいて、飯を食うのは結局この身体だろう」

 

「征陸さんみたいな人、今では絶滅危惧種だと思いますよ」

 

「あ、私も葉風ちゃんも最近までソーシャルネットは使っていなかったので征陸さんと似ているかもです」

 

 

椋羽ちゃんが「はい!」と律儀に手を挙げながら答えてくれるので思わずクスリと笑ってしまう。

 

確かに彼女らは今まで触れてくる機会が無かったのだろう。

隔離されたネットはともかく、ソーシャルネットとなると尚更。

 

 

「大多数の人にとってネットって、物を調理する刃物とか、記録するための紙とかそういうレベルの物じゃないですかね。良い悪いじゃない、そこにあるんだから受け入れる、使うっていう」

 

「なるほど……」

 

「さすがに説明が上手いな。教師みたいだ」

 

「そうですかね」

 

 

常守が征陸さんの言葉に照れたところで、狡噛さんが椋羽ちゃんを呼ぶ。

 

 

水無瀬(みなせ)支援官。スプーキーブーギーとのログから、一番色相に乖離が見られるところを教えてくれ」

 

 

待ってください、とツッコミたくなるオーダーだが、椋羽ちゃんは「分かりました」とだけ答えて画面を見る。

その様子にただ頷いた狡噛さんは黙ってスプーキーブーギーのログを少しずつ流していく。

 

そもそも色相は相手が目の前にいて、しかも色相チェッカーを使ってカウンセリングを行うのが普通だ。

それをアバターの、しかも録画でチェッカーも無しに? どうやって?

 

しかしその疑問を打ち消すかのように少し経って椋羽ちゃんが声をあげる。

 

 

「この場面とこの場面のスプーキーブーギーは色相が異なっていると思います。今朝の方が濁っているかな…と」

 

 

録画では色相チェッカーが役に立たないため、確かめようもないのだが、狡噛さんは指摘された箇所を何度も繰り返し再生して違いを探していく。

 

まずは12月4日、つまり昨日のログ。

 

『ふーん、なんだか面白そう。ちょっと協力してあげようか。公安局の幹部候補に恩を売っておくのも悪くないじゃない?』

 

そして12月5日、つまり先程のログ。

 

『ごめんで済んだら警察は要らないんじゃない? は~あ、本当に警察なんかと手を組むんじゃなかった』

 

狡噛さんは何度か聞き直していくうちに「こいつだ」と呟く。

 

 

『本当に警察なんかと手を組むんじゃなかった』

 

「支援官。この言葉が色相が濁って感じる、間違いないか?」

 

「あ、はい。その言葉だけ聞くと特に違いを感じます」

 

「その違和感の正体は言葉遣いだ。最初は〈公安局〉次は〈警察〉」

 

 

偶然ではないのか。

 

人は誰しも言い間違えたりすることもある。でも、本当にそれで色相の揺らぎを説明出来るだろうか…?

 

 

「支援官の感じる色相の違い、俺の指摘した言葉遣い。手に入るだけの過去ログを洗ってみよう」

 

 

狡噛さんの検索画面に並ぶ【公安局】のソート結果。

それが指し示す事実は、スプーキーブーギーが〈警察〉という言葉をほとんど使わないという事実。

 

 

「今朝お前が話したのは別人だ」

 

「!」

 

「今俺たちが追っているのは他人のアバターを乗っ取って成りすます、殺人犯だ」

 

 

それが意味するのは。

つまり既に彼女はこの世に居ない、という残酷なまでの事実だった。

 

 

=======================

 

 

宜野座さんと私は、(かがり)さん、六合塚(くにづか)さんを伴ってとある廃棄区画の集合住宅に来ている。

 

現場は見るからに煤けた雑居ビルと集合住宅の入り乱れる一角。

 

有事の際に備えてドミネーターを所持し、私たちは警備ドローンを伴って目的の部屋まで赴いた。

 

 

「逆探では、犯人はここからタリスマンのアバターを操作していた」

 

 

到着したのは何の変哲もない一室。

外から見る限り特に異変は感じられない。

 

ドローンが室内スキャンを実行するも、予想通り電磁波遮断処理によって失敗。

それを確認した宜野座さんと私は顔を見合せ縢さんと六合塚さんにハンドサインを送る。

 

縢さんの『自分たちが先に入る』というサインを了承し、宜野座さんがドローンへ開扉を促した。

 

ただ、私はこの時点で違和感を覚えていた。

 

クラブ〈エグゾゼ〉では私たちの干渉は何らかの手段を用いて知覚されていた。

この部屋が本当に拠点であったなら、犯人は既に逃走していてもおかしくない。例え人気の無さはそれで説明がついたとしても、どうにも説明のできない違和感が残る。

 

ガコンという音と共にドアが破壊され縢さんと六合塚さんが突入した。

 

急ぎ先行した2人がクリアリングを行う中で、私の違和感も余計に強くなる。

 

ここには生活感が無さすぎる。

いくら仮の拠点だとしても人の気配が一切ない。ということはアクセスポイントとして使われただけか、あるいは罠の可能性がある。

 

いち早く、縢さんがリビングと思わしき部屋の扉を開けた。

 

途端に流れ込む明確な危険の気配。

 

音を立てて反応したセンサー。覆われた窓に貼られた無数の紙類。部屋中央に設置された無機質な機械。

 

 

「やっべ!」

 

「宜野座さん伏せて!」

 

 

一瞬で部屋の異変を察知した縢さんが六合塚さんに共有するも、その前に彼女は踵を返していた。

 

ただ一人状況を掴めていない宜野座さんに、私が伏せるよう言ったその刹那。

 

大きな爆発音とともに部屋が吹き飛んだ。

 

 

 

 

爆発の規模は存外に大きく部屋が半壊していた。

はらはらと粉塵が舞っている。

 

大きな爆発音に顔を顰めながら様子を確認すれば、縢さんと六合塚さんは当然の様に無傷。しかし宜野座さんは手から出血が確認できた。

 

一応自分の身体も簡単に確認する。

咄嗟に身を庇えたのは狡噛さんとの特訓の賜物か、大きな怪我は無さそうだ。

 

 

「宜野座さん、大丈夫ですか?」

 

「っ……なんでお前らは無傷なんだ」

 

「いや、そんな睨まれても」

 

「日頃の行いじゃないですか? 現に東雲(しののめ)監視官は察知されてたみたいですし」

 

 

苦笑いの縢さんと顔を見合せつつ、苦言を呈する六合塚さんに私も思わず苦笑いになる。

 

まぁ「伏せて」とは言ったし後輩としての責務は果たしたはずだ。

それに狡噛さん仕込みなのは反則技みたいなものだろうから、ここは何も言わないでおく。

 

 

=======================

 

 

常守たち4人は先の結論を元にスプーキーブーギーこと菅原(すがわら) 昭子(しょうこ)の自宅にて現場検証を行っていた。

 

まずは常守の同期生をアフィリエイト収入で絞り込んでスプーキーブーギーの身元を特定。自宅に入ったところで本人がいないことを確認したため鑑識ドローンに下水管を調べさせた結果、遺体の断片が発見された。

 

状況は葉山(はやま)と類似性が見られ、本人は死亡しているのにアバターはネットに存在している。

 

死亡推定時刻は今日未明。

つまり昨日の〈エグゾゼ〉の後に殺害されていることになる。

 

常守のせいで、彼女を巻き込んでしまった。

 

 

「葉風か。どうした」

 

『アクセスポイントの部屋に突入したところ爆発。宜野座さんが軽傷です』

 

「こっちは新しいガイシャが上がった。例のスプーキーブーギーだ」

 

『了解。宜野座さんに指示を仰ぎます』

 

 

向こうでは爆発が起きたらしい。

 

 

「私が、悪いんです。私のせいで」

 

 

自然に言葉が漏れていた。

 

今どんな顔をしているか分からない。

このままでは、この抱えきれない罪悪感に押しつぶされてしまいそうだ。

 

 

「お前はスプーキーブーギーを、菅原 昭子を囮にしたのか」

 

「いえ」

 

「協力を強制した」

 

「いえ」

 

「彼女の情報を敵に漏らした」

 

「いいえ」

 

 

狡噛さんは常守に対しいくつかの質問を投げかける。

 

どれも違うときちんと答えられるけれど、それでも気持ちに整理を付けられない。

 

 

「じゃあお前の落ち度はどこにある」

 

「それは……でも、現に彼女は」

 

「ああ、夕べの時点で犯人を捕まえていたら菅原 昭子は死なずに済んだ。俺たち全員の落ち度だ」

 

 

きっとこれは狡嚙さんなりに励まそうとしてくれているのだろう。

 

その気持ちが、常守にはほんの少し嬉しく感じられた。

 

 

「今はただ、責任を果たすことだけを考えろ。犯人を追うぞ」

 

「つまるところ、ホトケの供養にはそれしかないんだよな」

 

 

征陸さんが「それにな」と話を続ける。

 

 

「全部自分で背負おうとするのは責任感とは言わないのさ。例えば東雲の嬢ちゃんが同じように『自分のせいだ』と責めたらどうする」

 

「……違う、と否定します」

 

「だろう? まぁ、あの娘は無茶をするタイプだから言っても聞かんとは思うが、大体そういうことだってことよ」

 

「確かに葉風ちゃんは止められないので、私が少しでも責任を背負ってあげられたらって思います」

 

 

椋羽ちゃんはただ静かに笑って、常守を見つめる。

 

 

「怖く、ないんですか。葉風ちゃんが無茶をするの」

 

「怖いですよ」

 

 

ほとんど即答の返事に驚きつつも、常守は椋羽ちゃんを見つめ返す。

 

てっきり2人は大抵一緒に居るから似ているんだと思った。

でも、そうだ。彼女だって1人の人間だ。

 

 

「でも、だからって葉風ちゃんが葉風ちゃんで無くなってしまうような止め方は出来ません」

 

「だから、帰ってくる場所になる…ってことか」

 

「はい、征陸さん」

 

 

常守は狡噛さんや葉風ちゃんのようになりたい、理解したいと思っていた。

しかし重要なのはそれだけじゃないってこと。

 

得手不得手もあるし、役目や責任も人それぞれだ。

自分には自分の出来ることがあるはず。

 

常守はそう考え直して、顔を上げた。

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