「また一件、妙なのが見つかったよ~」
私たちは
報告で聞いた通りスプーキーブーギーこと
せっかく掴んだ捜査の手掛かりが途絶えてしまったが、諦めるにはまだ早い。
その証拠に
「メランコリア・レイニーブルー。82歳のじいさんの物だったけど、聞けば孫に頼み込まれて名義だけ貸してたみたい」
最近私のコミュフィールドもそれなりに世界が広がってきたから、訪れてくれる人が増えた。
その中で確か話題に上がっていた気がする。
〈Rainy Blue〉は、薄暗い夕暮れの中に放課後の教室を思わせるノスタルジックな空間が広がるコミュフィールドで〈アバター名:Melancholia〉が運営していたはずだ。
私も一度、黄昏を作る時の参考に訪れたことがある。
「んで、この孫が実は半年前に事故死してるんだって」
「…え?」
メランコリアは存在していて、彼の世界はまだあった。
でもそれは彼本人ではなく別人だった?
「祖父はソーシャルネットのアクセス方法すら分からず、アフィリエイトの入金も年金と勘違いしていた有様だった」
「レイニーブルーも凄い大手です」
「増える増える、幽霊アバター」
私は彼の世界を見に行った。
でも彼自身を見てはいないし話しもしなかった。だから違和感にも気付かなかった。
私がメランコリアと話していたらタリスマンやスプーキーブーギーに成り代わったその人と同じだと気が付けていただろうか?
「別々のアバターを同時にいくつも操るなんて可能なのか?」
「ヘビーユーザーなら珍しいことじゃないわよね?」
「はい、むしろ異常なのはこの犯人の演技力です。乗っ取られたアバターはどれも怪しまれるどころか、かえって本物だった頃より人気者になってるんですよ」
「何千人、何万人というユーザーが何故偽物に気が付かない」
それは私が知っている。
「本物も偽物も無いから」
「なに?」
顔を顰めて私の方を見た宜野座さんに、慌てて補足を入れようとしたところで
「こいつらはネットのアイドル、偶像だ。偶像ってのは本人の意志だけでは成立しない。
つまりは
本人よりもファンの方がアイドルに期待されるロールプレイをより上手く実演出来たとしても――
「「不思議じゃない」」
私と狡噛さんの声が重なる。
そう、当然だ。
相手をよく観察して考え方を知って行動を理解すれば再現できる。そんなのは当たり前なのだから。
「犯人はこいつらのファンだと?」
今度は
そういう所が本当に刑事としてもよく似ていると思うのだが、本人に知られると面倒なので口を噤む。
「メランコリア、タリスマン、スプーキーブーギー。この3つのキャラクターを完全に熟知し模倣することが出来た、それだけ熱を込めてファン活動をしていた奴がホンボシだ」
「それをどう見分ける? 3つのアバターに共通するファンというだけで一体何人いると思ってるんだ?」
「絞り込む条件はある」
そういって狡噛さんは唐之杜さんへ、タリスマンのコミュフィールドの常連のうち上位100人を滞在時間で1日ごとのグラフにするように言った。
ついでに葉山の死亡推定時間を重点的にピックアップするよう付け加える。
表示されたグラフは一点において集中的に下落し、その後好転が見られた。
「この辺り、ゲストの滞在時間が落ち込んでいますね」
「タリスマンの評判が下落した時期ですからね。それが二ヶ月前のこの日を境にして持ち直す」
「ここで葉山が殺され、タリスマンが誰かに奪われた」
「逆に、この時点でタリスマン・サルーンへの来場が途絶えた常連が何人かいる。このグラフのパターンが鍵だ」
皆の推測が一つの結論へまとまったところで、狡噛さんは私の方を見た。
メランコリアの
同じパターンを示したユーザーが必ずひとりはいるはずだ。
それが犯人の本来のアバターである。
ちらりとモニターに映るグラフを見たところで椋羽ちゃんが口を挟む。
「犯人は被害者のアバターを乗っ取った時点でそれぞれが運営するコミュフィールドに入る必要が無い?」
「そういうこと」
私は結論まで推測できた彼女にウィンクをして微笑む。
さすが椋羽ちゃん。私のことを良く分かってくれている。
結果、合致する人間が1人だけ見つかった。
サイコパスチェックは4年前の定期検診が最後でそれ以降街頭スキャナーに引っ掛かったことすらない。
「日頃からスキャナーの設置場所を避けて通る工夫をするくらいには、後ろ暗い事情があるってことですね」
サイコパスを測るのはそう頻度は多くない。でも街頭スキャナーにすら引っ掛からないなんてこの社会ではあり得ない。
「こいつのアクセス記録を追跡」
「もう済ませたわ。最後のアクセスはほんの数分前、港区六本木のビジネスホテルから。自宅は…同じく港区元麻布」
ここまでくれば優秀な一係の刑事たちは自分が何をするべきかもう分かっている。
唐之杜さんは、宜野座さんに言われる前に犯人の住所を暴いて見せた。
「常守監視官、
「はい!」
「俺は縢、六合塚とで元麻布の自宅をあたる。
宜野座さんが捜査指示を出し、皆がそれを了承する。
しかし私は少しだけ違った。
「宜野座さん、水無瀬支援官と交代させてください」
宜野座さんはやや納得いかない顔をしながらも「理由は?」と聞いてくれた。
御堂本人がそこに居るならそれは心理支援官である椋羽ちゃんを行かせた方が何かと便利だと思う。
痕跡を追うのは私の方が得意だし、なにより自宅の方がきっと私の知りたい答えに近いはず。
「知りたいことがあるんです」
「……また抽象的なことを。根拠のない勘で配置を変えろと?」
「行かせてやれ、ギノ」
ここで後押ししてくれたのが狡噛さんだった。
きっと彼も私と同じものが気になっているのかもしれない。
もしそうでなくても、私と狡噛さんが別々に動いた方がそれぞれの追いたいものを追える。
「東雲が何か拾えるってんならリスクより利益が勝つと思うが?」
「……分かった。東雲は俺と来い。水無瀬支援官は常守監視官たちに同行しろ」
「了解」
援護してくれた狡噛さんにアイコンタクトで礼をし、椋羽ちゃんに軽く手を振る。
心配そうな椋羽ちゃんに「大丈夫、無茶はしないよ」と伝えるも、彼女の顔色は変わらなかった。