6 秘密
2112年 11月16日 PM 14:00――
東京都 多摩方面連絡幹線 公安車両内
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今日は事件の通報があったらしく、執行官を伴っての出動となった。
私たちは
被害者は
午前4時丁度、工場内唯一となる有人区画の挙動検査セクションで、テスト中の自動ドローンによって生きたまま体をバラバラに解体された状態で発見された。
問題の工場で死傷者が出るのはこの1年間で3人目であり、明らかな異常性が認められる。
工場には50人余りのデバッカーが常駐しているらしい。しかしこの人数で毎月1000台以上のドローンを評価・検証するとなると、フルタイムシフトが組まれていたと考えられた。
つまり、検査前のドローンに誤作動を誘発するプログラムを仕込むことが出来れば、事故を装った犯行は十分に可能だ。
「……ということは殺人の可能性も?」
「そうだ」
「でも、たった50人しかいない環境なら全員の犯罪係数をチェックすれば」
「事はそう簡単な話じゃなくってな」
少々ため息交じりの宜野座さんに、後ろでやり取りを聞いていた私たちは腕を組む。
実際こういった閉鎖空間での色相は未知数な部分が多くある。それに資料を確認した限り、ここは経済省の管轄だからややこしいしがらみが多くあるのだろう。
「
「うん、問題ないよ。一応手持ちのメンタルキットは数があるし足りなくなったら車まで戻るし」
手荷物を確認する椋羽ちゃんを横目に、私は宜野座さんへ話しかける。
「宜野座さん、全職員のサイコパスを提出してもらい
「そうだな。可能であれば定期診断の詳細値と常設スキャナーによる色相判定も出してもらおう」
「ありがとうございます。助かります」
確かに椋羽ちゃんが自分で許可を貰えば良い話なのだがそれを説明するのも面倒だ。だから無難に「こちらの方がスムーズなので」と返しておいた。
そうこうしているうちに現場である八王子ドローン工場へと到着する。
「愚か者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。君が愚か者でないことを祈ろう」
宜野座さんが車から降りながら常守さんへ言う。
この人からは悲痛な感情がたくさん感じられた。
私から言えることは何もないし、常守さんが口を尖らせているのを知っていても何も出来はしない。
椋羽ちゃんと顔を見合わせ、やれやれと息を吐きだすことしか出来なかった。
「ようこそ刑事さん」
「現場を見せて頂きます」
「もちろん、案内しましょう」
建物から出てきた
第一印象は単純に胡散臭い奴、だったのだが、説明を聞けば聞くほどにこの男に対する印象は下がっていく一方だった。
どうにも利益にしか目が無い男というのは好きになれない。
「実際ここは外と違ってストレスケアの手段が乏しい。ネットに接続できないので娯楽の手段も限られていますし」
「オフラインなんですか?」
「回線そのものが設置されていませんし、この建物自体が電波暗室になっています。なので外部の通信網にアクセスする手段は一切ありません。ハッキング対策としては最も効率の高い保安体制です」
まるでこの建物を自分の手柄かのように話すその姿や、一切やましいことなどありません、とでも言いたげな物言いが妙に気になる。
とはいってもオフラインであるならば外でのやり方が通用しないのも事実。
ちらりと椋羽ちゃんを見るも、彼女が首を横に振るその様子から見るからに、色相が濁っているという気配も無さそうだ。
「死体は既に初動でドローンが処理した後でして…こちらが記録だそうです」
手渡されたメモリーディスクを
見るも無残な状態だ。
生きたまま解剖されたという説明の通り、おびただしい量の血液、分裂した胴体、千切れた足首、切断された顔面と見開かれた目。
殺された塩山さんは、誰かの恨みを買っているという事実も、色相にも問題はないと主任は話す。
だが、事故だというには3人目の被害者は違和感が残る。危険の多い現場といえ、いくらなんでも、だ。
「常守監視官。いったん車に戻ってこいつを本部に転送してくれ」
「…分かりました」
「俺は郷田主任ともう少し話がある。水無瀬支援官、一緒に来てくれるな?」
「はい!」
「
「了解です」
私たちは宜野座さんの指示のもと三方に分かれることになった。
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正直、東雲監視官はよく分からない。
常守監視官に続いて着任という形だと後から聞いたが、支援官なる役職と一緒に、だという。
狡噛が監視官をしていた以前からそのような役職は無かったと記憶している。となるとどちらの為に作られた役職だろうか。
東雲監視官と並んで歩きながら建物内を捜査し、同時に彼女のことも盗み見る。
筋は悪くない。目の付け所も中々だ。
あの現場を見て殺人の線が濃厚だと狡噛に言ってきた時点でひと味違う。若干危ういと
これで色相はクリアカラーというから驚きだ。
「狡噛さん」
「どうした、監視官」
工場内を見て周り、少し風に当たるため屋上へ来た。
そこで東雲監視官は狡噛を真っ直ぐに見据えて告げる。
「
その名を聞いた途端に狡噛の中から抑えきれない感情が溢れ出した。
やり残した事がある。どうあっても始末を付けなくちゃならない役目が。
以前常守監視官にそう言った時のように、3年前のことが鮮明に脳裏を過ぎる。
「どこで、その名を」
「狡噛さんになりました」
「……は?」
馬鹿正直にまっすぐと狡噛を見つめる彼女が、嘘を言っているようにも見えず、深くため息をつく。
一旦頭を切り替えるかと手持ちのタバコを取り出して火をつけた。
少し煙を吐き出していると東雲監視官が懐から電子タバコのような黒い筒状の物を取り出して吸い始めた。
さすがにそれは、と慌てて止める。
「監視官! アンタ、未成年だよな?!」
「これは水蒸気ですよ。ニコチンは入ってません」
「煙を吸って吐くのは落ち着きますから」と続けた監視官に狡噛は更なる溜息をつき、タバコを燻らせた。
「アンタのこと、詳しく聞かせろ」
「いいですよ。代わりに狡噛さんのことも教えてくださいね」
そしてこの時、狡噛は東雲 葉風という人間の〈普通〉を知ることになる。