「なあ、妹ちゃん」
「何? お兄ちゃん」
「何で燃やしちゃったの?」
「木造で、凄く綺麗に燃えそうだったから」
「そっか……うん。まあ、誰もいなくて延焼の危険も少ないところを選んだのは高評価かな」
「じゃあこれからもやっていい?」
「炎見れば満足できるならここまでやらなくていいよね」
「……けち」
「けちで結構」
ぱちぱちと火の粉が飛ぶ。俺の思い出の祖父母の家は、儚く消えゆく。あの家はもう思い出にしか存在できなくなってしまった。
しかし、妹にそんなことは理解できないのだろう。そもそもが義妹、この子があの家で過ごした時間は非常に短い。
「どうすんのこれ」
「綺麗だね」
「……そうだな」
音を立てて屋根が崩れ行く。俺が母に連れられ、何度も遊びにきたこの場所はもう、燃える瓦礫の山になっていた。
祖父母が生きていたらどんな反応をしていたのだろうか。いや、生きていたら妹はまだ我慢していたかもしれない。意味のない仮定だ。
「妹ちゃん」
「何?」
「泣いていい?」
「? どうぞ」
火は少しずつ小さくなっていく。明かりに照らさられる妹の横顔は、その明かりが思い出を燃料にしていることを無視すれば、とても綺麗だった。
滑らかな濡羽色のロングに、凛々しいと言える整った顔。まさしく正統派美少女と言った風だ。まあ放火魔だが。これで生徒会長なのだから、もはや笑えてくる。人は見かけによらない。
「証拠は?」
「カメラもないし、離れてるから、大丈夫」
「そっか」
許すべきではないのは、十分わかっている。それでも、俺は妹の過去を教えてもらった時から、強く言うこともできないでいる。
半端な同情。質の悪い偽善。もし俺を眺めている人がいるなら、いくらでも批判し、嘲笑ってほしい。
「帰るか」
「うん」
俺たちは、火が消えて黒煙が立ち上るのみとなったそこを去ることにした。
◇
朝、ニュースを見ていると、昨日の件がちょうど取り上げられていた。
地元では有名だったし、何らおかしくはない。しかし「漏電の可能性」とは笑える。実際はバリバリ放火だ。妹の優秀さの表れか。
「お兄ちゃん、そろそろ学校」
「わかった……元気だなお前」
「当たり前でしょ?」
「あんだけでかい火見たんだから当然か」
そうは言いつつも、妹は進行形でライターの火をうっとりと眺めて悦に浸っている。本当に満足しているかは怪しいものだ。俺はこいつがライターを眺めるだけで満足できる生き物にしなくてはならないわけだが。
「前途多難だな……」
「何かあった? 相談乗るよ?」
「お前のせいだが??」
「む。むぅ」
そうして支度を終えて、妹と共に玄関へと向かう。扉を開ければ、俺の心とは正反対の晴れ晴れとした空が広がり、心地よい春風が妹の髪を揺らした。