堕落のミハイル   作:サカバンバスピスの煮付け

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はい。
なんかもう、自分ですら呆れてものも言えなくなってる気がするのでこの作品が最後になります
こうやって自由に書かせて下さるhinyari9氏に最大の感謝を。


初めての約束

キュルキュル…カランカラン。

 

鉄板が倒れる音が、廃墟の中で響き、打ち捨てられるように廃墟の外へと流れていく。

 

 

「……これにも動きそうな熱交換機が無いか。参ったな、これじゃ冬頃に凍え死んじまう。」

 

 

廃墟になった住宅の一室で一人、俺は冷蔵庫を解体(バラ)している。

名はミハイル。元六等国民の、若干健康不良な18歳の男児だ。

 

 

「他にパーツは……ん、基盤とモーター…よし、生きてる。室外機は…見ればわかるか。」

 

 

チラリと横目で()を見ると、攻撃によって破壊された部屋の半分が青天井になっている。

罅割れたコンクリートが鉄筋を覗かせて、小石の様に欠片をパラパラと落としながら。

変らない日常になって正直、見慣れてしまったが。

 

 

「…今日はこれぐらいでいいか、うん。」

 

 

一息付こう。

少し足をブラつかせれる場所に座って水筒を取り出し、つかの間の休息を得る。

 

 

「…うは、高い。ここからの眺めはやっぱ、すごいな……はぁ、疲れた。」

 

 

そのまま上半身をコンクリートの上に投げ出して、寝そべる。

怠惰な自分の心を表す様に、空はどんよりとした空模様だ。

 

 

「…秘密警察ぐらい、様子を見に来るかと思ってたけど全然来ないしなぁ。」

 

 

ここが陥落した当初、誰か来るのではないか、という淡い期待をした。

しかし、その希望は易々と絶望に取って代わられた。救助どころか、敵すらやってこなかった。

 

 

「よし。とりあえず今日は終わりだ。さっさと帰ろう。」

 

 

リュックサックに少し散乱した工具をサッと纏め、得たパーツも丁寧に入れる。

そのまま()()()()()()()瓦礫の山を、するすると降り、着地して…後ろを振り向いた。

 

 

「…………」

 

 

そっと、十字を切った。

誰も居やしない、死んだ場所に向かって。

 

 


 

 

そうして家…いや、一種類だけの食料と飲み水のある、スーパーに()()する。

それは周辺の建物より頑丈に作られていたのか、損害は軽微且つ、身を隠すには適度な場所。

 

 

「ただいま…」

 

 

帰って来るわけでもない返事を淡く期待しながら、

ガラス代わりに鉄材の貼られたドアをスライドさせ、スーパーに入る。

 

 

『おかえり』

 

 

耳を澄ませば、聞こえる声。

けれど、この街はもう死んでいて、聞こえてくるわけがない。

だから、()()

 

 

「誰だ!所属を名乗れ!でなければ撃つ!」

 

 

跳ね上がる心臓の鼓動、ホルスターから取り出された銃口。

生者への喜び、そして敵か味方かの緊張。

その全てが不明の中で、声の主にキリキリとした注意を向ける。

 

 

「…落ち着きたまえよ。私は君の国とは敵対しているが、君とは敵対したくない。」

 

「…国?」

 

 

なんだと?何を言ってる?

 

 

「ああ、分かり易く言おう。私は隣国の人間だ。」

 

 

息が一瞬だけ止まり、引き金に指が掛かる。

感覚は妙に落ち着いていて、銃口の震えが止まり、殺意がナイフの様に研ぎ澄まされていく。

 

 

「ふむ…やはりそうなる、か。だが、待ってほしい。私は取引をしに来たんだ。」

 

「無論、君にも実りのある提案が出来ると自負している。まずは手付金だ。あそこを見なさい。」

 

 

指で示された方向に、何かが見える…

 

 

「あれは…熱交換器!しかもカゾルミア規格の…どうやって。

 …い、いや。そんなものはどうでもいい。受け入れるなんて一言も言ってないんだ。」

 

 

釣られそうな欲しかったものに、殺意が一瞬だけグラつく。

しかし欲望を振り切り、目の前の男をアイアンサイトで捉えながら、睨む。

 

 

「嫌でも受けることになるだろう。君はここで、必死に今を生きねばならないのだから。」

 

「明後日から毎日、ここに我が国の機械兵がやってくる。」

 

「さしづめ、偵察型が大半であろう。上層部は、この都市を中継拠点にしたいそうだ。」

 

 

「…なんだと?」

 

 

余りのショックに銃口が下を向く。

 

 

(壊し尽くしたうえで、次は中継拠点にするだと?なんでそんな惨いことを?)

 

 

「私はこれから週一でここに寄る。欲しい武器や物資、機械のパーツ。

 これらは君が働きを出せたなら、出来る限り手配すると約束しよう。どうする?」

 

 

「………………」

 

 

長い沈黙が流れた。

 

 

「…目的は、なんだ。」

 

 

「ふむ……目的、か。

 

 カネだよ。

 

 通貨経済に於いて、カネとは交換用紙だ。沢山持てば、沢山モノが買える。

 そうして沢山持ったカネを元手に、それをより大きくする。共犯者を沢山囲い込んで。

 するとどうだ?皆が挙って、砂糖に群がるアリの様に、握手の右手を差し出してくる。

 私はそこに山吹色の菓子を加えるだけ。そうすれば心は既に落ちたも同然、格好のカモだ。」

 

 

クツクツと汚れた笑みを浮かべて、邪悪であろう()()を、サラリと語った。

 

 

「……汚職官僚、ってやつか。」

 

「ああ。ここと違わず、私達の国も相応に汚れて回っているんだよ。

 潤滑油が無ければ動きすらしない、錆び付き過ぎた国々。それが私たちだ…

 さてお話が過ぎた。これを渡しておこう。君なら恐らく、使いこなせるはずだ。」

 

 

臆することなく男は近づいて来て、SMGを押し付ける様に俺に渡して、出口へと歩いていく。

 

 

「ああ、そうだ。弾薬も手付金として置いておく。レジ裏に置いた木箱の中に入っているから、

 好きなだけ撃ち込んでおくれよ。それではいい結果を待っているよ。()()()()。」

 

カツ、カツ、カツと足音が途絶えた瞬間、ドッと疲労と汗が溢れ出る。

 

 

「はぁ…はぁ…チッ、作業も出来なくなるのか……それと、明後日とか言ってたな。

 店内のレイアウトも変えなきゃいけないのか……これだから戦争なんかくそったれだ。」

 

 

愚痴を吐き捨てて、渡されたSMGを握り、俺は体を引きずるように店内の奥へと戻って行った。

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