日光によって明るくなるバックヤードと、体が動き出そうとする感覚にパチリと目を覚ます。
(朝……か)
そのまま体を起こそうとすれば、体中に電流のような痛みが走る。
「……いっつ!? ……ぐ、昨日の瓦礫の移動だけでこれか。笑えない」
フーッと息を吐いて、なんとか痛みをこらえて起き上がる。
そのままマットレスを壁に退け、缶詰を取り出して朝飯の準備をする。
男がやって来た日から、ようやく一週間が立とうとしている……長かった。
襲撃初日……
襲撃方向が解らず、神経をすり減らしながらスーパー周辺を哨戒した記憶が蘇る。
「……そうして北、スーパー入り口方面から来た……が、たった一体。しかも非武装型……」
だが今考えれば、恐らく男の手引きなのだろう。
”こういうのが、こっちからやってくる”
分かり易くて助かるが。
そんな調子で拍子抜けして、飯を食べて戻ってくれば、機械兵は文鎮になっていた。
恐らく燃料切れだろう。周辺の瓦礫を少し投げてみて、動かないことを確認した後、
好奇心から装甲を剥がしてみた。中身そのものは単純な設計をしていて、驚いた記憶がある。
「見えただけでもコアには脚部動作用の配管と冷却装置。
あと回路。繋がってる自爆装置が見えた時、心臓の脈が飛んだっけか」
そのまま足も見ようとしたが、爆弾にビビったので別の機械兵が来た時用に置いてある。
少し、過去に記憶を飛ばしていれば、いつの間にか朝飯の準備を終えていた。
手を付ける前に、静かに十字を切って神に感謝する。
そして朝食にありつく。
無論、食事と言えば聞こえはいいが、実際は酷いものだ。缶詰の謎ペースト、錠剤、水。
スーパーで買い物をしても手に入るのはこれぐらいなもので、食事と言うには殺風景だ。
……等級が高掛ければ高い程、配給品も高価になった記憶があるが……
「まぁ、過去に強請っても仕方がないな」
ボソボソと食べるのをやめて水で一気に流し込むと、エンジンの駆動音が遠くから聞こえ出す。
ショルダーストラップを付けたSMGを持ち、スーパー入口に空いた敵の弾丸製の覗き窓に
双眼鏡を覗かせる。
「……今日は珍しく朝からの御来場か。まだ見やすいから助かるが……」
双眼鏡から目を離しスーパーを出て、即席で作った堡塁に入る。
そのまま土嚢に備え付けたミニガンの弾帯箱の重量を確認して────―
「ハッ……マジか。昨日あれだけ撃って、まだこれだけ重いのか。全然減る気がしないな」
そのまま横の電源スイッチに手を掛けて、電源を入れる。
電源の表示ランプ点灯を確認してから、ゆっくりとバレルの空転を開始させ始める。
低く唸るような音が、じわじわと高い音へと置き替わっていく。
遠くで土埃を上げる機械兵達は気にした様子もなく、ただこちらに向かって来る。
空転するバレルの甲高い金切り音が準備万端だと告げるのを確認した。
両腕で照準を合わせて────瓦礫の山々を一瞥してから、譫言のような独り言を漏らす。
「これは終わらないんだろうか? お前らが滅べば終るのか?
多分、どっちもだろう。今から変わらないんだろうから。
満たされない欲望の果てに、この国と今の惨状がある。
神だって見捨てた土地があるんだ、ここもそうなのかもしれないな……」
影が見えて、遂に射撃ボタンに指を置いた。
深く息を吸って、吐く。
吸って。
押した。
「
けたたましい轟音を周囲に響き渡らせながら、ミニガンの射撃が開始される。
どれ程までに分厚い装甲を乗せたとて、重機関銃は何回でも撃ち込み続けていく。
ハチの巣になった機械兵が、次々爆散していく。
荒い息と共に、過熱された薬莢がカラカラと音を立てて
硝煙と土の匂いが鼻に付く様になった頃、最後の大一番がやって来る。
「……嘘だろ?」
デカい。とにかくデカい。
今まで相対したどの敵よりも、デカい。
「笑えない兵器を出してきやがった。あの野郎」
睨め付ける様に真正面を捉えたが……何か防壁のようなモノが本体部を守るように回っている。
「……やるだけやってみるか?」
幸いにもヤツの移動速度は遅く、足元の瓦礫に足を取られている様子も見えた。
間に合えと願って堡塁から全速力でスーパーに戻り、文鎮の機械兵を引っ張り出す。
「一か八かだが……」
惜しげもなく劣化している──俺にとっては少し貴重な──ガソリンをタンクに注ぎ込み、
後ろのリコイル・スターターの紐を乱暴に引いて、モーターが始動────―してくれない。
幾度か最大限伸ばす様にして、紐を引く。
だが、動く様子が無い。
「クソッ! 動け! このポンコツが! 動けってんだよ!」
焦りと状況の悪さに腹が立ち、思いっ切りエンジン部を幾度か蹴ってスターターを引く。
そうすると────
黒煙をマフラーから吐き出して、ガタガタと足を動かして、動作し始めた。
「この手に限る!」
トテトテと歩く機械兵を、引きずるようにしてヤツに差し向けてやる。
亀の様な速度でヤツはこちらに向かって来るが、機械兵を認識したのか、コバエを胴体下部から
出撃させた途端──―俺が放った機械兵は消し飛んだ。
「はっ?」
状況が呑み込めず、素っ頓狂な声を上げた俺を狙って、
まるでゴキブリの様に”それ”は地を這いやってくる。
「っ!!!」
ミニガンでは間に合わない。上半身を堡塁の射撃口から乗り出してSMGで弾をばら撒く。
地面で爆散した”それ”らは、地面を抉るほどの衝撃を残していた。
(……地上を這うコバエか。それでもこれだけの威力……待てよ。これなら……イケる、か?)
焦りの中で答えを探る。
舌なめずりをして、覚悟を決めた。
(やるしかない。俺が対抗できるのはこの手段だけだ。)
それまで死なない必要があるが……掛け金に対する利益として、十分過ぎるぐらいだ。
そこから行動は早かった。
SMGを握り締め、堡塁の射撃口を飛び越し、全力で廃墟へと近づいていく。
壊す対象が俺であるかのように、奴は俺以外には目もくれず、コバエたちを発進させる。
廃墟を上る中で、少しでも気を抜けば”爆発に巻き込まれて死ぬ”という恐怖を感じながら、
脳がアドレナリンラッシュを起こした体と心だけは、非常に冴えていた。
「はッ……はッ……!」
しかし、廃墟のすぐ傍でコバエが爆散して飛び散った瓦礫の欠片が、足に注意を向けさせる。
躓いた。
「ぐッ!?」
受け身を取りながら足の痛みに耐え、無理やりにでも走る。
「あと少し……! あと少しなんだ……! 持ってくれよ俺の体!」
焦る心を抑え付けて、ある程度の高さに登ったなら────―
(捉えたっ!!)
勢いそのままに奴の天板めがけて飛び降りた。
だが、その衝撃に足が苦痛を零す。が、痛みを漏らす暇はない。
天板にSMGをただ闇雲に叩き込む。
「終われええええええッ!!」
撃ち込んで。
撃ち込んで。
撃ち込んだ。
だが、SMG程度では貫通も出来ていない。
装甲にかすり傷を付けるのが精いっぱいだと、わかった。
その事実に一瞬気を取られて、天板から振り落とされる。
「ぐっ!!
く、ぐあぅぅっ!!」
(クソっ……足が動かねぇ!)
足の骨が悲鳴を上げて、まともに動けない。少しでも動かせば酷い激痛が走る。
痛みに堪えきれない体が痛みを切り取るように、体の制御を切り離し出す。
(……畜生! ……まだ、まだ終われねぇ!!)
荒い息をこぼしながら、最後のちからでSMGを握ろうとしたが、うでに力が入らない。
いしきが、とおのく。
くそ。
カパリと天板の開く音がして、遂に命運が尽きたと、ようやく察した。
そうして、諦めかけた瞬間────弾丸の鋭い音と共に、奴の背中が爆ぜる。
閃光のような爆発が視界を真っ白に照らす。
そうしてもう一発が、胴体下部に打ち込まれるのが見えて────ヤツは大爆発を起こした。
その衝撃波をもろに受けた俺は、体と共に意識が吹っ飛んだ。
そこから、記憶がない……のだが、今俺は世話を焼かれている…恐らく同年代に。
「動かないでください、傷口が開いては困ります」
目の前の少女は誰だ?あの男が寄越したのか?
それともやっと…いや、それはないな。
上層部はもう腐った納屋だ。誰かが蹴り飛ばしてやるしかない。
「…一人でに考え事をしてるところ、悪いんですが、お名前の参照をしても?」
「はっ?参照?」
「はい。貴方の名前は”ミハイル・アルチョヴィッチ”で間違いない、ですね?」
「…なんで俺の親父の名前を」
その父称を聞いて――――警戒する。
しかし足は折れていて、腕は疲労で上がりすらしない。
顔を動かして、睨むのが精いっぱいだ。
「怖い顔をしないでください、この国の防諜機構が悪いんですよ。一言でいえばガバガバです」
はぁ、とため息をつくように紙に何かを記して、クリップボードを握ったまま彼女は言う。
「私はスヴェトラーナです、ミハイル。あの人―――フョードルからの手紙もあります」
「…スヴェトラーナ、あの男は、フョードル…というのか」
「はい。ああ、確かに名乗り忘れたとも言っていましたね。
それとこちらが手紙。今回はズタボロの貴方に代わって読みましょう。」
拝啓
親愛なるミカエルへ。
ああ、これを読んでいるという事は、君はとある少女と比肩するまでになったのだろう。
この素晴らしき知らせに、なんと言えば良いのか!心と体が躍るようだ。
そこで君に提案なのだが…彼女をぜひ、君の戦列に加えてはくれないだろうか?
無論、その分の追加の物資も出そう。無賃乗車させるような趣味は私にもないからね。
そして非礼を詫びよう。週一で寄ると言ったが、出来そうもなくなってね。
目の前の彼女に言ってくれたまえ。必ず彼女は報告をしてくれるだろう。
こちらでも全機械兵の撃破の確認が取れ次第、君には様々な物資が届く。
そして、それらは明日にでも届くだろう。君の次なる武運を祈っている、ミカエル。
――――――――――――――――――――――――フョードル・アレクサンドロヴィチ
敬具
「以上です。長ったらしくて読みづらいですね、次からは短めにお願いしておきましょう。」
彼女はそのまま手紙を畳み込んで、自分の内ポケットに仕舞い込む。
「さて、ミハイル。置いてくれますか?」
悩む必要はないように思えて、辛うじて動かせそうな右手を必死に持ち上げて、手を差し出した。
「…ああ。よろしく頼む。」
スヴェトラーナが なかまに くわわった!
「…なんだ今の?」
ちょっとした設定になりまぁす!!
ミハイル
使用武器:SMG:Pamela(機動防衛時)/ミニガン(定点防衛時)
略歴
元・???、現・カゾルミア国民※。
ガラクタと機械弄りが趣味だった少年。18歳、170cm。
高校卒業と同時に発生した、大型自爆兵の大量襲撃で自分以外が全員が死亡。
現在はスーパーを塒にしており、最近は溶断とDIYに手を出したいらしい。
容姿
白髪のツンツンヘアーに赤目、使い古された国民服+ジャケット。
スヴェトラーナ
使用武器:スナイパーライフル(非カゾルミア製)
略歴
元・???、現・隣国国民。
物静かに見える、諜報員然とした少女。18歳、163cm。
しかし、ちょっと毒舌でクールなだけで沈黙は辛い。そんな少女。
現在はミハイルのスーパーに居候中で、経過報告を済ませると寝る。
襲撃時にはスナイパーライフルで援護する。(本人曰く「諸々の費用代わり」)
容姿
薄く青のグラーデーションが掛かったポニーテールの黒髪に赤目、新品の国民服+ジャケット。
※カゾルミアの国民データ上で死亡扱いのため、等級は記載されない。