魔法至上世界の銃職人〜魔法が最強の世界で、魔法より強い銃を作って最強の戦士たちに提供したら、最強集団が出来上がってしまった〜 作:水葉わいん
「できた……ようやく、できたぞッ!」
俺は出来上がった物を見て、思わず叫び声を上げた。
真っ黒な鉱石で作られたマスケット銃のような細長い銃身。
引き金付近に埋め込まれた青く輝く魔晶石。
これは
魔銃は名前の通り、魔術の力で銃弾を発射する武器だ。
そして――俺が人生を賭けるほど愛するものでもある。
それはもう……こうして山に篭って魔銃を作り続けるくらいに。
「よしっ、じゃあ、また試し撃ちを――」
俺が銃に弾を込めようとした時、コンコンと家の扉をノックする音が聞こえた。
『――クライン! 今、ちょっといいか!?』
扉の向こうで、焦った様子の男が俺の名前を呼んだ。
聞き覚えのある声だ。
俺は急いで扉を開ける。
「ベルムさん? どうしたんですか?」
扉の向こうにいたのは筋骨隆々の中年男性――ベルムさん。
もしかしてだが――
「またモンスターが村に現れたんですか?」
「あ、ああ、そうなんだよ! クソデケぇ赤い熊のモンスターが村の近くに現れちまってよぉ……頼む、いつもみたいに倒してくれないか?」
ベルムさんは顔の前で手を合わせて懇願した。
俺は村の中では兵士のような立ち位置だ。
現れた強力なモンスターを倒す代わりに食糧や銃の材料を提供してもらっている。
当然、今回も断る理由はない。
いや、無いどころか――
「なるほど――丁度よかった」
「へ? ちょ、丁度いい?」
「ええ、丁度新作の魔銃が完成したんで試し撃ちしたかったんですよっ! 的には試し撃ちしたんですけど、生き物にはまだでして……」
いやぁ、飛んで火に入る夏の虫とは言ったものだ。
図体がデカいなら試し撃ちには丁度いいしな。
一方、ベルムさんは困惑したように苦笑いを浮かべていた。
「で、でもよ……村の連中によると相手は分厚い肉の装甲に包まれてて剣どころか並の精霊魔法ですら効かないらしいんだ」
ベルムさんは言いづらそうに言葉を続ける。
「その……クラインの銃が他の銃より火力があんのは知ってるが……でも、結局、銃だろ? 精霊魔法が効かないなら、銃も……効かねえんじゃねえか……?」
「つまり銃の威力は魔法よりも劣る……ってことですね」
「あ、ああ……悪いがそれは常識みたいなもんじゃねえか。もう銃の時代は終わっちまったんだよ。今は魔法の時代だぜ……?」
「常識……ですか」
豆鉄砲、時代遅れ、過去の産物。
そして――精霊魔法の下位互換。
世間の銃に対するイメージはそんなところだし、俺が今まで作ってきた銃も結局はそうだった。
しかし――今回は違う。
「俺がその常識、塗り替えてみせます。さあ、ベルムさん。案内してください」
「わ、わかった……そこまで言うなら信じるぜ」
ベルムさんは、モンスターがいるらしい場所まで俺を案内した。
すると、そこには村では見慣れない人が三人いた。
彼らは剣や杖など、各々武器を持っており、防具もちゃんとしている。
「冒険者……?」
「ああ、すまねえ。言い忘れてたが、実は村にきた商人の護衛の冒険者たちが協力してくれることになってな……」
「へえ……」
すると、俺に気づいたのか冒険者たちが近づいてきた。
――ニヤニヤと馬鹿にするような笑みを浮かべて。
「おいおい、村からも協力してくれる奴が来るって言われたが……こいつが、その協力者か?」
茶髪の若い剣士の男は、舐め腐った口調で言い放った。
困ったな……。
俺は随分と舐められているようだ。
ここは舐められないように少し強気な態度を示すか。
「ああそうだ。俺が協力者だぞ」
「うっそだろ!? こんなヒョロヒョロで弱そうなガキが何が出来るって言うんだよ……」
剣士の視線は次第に俺が背負っている銃に移る。
「もしかして……魔銃で戦うつもりなのか!? 初級魔法にも劣る豆鉄砲で何が出来るっつうんだよ!」
「ちょ、ちょっと! ルイ! そんなこと言っちゃダメだよ!」
剣士を仲間の魔法使いの女が宥める。
そんな様子を見て――俺の怒りは爆発した。
「……じゃあ、試してみるか? 俺の銃が初級魔法よりも劣るかどうか」
俺は黙って銃を取り出し、銃口を剣士の頭に向ける。
俺のことを馬鹿にされるのはいい。
しかし――銃を馬鹿にされるのは別だ。
銃は俺の人生そのものなのだ。
人生を馬鹿にされて、大人ぶって黙ってることなんて出来なかった。
「っ……お、お前、銃を……それが、どういう意味かわかってんのかッ!」
「なんだよ、銃は初級魔法以下なんだろ? 冒険者様は初級魔法も防げないのか?」
「っ! いいじゃねえか、受けて立ってやるよ!」
剣士は威勢よく返事をし、俺の銃の前に立つ。
耳くらいなら簡単に治癒魔法で治る。
俺は耳に照準を合わせ、容赦なく引き金を引こうとした。
その時――
「――待った」
横から伸びてきた手が、俺を静止した。
「ウチの馬鹿がすまない。どうか、銃を降ろしてくれないか?」
そう言ったのは学者のような見た目をした長身の男だった。
剣士のもう一人の仲間か。
「――なんでだよ! 銃如きにビビってんのか!?」
「銃が劣っているとされるのは射程距離や精度だ。初速はかなり早い。そんな近距離で撃たれたら……確実に怪我するだろう」
怪我……か。
死ぬと言わない辺り、実際には銃をよく知らないんだろうな。
「チッ……覚えてろよ。ヒョロガリ」
剣士は舌打ちし、長身の男は深々と頭を下げた。
「ええっと……じゃ、じゃあ……気を取り直して出発しよっか!」
そうして、気を取り直して俺たちはモンスターを探し始めた。
道中、剣士の男が苛々とした様子で口を開く。
「おいヒョロガリ、今回相手するのは『レッドベアー』っていうCランクのモンスターだ。俺たちBランクパーティの『獅子の牙』がちゃーんと倒してやるから、見てろよ?」
「ああ、頼んだよ」
Bランクパーティは冒険者の中でも上位5%くらいに強い。
この様子だと……俺の出番は無さそうだな。
試し撃ち、したかったなぁ……。
そう思っていると――
「――確かに魔銃は昔、主要な武器だったし、戦争でもモンスター討伐でも皆こぞって使っていたよ」
突然、俺の隣を歩いていた長身の男が話しかけてきた。
「でも……魔銃を使っていたのは人々が魔法をあまり使えなかったからだ」
「なんだ? 嫌味か?」
「いやいや、違うよ。僕はただ単に事実を言っているんだ」
「ああ、そう」
「50年前までは……宮廷魔法使いでも火の玉を飛ばすのがやっとだったらしいね。でも――50年前からは違う」
「知ってる。精霊の発見や精霊理論の発達によって精霊魔法が発明されたんだろ?」
精霊魔法とは人が精霊と契約し、精霊に魔力を渡した対価として精霊が魔法を行使することを言う。
これが発明されたことで――魔法の威力は何百倍にも跳ね上がった。
「精霊は魔法のエキスパートだ。上級精霊と契約した魔法使いの魔法はとんでもないぞ?」
「あー、確か、村を覆い尽くせるくらい巨大な火の玉を飛ばしたり、大地ごと敵を凍らせたりできるんだっけ?」
長身の男は深く頷いた。
「まあ、上級精霊と契約してなくても中級精霊と契約していれば――」
長身の男は、どこからか杖を取り出し――十秒ほどの詠唱をすると、十数本の岩の矢が現れた。
それらは次々と発射されていき――100mほど先にいたゴブリンの群れを蜂の巣にした。
「ほら、こんな感じに100m先の敵に10秒ほどの詠唱で岩の矢を何本も飛ばすことができる」
「やっぱり、嫌味じゃねえか」
「そんなことないが……? てっきり、君は山に篭る余り、精霊魔法というものを知らないのかと思ってな……」
「なわけあるか! 魔法のことはよく知ってるわ! それでも……俺の銃の方が優れてるって言ってるんだ」
「そう……か」
すると、長身の男は可哀想な人を見るような目つきになった。
はぁ……どいつもこいつも銃の真価を理解しちゃいない。
俺は深くため息を溢した。
「――ん? なんだ……あれ……?」
そうして、探索を続けること数分。
小川の近くに巨大な影が見えた。
赤い毛並みに鋭利な爪と獰猛な目つき。
まさしく熊だ。
しかし、おかしい。
こいつ、余りにも――
「デカすぎるだろ……ッ!? 俺の身長の3倍はあるぞ!?」
「ふ、普通のレッドベアーは精々俺たちの身長の1.5倍くらいのはず……。どうなってやがる……」
すると、長身の男が冷や汗を流しながら口を開いた。
「多分だが……特異個体だろうな。特異個体になると討伐推奨ランクが一段階上がる……つまり、あのレッドベアーの討伐推奨ランクはB」
「じゃあ……ギリギリの戦いってことか」
剣士は少し狼狽えるも……覚悟を決めた様子で剣を構えた。
しかし、彼は思い出したように俺を一瞥する。
「おい、ヒョロガリ銃職人。あのデカブツにお前の銃が効くわけねえ。お前は手を出すな」
「……つまり、俺は指咥えて見てろってことか?」
「あったりめえだッ! こいつは俺らだけでやる。行くぞ! みんな!」
剣士に続いて、魔法使いと長身の男はレッドベアーの前に飛び出して行った。
剣士は剣で、魔法使いと長身の男の二人は精霊魔法で苛烈に攻撃を仕掛けていく。
だが――
「クソッ……剣も精霊魔法も全然、効かねえ……!」
苛烈な剣戟、岩の矢、風の刃……そのどれも、皮膚に小さな切り傷をつける程度のダメージしか与えられていなかった。
剣士は仲間二人に対して、叫ぶ。
「もっと威力のある精霊魔法は使えないのか!?」
「できるけど……これ以上やると森が滅茶苦茶になっちゃう……!」
「構わねえ! 火を使わなきゃ何でもいい!」
「わかった……!」
精霊魔法使い二人は、長い時間、詠唱すると――彼らの手の平から、幾百もの氷の針が現れた。
氷の針の先端は、レイピアのように鋭利であり、当たれば一溜りもないだろう。
そんな氷の針が――今、一斉にレッドベアーへ襲いかかった。
「よしっ、これで――!」
剣士は口角を上げる。
対してレッドベアーは口を大きく広げ――
「――グオォォォ!!!」
低く重く……そして、鼓膜が破れるんじゃないかってくらい大きな吠え声が森中に響き渡った。
次の瞬間、『パリンッ』と儚い音がした。
音の方を見てみれば……氷の針が全て粉々に砕け散っていた。
「嘘……だろ」
砕け散った氷の針の残骸を前に、三人は立ち尽くしていた。
「こんなの……Bランクどころの話じゃねえ……! Bプラス……いや、Aランクくらいあってもおかしくねえ……」
「ルイ……! 応援を呼ぼう。こいつは僕たちだけで相手するには手に余る!」
「そう……だな。悔しいが……そうしよう」
三人は背を向けて、俺の方へ走っていく。
通りすがりに剣士は苛立った様子で声をかけてきた。
「――おい! ヒョロガリ! お前も逃げるぞ!」
「……? どうしてだ?」
「はあ? お前の目は節穴か!? 精霊魔法が通用しなかったんだぞ! お前の銃だって効くわけねえだろ!」
「へえ……じゃあ、試してみようか」
「は、はあ!?」
俺はポケットから細長い弾を取り出し、銃の上部から銃弾を一発だけ込める。
「まあ、よーく見てろよ」
俺は金属で出来た簡素な照準器》を覗き込んだ。
息を止め、照準器越しにレッドベアーへ狙いを定める。
レッドベアーは興奮した様子で俺たちを食い殺さんと、駆けてきていた。
けれど……まだ少し、遠い。
外したら、終わりだ。
確実に当たる距離になるまで……俺は冷たい引き金に手をかけて待ち続ける。
レッドベアーが草木をかき分ける音がカウントダウンのように耳朶を揺らす。
そうして、レッドベアーが数m先まで来た時――カウントダウンはゼロを告げた。
「今」
引き金を引いた瞬間、銃口から三つの魔法陣が展開された。
魔法陣は回転しながら一点に収束していき――銃口が一瞬、光る。
刹那――銃弾が飛び出し、レッドベアーの頭を穿ち抜いた。
遅れて『シュパンッ!』と弾けるような音が耳に届く。
弾丸は音よりも早く発射され、レッドベアーの頭に小さな穴を開けたのだ。
そうして……レッドベアーは力尽き、そのまま地面に倒れた。