私立カルデア学園祭 作:チケット当たらない敗北者
キッカケはあなたがサバゲーをやっていることからだった。銃を撃てないような現代日本においての非日常の延長線。どうしても楽しみたかったが殆ど周囲にやっている人がいなかった。
『せっかくなのでサバゲーをやりたい人が集まる店を作ろう』
あなたが店を開いた当時はまだまだサバゲーの先駆者がいなかったのも相まって、あっという間に第一人者として店が大きく膨れ上がった。ブームになったタイミングでも徹底的に転売屋を防ぐ立ち回りを配信して一躍有名になったものだ。
『当店は店長に勝てるもののみ転売を認めております』
そんな言葉がネットミームになってはや五年。今や一日に二十人来るか来ないか程度の、黎明期と変わらない人数になった店。
あなたはいつも通りに自分の銃を手入れし、時折呼ばれたら対応する店主として過ごしていた。そんな普通の日に、彼女はやってきたのだ。
「…つよ゛ぐ…な゛りだい…!」
泣きながら駆け込んできたのは恐らく十歳前後の、本当に小さな子供。サバゲーが十八歳以上が対象のゲームということもあってか、あなたは優しく退店させようと考えた。
「ここは危ないから帰りなさいな」
声をかけられてビクリと背中を震わせる。誰もいない場所だと思われていたのだろう、そもそも人が来ないし来たところで満足そうに銃を買う店だ。
(子供だったら怖がるもんなぁ)
不安で泣きそうになっている茶髪の少年の頭を撫で、弾も何もかも抜いたモデルガンを手渡す。普段から店頭の飾りとして使っている火縄銃だが、子供を安心させるには充分だろう。
「え…?」
混乱している少年を引っ張って普段の作業場所へ連れていく。様々な工具や銃の破片が散らばる未知の世界に連れられた少年の顔は随分と輝いている。泣き止ませる方法がわからなかったあなたは、自分が自信のある行動─仕事を見せればいいと思っていた。
わけのわからない行動をとっている自覚はなかった。
「ここでこうやって手入れするんだ。よく見てて」
彼の視線が集中している中でいつも通りに分解する。ショットガンの内部を隅々まで見えるようにし、煤で黒く汚れてしまった銃身を綺麗に。
最後に戻し終えてリロードの動作。カチャリと予め入れておいた空薬莢が地面へと落ちる。その一連の動作まで見せてからあなたはその少年の顔を見る。
「…強くなりたいって思っても、まずは道具を大切にしないとダメだよ」
「………うん」
恥ずかしくなったのか、落とした空薬莢を拾って手をモジモジとさせる少年。その頭に手を乗せて撫でると、犬のようにへにゃりと安心しきった表情になる。
それがどんな理由なのかをあなたは気づかず、呑気に接客用のものを用意し始めたのだった。
こうしてあなたはその少年と縁ができた。土日の午後や平日の放課後にやってきては銃の質問をしてくる不思議な子供。常連客が面白おかしく銃を持たせたりしても撃つことはせずマジマジと見ているようになっていった。
「マスター、まさかあんな幼い子供を後継にするつもりカネ?いやまぁ、別にオジサンとしては構わないヨ?」
「…なにかあるよね?」
「それはマスターが気づかなきゃダメさ。はい、今月分の納品ダヨ」
隣のバーテンダー兼商品の仕入れ先からそんなことを言われた。普段から少しばかりミステリアスな雰囲気を放つ
「店に卸す以上は不備がないかチェックしないとね…」
「あの小さなお客さんが来てからお店も賑わうようになってきたしネ。…あぁ、やっぱりインサートが抜けてるのがあったあった」
彼が見つけたその銃は実弾が入っており、このままでは確実に銃刀法違反間違いなしの代物だ。廃棄用にモリアーティが用意していた箱へと投げ入れる。
「全く気をつけてほしいものだ。それにもうそろそろカルデア学園の文化祭があるから大変なものサ」
「そんな大変になるものなの?」
他の商品の確認を終えたあなたが尋ねる。ここにかれこれ七年住んでいるが、そんな大切なものとは思わなかった。
「やれやれ。マスターの目にかけているあの子が入学したし、文化祭ともなればキミも誘われることは簡単に予想が尽くサ」
「いくことになるとは思わないんだけどね」
「ハハッ、マスターがチケットを貰うか他の方法で行かされることになると予言してもいい」
彼の笑いを気にすることもなく、銃を箱ごと持つ。無機質な銃身が黒光りしてあなたを逃さないかのように見つめていた。
「ん?マスター、手伝おうか?」
あなたが銃を店頭に並べていると店員としても馴染んだ杉谷がやってきていた。後ろに二人いることを考えると、どうやらクラスメイトの人と一緒に来たようだ。
「こんにちは。跡継ぎにしてほしいねマスター」
「こんにちは、お邪魔しますねマスター。僕はギルガメッシュと言います」
彼女が最初につれてきた蛍と礼儀の正しいギルガメッシュ。普段から来ている二人とは違ってどこか緊張しているギルガメッシュだが、男の子らしく銃に興味津々だ。
「三人ともいらっしゃい。客として来なくてもいいからね」
「そもそも今日はマスターに頼みごとがあって来たんだろ。…ギルガメッシュ、こういう性格で五年くらい隠せるものがあると思うか?」
「…そうだね。変な条件とかはなさそうだ」
ひそひそと二人で相談している。あなたの耳はサバゲーで鍛えられていたせいで聞こえてしまったが、高校生の会話に一々入るほどの無遠慮さは持ち合わせていなかった。
「てことでマスター、頼みがある。手前勝手な話で申し訳ないんだが銃を貸してくれ!」
「いいけど、何に使うの?」
「ほら、断られますって…あれ、いいんですか?」
一も二もなく了承したあなたにギルガメッシュは驚きつつも不安げにこちらを見てくる。何かしら要求がない、というのも確かに不自然だと思うだろう。
(アラフィフから聞いてて覚悟してたからなぁ)
脳裏でそそのかしただろう主犯のウインクが思い浮かびつつ、適当に普通の要望でも入れておこう。そう判断したあなたは来客用の麦茶とお菓子を出して彼らをテーブルに座らせる。
「とりあえず話を聞かせてほしいな」
「あぁ、そういうことですか。杉谷さんが一番気を許している相手だから少し警戒していましたが…これは失礼なことをしてしまいましたね」
「どういうことだぁギル!?」
ぺこりと素直に頭を下げてくるギルガメッシュは迷うことなく席につき、堂々とこちらのことを凝視してくる。無論その程度のことであなたが動じることはない。
「いえ、まぁ望んでいるものはなんですか?こんなところで赤字覚悟のお店を営むマスターの考えることはわかりませんので」
「趣味だからね。銃って憧れるでしょ?」
近くにあった空薬莢を引き寄せ、掌でペン回しの要領でクルクルと回す。自分がここでやっていることなんて道楽と言われればその通りでしかない。
(お金も稼げたし、後はのんびりやっていけたらいいなぁくらいだからなぁ…)
バズったせいで普通に働いた人の優に六倍ほどの生涯年収を稼げてしまったあなたにとって、今は自分の趣味を思う存分満喫している日々なのだ。
「カルデア学園の文化祭を直で見てみたいから」
少なからず面白そうなものではある。わざわざ近場とはいえ辺鄙な店からモデルガンを貸してもらいたいと頼むほどの見世物。子供に近い無邪気さを持つあなたにとっては興味を惹かれるものてあった。
そうあなたが理由を語ると、眼の前の聡明な少年は息をつく。呆れ、ではなく感嘆のほうが強いソレ。
「わかりました。企画と内容をお話しますので、そこから銃を逆算して貸してもらいたいです」
「あ、その銃の選定は俺も手伝うぜ。マスターだけにやらせてたまるかってんだ!」
「…私もやる。雑賀流選定術、見せてあげる」
途端に騒がしくなる店内で殆ど顔馴染みになった子供がこれでもないあれでもないと銃を選んでいる。趣味で続けている身としてはこれ以上もなく嬉しくて、喜ばしいことだ。
「モデルガンなら結局いかなきゃ使えないしね」
「…あぁ、銃火器取り締まり違反ですか。それなら確かに事前に許可を貰えそうです」
言いたいことをすぐに察してくれたのか、彼は茶目っ気のある笑みでこちらへと返す。学園に企画が通ってることが異常だが、そんなことは二の次だろう。
眼の前の少年が出した要望と企画に合わせて自分の在庫とコレクションからどれがいいのかを選定していく。サバゲーのときのようにどの銃を持っていくかの駆け引きがないのは非常に楽だ。
「あっ、ゴーグルとかある…予算的には問題ないし買っちゃおう」
「俺はこの編笠でも買うとするかね。日差しよけにもマスターからもらったものにもちょうどいい」
苦もせず選び出した様々な銃。全てに満遍なく手入れされていることを彼は確認すると、丁寧に一礼してきた。
「できれば、試運転として適当な大人の人で試射してもらいたいんですが…それまでやってもらえますか?」
「任せておいて。とはいっても、そんなに危険なことをするつもりではないよね?」
企画書の中身は大きくわけて三つ。
一つは普通に店側が景品を用意する『射的』。
一つはビリーという少年との早撃ち対決である『ガンマン』。
最後の一つが客同士で戦い続ける『デスサバイバル』。
もちろん彼らがやってきた理由は最後の武器用なのだが…あなたからしてみれば一発で終わるサバゲーと変わらない。ペイント弾やナイフに塗料を塗って戦うといった関係上、怪我や事故は殆どないと思っている。
まさかYAMA育ちのライフルの弾を見て避けるHENTAIがいるわけでもないだろうし。
「ええ。でも一番最初のゴム鉄砲だけは確認しておきたくてですね」
「それならここでやれるけど…」
「なぜならちょっとお父さんが来ちゃってまして。頑固な人なので物理でなんとかしないといけないんですよ☆」
キラッと星が見えるようにウインクしたギルガメッシュの後ろに、いつのまにかファッションスタイルをキメに決めた金髪の人間が立っていた。カリスマ性のある─しかし、人を惹きつけるのではなく燃やし尽くすタイプ。
「そう警戒するな。王が来たからといって対応を変えるのは至極当然の帰結であるが今は好まん」
「といった感じに言ってますけど…?」
モンスターペアレントなんて比じゃない恐ろしさの一端を味わいながらあなたは気丈に営業スマイルを崩さない。自分の店なんて気まぐれにふっ飛ばされてもおかしくないタイプの金持ちにどう対応するか、あなたは考える。
「…一戦、やりませんか?」
「ほう。
嗜虐的な笑みを浮かべているが、心底面白そうな顔をしている。恐らく興味そのものはあるが最初の一歩を躊躇している─長年の経験からそう考えたあなたは、それとなく思考を誘導するように言葉を紡ぐ。
「ええ。店主として客の望むものを出せないなら─」
どんな言葉が相手に刺さるだろうか。挑発の類でも相手が優位に思えるような、そんな言葉はないだろうか。あなたは眼の前の男性が自らのことを王と名乗っていたことにいき当たる。
「─王の民たる資格はない、ということでお付き合い願いたい」
「…よかろう。民の道楽につき合うというのもまた
近場にあった売り物の銃を一目で見渡し、一番出来の良いものを持って戦闘スペースへと歩いていく。慢心しきったその動作でさえなんらかの行動を疑ってしまう─それほどには洗練されている、というべきか。
いずれにせよ勝てないとわかっていながら挑む戦ほど変なものはない。
この後めちゃくちゃ避けたけどなんか当てられた。
そんな一連の騒動もありつつ、あなたは学園祭を杉谷と回ることになった。クソボケであった以上、ここでようやく気づけた、というべきか。
「おはよ、マスター。…似合ってるか?」
眼の前にいる潤んだ瞳で可愛らしく睨んでくる少女の姿。見た目以上に大人びた袴の服装と惚れ惚れするほど磨き上げられた火縄銃は見るたびに心惹かれる。
「…もしかしてわかんない?」
「ううん、そんなことはない」
「ならいいや。速くいかないと色んなとこまわれないからな」
いつにも増して男らしい態度の杉谷にあなたは振り回されながら学園祭を楽しむ。
心の底から笑えそうなこの非日常は、ナニカの火をつけるのには充分な熱を持っているのだった。