極悪な悪役貴族に転生したが、最弱設定の操作魔法を過剰な努力で極めたら作中最強になった~俺を断罪するヒロインを助けたら、全員ヤンデレ化して離れない件~ 作:青空あかな
戦友で旧友のアレキサンダーから久しぶりに連絡がきた。
何かと思ったら、息子の家庭教師の依頼だった。
ギルベルト・フォルムバッハと言えば、有名なゴミ令息だ。
貴族社会に疎い私でも、悪評の数々を知っている。
立場や権力を利用する嫌われ者という印象だ。
まったく気乗りしなかったが、戦友の頼みなので渋々引き受けた。
直接見るギルベルトはムカつく顔だったな。
局部の蹴りがいもない。
これほどやる気のない依頼は初めてだ。
だが、一度仕事を引き受けた以上、私は最後までやり遂げる。
それがゴミ令息の家庭教師でも同じ。
目の前の仕事に全力で取り組むことが、己を一番成長させるのだ。
ギルベルトの目標は、“ルトハイム魔法学園”の首席合格らしい。
王国最高峰である学園への首席合格。
生半可な努力ではとうてい達成できない。
悪評猛々しいギルベルトが、なぜそのような高い目標を抱いているのかはわからない。
その裏には別の目的がありそうな気もするが深読みはせず、私はあいつを鍛えることにした。
とは言ったものの、ギルベルトの魔法系統は操作魔法と聞いたとき、正直無理なのでは、と私は感じた。
あらゆる系統の中でも最弱クラスなのだから。
“小石しか操れない魔法”に何の価値がある。
石など手で投げた方が強い。
せめて火魔法や水魔法など扱いやすい系統であれば、首席合格の可能性は十分にあった。
しかし、嘆いても仕方がない。
今ある手札の中から最善を尽くすのみだ。
アレキサンダーから“経験の森”を使用してよいと言われたので、遠慮なく使わせてもらう。
私も戦友のツテで入ったことがある。
あそこは良い森だ。
いるだけで経験値が貯まるのを感じる。
十四歳の少年には厳しい環境だが、魔法系統と目標を考えると達成できる唯一の方法だ。
まずは基礎的な体力作りから始めて、徐々に魔法系統を開発する。
実際のところ、ギルベルトは基礎段階で修行を辞めるだろうと思っていた。
生半可な内容ではない。
私でも難儀するだろう。
怠惰でめんどくさがりな人間に、やり遂げられるかは甚だ疑問だった。
……ところがどうだ。
ギルベルトは根を上げなかった。
毎日毎日、必死に修行に取り組む。
さすがに死にそうにはなるが、指示した内容をきっちり果たす。
走り込むあいつを見るうちに、徐々に私の評価も変わった。
ギルベルトに操作魔法を使わせた日を、私は忘れないだろう。
あいつは系統レベルが上がり、鉱石が操れるようになったと話した。
信じられるわけもなく、出まかせを言われたのかと思った。
局部の破壊を準備する中、ギルベルトが手をかざすと……大きめの鉱石が宙に浮いたのだ。
あり得ない現象に、私は思わず呆然とした。
今操作しているのは、誰が見ても小石ではない。
――操作魔法で……小石以外も操れるようになった。
まさしく、“世の中の常識”が覆された瞬間だった。
ギルベルトの努力は、常識さえも超えてしまったのだ。
貴様に対する評価は完全に変わった。
私も今まで以上に真剣な思いで指導することを決めた。
後日ネリーから、貴様が自ら破壊した花畑を操作魔法で復活させてくれた、と聞いた。
両親に〈流星花〉を供えることができてよかったと、彼女は大変に喜んでいたぞ。
なかなかやるじゃないか。
ハルミッヒ家では、カレンとギルベルトの確執に立ち会った。
事の詳細は知らなかったが、その場にいたらなんとなくわかった。
当時のカレンはギルベルトを信用できなかったようなので、少しだけ私の評価を伝えてやった。
結果として、仲が修復されたようなので私も安心した。
もちろん、一番大きな要因はギルベルトの努力だろうがな。
この前、ネリーとカレンが修行に参加させてほしいと頼んできた。
なぜかと問うと、なんとギルベルトが目標と伝えられた。
メイドとして、婚約者として、二人はふさわしい人間になりたいそうだ。
とうとうギルベルトは、周りの人間にまで影響を与えるようになったのか。
あいつの成長ぶり、ポテンシャルの高さには驚かされるばかりだ。
昼食のときはだらけきっているが、そこは目をつぶってやる。
今や、局部の蹴りがいもだいぶ改善した。
私も少なからず弟子を取ったことはあるが、その中でもギルベルトが一番筋が良い。
――ギルベルト、私は貴様を“常識破り”と認めてやる。
最弱の操作魔法は、貴様の努力により最強の魔法になりつつある。
貴様は世界の常識を変える素質があるのだ。
これからも頑張れ。
さて、弟子の活躍をもっと見たい自分がいるが、家庭教師の任期は一年だ。
もちろん修行はまだまだ続くものの、ギルベルトたちが学園に入学したら私はお役御免となる。
ギルベルトたちと関わることも減ると予想される。
この依頼を受けたときは、早く任期が終われ、ということばかり考えていた。
不思議なことに、もっとギルベルトの活躍を、成長を見たい自分がいた。
あれほど有望な人材は、今後も直接指導するべきだ。
どうするか、と考えたら一つの案が思い浮かんだ。
――私も……“ルトハイム魔法学園”に復職するか?
誰にも言ったことはないが、私は学園で教鞭をとっていた時期がある。
当然、生徒たちはほとんどが貴族。
貴族の出身で冒険者をやる人間は少ないので、噂になることもなかったようだ。
学園の教員ならば、ギルベルトの成長を間近で観察できる。
ふむ、我ながら良い案だ。
あいつはもちろんのこと、ネリーやカレンの行く末も気になるな。
元極悪貴族がどこまで周りの人間を引き上げるのか、私は興味が惹かれる。
何より……。
――師匠として優秀な弟子の成長を見守りたい。