魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
総統からの勅命でメディウス・ロクス連邦西部にある村〝マノクス〟の森への調査の為に訪れた俺は、マノクスの村で治療を受けていた兵士達と合流した。
『何があった?』
「これは鴉殿、お疲れ様です!実は先遣隊が森を探査していた際に禍憑に襲われまして……」
『襲われた者達との会話は可能か?』
「一人だけ可能です。あとの者達は未だ昏睡状態ですので……」
『了解した。案内を頼む』
「はっ、こちらです」
そうして案内されること診療所奥の部屋……そこには禍憑に襲われたと思われる数人の兵士がベッドの上に横たわり、昏睡状態特有の深い呼吸をしていた。
『彼らは大丈夫か?』
「昏睡状態ではありますが、峠は超えてるそうです。あとは目覚めるのを待つばかりで」
『仲間がこうなってしまい辛かったな』
「ぐっ……そう言って頂けて……」
『構わない。それより会話が可能な兵士は誰だ?』
「グスッ……彼です」
そうして一人だけ苦しそうに唸っている兵士の前に立つと、その兵士は俺に気付き慌てて起き上がろうとした。
それを俺は手で制する。
『無理をしなくて良い。ただ何があったのか話してくれるとありがたい』
「はっ……」
そうして兵士から聞かされたのは、彼らが森の中を探査していた時の事であった。
彼らが探査をしていると、森の奥から一つの人影が現れたそうだ。
声をかけてみたが反応はなく、気付けば襲いかかられていたとの事だった。
あっという間の出来事で銃を構える暇さえなかったとか。
「あれは……たしかに人間でした……間違いありません……ですが……人ではなく……人の姿をした……」
『もしや禍憑人か』
「かと思われます……」
『対話は可能そうだったか?』
「無理かと思われます……我々を見るなり襲いかかって来ました……兵士の一人が必死に話しかけようとしましたが……聞く耳を持たず……その兵士を……」
『なるほど……対話は無理か……』
俺の脳裏に一人の禍憑人の姿が浮かぶ。
愛しい義妹であった禍憑人……今はもう会うことは無い彼女と兵士達を襲った禍憑人が重なるが、俺は頭を振って思考を切り替え、また兵士へと視線を戻す。
『ならば討伐対象になるな』
「今もあの森の中にいるかと思われます。どうしますか?」
『直ぐに向かうとする。一刻も早く討伐しなければこの村が危うい。何故ならば……』
俺は一つの可能性を視野に入れていた。
『禍憑人は禍憑を呼び寄せ使役する』
禍憑人は禍憑にのみ感じ取れる波長を飛ばすことが出来る。
これは最近判明した事で、それにより街が一つ壊滅した事件が起こっていた。
『それに、戦闘を経て対話が可能になる事もあるだろうしな』
そうして俺は診療所を後にし一人森の中へと向かった。
森の中は暗く、まだ昼だと言うのに視界が悪い。
仮面の機能により視界補正は入ってはいるが、裸眼であればまともに進む事も困難だろう。
(通常ならこの状態で奇襲を受ければ一溜りもないな)
そう思っていると前方に人影があるのを確認する。
どうやらアレが例の禍憑人だろう。
禍憑人はこちらに気が付くと、敵対心を剥き出しにして襲いかかってきた。
『聞いてた通り問答無用だな!話し合いをしようとは思わんのか!』
俺は腰に差していた刀を抜き放つと、禍憑人が振り下ろしてきた爪をそれで受け止めた。
『一先ず落ち着け!俺はお前と話がしたいだけだ!』
「そう言って皆俺を殺そうとしてきた!もう騙されるものか!」
(言葉は通じる……会話も出来る……ならば極力討伐はせずに捕縛し話し合いを設けたいものだが……)
俺は禍憑人を蹴り飛ばし距離を取ると、その手に力を込め始める。
『今からお前の動きを封じる為に術を使う……許せよ?』
「うるさい!殺してやる……ゴロジデヤルゾォォォ!」
(いかん!言語が怪しくなり始めた!)
言語が怪しくなるという事は完全に禍憑に堕ちる兆候だ。
もし完全に禍憑に堕ちてしまえばもはや討伐する他無くなってしまう。
『分からず屋が!』
俺は迫ってくる禍憑人にその手を向ける。
『〝
「がっ……!」
俺は身体を痺れさせる程度の電撃を禍憑人に与えると、禍憑人はその場に落下して動かなくなった。
死んだ訳ではない……ただ身体が麻痺して動けなくなっているだけだ。
『先ずはお前を連れてゆく。そこでゆっくり茶でも啜りながら話をしよう』
「嘘だ……そう言って俺を……」
『俺の妹はお前と同じ禍憑人だ』
「……!?」
『だから俺は禍憑人が決して悪い奴らだと思っちゃいない。もしお前を殺せという輩がいたら、お前の目の前で俺はそいつを殴り飛ばしてやろう。どうだ?話をする気になったか?』
「……」
その問いかけに何も答えない禍憑人。
俺はそれを了承と受け取り、彼を抱えて森を出ることにした。
他に禍憑がいる様子はない……まだ彼がそれを出来ると分かっていなかったからかもしれない。
どちらにせよ討伐せずに済んだのは僥倖だった。
そして俺は禍憑人を村へと連れ帰り、宣言通り彼を殺せという輩は彼の目の前で殴り飛ばしてやった。
そうして拘束はせずに話していた通り茶を啜りながら禍憑人と対話をする。
『落ち着いたか?』
「お陰様でな……知らなかったよ。あんたみたいな人もいるんだな」
ここに来てようやく分かったのだが、てっきり男だと思ってた禍憑人は女だった。
あの時は興奮状態により身体を鎧のような外殻で覆っていたから分からなかったが、今は興奮状態が解けたことでその外殻も綺麗に消えている。
その際に素っ裸だったので村の人に頼んで衣服を貰って着せてやった。
『さっきも話してた通り俺の妹が禍憑人だったからな。とは言っても義理の妹になるが……』
「その子は幸せだろうな……あんたが兄で」
『そうであってくれると良いとは思ってるよ。ところでおまえさん、名前はなんて言うんだ?』
「アルカ……アルカ・ベルトラム」
『そんじゃアルカ。お前さん、うちに来る気は無いか?』
「……?」
『俺の妹は禍憑の力を使いこなす為に師匠が引き取って来てな……多分だが今ではそれを使いこなせていると思う。つまりだな、お前さんの努力次第でお前さんは〝討伐されるべき存在〟ではなく、〝頼もしい仲間〟として受け入れて貰える可能性があるという事だ』
「本当に?」
『勿論だ。幸運なのはお前さんが完全に禍憑に堕ちてなかった事だ』
「完全に禍憑に堕ちる……今はそうじゃないってのか?」
『あぁ、現にこうして話が出来ているのが良い証拠だ。もし完全に禍憑に堕ちていたならば、もはや人ではなく獣のような異形に成り果てていた。そうなればもう……討伐する他無くなってしまう』
「ゴクリ……」
俺の話にアルカが唾を飲み込む。
そして次第にその身体が震え始める。
無理もない……もしかしたら自分もそうなっていたかもしれないと思えば、震えてしまうのも当然の事だ。
「でも……」
『……?』
「あんたは良くても、他の奴らがそれを許さないんじゃないのか?もしあんたに着いてったら……俺は殺されてしまうんじゃ……そうでなくても研究材料にされて……」
『おいおい……さっきの事もう忘れっちまったのか?お前さんを殺せと言ったヤツらを俺はどうした?』
「あ……」
『安心しろ。酷い目に遭わせる事はないと約束するよ。そもそも、そんな仕打ちをあの総統閣下が許すはず無いしな』
「そのお偉いさんも、あんたみたいな考えを持ってるのか?」
『勿論だとも。なにせうちの総統閣下は懐がそれはそれは大海のように広いからな。ただ、まぁ……誰に対しても傲岸不遜なのが玉に瑕なんだが』
その言葉に後ろに控えていた兵士達が思わず噴き出す。
「ちょっwww鴉殿……絶対にそれ本人に言っちゃダメですよ?w」
「確かにそうですけどもwww」
「おい嬢ちゃん。鴉殿の言う通り総統閣下は怖そうでいて凄く優しいお人だからな。安心して大丈夫だぜ」
「そうそう、怖い人だけどなwww」
「…………ぷっ────」
笑いながらそう声をかけてくる兵士達にアルカはポカンとした表情を浮かべていたが、次第にその表情が崩れ、涙を浮かべながら噴き出す。
そうして俺は笑い合うアルカと兵士達を背に外へと出ると、直通で総統へと電話をかける。
『直通での連絡とは珍しいな?何があった?』
『任務先で禍憑人一人を保護した。訓練を受けさせ、その力を使いこなせるようにしてやりたい。頼めるか?』
『禍憑人を保護したのか、それはお手柄だな。分かったそうなるよう手配はしておこう。その前に検査を受けさせねばなるまいな。いったいどのような力が使えるのか分からねば訓練を受けさせようがない』
『一応戦闘をした際には身体を鎧のような外殻で覆っていた』
『む?戦闘に入ったのか?』
『かなり興奮状態だったのと、多分だがこれ迄にそうとう酷い迫害を受けていたようだ。兵士達も襲われたんだが、問答無用で襲いかかってきた。多分、殺されると思っての行動だろう。今はかなり落ち着いている状態だ』
『分かった。一先ずその禍憑人を連れ帰り次第我の前に案内しろ。我も自ら話がしたい』
『了解した。準備が整い次第直ぐに帰還する』
『分かった。おっと……その前に帰還する際は直接我の執務室に来い。お主なら出来るだろう?』
『容易い』
そうして通話を終えた俺はまた中へと戻り、これからの経緯をアルカへと伝える。
もうすっかりリラックスをしたアルカは素直にそれを聞き入れ、俺は瞬間移動でアルカと共に総統の執務室へと向かうのであった。