魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
「……以上にて説明を終えたいと思います」
長い説明が終わり、ダリルさんはパソコンを閉じて部屋の電気を着けた。
彼から受けた禍憑の説明……その中でも最も危険とされる〝巨獣〟────
それによる被害は通常の禍憑とは比べ物にならない程甚大で、これ迄に何人もの討伐師達がその犠牲になったらしい。
「ちなみにですが巨獣による最大の損失は鴉殿の師を失った事ですね」
「鴉さんのお師匠さんですか?」
「ええ、彼女は総統閣下の学生時代の友人で、鴉殿が現れるまでは彼女が世界最高の討伐師でした。だからこそ彼女が亡くなったとの報せを受けた際は、かなりショックを受けたのを今でも覚えております」
ダリルさんはそう話すと再びパソコンを操作し始め、そしてスクリーンにある画像を映した。
それは履歴書のようなもので、そこには〝ヴァローナ・コルニクス〟という名と、その人物と思われる顔写真が添付されていた。
「ヴァローナ・コルニクス……〝夜闇の聖女〟とも呼ばれていた方で、広範囲に渡る法術を得意としていた特級討伐師です。また攻撃法術だけでなく治癒法術にも長けており、正に聖女の名に相応しき人物でもありました」
「何故そんな方がお亡くなりに……」
「弟子である鴉殿を庇ったからだと総統閣下からそう伺っております。あの日、総統閣下も自ら出陣されており、その時のことをその目で見ておりましたから」
そうして次に映し出されたのはその巨獣と思わしき画像。
「〝進撃の巨犀リノ・ギガス〟……後にそう名付けられたこの巨獣は最初の目撃情報より更に巨大にそうして強大になっており、他の禍憑を捕食した際に得たと思われる鋼鉄製の外殻を有しておりました。その歩みで地を揺らし、その突進は時速180kmにも至るとされる程でして、その突進を受けた討伐師は例外なく四肢がバラバラになりました」
「その巨獣は討伐されたのですか?」
「ええ勿論。鴉殿によって灰も残さずに燃え尽きました」
そうして最後に映し出されたのは上半身だけになったヴァローナさんを抱き抱え慟哭する少年の姿。
「この討伐の任務で我々は……いえ、鴉殿は敬愛する師であるヴァローナ殿を失い、それが起因してたった二年で特級討伐師へと上り詰めました。それまでの彼が送った日々は正に過酷で、一日たりとも休む間もなく任務を遂行し続けておりました」
「休む間もなくですか?それは労働環境としては些か問題があると思いますが?」
「私もそう思い総統閣下に提言しましたが、〝黙っていろ〟とだけ言われてしまい、鴉殿からも〝気にするな〟と言われてしまいました」
「どうしてそこまで……」
「悔しかったのでしょうね。あの時、もし今よりも力があったならば、師を失わずに済んだのだと……彼は今でもそう思っているのでしょう。自責の念と言うやつです」
この場の雰囲気が重く暗いものとなる。
ダリルさんもしまったと思ったのか、その場の空気を変えるかのように手を叩いて話題を変えた。
「さて、話もそこそこに次はこの施設を案内することにしましょうか?休憩室の場所はお分かりになったかと思いますが、他にどのような施設があるかまだ分からないでしょうしね」
「そうですね」
そうして小会議室を後にし施設案内へと繰り出した私達だったけど、なのはは暫く無言だった。
多分、鴉さんの過去に感情移入しちゃってるんだろうな……。
私だってそう……鴉さんの話を聞いて、思わず今は亡きお母さんとお姉ちゃんの事を思い出しちゃってたから。
あの時もっと私に力があったらお母さんを止められてたかもしれない。
(和解して、お姉ちゃんを目覚めさせて、それで三人で────)
よそう……今となっては叶わない夢なのだから。
そうしてダリルさんの説明を受けながら施設を見て回っていると、通路でガラスに向かって佇んでいる鴉さんと出くわした。
「おや、いつの間にお帰りになられていたのですか?」
『ん?あぁ、つい先程だ』
そう話す鴉さんは私達を見るとその様子に疑問符を浮かべた。
『元気が無いようだが……何かあったのか?』
「すみません。実はつい鴉殿の過去について話をしてしまいまして……」
『もしかして師匠が亡くなった時のことか?勘弁して欲しいなダリル殿。そう軽々しく人の過去を話すもんじゃあ無い』
「すみません……」
『それと、そっちの二人について、お前さん達が気に病むことじゃ無い。確かに師匠を失ったのは辛い……だが、それは俺だけが抱えるものであってお前さん達が抱える事では無いのでな。せっかくの可愛らしい顔なんだ、そう悲しそうな顔よりも元気な顔の方がうんと似合っている』
「「か、かわ……////」」
凄いな……よくそんな歯が浮くような台詞を簡単に口に出来るものだ。
思わずなのはと声を揃えてしまった。
自分では見れないけれど、多分かなり赤面してると思う。
でもそのお陰でちょっと心が軽くなったかな?
「ところで鴉さんはここで何をしてるんです?いったい何を見てらっしゃるのですか?」
『ん?実は先程一人の禍憑人を保護してね……今検査を受けているからこうして見守ってるだけだ』
「マガツキビト?」
『おいおいダリル殿……その辺の説明はしてなかったのか?』
聞きなれない言葉に思わず首を傾げていると、鴉さんは呆れ声でダリルさんにそう言っていた。
「そう言えばその辺失念しておりました。お二人とも、禍憑人というのは何かしらの要因により禍憑の力をその身に宿した者達の事を指すのですよ」
「禍憑の力をですか?」
『禍憑人は聞く限りでは危険なものだと思われるだろう……しかしまだその状態では必ずしも危険というわけでは無い。対話は出来るしコミュニケーションを取ることも可能だ。危険なのは禍憑人から完全に禍憑に堕ちた時だけだ』
「禍憑人から禍憑に……」
『完全に禍憑に堕ちてしまえばもう対話なんて出来ない。だからそうなる前にこうして保護する事を優先しているんだ』
「今の組織の方針で禍憑人と遭遇した際は極力その保護に努めるようにしております。もし保護し、その力を完全にものに出来れば頼もしい戦力になりますし、同時にある危険性を防ぐことにも繋がります」
「ある危険性とは?」
『禍憑人は他の禍憑を呼び寄せる』
「「────!?」」
鴉さんの言葉に思わず目を見開く私となのは。
「近年の調べで分かった事ではありますが、禍憑人は禍憑だけが受け取れる波長を放つ事が出来るらしく、それにより……まぁこれは小説などで使われていた表現を用いたものですが〝
『とは言ってもそうなるのは完全に禍憑に堕ちてからだ。禍憑人の状態では呼び寄せれたとしても極小数……禍憑氾濫とまでは行かない。それでも危険であることには変わりないがな』
「なので禍憑人を保護する事は要らぬ殺生を抑え、同時に禍憑氾濫のリスクを防ぐ事になるのですよ」
『禍憑人といえど俺達と同じ人間だ。ただ禍憑人ってだけで迫害を受ける人達が大半だ。同じ人間としてそれは到底受け入れられる事じゃあ無い』
そう話す鴉さんから怒りの感情が滲み出ていた。
何か禍憑人に関する事で、彼の琴線に触れるような事があったのだろうか?
「彼の妹……まぁ義理ではありますが、その方もまた禍憑人なのですよ。そしてその方は住んでいた屋敷で酷い扱いを受けていたようでしてね。それを知った時の鴉さんはかなり怒りを露わにしていたそうですよ」
『ダリル殿?』
「おっと……これはまた口を滑らせてしまいました」
鴉さんに睨まれたダリルさんだが、どうにも何処吹く風のようだった。
それを知ってか鴉さんもまた滲み出ていた怒りを引っ込めて呆れた様子でため息を溢していた。
『まぁダリル殿の話していた通り妹もまた禍憑人だった。師匠に引き取られるまで住んでいた屋敷で、そこで働いていた一部の使用人達から暴力を振るわれていたそうでな。偶然背中に火傷の痕があるのを見た時、本気でそいつらを殺してやろうかと思ったくらいだ。まぁ結局のところ地味な祟りをかけただけに留めたけどな』
「それについては聞いておりましたが、地味だなどと生易しいものではなかったと思いますが?どう考えてもエグいてしょう?常にフン塗れの上にビショ濡れになる祟りだなんて」
「えぇ……」
『当然の報いってやつだ。逆に命に別状は無いレベルで済んだことを感謝して欲しいくらいだ』
意外にも鴉さんは怒らせたら駄目な人だと思った。
そしてそんな彼に祟られたその人達についてはご愁傷さまと思う他ない。
『ともかく、禍憑は討伐。禍憑人は保護。これがうちの方針だと覚えておいてくれ』
「分かりました。もし禍憑人と出くわしたら、極力対話の方向で進めたいと思います」
『頼む。とは言え、そう滅多に遭遇するものでもないがな』
「……と言うと?」
「禍憑人が現れる確率はかなり低いのですよ。なにせ最初の禍憑人が確認されるまで、人間は禍憑にはならないと思われていたくらいですから」
「そうなんですね。それはちょっと安心かな?だってそんな悲しい目に遭う人は少ない方が良いですもんね」
『そうだな。そして早く禍憑人が現れるメカニズムってやつが解明される事を強く願っているよ。もし原因が分かれば対処し易いからな』
「そうですね……それについては研究員に頑張って貰う他無さそうですがね」
そんな会話をしていると検査室のドアが開いてそこから一人の女性が姿を現した。
『お疲れさん』
「ありがとう……ございます。えと……その人達は?」
『こちらはダリル・エドウィン殿。ここの総統補佐で今はこの二人のサポート役をしている方だ。そしてこの二人は外から俺達の協力をしてくれる事になった高町なのは殿とフェイト・テスタロッサ・ハラオウン殿だ。三人共、こちらはアルカ・ベルトラム。任務先で保護した禍憑人だ』
「ご紹介に預かりましたダリル・エドウィンです。これから宜しくお願いします」
「国連災害対策本部危険生物調査機関EXCEEDS所属の高町なのはです」
「同じくフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。ここへは禍憑に関する調査の為に、そして彼らの協力のために来ました」
「あ、えと……アルカ・ベルトラムです。ここに保護されて教育を受けることになりました。皆さん宜しくお願いします」
アルカさんはそう挨拶をすると鴉さんへと話しかける。
「あの、鴉さん……検査の人から教育を受けて下さいって言われたんですけど……」
『そうか、なら俺が教育室まで案内しよう。という事で三人共、俺達はここで失礼する』
「はい、彼女の事を宜しくお願いします」
「またゆっくりお話しましょう!」
「その時はアルカさんもご一緒に」
「あ、はい。楽しみにしてる」
そうして鴉さんはアルカさんを連れて私達の前から去って行った。
そして残った私達もまた施設案内を再開するのであった。
次はいよいよあの子の登場です