魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
「だから言っておるだろう!お主が共に参加する事で、宣伝的な効果が大きく変わってくるのだと!」
『こっちこそ言ってんだろーが!俺ァ騒がしいのは苦手なんだって!』
合同庁舎、最上階の総統執務室にて、現在リサンデラ総統閣下と鴉さんが激しく言い争っていた。
この私、八神はやてが何故このようなギスギスとした空間に同席しているのかと言えば、この世界に来てちょっとしたトラブルもありつつ無事にメディウス・ロクス連邦の合同庁舎に到着してからの事やった。
あれからこれからについて何度か協議を重ねてきた私と総統閣下やったけど、今回何度目かの協議を行ってる最中に任務を終えた鴉さんがその報告をしに総統閣下の元へと訪れてきた。
その際に総統閣下が件の講演会についての話を切り出してからが事の次第の始まりやっちゅーわけや。
絶対に講演会に参加させたい総統閣下と、絶対に参加したくはない鴉さんの意見は当然、完全に正反対なわけで、だからその意見がぶつかったら必然的にこないな事になるわけで。
結果こうして協議そっちのけで二人は絶賛言い争ってるわけや。
「あの〜……お二人とも。そろそろその辺で話を終えてもろうても……」
「『あぁ?』」
「ナンデモアリマセン」
仲裁を試みてみたが、二人に睨まれたので思わず小声&早口で口を噤んでしもうた……。
「八神総督……流石に今のお二人を仲裁だなんて無謀も良い所ですよ?」
リインにまでそう言われてしまう始末……。
「ほな、お話が終わったら呼んでください……」
そう言ってリインを連れて執務室を後にする。
ちなみにエレベーターのドアが閉まりきる直前で中から〝ガーッ!〟という声が聞こえてきたけど……あの声からして総統閣下の限界が突破してもうたみたいやな。
「いや〜まさか……講演会を巡ってあんな激しい口論が始まるとは思わへんかったな」
「そうですねぇ……あの時の私達、完全に空気でしたね」
「もしあのままめげずに仲裁に入ろうとしてたら、お漏らししてまう目に遭ってたかもしれへんわ」
「はしたないですよ……と言いたい所ですが、確かにそうなってたかもしれませんね」
「あれはどっちかが折れるまで終わらへんやろな」
「ですねぇ……」
そんな話をしていると、エレベーターは一階へと到着し、私らは開かれたドアからエレベーターを降りる。
すると目の前には任務帰りやろか、なのはちゃんとフェイトちゃんの二人が入れ違いにエレベーターを乗ろうとしていた。
「もしかして総統閣下へ報告しに行くんか?」
「そだよ〜。はやてちゃ……八神総督は協議を終えたところですか?」
「いや……協議……協議、なぁ……」
「……?まぁ終わったのなら今から報告しに行っても大丈夫そうですね」
「あ〜いや……今は行かへん方がええと思うな〜」
「どうしてです?」
「今、総統閣下はちょ〜っと立て込んでてな?」
「そうなんですか?まぁでも報告しに行くだけですから大丈夫ですよ、きっと」
そうしてなのはちゃんは私の制止も聞かずにフェイトちゃんを連れてサッとエレベーターに乗り込んでしまった。
「あっ!なのはちゃん、今はホンマにアカンからやめとき?怖い目に遭うで!」
「大丈夫、大丈夫♪︎それじゃあ八神総督、また後で♪︎」
無情にも閉まるエレベーターのドア……そして私とリインは昇って行くエレベーターを見ながら、中にいるであろうなのはちゃんとフェイトちゃんにこれから遭うであろう悲劇を思いながら手を合わせるのだった。
「さてと……行ってしまったものは仕方あらへんしな。時間も丁度お昼時やし、庁舎内にある食堂でお昼にしよか?」
「ある意味薄情ですよね……本気で止める気無かったですよね?」
「そう?おっかしいなー、私は本気で止めてたつもりやったのになー」
「もし本気で止めるつもりなら、どうして行っちゃならないか理由をちゃんと説明してるはずですよね?もしかして……怖い目に遭う二人の反応が楽しみでわざと教えませんでしたね?」
「ソンナコトアラヘンヨー」
「声に感情が籠って無さ過ぎてカタコトの外国語みたいになってますよ?」
「キノセイヤー」
ジト目を向けてくるリインを他所に私は食堂へと向かう。
まだ早めの時間帯だったからか、食堂は意外にも空いており、私はテーブルに着いて置かれていたメニュー表を開く。
「見てみリイン、まるでレストランみたいな料理の数々やで?」
「本当ですね。とても食堂だとは思えません」
メニュー表にはレストランに出されていそうな料理名が並んでおり、それだけでなく別のページにはラーメンやカツ丼といった大衆食堂ではお馴染みのメニューも充実していた。
もしかしてやけど、ここの組織って意外と予算が多いんかな?
「こちらお冷になります。ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンを押して下さい」
メニュー表を見ながら何を食べよか悩んでいると、いつの間にか来ていたスタッフさんが二人分の水を置いてそう伝えてきた。
ホンマにお店みたいな食堂やね。
「ここの食堂ってレストランみたいなんやね?」
「あ、もしかして外から来た協力者の方達ですか?そうなんです!なんでも総統閣下曰く〝食は隊員達の栄養源であると同時に心を豊かにするものである!よって食を提供する場すら、我は妥協を許さん〟と言ってかなりの予算を注ぎ込んで下さったんですよ!お陰様でメニューが充実していて、隊員さんや職員さん達から好評なんです!」
「そう言えば食券販売機とかあらへんかったけど、お金は取ってへんのか?」
「はい!隊員さんや職員さん達は無料です!これも総統閣下曰くですが、〝何故隊員達の腹と心を満たす場で、わざわざ金を取らねばならん?定期的に予算は組んでおるし、食堂のスタッフへの給料も支払っておるから隊員や職員達には無料で食を提供せよ!〟との事でして」
「ホンマに凄いお人やな、総統閣下は」
「はい!皆さんの憧れの、そして尊敬するリーダーです!」
「そかそか。ところで注文ええかな?」
「はい、なんでしょう」
「私はこのハヤシソースのオムライスと、旬の野菜サラダで。リインは?」
「私は……シーフードパスタのポタージュスープセットで」
「かしこまりました。それではお待ち下さいませ」
スタッフさんは一礼したあと、パタパタと厨房の方へと戻って行った。
「おや、主はやてもご昼食でしたか」
「おーシグナム達もか?丁度いいから一緒に食べよかー」
「はい、是非」
シグナム達は兵士さん達の訓練場に足を運んでいた。
部隊行動というか、いったいどないな感じで兵士さん達は禍憑相手に戦うのか興味があったらしい。
とはいえ総統閣下の話では兵士のほぼ全員が法術を使えない人達らしく、禍憑討伐の際は討伐師達のサポートや周囲の避難者の護衛、そして偵察が主な役割らしいんよな。
そう言えば鴉さんも言うとったけど、兵士さん達はそれこそ目立ってはいないけど、それでも居てくれるとありがたい存在なのだそうや。
何事も適材適所……私らも見習っていかんとアカンな。
「それにしても鴉……と言いましたか。彼は凄いですね」
「シグナムが素直に他の人褒めるなんて珍しい事もあるもんやね?」
「いえ……連日任務に出ては疲労すら感じさせずに平然とした様子で帰還し、そしてまた任務へと立つ。流石の私でも到底真似出来ませんね」
「知ってっか?鴉って他から〝不死身〟って言われてるらしーぜ?」
「不死身……」
「なんでもどんな死地からも無傷で生還するそうで、いつしかそう呼ばれるようになったと兵士の方々がそう言ってました」
「俺も一目見ただけだが、相当な鍛錬を積んできたのだと分かるほどだったな」
「そうなんか……あ〜……やっぱうちに欲しいなぁ」
「あら?それなら今からでも交渉してみます?」
「やめとくわ。あの総統閣下を敵に回したくはないしなぁ」
「そうですねぇ。先程は鴉さんと口論になってましたけれど、それでも鴉さんの事を一番に信頼してるのが分かりますし」
「あー言うの〝怪物〟って言うんだろーな」
ヴィータがそう口にした時だった。
隣から笑い声が聞こえ、そちらに顔を向けてみるとそこには数人の兵士さん達の姿があった。
その内の一人がこちらへと来ると、先程笑ったことについて謝ってきた。
「いやぁ申し訳ない。鴉殿が怪物だと聞いてしまい思わず笑ってしまいました」
「なんだよ。何かおかしーのか?」
「いえいえ、鴉殿は傍から見れば怪物だと思われるでしょうが、彼もまたちゃんとした人間ですよ。何せ彼がまだ16歳の頃なんて、毎日フラフラになりながらも任務へと向かっておりましたか」
「フラフラな状態で?」
「ええ、それを見たダリル殿が総統閣下に鴉殿の勤務状況について提言なさったのですが、全く聞き入れて貰えず、それどころか鴉殿からも叱責を受けるくらいでして」
「鴉さん自ら拒否したんですか?いったいどうして?」
「詳しいことは我々には分かりませんが、それでもそうせねばならない程の理由があったのだと思います。結果たったの2年で特級討伐師へ昇格……それでも鴉殿は連日のように任務へ向かい続けております。だからですよ、我々も負けてはいられないと奮起するようになったのは」
「とはいえ無理な労働はしないように心掛けてはいますけどね」
「誰しもが納得するほどの実力を身につけるために努力を惜しまず、しかしてそれをひけらかす事も無く、そして誰よりも禍憑と向き合った……だからこそ鴉殿は我々から尊敬の念を向けられているのですよ」
「唯一彼だけですよ。総統閣下に面と向かって文句のひとつ言うことを許されてるのは。それ程までの実力と実績があるという証明ですね」
「そしてこれがまたとんだ人たらしなんだよな」
「そうそう。あの人と話してるとどうにも応援したくなってくるというか……ファン倶楽部が出来るのも当然というか」
「囲まれてキャーキャー言われるのが苦手なお人ですけど、それでもサインを頼まれたら断らないんですよね」
「知ってるか?メディウス・ロクスの介護施設では入所してる爺さん婆さんが鴉殿が映るニュースを見ては興奮してるそうだぞ?」
「俺の嫁さんがそこで働いてんだけど、まるでスポーツ観戦してるみたいだったって言ってたっけなぁ」
「正に現代の英雄だよな」
いつの間にか兵士さん同士で鴉さんの話題で盛り上がり始めていた。
それを横で聞いていた私達はすっかり感心してしまう。
注文していた料理を食べながらも兵士さん達と話をしとると、不意にそのうちの一人である〝ジョージ〟さんがこないな事を言ってきた。
「あ、そういえばだが、もし総統閣下に頼み事があるなら直接お願いしに行くよりも鴉殿を経由した方が通りやすいぜ?」
たった数分である程度打ち解けてきた兵士さん達とはこないなふうに気さくに話すようになっていた。
というのも私自身、彼らより歳下なので、どうにも歳上の人達から畏まられると居心地悪いんよね。
「どうしてです?」
「さっきも話してた通り、鴉殿は総統閣下から誰よりも信頼されているからな。前に俺が〝家族が増えて何かと物入りだから今よりも頑張らなきゃな〜〟なんて話してたら、それを聞いてたのか総統閣下に直談判してくれたみたいでさ。その月の給料に〝育児手当〟だなんて特別手当が追加されてたよ」
「俺ら、〝子供産まれたんで給料増やして下さい〟なんてとてもじゃねーが言えーもんな」
「つーかお前のとこ、四人目だっけ?頑張るねぇお前も」
「なんつーかさ……子供の顔見てると頑張れるんだよ。〝この子達の為に〟って」
「あ〜、何だか分かるような気がします。守るものが増えると不思議と力が湧いてきますよね」
「そうなんだよ〜。でも総督さんの方が凄いよな。何せその若さでもう組織のトップやってんだから」
「あ、あはは……まだまだ未熟な所がありますけども」
こんな真っ直ぐと褒められるとむず痒くなってまうな。
兵士さん達の言葉には裏表が無いからやろか?
「だから総統閣下よりも鴉殿にお願いした方が通りやすいのさ。あ、ちなみにここだけの話だからな?間違っても総統閣下の耳に入らないよう気をつけてくれよ?」
なんと言うか……兵士さん達は総統閣下を心から恐れている訳ではなくて、怖い人だと思いつつも頼れるトップといった印象を持ってる感じやな。
流石にあないな厳しさを私は持てへんやろうけど、それでも頼れるトップになりたいとは思う。
そんな話をしていると、一人の大柄な壮年の男性が現れ、兵士さん達に向けて怒鳴り始めた。
「貴様らァ!午後からは偵察任務があるので早めに、そして少し長めに昼休憩を与えてやったというのに、こんな所で油を売ってるなら昼休憩を減らしてやろうか?!」
「げっ……ダン曹長!」
「やっべ……おいお前ら、急いで食って戻ろうぜ!」
兵士さん達はそう言うなり食事をかき込んでさっさとその場から去っていってしまった。
それを見ていた男性は呆れ顔でため息を溢すと、こちらを向いて深く頭を下げる。
「部下達が申し訳ありませんな。まったく……どれ程若くとも立派な組織の長だというのに、あのように馴れ馴れしく接するなど……軍の人間としてなってはおらんな」
「いえ、私が畏まられるのが苦手だっただけですから……」
「ふむ……たとえそうであって軍は縦社会。あのようでは規律が乱れてしまいますからな。それよりも挨拶が遅れてしまいましたな、私は彼らのリーダーをしております、陸上偵察部隊の部隊長の〝ガイウス・ダン〟と申す者です。階級は曹長です」
「EXCEEDSの総督、八神はやてです。こちらは私の部下である八神リイン事務総長、そして────」
「そちらはシグナム殿、ヴィータ殿、シャマル殿、そしてザフィーラ殿ですな?」
「ご存知でしたか」
「シグナム殿、ヴィータ殿、ザフィーラ殿は午前中我が部隊の訓練をご見学なさっておりましたから。シャマル殿に関しては救護員や衛生兵の方をご見学なさっていたと聞き及んでおります」
「総督、ダン曹長は偵察部隊の訓練を見学なさってた際に私達に色々と解説をして下さっていたのです」
「シグナム殿からもそちらの任務でのご活躍を聞かせて頂いておりましてな。いやぁ有意義な時間でした。あ、隣失礼しても?」
「どうぞどうぞ」
私が快く受け入れるとダン曹長は自身が注文した料理を手に私の隣へと座る。
その料理を見て私は思わず呟く。
「お蕎麦……」
失礼やったかと思うたけど、ダン曹長は気にする様子もなく薬味を蕎麦つゆへと入れる。
「鴉殿が食べていらしたのをお見かけしましてな。その時に勧められたので試しに食べてみたら殊の外これが美味くて……気付けばハマってしまいました」
「鴉さんってこちらの方では無かったんですね?」
「元は東珱大陸の更に東側にある小さな島国の出身だったらしくて、ご両親の仕事の関係でこちらにいらしたのだと……しかしご両親は禍憑被害で亡くなりましてね、その後師匠に当たる方に拾われ育てられたのだと話しておりました」
ダン曹長はそう話すと〝一口どうです?〟と蕎麦を差し出す。
「先ずはソバツユに付けずに蕎麦本来の味を楽しむのが通というやつだと鴉殿が言ってましたな」
そう言われて試しに一本食べてみると、確かに蕎麦本来のほのかま甘みが口に広がる。
「コシもしっかりしてて美味しいですね!」
「そうでしょう。なにせ実際にソバ職人さんによる手打ちだそうですからな。こうした本場のソバを食べられるのも、ある意味ここで働く者の特権ですな」
そう言って快活に笑うダン曹長は自身も蕎麦をひと房箸で挟んで食べる。
「箸の使い方お上手ですね」
「長年食べていたのでね。上手くなりました」
「私が住んどった世界ではネギを箸がわりにして、それを齧りながら食べるお蕎麦もあるんですよ?」
「そうなんですか?それは是非とも食べてみたいものですなぁ」
目を輝かせながらそう話すダン曹長……とてもではないが年々禍憑による被害が増加している世界だとは思えない程、平穏な時間やった。
こうして楽しく会話が弾む時間は過ぎてゆく……。