魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
俺は我武者羅に刀を振る。
用意された的に何度も何度も刀を振り下ろし、バラバラとなり打ち込む場所が無くなったら新たな的へと刀を振るう。
たった一人、ひたすらに無言で刀を振り続ける。
(ダンのおっさん……)
先程、偵察任務中に殉職したガイウス・ダンとはある意味互いに関わりが深い間柄だった。
当時、〝鴉〟となってまだ間も無かった俺は連日に渡る任務により常に満身創痍の状態だった。
それでも絶えず任務へと赴き続けたのは総統閣下より命じられたという理由の他に、師と同じ特級討伐師へ一分一秒でも早く昇格する為だった。
そんな時に出会ったのがダンのおっさんだ。
当時のダンのおっさんは防衛部隊の隊長にも関わらず隙あらば酒をかっ食らってるような人で、その姿を見る度に俺は辟易としていたのを覚えている。
しかしダンのおっさんがそのような行為を繰り返しているのにはわけがあったのだと知ったのは、長期間にも渡る〝ドリュッセン・ハイウェイ掃討戦〟の時だった。
メディウス・ロクス連邦がまだ〝メディウス帝国〟と〝ロクス公国〟に別れていた古き時代……メディウス帝国将軍のドリュッセウスがロクス公国の間にあった山を切り拓き、隣接する渓谷で陣を張っていたロクス軍の意表を突いてその先にあったロクス公国の西方砦を攻め落としたという逸話から、その時の道上に敷設された高速道路……それが〝ドリュッセン・ハイウェイ〟である。
そこに住み着き莫大的に数を増やしていた禍憑達を一掃し奪還しようというのが今回の作戦であった。
作戦では主に〝強襲部隊〟と〝防衛部隊〟に別れており、強襲部隊が高速道路周辺の禍憑を討伐し、防衛部隊は陣地を襲撃してくる禍憑の対処が役割であった。
俺は強襲部隊の一員としてフラフラになりながらも禍憑達を屠り、掃討作戦軍は先へ先へと歩を進めて行った。
そんなある日の夜────
ふと目が覚めた俺が用を足そうとテントから出ると、不寝番をしていたダンのおっさんの後ろ姿を目撃した。
焚き火の前で不寝番をするダンのおっさん……気配を消して近付いてみると、おっさんはその手に一枚の写真を持っていた。
写真に写っていたのはダンのおっさん本人と、その隣で笑みを浮かべる女性。
そして二人の間で満面の笑みをしている女性。
どうやらダンのおっさんと共に写る二人の女性は、ダンのおっさんの奥さんと娘さんのようだった。
「娘は今年で高校二年生でな……これは去年、高校の入学式で撮った写真だ」
「────?!」
気付かれていたとは思わず、俺はその場に固まってしまう。
「気づいてないと思ったか?気配を消しているんだろうが、視線でいるのはバレバレだ。そもそもさっきテントの衣擦れの音が聞こえてたしな」
「それじゃあ俺もまだまだだな」
この時の俺はまだボイスチェンジャーを使ってはいなかった。
使うようになったのは更に秘匿性を上げるため。
メディアに取り上げたいとの要望が強くなった為に、声で身の上がバレないようにする為だった。
ともかくダンのおっさんに背後から見ていたのがバレた俺はその隣へと座る。
するとダンのおっさんは俺だったことには気付いていなかったようで、途端に目を丸くしていた。
「その仮面……もしかしてお前さんがうちらでは噂の、強襲部隊にいる最年少の討伐師ってやつか?」
「噂になってんのかは知らねぇけど、まぁ強襲部隊の中では最年少ではあるよ」
「まったく……こんなまだ小僧とも言える年齢の子供にまで駆り出させっちまうとはな。いい大人として情けねぇったらありゃしねぇ」
「俺はあんたを知ってるぜおっさん。ガイウス・ダン、階級は軍曹。いつもこっそり酒飲んでるダメ上官」
俺の言葉にダンのおっさんはムッとした表情をしていたが、直ぐに眉を八の字にすると苦笑しながら口を開いた。
「本当に情けねぇったらありゃしねぇ……酒でも飲まねぇと、いつ死ぬか分からねぇ怖さでどうにかなっちまいそうになってんだからよ」
「怖いのか?」
「当たり前だろう。せめて娘の晴れ姿を拝むまでは死にたくねぇって思ってんだからよ。娘は将来教師になりてぇってんで、今も必死に勉強してんだ。大学に入って、教師になって、いい人見つけて、そんで結婚して、子供作って……」
「死ぬのが怖いなら内部勤務に移ればいい」
「それも当然考えたさ。でもな……どうしてもそのイメージが湧かねぇっていうか、例え内部勤務になったとしてもまた戻ってきちまいそうなんだよな」
「なんで?」
「いても立ってもいられねぇんだろうな。俺よりも若い連中が危険を賭して頑張ってんの見てると、こうしちゃ居られねぇって……だから俺ァ今でもこうして酒で誤魔化しながらも前線に立ってんのさ」
「……」
「ははは!子供にはちょいと難しい話だったか!」
当時の俺はダンのおっさんが言っていることが分からなかった。
でもダンのおっさんはいつも気を奮い立たせて前線に出ているって事だけは分かった。
酒を飲んでるのもある意味自分を鼓舞してのものなんだろうと……その日から俺はダンのおっさんとよく話をするようになった。
「おっさん、酒ってうめぇの?」
「あぁ美味いぜ。上等であればある程その美味さが違ってくるしな。あぁでも……ワインだったか?あれの美味さは俺でもよく理解出来ねぇな」
「ふ〜ん……じゃあちょっとだけ飲ませてくれよ」
「ガキにはまだ早過ぎるってもんだ。酒ってのはなぁ、大人の嗜みってやつなんだよ。飲みたきゃ大人になるまで楽しみにしてる事だな」
「先の長い話だな」
「そう思ってる間に気付いたら大人になってるってもんさ。そして大人になった時に初めて飲む酒は格別だ。なにせ人生でたった一度しかない機会だからな」
「なるほど……それじゃあ俺が飲めるような年になったら、おっさん一緒に飲んでくれよ」
「俺でいいのか?」
「だっておっさん、酒知ってそうだし」
「ガハハ!分かった!その時が来たら格別な一杯奢ってやるぜ」
「いっぱい奢ってくれんのか?太っ腹だな、おっさん」
「馬鹿言え、〝いっぱい〟じゃなくて〝一杯〟だ!つまりコップ一つ分って事だ」
「ケチだな〜」
「お前さんが大酒飲みだったら、俺の財布がスッカラカンになるだろーが!」
そんな約束もしてたっけな……。
「なんだお前さん?てっきり遠くから法術ぶっ放してばっかりかと思ったら、近接戦闘も出来んのか?」
「法術ばかりだと、もし敵に距離を詰められた時に対処出来なくなるから身に付けとけって師匠から言われてたからな」
「ほほぅ?そいつぁまた、立派なお師匠さんじゃねぇか」
「まぁね」
「そのお師匠さんとやらはご健在かい?」
「いや……」
「あぁ……すまねぇ。思い出したくもねぇ事聞いちまったな」
「構わねぇよ。いつまでも引き摺ってたら、それこそ夢にまで出てきて説教されそうだし」
「それなら、天国のお師匠さんが向こうで他の奴らに自慢するくらいにならねぇとな」
「ふっ……そうだな」
そんなやり取りもしていたのを今でも覚えている。
そして一番おっさんとの絆が強くなったのは掃討戦も終盤に差し掛かっていた頃だった。
早朝に禍憑達から襲撃を受け、俺はそれ迄の疲労も溜まっていたからか上手く身体が動かなかった。
視界が霞み、そのせいで体勢が崩れてしまう。
(しまっ────)
その隙を逃さず俺に噛み付こうと虎の禍憑が大口を開けながら迫って来て、その牙が俺の身体を捉えようとした瞬間、その虎の禍憑に大量の銃弾が叩き込まれる。
「撃て撃て!撃ちまくれ!けど鴉のやつに当たらねぇよう気をつけろ!おい、大丈夫か!」
倒れそうになる俺の身体を支えながらダンのおっさんが声をかけてくる。
「奴を倒さねぇと……」
「バカ言ってんじゃねぇ!どう見たって満身創痍だろうが!少しの時間だけでも良いから俺達の後ろで休んどけ!」
「銃弾じゃ奴を殺れねぇぞ?」
「それでもお前さんが回復するまでの時間稼ぎくらいにはなるだろうが!いいから言われた通り休んどけってんだ!おい!誰か鴉をふん縛ってでも休ませろ!」
「「はっ!」」
その時、ダンのおっさんから俺を預かり少し後ろへと連れてったのがまだ一等兵だったジョージ・メイザースと、伍長だったミランダ・リンバスだった。
ジョージは俺の身体を気の根元へと置き、ミランダが持っていた水筒の水を俺に飲ませる。
「おいテメェら!まだ俺の娘と同じくらいの歳の子供がここまで頑張ったんだ!俺達だって負けてらんねぇぞ!」
『はい!』
なおも襲いかかろうとする虎の禍憑にこれでもかと銃弾を浴びせ捲るダンのおっさん達。
その傍らには補給兵がカバンいっぱいの銃弾が込められた弾倉を次々と兵士達に渡してゆく。
「弾はこんだけあるんだ!ちょっとやそっとでうちの鴉を食えると思ったら大間違いだぞクソ虎ぁ!」
「虎なら動物園の檻の中でニャーニャー言ってるんだな!」
「鴉を狙ったのが運の尽きだぜコンチクショー!」
ダンのおっさんの鼓舞で兵士達もまた口々にそう言いながら虎の禍憑へと銃弾を放ち続ける。
だがやはり相手は禍憑……次第に弾丸は尽き始め、ダンのおっさんが最後に放った弾で打ち止めとなった。
地面に落ちた薬莢の音が無情にも鳴り響く。
ようやく止んだ弾幕に虎の禍憑は待ってましたとばかりにダンのおっさん達を睨みつける。
「チッ……分かっちゃいたが、少しくらいは効いとけよクソが」
「隊長……こうなりゃ全員で拳で抵抗しますか?」
「おう、やってやろうじゃねぇか。なんならお釈迦になっても良いからライフルでかっ飛ばしてやろうぜ?」
空になったライフルを手に、逃げ出すこともなく虎の禍憑を睨みつけるダンのおっさん達。
暫く両者睨み合いを続けていたが、虎の禍憑が先にダンのおっさん達目掛けて飛び出した。
「GAAAAAAAA!」
「かかって来やがれ!」
「その必要は無い……直ぐに片付く」
飛びかかってくる虎の禍憑を迎え撃とうとしたダンのおっさんを俺が背後からそう声をかけて虎の禍憑に向けて法術を放った。
「消し飛べ、〝
俺の手から放たれた一筋の光線が虎の禍憑の眉間を撃ち抜くと、虎の禍憑の身体は崩れ、塵となって消えた。
「お……おぉ……おぉぉぉ!」
「やった!やったぞ!」
「おい、大丈夫なのか?!」
兵士達が歓声を上げる中、ダンのおっさんだけは俺のそう声をかけてくれた。
「問題ない……って言いてぇところだけど身体がまだ動かねぇ。でもあと一発デカい法術を撃てる。だからおっさん……俺を俺が指示した場所に運んでくんね?」
「……よっしゃ分かった!任せとけ!」
ダンのおっさんは一瞬ポカンとしていたが、直ぐに不敵な笑みを浮かべて俺を背負った。
「何処に運べば良い?」
「あそこ……あの高台の上」
俺は少し離れた所にある高台を指差すと、ダンのおっさんは直ぐにそこへと向けて走り出した。
ジョージやミランダを含めた他の兵士達もそれに続いて走り出す。
「弾はもう無いけど、殴ってでも隊長達を守るぞ!」
『おう!』
幸いにも禍憑と遭遇すること無く高台へと到着した俺達。
そして俺はそこから見える禍憑達の群れに向けて手をかざした。
「〝
その瞬間、空を黒い雲が覆い、そこから幾数もの落雷が降り注ぐ。
それを受けた禍憑達は次々と消え、落雷が収まった時にはそこに禍憑の姿は一つも無かった。
『全隊員に告ぐ。全ての禍憑の消滅を確認。よって現時点をもって掃討戦を終了とする。繰り返す────』
「やった……お前ら!掃討戦は終了だ!この戦い……俺達の勝利だ!」
無線を聞いたダンのおっさんの宣言に兵士達が諸手を上げて喜ぶ。
俺はそんな彼らの声を聞きながらそっと意識を手放したのだった。
あれから二年────
俺は特級討伐師となり、ダンのおっさんは歳ということもあってか防衛部隊から退いた。
しかしまだ前線にいたいというダンのおっさんの希望もあって偵察部隊に配属となった。
ジョージとミランダもその後を追って偵察部隊入り。
それでも俺とダンのおっさん達との交流は続き、ゆくゆくは俺が酒を飲めるようになったら皆で飲みに行こうなんて話もしていた。
(娘さんの晴れ姿も見てねぇ……俺と酒を飲む約束も果たしてねぇ……色々と反故にし過ぎだぜ?ダンのおっさんよぉ……)
俺は刀を握る手に更に力を込めてそれを振り上げた。
(安心しろダンのおっさん……仇は必ず取ってやらぁ)
そうして俺は再び、刀を振るうのであった。