魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
〈景久視点〉
師匠が出かけると言ってから早三ヶ月……俺は師匠の机に積みに積まれた紙の束を見上げながら、もはや諦観の表情を浮かべていた。
それは隣にいたこの屋敷で働いている〝デイモン・ジャックヒル〟さんもまた同様であった。
デイモンさんは法術の名家コルニクス家に仕えている執事で、師匠がこの屋敷で一人暮らしをする事になった際に付いてきた人達の内の一人だった。
まぁ師匠を幼い頃から見てきた凄い人って認識しておけば良いだろう。
そんなデイモンさんもまた俺を師匠の息子として接してくれており、俺が師匠からの頼まれ事をしている際に陰ながらサポートしてくれていたりする。
今ではこの屋敷の中では師匠に次いで仲の良い間柄と言っても過言では無いだろう。
「デイモンさん、師匠帰ってきませんね〜……」
「そうですなぁ若様……ここ最近ではお嬢様は何をしているのかという問い合わせの電話が引切り無しにかかって来るようになりました」
「この前なんて総統閣下が凸して来ましたもんね〜……」
〝総統閣下〟とは、国際禍憑対策委員会お呼び国際討伐師協会のトップとなった〝リサンデラ・ギルナスティス〟の事である。
師匠と学生時代の友人同士であった彼女はトップの座に君臨してから更に討伐師支援に力を入れ始め、人類の生存圏拡大と、現時点での生存圏の安定化を目標としているらしい。
まぁそれで師匠に頼み事をしたいと思っていたそうなのだが一向に連絡がつかず、屋敷に問い合わせてみても〝まだ帰ってきていない〟の一点張りでごうを煮やして突撃して来たというわけである。
「いやはや、まさに嵐のようなお方でありましたな……」
「ゲリラ豪雨レベルの質問攻めでしたしね」
〝ヴァローナはいつ帰ってくる?〟、〝いったい今どこにいる?〟、〝奴との連絡はうんたらかんたら〟と、息付く間もなく質問を連投してくるものだから、もはや答える間すらも無かった程の怒涛の質問攻めだった。
デイモンさんと揃って遠い目になってしまうのも無理からぬ事だろう。
そんな会話をしていると師匠の執務室に新たに一人の初老のメイドが入ってきた。
彼女の名は〝マリア・テレーズ〟と言って、デイモンさんと同じくコルニクス家に仕え師匠に付いてきた屋敷のメイド長だ。
そんなマリアさんは一通の手紙を手にしていて、それを俺へと渡してくる。
「俺に?」
「ええ、お嬢様からです」
その言葉に俺は勢いよく封を切って中を確認する。
そしてその内容に思わず眉間に皺を寄せた。
「お嬢様からはなんと?」
「明日帰国するとだけしか……」
「なんともお嬢様らしいですな……」
「帰宅次第ガン詰めにしてやりましょう……この屋敷の使用人全員で」
俺がそう言うとデイモンさんもマリアさんも揃って大きく頷いていた。
〈ヴァローナ視点〉
ここ三ヶ月の間はドラキュリアス家にてアメリア嬢との交流に費やしていた。
その甲斐もあってかアメリア嬢はヴェイロン殿達と同じく〝リア〟と呼ぶことを許してくれる程に心を開いてくれた。
そしてそろそろ帰国せねばと思った頃合でアメリア嬢……もといリアに話をする。
「リア、私は本来君の父君より君の面倒を頼まれていた。そこで君に問いたい……君は私と共に来るか?」
「一緒に……?」
この頃になるとリアの身体は健康的なものとなり、辿々しかった口調も流暢なものになっていた。
「そうだ。君の中にある禍憑としての力をものに出来るように鍛えて欲しいとお願いされたんだ。しかし私としてもこれ以上家を空ける訳にも行かなくてね……そこで私は君も連れて帰りたいのだが、君の意志を無碍にするのは気が引けてね。どうする?このままこの屋敷に残るか、それとも私の新たな家族として共に来るか」
「父様達と家族では無くなってしまうの?」
「そういう訳では無いさ。もし君が禍憑としての力を制御出来るようになったら、君の意思次第でまたこの屋敷に帰って来られる。そうだろう?ヴェイロン殿」
「あぁ、もしその時は当然迎え入れるよ」
「なら……ヴァローナと一緒に行きたい」
ヴェイロン殿の言葉に安心したのかリアはそう言って私の手を握ってくれた。
そうして翌日、ヴェイロン殿のご好意により彼のプライベートジェット機にてリアと共に帰国した私は、三ヶ月ぶりの我が家へと帰ってきた。
屋敷の門が開かれるとそこには愛しい息子であり弟子でもあるカゲヒサを先頭に我が家の使用人達が出迎えてくれていた……のだが、どうにも雰囲気が怪しい。
「師匠、おかえりなさい」
そう声をかけてくれるカゲヒサだが、何故かその表情が怖い……。
笑顔なのだが薄らと開かれたその目は全く笑っていなかった。
よく見れば彼の後ろに控えている使用人達の表情も怖い。
その怖さにリアも怯えて私の背に隠れてしまっている。
「積もる話は山ほどあるけど……その前にその子は?」
「あ、あぁ……彼女は今日から一緒に暮らすことになったアメリア・アレキサンドラ・ドラキュリアスだ。皆、よろしく頼む」
私がそう紹介するとカゲヒサはリアへと近づき片膝を着いて彼女に笑みを向けた。
今度はしっかりと目も笑っている優しげな笑みであった。
「そうか……俺はこの屋敷に住んでいる師匠の弟子の鴉丸景久だ。気軽に景久と呼んでくれ」
「カゲヒサ……兄様?」
プライベートジェット機の中でリアにカゲヒサの事を〝もしかしたら兄になるかもしれない人だ〟と話していたのを思い出したのか、リアがカゲヒサの名を呼んだ後にそう付け加えると、カゲヒサは目を見開いていた。
しかし直ぐに笑みを浮かべると、優しくリアを抱き上げる。
「そうだよ、今日から俺は君の兄だ。よろしく……え〜と、リアと呼んで構わないか?」
「……(コクン)」
カゲヒサの問いにリアは頷いてそれを了承した。
少し気恥ずかしくなっているようだが、まぁ直ぐに打ち解けてくれるのならばそれに超した事は無いな。
「リアの事、怖くないの?」
「なんで?」
「だって……角もあるし、尻尾もあるし……それに鱗だって……」
「なんでぇ、別にかっこいいじゃないか。いや、それすらもリアの可愛さを引き立たせていると言っても過言じゃないな。皆さんもそう思いますよね?」
カゲヒサが同意を求めながら振り返ると、使用人達も皆笑みを浮かべて何度も頷いていた。
「ええ!ええ!リアお嬢様の可愛らしさは天を衝く程です!」
「リアお嬢様、よろしければその可愛らしい角と尻尾もお洒落致しませんか?」
「お洒落?」
「はい!当家の使用人である私共にかかれば、可愛らしく気飾れますよ!」
〝お洒落〟という言葉に反応したリアにメイド達が集まり頷いていた。
「良いじゃないか。それに服ももっと可愛らしいものにして貰ったらどうだ?」
「可愛いお洋服……着てみたい……」
「それでは私共と一緒に着替えに行きましょう」
「それじゃあリアを頼むよ」
カゲヒサがそう言いながらメイドにリアを託す。
そうしてリアは数人のメイド達と共に屋敷へと入って行った。
「いやぁどうなる事かと思ったが上手いこと行って良かったよ。それじゃあ私も荷解きに部屋へ向かうとするかな」
リアが無事に迎え入れられた事に満足しながら自室へと向かおうとした私だったが、カゲヒサの隣を横切る寸前で背後からその肩をがっしりと掴まれる。
「いやいや、ちょい待てや師匠」
「……カゲヒサ?」
振り返ってみると、カゲヒサはまたあの怖い笑みに戻っていた。
気付けば私はデイモン達に取り囲まれるような状態になっている。
「あの……カゲヒサ……私は荷解きに行きたいのだけれど……」
「ねぇ師匠……〝直ぐに帰ってくる〟と言われ三ヶ月もの間待ちぼうけを食らった挙句にようやく手紙を寄越したと思えば〝明日帰る〟とだけしか書かれていなかった弟子の心情ってやつが分かりますかね?」
「え、ええと……それについては後でゆっくりと……」
「いやいや、俺もそう暇じゃ無いですし、使用人達もリアのようこそパーティーの準備に取り掛かるでしょうし、そもそもこういった話は直ぐにするのが良いでしょう?」
「で、デイモン、助けてくれ!」
「お嬢様……お嬢様はこれから我々と別室にてゆ〜〜〜〜〜〜っくりとお話致しましょうか?」
「ヒィッ────」
私の必死な助けは無情にも受け流され、こうして私は引き摺られるようにして執務室へと連行されて行くのであった。