魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜   作:ΣiGMA

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北部戦域A〈鴉視点〉

「……以上で本作戦会議を終了とする。各自、北部への移動の準備を始めるように」

 

『はっ!』

 

 

 禍憑氾濫鎮圧への作戦会議が終わり、俺は隣にいた高町なのはから話しかけられる。

 

 

「まさか作戦当日は国営放送でライブ中継されるとは思わなかったですね」

 

『まったく……大型のイベントでは無いってぇのによ。情報統制はどうなってんだ?』

 

「国営放送であるMLT(メディウス・ロクステレビジョン)は北部に支局がありますからね……そこ経由で本局に話が行ったようです」

 

 

 ダリル殿がそう言いながら会話へと入ってくる。

 

 まったく……MLTの情報の速さは一流だな。

 

 

『とは言え、俺達がやる事は変わりない。迫ってくる禍憑達を一掃するだけだ』

 

「今はまだ樹海内にいる様子だそうですけれど、北部砦に迫ってくるまであまり猶予が無いんですよね?」

 

『なんとか間に合えば上等ってところか』

 

「そうですね……なので皆さんにはなるべく早く準備を済ませて欲しいところです」

 

『まぁ、禍憑氾濫の兆候があるという情報が入った時点で準備を始めているから、終えるのにそう時間はかからんだろう』

 

「我が軍の褒められるべき所ですね」

 

『まぁな……それよりもだ。最後のアレはどういう事だ?』

 

「〝アレ〟とは?」

 

 

 ダリル殿のその言葉に俺は彼の胸ぐらを掴み壁に押し付けてから再度訊ねる。

 

 

『しらばっくれてんじゃねぇぞ?国内の一般市民や学生に協力要請を出して現地に駆り出そうとはいったいどういう了見だって聞いてんだよ』

 

「ちょっ……鴉さん?!」

 

 

 驚く高町なのはを他所に俺は胸ぐらを掴む手に更に力を込める。

 

 

「仕方ないでしょう?なにせ人手不足なのですから。心配なさらずとも彼らを前線に出すつもりはありませんし────」

 

『当たり前だ。もしそんな事になれば殴ってでも総統閣下を止めてたところだ』

 

「話は最後まで聞いてくださいよ。彼らも強制的に駆り出された訳ではありません。彼らはあくまでも自らの意思で志願してきたのです。強制的に駆り出すだなんてそんなかつての徴兵令のような真似を、総統閣下は断固として許しませんしね」

 

『……そうだな』

 

 

 俺はそう納得すると、掴んでいた手を離す。

 

 

『すまなかったな……痛みは?』

 

「ありません、こう見えて鍛えてますから。それより市民への協力要請について補足ですが、それを発案したのは総統閣下ではありません。どちらかと言えば彼女は反対していた側です。発案したのは上の方ですよ」

 

『上……となると政府か?』

 

「はい、大統領が自らそのような発案をし、強行的に決定したそうです。国防大臣がいくら反対しても聞く耳すら持たなかったそうですよ?ちなみに国防大臣は事が終わるまで謹慎の身だそうです」

 

『あのボンクラ……ついにとち狂ったか』

 

「不敬……と言いたいところですが同意ですね。総統閣下もそう言っておりました。しかも発案した当の本人は良案だと思い込んでるそうですから、尚更そのボンクラ度合いが分かりますね。これで晴れて支持率暴落まっしぐらです」

 

「お二人とも、仮にも大統領に対して酷い言い草ですね……」

 

『事実だからな』

「事実ですから」

 

「あ、あはは……」

 

 

 残念なことに我が国の大統領は超が付くほどのボンクラである。

 

 なんでそんなボンクラが大統領になれたかと言えば、まぁ簡単な話、金をばら蒔いたからに他ならない。

 

 つまり〝賄賂〟である。

 

 公職選挙法はどうした、公職選挙法は?

 

 でも渡す方も渡す方だが、それで貰う方も貰う方である。

 

 〝同じ穴の(むじな)〟とはよく言ったもので、だから今の政府はマトモな奴が皆無に等しい程にいない。

 

 その僅かなマトモな奴でさえいつ染まってしまうか分かったもんじゃねぇしな。

 

 

『禍憑を討伐するより、汚職議員を討伐する方が最優先じゃないのか?』

 

「そうするまでに時間が必要過ぎますね。現実的ではありません」

 

「なんか時間さえあればやれるみたいな言い回しですね?」

 

「もちろんその場合は容赦なくやってやる気持ちですよ」

 

「なら総統閣下が大統領になれば良いんじゃないですか?」

 

「残念ながら当の本人にその気は無いんですよねぇ……」

 

「そうなんですか?」

 

「常に現場がよく見える位置にいたいお方なので」

 

 

 ちなみに総統閣下は一度も戦地へ赴いたことは無い。

 

 いや、過去に一度だけあったが、それ以外で赴いたことは無い。

 

 それでも俺達戦地で戦う人間達の事を考えていられるのは、やはり師匠の存在が大きかったからだろう。

 

 そしてその師匠の死によって、更に俺達が如何に常に死と隣り合わせなのかをよく理解したのだと言っても過言では無い。

 

 

『……と、そろそろ俺達も準備に向かわないとならねぇな』

 

「そうですね……あ、今ちょうどフェイトちゃんが呼びに来てくれたので、私はここで失礼します」

 

 

 見れば離れたところでこちら……と言うよりも高町なのはに手を振るフェイト・T・ハラオウンの姿があった。

 

 それを見て高町なのはは一礼してからそちらへと走り去ってゆく。

 

 

『それじゃあ俺も……』

 

「あ、その前に一つ伝えねばならない事があります。先程までは彼女がいたので切り出せませんでしたが」

 

『なんだ?』

 

「例の志願者の中に彼女(・・)の名前がありました」

 

『……?────!!』

 

 

 一瞬何の話か分からずキョトンとしたが、直ぐに誰の事を指しているのか理解し目を見開く。

 

 

『本当か?』

 

「ええ、何度も確認しましたから間違い無いかと。それに〝ドラキュリアス〟と〝コルニクス〟の二つの姓を使っているのは彼女しかいないでしょうしね」

 

『……コルニクス?』

 

 

 俺の記憶ではリアはコルニクスと名乗って無かったはずだ……なにせ師匠は引き取り娘のように接していたとはいえ、養子縁組をした訳では無いからだ。

 

 あくまでもドラキュリアス家から預かっているという形に過ぎない。

 

 

「多分ですが、貴方があの屋敷を出た後に名乗り始めたのでしょう。亡き師の意思を継ぎたいという決意の表明ではないかと」

 

『そうか……あいつがコルニクスを……』

 

 

 なんとも感慨深いものだ。

 

 もし師匠が存命であれば今頃、その嬉しさに思わずスキップすらしていたに違いない。

 

 

「まぁともかく、もし気になるようであれば様子を見に行かれては?気になるあまり戦闘に集中出来ないなんて事にはなさらないで欲しいので」

 

『否定が出来ないのがなんとも不甲斐ないな……まぁ偶然居合わせる事もあるだろうし、その時にでも一声かけるくらいはするよ』

 

「思わずご自身が〝鴉丸景久〟であると口を滑らせ無いでくださいよ?公には貴方はその身分すら抹消されてる状態なのですから」

 

『んなヘマはしねぇよ』

 

「それは何より。なにせ志願者の中には彼女のご学友もおりますので……もし口を滑らせた暁には、一気に学園内にその事が広まる可能性が高いですから」

 

『肝に銘じて置くよ。それじゃ』

 

 

 そうして俺はダリルの前から立ち去る。

 

 そうしてエレベーターを降りて一階のエントランスへと出ると、先に出たはずの高町とハラオウンが一人の女性と共に話をしていた。

 

 まぁそのまま通り過ぎても良かったが、一応は二人の関係者のようだし声をかけることにする。

 

 

『準備の為に戻ったんじゃなかったのか?』

 

「あ、鴉さん!」

 

「鴉……?」

 

 

 こちらに顔を向ける高町と、不思議そうにこちらへと視線を向ける女性。

 

 すると高町は元気よくその女性の事を紹介し始めた。

 

 

「こちら、時空管理局の〝アイネス・マルシーフ〟さんです!私達のサポートとナビゲーションをしてくれる事になりました!アイネスさん、こちらは〝鴉〟さんと言って、ここに所属してる討伐師の方です!すっごい強い討伐師さんなんですよ!」

 

「アイネス・マルシーフです。本日よりなのはさんとフェイトさんのサポート及びナビゲーションをする事になりました。これから宜しくお願いします」

 

『鴉だ。メディウス・ロクス連邦所属の国家討伐師で、討伐師としての等級は〝特級〟だ。こちらこそ宜しく』

 

 

 そうしてマルシーフと握手を交わす。

 

 

『正直ありがたい。こちらは万年人手不足でな……特に内部勤務は更に不足している状況だ』

 

「そうなんですか?現場の方が不足してるイメージだったのですが……」

 

『現在のリソースとしては7:3で現場の方が多い。お前達が来るまでは何よりも禍憑討伐に力を入れていたからな。しかし今となってはそちらにリソースを割いていたのが裏目に出ている状態だ。総統閣下はわざわざそれを口にする事は無いが、所属している者達は薄々気付いている。特に補給方面が顕著だ。だから一般市民に協力を要請する羽目になっているのだろうな』

 

「一般市民にですか?それは流石に受け入れ難い事実ですね……」

 

『ダリル殿から聞いた話では上が強制的に決めたらしくてな。安心しろ、総統閣下は反対派だ。しかし抗議でもして目を付けられたら今までやってきた事が無駄になるのであえて抗議していないだけだが……』

 

「上となると……政府ですか」

 

 

 感の鋭いハラオウンが即座に理解を示す。

 

 高町についてはその辺の会話を一緒に聞いていたので、ハラオウンの隣で呆れ顔を浮かべていた。

 

 

『まぁそういう事だ。だとしても俺達がやることは変わらん。現地へと赴き、速やかにこれを対処する。まぁ大きな問題点と言えば、今回については場所が場所だということだな』

 

「センダルセン山脈の麓にある〝グリシャオラス樹海群〟でしたっけ?それの何が問題なんですか?」

 

『グリシャオラス樹海群はメディウス・ロクス連邦内でも最も禍憑が多く発生する地点(ポイント)でな……また地元では〝帰らずの森〟として有名な場所でもある』

 

「帰らずの森……」

 

『一度迷えば二度と出られないとされていて、かつてそこへ入った者達が二度と帰ってくることは無かったという話がこれまでに何件も多発している曰く付きの場所だ。それだけならまだしも、更に禍憑が大量発生する場所でもあるから、国としては何としても調査を進めたがっている』

 

「原因は何でしょうね?」

 

『それを探るために過去に幾度などなく調査に向かわせたのだが……なにせその異名通り故になかなか調査が進まないのが現状だ』

 

「どうやって調査を行ってるんですか?」

 

『入り口の木に紐の先端を括り付け、それを伸ばし所々の木に括り付けながら調査を行っている。伸ばし切ったところで戻り、今度は別の色の紐を持ってまた中へと入る……それの繰り返しで調査を行ってはいるんだが……』

 

「禍憑の邪魔が入ってしまうと……」

 

『そういう事だ。かつて過去に一度あの樹海群の木々や草花を切り倒すか焼き払うかしてみるかという案が出たのだが……結局、問題点が多過ぎるとして却下された』

 

「どんな問題点があったんですか?」

 

『あそこに生えている木も草も花も、そのどれもがそこら辺に生えてるものとは違うんだ。なにせ、太古の昔から現存しているグリシャスギの原種やら同じ年代の草花だそうだからな。ちなみに〝グリシャオラス〟という名前は現地の近くに住む原住民族の言葉で〝グリシャが集まる森〟という意味だ。つまりその原住民族にとってあそこは〝聖地〟……もしくは〝神域〟とされている地でな。それを切り倒すなり燃やすなりしてみろ?どうなると思う?』

 

「必然的にその原住民族の方達から反発を受けるでしょうね……」

 

『だからそうした方が早いと理解しつつも出来ないんだ。それともう一つの問題点としては、もし仮に実行するとなったとしても金がかかり過ぎるって点だ。人件費やら燃料代やらでな』

 

「あ〜……凄く広大な樹海ですもんね」

 

『あとの問題としては実はグリシャスギは原住民族にとって欠かせない素材でもあってな?まぁ管理の為にいくつかの木を間引きするんだが、間引きされた木は北部の街で買取り、そこで建築用の木材を初め彫刻や装飾品、また食器類の工芸品に活用されていてな。また燃やすと独特な良い匂いがするってんで香木として売られたりもしているんだ。ちなみにその香木を譲り受けた事があったんで使ってみたが、リラックス出来て精神面での疲労回復には良かったぞ?』

 

「へ〜、それは是非とも欲しいですね」

 

 

 そんなやり取りを高町達としていると、背後から〝コホン〟という咳払いが聞こえてくる。

 

 そちらに顔を向けてみるとそこには額に青筋を浮かべている総統閣下の姿があった。

 

 その背後ではダリルさんが額に手を当て顔を振っている。

 

 

「準備をせよと言っていたのにも関わらず、よもやこのような場所でたむろしてお喋りに時間を費やしてたとはな……貴様ら、そんなに暇なら他の部隊の荷造りでも手伝うか?ん?」

 

「あ、あーっと、こんな事してる暇無かったねフェイトちゃん!」

「そうだねなのは!早く準備しに行かなくちゃ!」

「わ、私も……八神総督と打ち合わせに行かなくてはならなかったのを思い出しました」

 

 

 そう言ってそそくさとこの場から退散してゆく高町達……〝蜘蛛の子を散らす〟ってこの事を言うんだな。

 

 

「貴様は随分と余裕そうではないか?」

 

『まぁ俺はいつも直ぐに動けるよう準備を終えているからな。そこまで時間はかからねぇよ』

 

「それならば先程も言った通り他の部隊の手伝いでも行くか?」

 

『まぁそうして欲しいならそうするか』

 

「ふん……なんとも面白みの無い。貴様もあの国連の魔導師共のような反応をして見せれば、少しは笑えるのだがな」

 

『生憎と、そんな期待されても応えられんのでな。それじゃあ行ってくるわ』

 

「ちょっと待て」

 

『なんだよ?』

 

 

 他の部隊の手伝いに向かおうとした矢先に総統閣下に待ったをかけられる。

 

 訝しげに首を傾げると、総統閣下は神妙な顔付きでこう訊ねてきた。

 

 

「今回の事で少し気になる点があってな……どうにも今回の禍憑の数が少ないように思える」

 

『……?別に少ない分には良いじゃねぇか』

 

「グリシャオラス樹海群だぞ?もう少し数がいても良さそうだとは思わんか?」

 

『どちらにせよ現地に行って確かめてみねぇ事には何とも……まぁともかく鎮圧する事には変わりねぇんだ。そうだろ?』

 

「まぁそうなのだがな……ふむ、これについては我の杞憂で済めば良し。もしそうでなかったとしても貴様の言う通りか」

 

『そういう事だ。まだ確かめてもねぇ内からあれこれ考えた所で解決する訳でもねぇしな』

 

「うむ、我からは以上だ。もう行っても良いぞ」

 

 

 そう言われたので改めてその場を後にする。

 

 ちなみに総統閣下が抱いていた違和感については俺も同じであったが、先程彼女にも言った通り実際にこの目で見て確認しない内には何とも判断が付かない。

 

 俺はそんな違和感を一旦後回しにして手伝いへと向かうのだった。

 

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