魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜   作:ΣiGMA

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北部戦域E〈第三視点〉

 リサンデラに送り出され、アルカ・ベルトラムが北部砦へと到着していた頃……ガラン・ハイムに設置された補給拠点では手伝いへと来ていたアメリアとその友人達がその休憩所にて暫しの休憩へと入っていた。

 

 

「ふぅ……ようやく一息つけるわねぇ」

 

 

 お茶のペットボトルを手に水薙美奈が息を吐きながらそう溢す。

 

 

「運搬も大変だったけど、配給も意外と大変だったね」

 

「配給品の確認作業は正に苦行だったわ……まるで工場で働いてる気分だったし」

 

「うぅ……一生分の米を見たわー……今後暫くはパンで生活するわ、あーし……」

 

「そうしたら今度は一生分のパンを見ることになるんじゃない?」

 

「安心して!私さっき一生分のパンを見てきたから!」

 

「それ……安心して良いところかな?」

 

 

 六人は今の時点で十分ヘトヘトであった。

 

 そんな中でも比較的まだ元気なのはアメリアだけである。

 

 やはり禍憑人であるからか常人よりも体力が多く、皆が一様に疲労の色を浮かべている中でたった一人だけ平然としていた。

 

 

「しっかしあんたは本当に体力あるわね〜?少しでもいいからその体力分けて欲しいわ」

 

「ん〜……それは難しいけど、今度から一緒に朝のランニングとかしてみる?軽く走るだけでも結構体力つくし、体型も維持出来るよ?」

 

「やるわ」

 

「ミナちが即答したのは体力の方じゃなくて体型の方だったなー」

 

「あったり前でしょ?女性にとって太ることは致命的なんだから」

 

「そういえばキサラは全然体型変わったりしないよね?あ……ごめん……」

 

「おい、今なんで謝ったー?そしていったい何処見てんだテメー?」

 

 

 体型維持についてキサラに訊ねようとしていたアスカであったが、その視線にキサラの胸元が写った瞬間、彼女は思わず謝罪の言葉を述べてしまう。

 

 その言葉と視線に素早く反応したキサラは、普段からは想像出来ない程の恐ろしい表情でその鋭い視線をアスカへと向けた。

 

 そんなキサラの肩をポンポンと叩きながら美奈が言う。

 

 

「例えあんたくらいでも需要はあるって」

 

「〝あんたくらい〟ってなんだオイー?こう見えてもあーしはある方なんだぞー?」

 

「…………………………ぷっ」

 

「よっしゃ表出ろテメー」

 

「落ち着いてキサラ。あとミナは空手やってるから返り討ちに遭うのがオチだよ?それと私はキサラは可愛らしい方だと思ってるよ?」

 

「いまいちフォローになってねーんだよなー?あとリアちが言っても嫌味にしかなんねーんだよー」

 

「まぁ確かにリアは主張が激しいわよね。今サイズいくつなん?」

 

「えっ……え〜と、この前測った時は……あの……えと……え、H……////」

 

「はぁ?!」

 

 

 自身のサイズを恥ずかしがりながらもアメリアが答えると、それを聞いたキサラが瞬時に彼女に近付き、その豊満な胸を鷲掴みにする。

 

 

「えっ、ちょっ……ひゃあん♡」

 

「………………けしからん」

 

「何が〝けしからん〟だド変態!」

 

 

 アメリアの胸を揉みしだきながらキサラがそうポツリと呟くと、美奈が背後から思いっきりその頭に張り手を炸裂させた。

 

 

「ぶへっ!」

 

「まったくもう……いくら友人といえど、他人の胸をそう手荒に扱ってはいけませんよ?」

 

「み、ミシロ……////」

 

「あんたもそう言いながらどさくさに紛れて胸を撫でてんじゃないわよ!」

 

「なっ、私は撫でてなどおりません!愛でているんです!」

 

「上手いこと言ってるつもりだろうけど上手くないから!なんならもっと酷いまであるわ!」

 

 

 そんな風にギャーギャー騒いでいると、不意に視線を感じて全員がそちらへと向ける。

 

 すると外で作業していた男性達が一斉に顔を背けた。

 

 その光景にアメリア達は一気に冷静を取り戻す。

 

 

「あ〜、そういやここ外だったわ」

 

「そうですね……ここにいるのは私達だけではありませんでしたね」

 

「ただただリアが恥ずかしい思いしただけだったね?」

 

「うぅ……////」

 

 

 先程の光景をバッチリ見られてたかと思うとアメリアは顔を赤くして俯く他無かった。

 

 しかし再度視線を上げると、一人の兵士が箱を手に何処かへと向かう姿が見えた。

 

 結構歳を召しているようで、〝ふぅ、ふぅ〟と肩で息をしながら荷物を運んでいる。

 

 

「あの……手伝いましょうか?」

 

 

 気付けばアメリアはその兵士の元に駆け寄りそう声をかけていた。

 

 声をかけられた兵士は一瞬驚いていたが、直ぐに首を横へと振ってその申し出を断る。

 

 

「君は休憩中の学生さんだよね?せっかく休んでいる人を手伝わせる訳にはいかないよ」

 

「いえ、これでも十分休めましたし、兵士さんの方が休憩が必要に思えたので」

 

「そうかい?それなら助かるよ。本当はこれから休憩に入ろうとは思ってたんだけどね。前線で戦ってた人達が休憩の為に戻ってきたって聞いてね……それで差し入れを届けてから休憩に入ろうかと思ってたんだよ」

 

「その方達はどちらに?」

 

「あぁ、この方向を真っ直ぐ行ったところにある天幕だよ」

 

「それじゃあ私が代わりに運びますので、兵士さんは休憩なさって下さい」

 

「いやぁありがたい。それなら是非お言葉に甘えさせて貰うとするよ」

 

 

 そうして兵士は差し入れが入った箱をアメリアへと手渡すと、感謝の一礼をしてから休憩へと入っていった。

 

 アメリアもまたその兵士に向けてお辞儀をすると、教えて貰った天幕へと向けて歩きだそうとする。

 

 するとそんな彼女の持つ箱に数人の腕が伸びてきて、それぞれ入っていたものを手に取った。

 

 驚いてそちらを見ると、そこにはアメリアの友人達がそれぞれ手に箱に入っていた差し入れを持って立っている。

 

 

「何を勝手に一人で行こうとしてんのよ。あたし達にも手伝わせなさいよね」

 

「ミナ……」

 

「こういうのは皆でやった方が早いですからね」

 

「ミシロ……」

 

「そーそー。運ぶのにも皆で持った方が負担が軽いしねー」

 

「キサラ……」

 

 

 こうして直ぐに力を貸してくれる優しい友人達にアメリアはその嬉しさで顔を綻ばせる。

 

 するとマキナがその顔を両手で塞いだ。

 

 

「ま、マキナ?」

 

「そんな卑怯な顔禁止ぃ。そんな顔見られたら、言い寄ってくる男の人達が後を絶たなくなっちゃうよぉ」

 

「え、えぇ……」

 

「はいはい馬鹿やってないでさっさと行くわよ。休憩しに来た人達も時間に限りがあるんだから」

 

 

 そうして彼女達が向かった先……天幕の中にいたのは今しがた休憩に入っていた高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンであった。

 

 明らかに自分達よりも歳下の二人にアメリア達は思わず面食らってしまう。

 

 

「こ、子供……?」

 

 

 思わずそうポツリと溢してしまう美奈。

 

 その言葉になのはが〝あはは〟と笑う。

 

 

「あはは、やっぱり驚いちゃいますよね?この国に来たばかりの時も、色んな人達からそんな風に驚かれてましたし」

 

「あ、ご、ごめんなさい……失礼でしたよね?」

 

「いえいえ、いいんですよ〜♪︎見ての通り子供ですので」

 

 

 失礼な態度をしてしまったと詫びる美奈になのはは手を振って気にしていない事を伝えると、アメリア達は揃って安堵の息を溢す。

 

 

「それは良かったです。あ、こちら差し入れです」

 

「わぁ、ありがとうございます♪︎食べよフェイトちゃん」

 

「うん」

 

「どちらが良いですか?」

 

「それじゃあ私はオレンジジュースで。フェイトちゃんは?」

 

「私は……なのはと一緒でいいかな」

 

「分かりました」

 

 

 アスカと共にそれぞれ手にしていたジュースを見せながら問いかけた巳白(みしろ)はオレンジジュースを所望され、それをプラスチック製のコップに注いで二人に手渡す。

 

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます♪︎」

 

 

 そうして美味しそうにオレンジジュースを飲む二人に、アメリア達は手持ち無沙汰で佇む。

 

 するとなのはが何かを思い出したように彼女達へと顔を向けた。

 

 

「あ、そういえば挨拶がまだでしたね?初めまして、私はEXCEEDS所属の魔導師、高町なのはです!そして隣にいるのは……」

 

「同じくEXCEEDS所属、執務官のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 

「は、初めまして。今回手伝いに来たアメリア・アレキサンドラ・ドラキュリアス・コルニクスです。メディウス・ロクス法術学園の生徒です」

 

「同じく水薙美奈です」

 

「蛇原巳白です」

 

「キサラ・アビゲイルでーす」

 

「アスカ・フローレンです」

 

「マキナ・エクステスです」

 

「あ、もしかしてお姉さん達が協力しに来てくれた学生さん達ですか?兵士さん達がすっごく褒めてたんですよ」

 

 

 それぞれの名前を聞いたなのはが嬉しそうにそう話すと、アメリア達には初耳だったのか思わずキョトンとしてしまう。

 

 

「褒めてたんですか?」

 

「はい♪︎まだ学生さんなのにすっごく働いてくれてるって」

 

「い、いえ……ただ言われたことをやってただけですから」

 

「それでも周りに気を配ってくれていたから凄く助かってるって言ってましたよ?」

 

「そ、そんな……凄く嬉しいです」

 

「お姉さん達も討伐師を目指してるんですか?」

 

「え……?」

 

 

 〝急にどうしてそんな質問を?〟という表情でなのはを見ると、なのはは何やら考え込むような動作で彼女達にこう告げる。

 

 

「確か聞いた話では今回の市民への協力要請は強制では無いんですよね?それでもこうして来てくれたって事は、将来討伐師を目指してるからその経験の為に、なのかなって思って」

 

「あ〜……あたしとリア……アメリア、そして巳白はそうなんですけど。他は……」

 

「私は家が法具師を生業としているから、私も法具師になる為に学園に通ってます」

 

「あーしはこう見えて国際討伐師協会の職員目指してるんでー。討伐師の人達や法術の事を学ぶ為に通ってまーす」

 

「私は法術専門の塾を開きたくて……その為に法術を勉強中です」

 

「へ〜、それぞれにちゃんと夢があって学園に通ってらっしゃるんですね〜」

 

(なんだろう、この子……すっごく真っ直ぐに私達を見てくる子だなぁ)

 

 

 なのはの様子にアメリアは心の中でそう感じた。

 

 そんなアメリアに視線を向け、なのはが子首を傾げながらこう訊ねてくる。

 

 

「アメリアさん……でしたよね?アメリアさんはもしかして〝禍憑人〟なんですか?」

 

「え、あ、はい……竜の禍憑人です」

 

「竜?!すっごくかっこいいじゃないですか!」

 

 

 〝竜の禍憑人〟と聞いて途端にテンションを上げ、アメリアとの距離を詰めてくるなのは。

 

 その様子にアメリアはつい驚き目を丸くしてしまう。

 

 そんななのはの隣ではフェイトが申し訳なさそうに困った笑みを浮かべていた。

 

 

「ほら、なのは。アメリアさんが驚いちゃってるから落ち着いて」

 

「あ、ご、ごめんなさい。ついテンションが上がっちゃいました」

 

「だ、大丈夫です。でも、そんな風に仰ってくれたのは貴方で二人目です」

 

「他にもそう言ってくれた人がいたんですか?」

 

「はい……私の敬愛する兄様です」

 

「お兄さんがいるんですか?私にもお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるんですよ♪︎ちなみにお兄さんは今は何を?」

 

「……っ!」

 

 

 なのはの純粋な質問にアメリアは思わず言葉が詰まる。

 

 彼女の兄……鴉丸景久は今は特級討伐師として、そして〝鴉〟という名で、国家討伐師として今この地で禍憑氾濫の対処を行っている。

 

 しかしそれを知っていてもその事を素直に伝える事が出来なかった。

 

 

「あ、もしかして……聞いちゃいけない事でしたか?」

 

 

 不安そうにそう訊ねるなのはにアメリアは悲しげな笑みを浮かべながら首を横へと振る。

 

 

「大丈夫です。兄様は私がまだ幼い頃に家を出てしまいまして……それっきり音沙汰が無いんです」

 

「そうだったんですか……ごめんなさい、辛い記憶でしたよね?」

 

「お気になさらないで下さい。義母様も討伐師で、そのお弟子さんでもある兄様もまた当時は二級討伐師でしたから、今頃は討伐師として活躍なさってる事でしょう。まぁそれでも……巨獣により義母様を失っている状態での事でしたから、当時は本当に悲しく寂しいものでしたけれども。それでも、今は義母様と同じ特級討伐師を目指すという目標がありますから、それを支えに頑張っております」

 

(えっ……その話って……)

 

 

 アメリアの話を聞いたなのはとフェイトは無意識にお互いに顔を見合わせた。

 

 そしてなのはは念話でフェイトへと話しかける。

 

 

「(フェイトちゃん、今の話って……)」

 

「(うん。さっきは無意識に聞き流しちゃってたけれど、アメリアさんのフルネームは確かアメリア・アレキサンドラ・ドラキュリアス・〝コルニクス〟……偶然とは言い難いね)」

 

「(と言うことはその〝兄様〟って……)」

 

「(十中八九、鴉さんの事だと思う)」

 

 

 ここに至ってアメリアの話す〝兄〟が鴉である事を察する二人。

 

 そんな時、〝噂をすればなんとやら〟と言うべきか鴉が音もなくその場に姿を現す。

 

 

「あ、鴉さん!」

 

「「「「「「えっっっ?!」」」」」」

 

 

 なのはの一言にアメリア達は揃って声を上げた。

 

 そんな彼女達の視線の先で鴉は椅子を引き寄せて座る。

 

 しかし何やら考え事をしているようで、先程のなのはの声にもアメリア達の存在にも気付いていない様子であった。

 

 

「どうしたんですか鴉さん?何か考え事でもあるんですか?」

 

『ん?おぉ、いたのか二人共。それに……そちらのお嬢さん達は?』

 

(……あれ?)

 

 

 再度なのはに声をかけられようやく彼女達の存在に気づいた鴉。

 

 しかしその鴉の一言になのはは思わず疑問符を浮かべてしまった。

 

 

(さっきのアメリアさんの話だと鴉さんがアメリアさんのお兄さんだと思ったんだけど……違ったのかな?)

 

 

 この時の鴉はアメリアの事をしっかりと認知していた。

 

 しかし自身の現在の立場は〝アメリアの義兄、鴉丸景久〟ではなく、あくまでも〝国家討伐師の鴉〟であった為、あえて初対面を装っていたのであった。

 

 その事はアメリアもまたしっかりと理解していて、こちらも初対面を装っている。

 

 しかしそれを知らないなのはとフェイトは自分達の推測が間違っていたのだろうかと互いに顔を見合せ首を傾げるのであった。

 

 

『どうした二人共?何を首を傾げてる?』

 

「あ、いえ、なんでも!あ、この方達は今回手伝いに来てくれた学生さん達だそうです」

 

『そうだったのか。すまねぇな……本来ならば学園で授業を受けてる頃合いだろ?まったく……そんなまだまだ学ぶべき事が多い学生まで駆り出すとは、あのボンクラはどれだけそのボンクラっぷりを発揮すれば気が済むんだか……』

 

「ぼ、ボンクラ?」

 

 

 鴉の悪態に思わず美奈が反応する。

 

 ちなみにその〝ボンクラ〟が誰を指すかを知っているなのはは苦笑を浮かべるしかない。

 

 

『あぁいや、こっちの話だ。ちなみに総統閣下を指している訳ではないとだけ言っておこう。あの方はそのボンクラと比べりゃ月とスッポン……いや、神とミジンコ……いや、これだとミジンコに失礼か?神と糞……いや、糞も農家にとっては良き肥料になるし……』

 

「は、ははは……とりあえずそれらよりも劣ると言いたいって事だけは分かりました」

 

 

 丁度良い例えが見つからず考え込んでしまう鴉に、フェイトが乾いた笑いを溢しながらそう言った。

 

 それを聞いていたアメリア達もどういった表情をすれば良いのか分からず、複雑そうな表情を浮かべる。

 

 

「まぁそれより、さっきは何を考え込んでいたんですか?私達に気づかないくらい集中してましたけど?」

 

『あぁ……どうにも順調過ぎるなと思ってな』

 

「順調なのは良い事じゃないんですか?」

 

『嬢ちゃん達は禍憑氾濫を見た事が無いから分からんのだろうが、本来の禍憑氾濫はこう順調に行かない事が多い。例えば迫ってくる禍憑達が予想外の行動を取ったり、目の前で強力な個体が生まれたり、あとは巨獣が乱入してきたりとかな』

 

「巨獣……」

 

「巨獣が乱入してくる事なんてあるんですか?」

 

 

 〝巨獣〟という単語にアメリアは思わず義母が無くなった日の事を思い出し、僅かに表情が険しくなる。

 

 それに気づかない巳白がそのように訊ねると、鴉は頷いてそれを肯定した。

 

 

『禍憑ってのは他の禍憑を喰らう事で力を増す性質があってな?まぁ分かりやすく例えるならオキアミの群れを狙って現れるクジラのようなものだ』

 

「つまり氾濫により大量に湧いた禍憑達を狙って来るという事ですね?」

 

『そういう事だ。しかし依然として大型の禍憑はおれど、巨獣が現れる様子が無い。それに禍憑達の動きも何処か妙なんだよな』

 

「禍憑達の動きが妙?つまりどういう事ですか?」

 

『ん〜……』

 

 

 フェイトの問いかけに鴉は顎に手を当て考え込んでしまう。

 

 そしてその様子を暫く眺めながら待つなのは達に、鴉はその重い口を開いた。

 

 

『分からん』

 

 

 その言葉に思わずズッコケそうになるなのは達。

 

 

「あれだけ考えた結果何も分からないんですか?!」

 

『こういうケースは初めてでな。流石の俺でも分からんもんは分からんよ。まぁとにかくこのまま順調に行けば良し。例えそうでなくともこんだけの面子なら大丈夫だろ』

 

「な〜んかフラグっぽいんですよねぇ……」

 

「高町さん。それは口にしちゃうと駄目なんじゃないんですか?」

 

「アメリアさん、私の事は〝なのは〟で良いですよ〜」

 

「私の事は〝フェイト〟で大丈夫です」

 

「そうですか?それなら私の事は〝リア〟と呼んで下さい」

 

「はい!それではリアさん、私達はそろそろ戻るんで。あ、あとジュースとお菓子ありがとうございました!」

 

「鴉さんもまた後で」

 

『おう。俺ももう少ししたら戻るからよ』

 

 

 そうしてなのはとフェイトは天幕を後にした。

 

 アメリア達も自分達もそろそろ戻ろうかと鴉に一礼をしてから天幕を出ようとしたが、その矢先に鴉にこう言われた。

 

 

『もし何かあったら、俺達に構わず直ぐに逃げるんだぞ?』

 

「……はい」

 

 

 アメリア達が振り返った時には鴉は視線を自身のスマホへと落としていたが、それでもアメリアはそう返事をすると、また一礼して友人達と共に天幕を出た。

 

 残された鴉は一人、天幕の中で自身のスマホの画面に視線を向け、そしてそこに表示されている画像を見ながら心の中で呟く。

 

 

(師匠……リアはあの頃よりずっと大きくなりましたよ。師匠にも見せてやりたかったです)

 

 

 先程のアメリアは表情こそ変わらなかったが、自身に向ける瞳は、かつての自分に向けていた瞳と同じであった事に鴉は気付いていた。

 

 

(ふっ……流石に義妹は騙せんか)

 

 

 そう理解しつつも、だからと言って兄だと公言する訳にはいかない。

 

 

(はぁ……平静を装っちゃいたが、やっぱり辛いなぁ……)

 

 

 あの日、屋敷を出る決意をしたのに後悔は無い……しかしもしあの日の事が無かったら今頃家族三人、変わらず仲良く暮らしていたのだろうと思うと、鴉は誰にも打ち明けられぬ本音を心の中で呟いていた。

 

 

(まぁ、今はとにかく禍憑氾濫を鎮圧するのが最優先だな)

 

 

 鴉はそう思うと立ち上がり、また北部砦へと向けて姿を消すのであった。

 

 そうして鴉が北部砦へと戻ってくると、何やら砦の様子が可笑しい。

 

 まるで時が止まったかと錯覚してしまうほど、砦内の者達を始め、前方にいる者達、そしてそこにいる禍憑達までもが動きを止めていた。

 

 

『どうしたお前ら?何故固まっている?いったい何を見て────』

 

 

 その全員が一斉に同じ方向を向いて固まっていることに気付いた鴉は、自身も同じ方向へと目を向け、そして彼らと同様に動きを止めた。

 

 鴉を始めとしたその場にいた者達全員の視線の先……その樹海群の更に先の方にて、そこに一つの山が鎮座していたのだが、鴉達の視線の先ではその山は様相を変えていた。

 

 山の根元から長い首……その鎌首をもたげ、その巨大な頭から見える二つの双眸は鴉達を捉えていた。

 

 そして悠然と佇む山を背負った超巨大の亀が、鴉達の目の前で静かに動き出す。

 

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