魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
〈鴉視点〉
「……鴉……!……殿!────鴉殿!」
「────っ?!」
北部砦の城壁の上────突如として現れた
俺を呼びかけていたのは、いつの間にか来ていたミランダであった。
『すまん……少し混乱していたようだ』
「無理もありません……あのような存在を見てしまえば誰でもそうなってしまうでしょう。ですが直ぐに正気に戻って貰わねば指示を出す者がおりません!」
『そうだな……とりあえず前線にいる奴らを直ぐに後退させて────』
そう言いながらまたソイツへと視線を戻した時、俺はまた固まってしまいそうになった。
隣を見ればミランダもその光景を見て同様に大きく目を見開いている。
なんとソイツはゆっくり……酷くゆっくりではあったが確実にこちらに向けて動き始めていた。
〝ゴゴゴ〟という音がここ一体に響き渡る。
『前線にいる全ての者達に告ぐ!今すぐそこから離れろ!砦まで
よく見れば俺より先に休憩から戻っていた高町達でさえ固まってしまっている。
『おい高町!ハラオウン!テメェらそこで固まってねぇで早く全員を撤退させ────』
今度は高町達二人にそう声をかけようとしたが、言い終える前に視界の端で何かとてつもない大きなものが降ってきた。
なのでそちらの方へと顔を向けると、そこには山の根元から伸びていた亀の頭が地面に突き刺さっていた。
そしてその場所は────
『……アルカ?』
俺の交代要員として俺が休憩している間戦闘を行っていたアルカと、防衛部隊の兵士数人がいた場所であった。
『アルカ?!おい、アルカ?!』
「ぶ、無事っス……」
必死に名前を呼ぶ俺の横に落ちてくる影────
そこには二人の兵士を抱えながら着地していたアルカの姿があった。
それを見て一瞬ホッと安堵したものの、直ぐにアルカの表情が歪んでいるのに気付いた。
「すみません……全員を助け出すのは無理だったっス……」
『あの一瞬で二人救えただけでも十分だ。下手したらお前諸共奴に食われていたかもしれなかったんだからな』
「あいつ……何なんスか?」
『俺が知りてぇよ……』
目の前でゆっくりと咀嚼している奴を見ながら、俺は仮面の下でその表情を歪ませていた。
「北部の討伐師さん達に撤退を呼びかけてきました!」
そのタイミングで高町達が俺の元へと降り立つ。
俺の眼下に広がる抉れた大地……あんなもの、何度も来られたら一溜りも無い。
『あの図体からは想像もつかねぇ程の速さで噛み付いて来やがったな……』
「はい……一瞬だったっス……気付いたら目の前にあいつの頭があって……それでオレの両側にいたこの人達抱えて跳躍したんスよ」
そう話すアルカの隣で、俺は逃げ惑うようにこちらへと撤退してくる北部の討伐師達の姿を見ていた。
そして俺は顔を上げて馬鹿にデケぇ亀の頭に向けて手を翳しながら高町達に指示を出す。
『誰か、本部に連絡し、この事を伝えろ!高町、ハラオウン、アルカは現在撤退中の北部の奴らを守れ!ついでに禍憑達の排除もな!ミランダはガラン・ハイムに戻ってこの事を報せ、何時でも首都へ撤退出来るよう伝えてこい!』
「了解しました!」
「了解っス!」
「「了解です!」」
「了解!」
それぞれに返事をし、そして直ぐに動き出した高町達を見送り、俺は翳していた手に力を込める。
『最大出力で行かせてもらう!〝
そうして俺の手から放たれた法術による砲撃は真っ直ぐに奴の頭目掛けて飛んでゆく。
だが────
『────!!?』
〝崩天撃〟が奴の頭に着弾するその瞬間、そこにあったはずの奴の頭が一瞬にして消えた。
その事に俺は混乱のあまり動きを止めてしまった。
そしてその直後、少し離れた所にいた兵士が俺に駆け寄りながらこう叫んできていた。
「お逃げ下さい鴉ど────」
気付けば俺は北部砦内にある何処かの建物の中にいた。
何が起きたのか分からず視線を彷徨わせると、天井の一角に大きな穴が空いていることに気付く。
そしてその大穴を視界に捉えた時、俺の身体……特に胸元辺りに激痛が走った。
『ぐっ……ごフッ……』
咳き込んだ際に口から液体が吐き出された感触が口元や頬の肌に伝わる。
その妙な温かさから察するにどうやら俺は血を吐いたようだ。
そして痛みからか上手く動かせない身体で、どうにか頭だけを動かし自身の身体に目を向けてみると、俺の防具は戦闘服ごとその胸元が破壊されており、薄暗くてよく見えないが大きな傷を負っている事は分かった。
「鴉殿ぉぉぉ!」
砦の兵士がこちらへと駆け寄ってくる姿が薄らとだが分かる。
その兵士がこちらへと辿り着くまでの間、俺は何が起こったのかを思い返していた。
(た、確か……城壁の上にいた兵士に逃げろと言われ……咄嗟に……その場から飛び退いたのは……覚えて……いる……が……まさか……避けきれなかった……のか?だとしたら……か……掠っただけ……で……これ……とは……な……)
「か、鴉殿……胸が……胸が抉れ……」
ようやく俺の元へと辿り着いた兵士のそんな戦慄の声を聞きながら、俺は静かに意識を手放したのだった。
〈なのは視点〉
鴉さんに頼まれてフェイトちゃんと一緒に逃げている北部の討伐師さん達の護衛をしながら禍憑達の討伐をしていると、突然私達の横を大きな何かが通り過ぎるのを目撃する。
あまりの速さに反応出来なくて、そして次の瞬間には後ろの方でもの凄い音が鳴り響いていた。
そちらにゆっくりと顔を向けてみると、そこにはあの巨大な亀の頭が砦の城壁に噛み付いている光景があって……そしてその少し離れた空中には、そこから投げ出されている鴉さんの姿があった。
「鴉……さん?」
思わずそう呟く私の前で勢いよく吹き飛ばされてゆく鴉さん。
そしてその姿が城壁の影に消えた時、私は弾かれるようにそちらへと全速力で向かっていた。
「なのは?!」
「ごめんフェイトちゃん!ちょっとだけ皆をお願い!」
うるさいくらい心臓の音が聞こえてて……多分、今の私の顔はすっごく青ざめているかもしれない。
そんな私のことなんて気にする様子もなく亀は呑気に噛み付いた城壁を咀嚼していたけど、私はそれを無視して鴉さんが飛んで行ったと思われる方へと急いだ。
「亀の巨獣……その伸ばした首をまたゆっくりと縮めていきます!」
そんな兵士さんがそう報告している声も……
「討伐師達を守れ!なんとしてもだ!」
そう兵士さん達に指示を出す砦の責任者らしき男の人の声も無視して飛んでいると、ようやく鴉さんが落ちたと思わしき穴の空いた建物へと辿り着いた。
その穴から中の様子が見えて、そこには倒れている鴉さんの姿と、その隣で必死に声をかけていると思わしき兵士さんの姿があった。
「大丈夫ですか鴉さん?!」
その場に降り立ち直ぐにそう声をかける私……しかし鴉さんからの返事はなく、代わりにそばにいた兵士さんが私に向かってこう言った。
「高町殿!か、鴉殿は先程の一撃にやられ、瀕死の状態です!む、胸が抉られており……い、意識もありません!」
「〜〜〜っ!」
その言葉を聞きながらそばによると、確かに兵士さんの言う通り鴉さんの胸は大きく抉られていた。
その光景に私は思わず片手で口元を覆い絶句してしまう。
「高町殿は治療を行えますか?!そういった魔法は?!」
「ご、ごめんなさい……わ、私……戦闘系の魔法専門で……これ程の怪我を直すのは……専門外で……」
どうにか言葉を発してそう伝えると、兵士さんの表情が絶望の色に染まった。
それを見て私は悲痛な表情になってしまう。
しかしいつまでもそうしていては駄目だと直ぐに立ち直り、私は鴉さんの身体を担ごうとする。
「な、なにを……」
「ガラン・ハイムまで運びます……そこに行けばシャマルさんが何とかしてくれるはずです!」
「し、しかし……いくら高町殿といえど流石に鴉殿を運ぶ事は……」
「だったら手伝って下さい!」
いつまでもオロオロしている兵士さんに私は思わず声を荒らげてしまう。
そんな私に怒られたからか、ようやく兵士さんは正気を取り戻したようで鴉さんの身体を背負おうとして、でもその途中で手を止めた。
「何をしてるんですか?!」
「だ、駄目だ……今気付いたのですが……胸骨や肋骨までやられていて……このまま担いだり背負ったりしようとすれば心臓や肺が……」
「────っ!」
確かにそうだ……支えるものが無かったら内臓が落ちて鴉さんは助からなくなってしまう。
(どうしよう……どうすれば……)
「……こちら北部砦のバルモット二等兵です!至急、軍用救護車一台を送って……え?なに?ガラン・ハイムでも負傷者が出て?こっちは鴉殿が瀕死の重傷で今にも死にそうなんですよ?!」
どうすれば鴉さんを安全に運べるのか考える私の隣では兵士さんが多分ガラン・ハイムの兵士さんに連絡を取っていた。
しかし内容を聞くにどうやら向こうでも怪我人が出てるみたい……だからこちらに車を送る事が出来ない様子だった。
けれど兵士さんの言う通りこのままだと鴉さんが……。
打つ手もなく私と兵士さんが愕然としていると、不意に視界の端から一つの手がヌッと現れた。
その事に私が驚いて顔を上げると、そこに居たのは────