魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
まったく酷い目に遭った……。
あの後、執務室へと連行された私は大量の書類整理をしながらカゲヒサ達からこれでもかと説教を食らっていた。
書類の数は膨大で、なんやかんやで夜までかかってしまった。
昼食すら食べさせて貰えなかったが、一番精神に来たのは腹を好かせている私の前で平然とカゲヒサが昼食を取っていた事だ。
本当に見せつけるようにして食べていたな……。
「うぅ……やっと終わったぁ……」
疲労と空腹によりフラフラと食卓へと入ってきた私にカゲヒサが呆れ顔で声をかけてくる。
「三ヶ月もの間音沙汰もなく不在にしてたんですから、当然の報いでしょうよ。あぁそれと、リサンデラ総統閣下が後で連絡が欲しいと言ってしましたよ。連絡入れてきてください」
「私はお腹が空いて仕方が無いのだが?!」
「リサンデラ総統閣下がこの屋敷にアポ無し訪問して来てから更に二ヶ月も待たせてんだからさっさと連絡入れてこい」
「うぅ……カゲヒサが酷いよぅ……これが反抗期というやつか……」
「デイモンさん、縄の用意を。師匠がリサンデラ総統閣下に連絡入れるまで椅子に縛り付けておいて下さい」
「既に用意しておりますれば」
「分かった分かった!入れてくれば良いんだろう?だからその構えた縄を下ろせ!」
縄を構えながらジリジリと寄ってくるデイモンを手で制しながら、私は逃げるようにして電話をしに向かう。
それをキョトンとした様子で向けてくるリアの視線が地味に刺さった。
「どうしてヴァローナ義母様をいじめてるの?」
「リア、師匠はね?お仕事サボってたから、これは当然の仕打ちなんだよ」
「そうなの?ヴァローナ義母様、お仕事サボっちゃめー、だよ?」
「うぅ……」
リアの言葉に更に地味なダメージを負いつつ電話をしに向かう……それから数分の間、リサンデラの説教じみた通話をする羽目になった。
もうやめて!私の体力は既にマイナスよ!
そうして再び私が戻ってきたことでようやくリアへの〝ようこそパーティー〟が開かれる事となった。
あの後リアは我が家のメイド達によって可愛く着飾られたらしく、その角と尻尾さえもリボンで可愛らしく飾られている。
「ヴァローナ義母様、リア可愛い?」
「可愛いよリア。まるで竜のお姫様のようだ」
「お姫様……えへへ……////」
あれからリアは本当によく笑みを浮かべるようになった。
その事をヴェイロン殿も本当に嬉しそうな様子で、時折涙を浮かべていた時もあったな。
ちなみにリアは妹がいるようだが上の兄弟はおらず、だからなのかカゲヒサに相当懐いている様子だった。
今もカゲヒサの元に戻ってはその膝の上に可愛らしく乗って、カゲヒサと〝あ〜ん〟をし合っている。
なるほど……これが〝
「本当に……今日出会ったばかりだと言うのに、実の兄妹のようでありますな」
デイモンが表情を綻ばせながらそう話す。
「あぁ、私も本当にそう思うよ」
「昔から禍憑人は忌避の対象で御座いました……しかし、リアお嬢様を見ていると必ずしもそうでは無いのだと痛感させられます」
「何事も環境次第という事だ。ドラキュリアス家では使用人の一部が酷く扱っていただけで当主やその他の使用人達はそうではなかった。それだけが唯一の救いであったな」
「ちなみにその酷く扱っていたとされる使用人達はどうなったのです?」
「全員追放の上で警察に連行されて行ったよ。大財閥であるドラキュリアス家の当主の事だ……大金を叩いてまで実刑に持ち込むだろうよ」
「やれやれ……敵に回しては行けないお方を敵に回したようですね。酷く辛い日々を送っていた分、リアお嬢様には当家では幸せにお過ごし頂きたいものです。我々としてもその為ならばどのような手段も厭わぬつもりに御座いますがね」
「私もどんな手を使ってでもリアを幸せにしてみせるつもりだ。それはカゲヒサも同じだろうな」
「そうでしょうな……ところでお嬢様」
「なんだい?」
「そろそろリアお嬢様をお止めしなければ、若様が吐いてしまいかねませぬ」
そう言われてカゲヒサを見てみれば、必死に笑みを浮かべてはいるがその表情は青い。
そういえばカゲヒサはどちらかと言えば少し苦味のあるスイーツの方が好みだったな。
「リア、せっかくなら私にも〝あ〜ん〟をお願いしたいのだが?」
「ヴァローナ義母様にもする」
リアはそう言うと嬉しそうにケーキを手にこちらへと駆け寄り、カゲヒサにしたのと同じように膝の上へとちょこんと座ってから私に〝あ〜ん〟をしてきた。
その入れ違いにデイモンがブラックコーヒーを手にカゲヒサへと駆け寄る。
カゲヒサは差し出されたコーヒーを感謝を述べながら受け取ると、それを一気に飲み干してからおかわりを要求していた。
いくら甘さにやられたからといえ、ブラックコーヒーを一気飲みするものじゃないぞカゲヒサよ?
「……」
そんな様子のカゲヒサを見ているとリアの手が止まっていることに気付き、見てみればリアはブラックコーヒーを飲むカゲヒサを見つめていた。
そして徐ろにケーキをテーブルへと置いて私の膝上から降りると、またカゲヒサの元へと駆け寄り彼が持っていたブラックコーヒーに目を向けていた。
何やら話をしているようだが、多分あれはコーヒーが気になったのだろう。
暫くカゲヒサは困惑した表情を浮かべていたが、恐る恐るリアにコーヒーを渡した。
それを受け取ったリアはペロッとそれを舐めては、思わず顔を顰めている。
どうやらリアには苦すぎたようだ。
それを見てカゲヒサは苦笑を浮かべてしまい、メイド達は微笑ましそうにクスクスと笑っている。
その日は笑いが絶えずしてお開きとなり、リアは私と入浴してから一緒に眠るのであった。
その日からリアは度々カゲヒサの真似をするようになった。
多分、大好きな兄と同じ事をしたい時期なのだろう。
カゲヒサが日課の早朝ランニングを行えば、リアもまた頑張って起きて用意してもらった専用のトレーニングウェアに着替えてランニングをし、カゲヒサが昼寝をしていれば寄り添うように添い寝をし、法術の勉強をしていれば一緒になって勉強をする。
勉強中はちょくちょくカゲヒサに教えて貰っているのも微笑ましい光景だろう。
問題を解く度にカゲヒサに頭を撫でられ褒められるのがリアは大好きになったようだ。
この頃からリアは屋敷の者達の手伝いもするようになり、使用人達は邪険にせずに簡単なお手伝いをお願いするようになった。
リアも嬉しそうにお手伝いをしており、ご褒美にお菓子を貰うというのも我が家の日常になりつつあった。
それから更にひと月が経った頃からはようやく我が家に慣れてきたという事で禍憑の力を制御する為の訓練を始めることになった。
そこで分かった事なのだが、リアは私やカゲヒサのように放出系の法術が得意ではなく、どちらかと言えば身体強化系の法術が得意であるようだ。
よってその方面で訓練を行うことになったのだが、リア自身なかなかイメージが出来ないようで苦労していた。
そこで助け舟になったのがそれを観察していたカゲヒサの一言だった。
「竜の禍憑なら、竜の特性をイメージすれば良いんじゃないですかね?」
カゲヒサの言うには竜の爪を出したり、竜の翼で空を飛んだりなどというものであった。
これならばもしかしたら〝竜の息吹〟として放出系の法術も使えるのではないかとの事だったが、これが実はバッチリとはまった。
まだ拙いながらもリアは竜の爪で的を引っ掻いたり、尻尾を強化して攻撃したりなどの法術が使えるようになった。
そしてその最中にちょっとしたトラブルが起こる。
訓練をしたことで禍憑の力が増したからなのか、ある日突然リアの背中……というより腰付近から勢いよく竜の翼が飛び出すようにして生えた。
そのせいで来ていたトレーニングウェアが破け背中が顕になってしまった。
カゲヒサは思わず顔を背けたのだが、ある事に気づいたのかまた視線をリアの背中へと向ける。
服が破けたことにより思わず恥ずかしさで蹲ってしまったリアに駆け寄ると、その背中を凝視して次の瞬間には空気が重くなるほどの怒りを滲ませていた。
何事かと思い駆け寄ってみると、リアの背中には酷い火傷の痕があった。
その痕から察するにどうやらドラキュリアス家にいた頃に付けられたものらしく、つけた犯人は当然あの時のメイド長だろう。
そういえばあの時は背中を確認せずにいた……そのせいで見逃してしまったのだろう。
ちなみにカゲヒサ達にはリアが酷く辛い目に遭っていたとだけしか伝えておらず、具体的にどのような仕打ちをされていたのかについては話していなかった。
だからこそリアの背中に付けられた痛々しい火傷の痕を見たカゲヒサは怒りが抑えられないのだろう。
しかしカゲヒサはその痕で全てを察したらしく、何も言わずにその火傷の痕を法術で綺麗に消し去っていた。
リアもその事を理解したのだろう……驚いた表情でカゲヒサへと振り返ると、次第にその目に涙を浮かべ始める。
カゲヒサはそんなリアを抱き寄せると、優しい声で彼女にこう言った。
「今までよく頑張って耐えてきたな……偉いぞ」
その言葉でリアの涙腺は崩壊し、カゲヒサの身体に顔を埋めながら声を押し殺して泣いていた。
そんなリアの頭を優しく撫でながら、カゲヒサは低く重い声音で私に問う。
「師匠……リアにこんな事をした奴は?」
「既に当主によって今頃は牢獄暮らしをしている頃だろうよ」
「そうか……ところでそいつらがいるらしい方角って?」
「……?あっちの方だと思うが?」
「了解」
カゲヒサはそれどけ言うと私が指差した方向へと人差し指と中指を揃えて伸ばした手を向けてその先端に力を込める。
そして銃を撃つ様にしてその力の塊を飛ばすと、満足した様子でまたリアの頭を撫で始めた。
「何をしたんだ?」
「リアにこんな事をした奴にちょっとした祟りをね」
「祟りってお前……いったいどんな祟りをかけたんだ」
「外を出歩けば必ずフン塗れになり、室内にいても何かしらの理由でビショ濡れになる祟り」
「じ、地味に嫌な祟りだなそれは……」
その後、とある監獄では毎日外ではフン塗れになり、中では常にビショ濡れになる囚人が現れたそうだが、まぁ私達には関係の無い話だろう────という事にしておこう……。