魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
『……つーわけで、このアーケロス・タイタノクス、略してタイタノクスはナマケモノよろしくエネルギーの節約の為に山に擬態して動かずして捕食行為をしていたが、餌の枯渇によって、より豊富な餌場を求めてここまで来たとの推測が出来たという訳だ』
現在、ガラン・ハイムの大広場にて私達は集められ、そこで兄様が前に立ってあの巨獣についての説明をしている所だった。
〝泰山鳴動アーケロス・タイタノクス〟と名付けられたあの巨獣は禍憑となった際に急速な巨大化によって身体が追いつかず、ナマケモノのようにあまり動かない存在となったらしく、しかし今回私達の前に姿を現したのは新たな餌場を求めての事らしい。
そういえば私はミナを庇った事で瓦礫が頭に当たって気を失っていたけれど、シャマルさんのお陰で一命は取り留めた。
後遺症も無く、記憶についても問題ないのは幸いだったけれど、目が覚めた時にミナから思いっきり説教されたのは良い思い出だろう。
その際に兄様も瀕死の重傷を負って運び込まれたと聞いていたけれど、今の兄様の様子を見るに今は大丈夫な様子だった。
あまり無茶はして欲しくは無いけれど、それでも我先に動いてしまうのだろうな……。
さて、話はタイタノクスの説明からいよいよその討伐の作戦へと移った。
『最初、俺は補給源を絶とうと樹海群に潜む禍憑達の討伐を計画したが、餌場を求めてここまで来たのであればそれは悪手になると判断した。もし樹海群の禍憑達を掃討した場合、奴がまた餌場を求めて動き出す可能性があったからだ。ではどうするか?簡単だ、餌場を求めてここまで来たってんなら奴に思う存分餌を与え続けりゃ良い』
「鴉殿、その餌についてはどうするおつもりで?」
『禍憑が人間や他の生物を襲い捕食するのは、その体内にある氣を摂取する為だと言われている。ならばそれを餌に樹海群の禍憑達を誘い出せば良い。タイタノクスの目の前に来るようにな』
「それだとタイタノクスが先に動き出しませんか?」
『いや、今のところその可能性は限りなく低い』
「その根拠は?」
『皆を集める前の事なんだが、奴の様子を確認していた際、背後の方で彷徨く禍憑達に反応する様子は無かった。ただ目の前に来た禍憑を捕食するだけだった。つまり今の奴の状態はガス欠寸前の車見てぇなもんだって事だ』
「つまり体内のエネルギー量が限りなく少ないという事ですか?」
『そういう事だ。奴は今、辛うじて目の前に来た餌を捕食する為だけのエネルギーしか残ってねぇんだろう。それを確保する為にあえて動かずにいるって訳だ』
「な、なるほど!それによってタイタノクスが動くことなく他の禍憑を誘き寄せられるという事ですね!」
『そういう事だ。無限に目の前に湧いて出てくる餌に奴は夢中になるだろう……その時が攻め時だ。樹海群の禍憑が尽きるまでの間、奴がそれに夢中になってる間に奴を今出せる総戦力で叩く』
兄様はそう言いながら自身の片方の拳をもう片方の手のひらに叩く。
『極東の島国であるヤマトにて伝わる英雄譚……かつての英雄が八つの首を持つ巨獣を酒で誘き寄せ、それに夢中になってる隙にその首を斬って落としたという逸話から取ってこの作戦名を〝
『はっ!』
『最後に今回手伝いに来てくれた者達についてだが、お前さん達については首都まで撤退する事になった。ここまで協力ありがとうさん。だがここからはお前さん達を巻き込む訳には行かねぇんでな。直ぐに帰還の準備を整えて欲しい』
その言葉に手伝いに来ていた人達から安堵の声が溢れる。
しかし私はどうしてもここを離れる気にはならなかった。
なので……。
『それでは解散!』
兄様の言葉でその場にいた人達がそれぞれに動く中、私は兄様の元へと行き声をかけた。
「に……鴉さん」
『どうした、何か質問か?帰還用の車両については今迅速に準備させている所だ。なので時間については遅く見積っても夕方頃になるだろう』
「いえ、違います。あの、鴉さん……私も一緒に戦わせてくれませんか?」
『────?!』
「ちょっ、リア、あんた何言ってんの?!」
私の言葉に兄様は顔を上げ、ミナは目を見開きながら私にそう言ってきた。
『正気か?何かの
「正気ですし冗談でもありません。私も一緒に戦いたいんです」
『これは遊びでも学園の訓練でもねぇ。列記とした戦場だ。つまり一瞬の油断で簡単に死ねる場所って事だ。まだ討伐師でもねぇヒヨっ子が踏み込んでいい場所じゃねぇぞ?』
かつて私はこのように兄様から怒られた事がある。
それはヴァローナ義母様から稽古を受けていた頃に、こっそり一人で力を使った際に危うく暴走しかけて怪我を負った事があった。
その時の兄様は烈火のごとく私を叱りつけた。
それは駄目だと言われていた事をしたのもそうだけど、何より自分の身体を、命を軽んじた事による叱責だった。
あの頃はまだ幼かったので何故怒られたのか分からずただ〝優しい兄様から怒られた〟という事実しか受け止められていなかったが、今ならそれが理由だったと理解出来ている。
だから今目の前にいる兄様がどれだけ私のことを想ってこのような言葉をかけているのか理解出来ていたが、それでも私にも引けないという想いがある。
「分かっております」
『ならさっさと荷物まとめて首都へ戻れ。話は以上だ』
そう言ってその場から去ろうとする兄様の後ろ姿を真っ直ぐに見据えながら、私はその背に向かってこう言い放った。
「そうやって……そうやってまた私を一人置いて行くのですか?」
『あ?』
「またあの時のように私を置いていくのですか、兄様!」
「え……?」
「なっ……!」
『────っ、お前……』
私の言葉に兄様はもちろん、ミナや総統閣下を含めたその場にいた人達全員が動きを止めこちらに注目する。
そして堪えた涙で視界が滲む中でも私は兄様を真っ直ぐに見据えながら更にこう続けた。
「私はもう二度と、あのような辛さを、無力感を味わいたくは無いんです兄様……」
先程の言葉は聴き間違いではなかったのだと理解した周囲の人達からざわめく声が上がり始める。
ミナ達は頻りに私と兄様を交互に見渡し、タカマチさん達は〝どういうこと?〟と他の方達と顔を見合せている。
そんな中でも兄様と総統閣下、そしてダリルさんだけは動じる事なく私を見ていた。
『いつから気付いていた?』
「……っ」
今まで聞いた事のない低い声音に思わず息が詰まりそうになる。
「兄様がニュースで取り上げられるようになってから……最初は雰囲気が似ているなってだけで、確信したのは〝
『迦楼羅炎は炎系法術では中級レベル……つまり炎系法術を得意としてる奴らなら誰だって使う法術だ。それだけで俺だと確信出来たのか?』
え?あれ?
もしかして兄様は気付いていない?
「だって兄様の使う迦楼羅炎はまるで鳳が舞うようなものですから」
「あ〜確かに」
私の言葉にそう反応したのはタカマチさんだった。
「迦楼羅炎……でしたっけ?他の討伐師の方のを見たんですけど、鴉さんのと比べると他の方達のは鷹みたいな感じでしたね」
「鴉殿のは正に鳳凰……同じ中級法術でも使い手によってこれ程威力の差があるのかと思い知らされましたよ」
『……』
「それに兄様は仮面を被り、声も変えているので気付かれていないと思っているでしょうけど、昔から話し方に癖があるんです」
『話し方……それは……気にしていなかったな……いや、でも、似たような話し方をする奴は他にいくらでも……』
「だとしてもあの独特な例え方をするのは兄様以外におりませんし私は知りません」
その直後、それまで静観していた総統閣下が高らかに笑い出す。
「はっはっはっ!いやはや、ここまで気取られておるならば今更に誤魔化そうとも誤魔化しきれんだろう鴉よ」
「やはり総統閣下も知っておられたのですね?」
「当然だ。何せこやつに〝鴉〟と名乗りその正体を隠すよう命じたのは他でもない我だからな。ふむ……しかしそうなると、このまま解散させては他の者達が気になって作業に集中出来んだろうな」
総統閣下はそう話すと立ち上がり、兄様の隣へと立って私達に向けてこう言い放った。
「聞け皆の者!ここにいる鴉は本名を〝
その言葉に私以外の方達からどよめきと驚愕の声が上がる。
「しかしてこれを公にする事は許さぬ!つまりは他言無用だ!もし何処からかこれが漏れたと判ればその時は我が凡ゆる権力を持ってしてこれの対処を行わせて貰う!皆、分かったな?」
そう話す総統閣下の目は鋭く恐ろしいもので、それを聞いた全員が無言で何度も頷いていた。
そして総統閣下はそれを見て満足そうな表情をした後、今度は私の前に来て軽くではあったが頭を下げてきた。
「すまなかったアメリアよ。しかし景久とて刻が来ればお主にその正体を明かす気ではあったのだ」
「はい……その辺りの事も、ちゃんと理解しております。すみません……私も義母様と同じ特級討伐師になってから兄様に会いに行こうと思っていたのですが、感情が抑えきれず……」
「力になりたいという思いを真っ向から否定されれば憤りも感じるであろうよ。そこは景久の悪手であったな。のう、景久よ?」
『ノーコメントで……』
兄様は先程から顔を背けたままでこちらを見ようとしていない。
なんだかそれがまるで拒まれているようで私は悲しくなる。
「あの……兄様……怒っていますか?」
『いや、怒ってねぇよ。一緒に戦いてぇって言ってくれんのは嬉しいが、だとしてもやはり討伐師でもねぇ奴を戦地に送ることは出来ん』
「ならば一度実力を見て決めるというのはどうだ?それならばアメリアめも納得するものがあるだろうよ」
不意にそんな助け舟を総統閣下が出してくれる。
兄様は暫く悩んでいたが、やがて大きなため息を吐くと私に手招きをした。
『来い。俺が自ら確かめてやる』
つまり兄様に実力を見せることが出来れば一緒に戦える……そんな浮き足立ちそうな私に総統閣下がその顔を私の耳元へと寄せてこう話す。
「ここで実力を示すことが出来ねば、特級討伐師も夢のまた夢になるぞ」
「……頑張ります」
「そう強ばるな。お主もまたヴァローナの弟子だと、景久めに知らしめてやるが良い」
こうして私は兄様にその実力を確認して貰うことになった。
しかしどのようにして実力を確かめるつもりなのだろう?
そんな私の疑問は兄様に連れられた先で判明する事になる。
そこは北部砦とは反対の……首都側の門から出て少し離れた場所。
そこに私を連れて来た兄様は少し離れ、そして私と対面してこう言った。
『時間は一時間、何でもあり、その他制限無し。さぁ、どっからでもかかって来い』
それは今から兄様と戦うという合図であった。