魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
〈景久視点〉
(もう起き上がんじゃねぇ……)
リアの友人達からの声援によるものか、一度は気を失ったはずのリアの身体が動いた。
それを確認した俺は直ぐにその身体を蹴り飛ばし、城壁へと叩き付けた。
リアの身体はズルリと落下し地面に激突……そしてそのまま動くことは無かった。
(チッ……ここまでやる気は無かったはずなんだが)
俺と共に戦いたいとリアが言い出した時は正直嬉しかった。
だが禍憑との戦闘は想像以上に厳しく過酷で、つい数分前に談笑していた奴が平然と地面に転がってるか、禍憑に食い荒らされているかのどちらかが日常茶飯事なものだ。
リアはまだ学生……討伐師ですらなく、故にこれから更に成長するであろう立場だ。
こんな所で死ぬような奴ではない。
ましてや今回の相手は今まで確認されていた巨獣達をもはるかに凌ぐ超巨大な存在だ。
最悪、俺ですら死ぬかもしれないと思った相手だ。
そんな奴を相手に未熟なリアが生き残れるはずが無い……だからここで強制退場させる。
完膚無きまでに叩き潰し、無理矢理首都に送り返す。
これで負った怪我についてはシャマル殿に治療をして貰えば良いだろうし、そうでなくとも首都に着けば治癒法術を使える奴らがいる。
だから死なない程度に終わらそうと思っていたのに……だと言うのに……。
(何故……何故お前は立ち上がる?なんで立ち上がってくる?)
俺の目の前でフラつきながらも立ち上がるリア。
明らかに満身創痍……だと言うのにリアの目は未だ諦めずなおも食らいつこうと考えている目であった。
『死ぬぞ?』
「そうかもしれません……ですが、そう簡単に死んでなんかあげません」
『諦めの悪さなら一人前だな』
「義母様の子で兄様の義妹ですから」
そう言ってニッコリを笑みを浮かべるリア。
分からない……分からない……なんでそんな笑顔を浮かべられているのか分からない。
なんで俺を忌み嫌わないのか分からない。
俺はお前をそこまで追い込んでるんだぞ?
恨みのひとつでも言われて当然の仕打ちだ。
なのに何故……何故お前は俺を責ようとしない?
何故お前はそうやって未だに〝勝つ〟という顔をしていられる?
『もう諦めろ。これ以上続けても無駄だ』
「残念ですが私は無駄だとは思っていません」
『後悔することになるとしてもか?』
「クスッ……」
『何故笑う?』
まるで俺の言葉が可笑しいとでも言うようにクスクスと笑い始めるリアに俺は訝しげな表情となる。
するとリアはこんな事を口にし始めた。
「いえ……懐かしい事を思い出しまして」
『懐かしいこと?』
「昔、兄様が義母様に〝まだ無理だ〟と言われていた法術を試そうとして何度も失敗していた事がありましたよね?」
『……あったな』
「その時、私は兄様にこう聞いたのを覚えてますか?〝どうして無理だと分かってるのにやるのか?後悔したりしないのか?〟って……そしたら兄様はなんて言ったか覚えてます?」
『……』
「〝どうせ後悔するなら、やらないで後悔するよりやって後悔する方がマシだろ?〟って言ったんですよ?なら私もやらずして後悔するよりやって後悔しようと思います」
『………………………………………………くはっ』
リアの言葉に俺は思わず笑う。
『クハハハハ!なるほど、〝やらずして後悔するよりやって後悔〟か!ハハハハ!なるほどなるほど……こいつァ一本取られたな』
笑ったからだろうか……それまでの殺伐としていた心が綺麗さっぱり消え失せたような気がする。
まさか……かつて俺が口にしていた言葉をそっくりそのまま返されるとは思いもしなかったな。
『分かった。ならばここからは情け容赦はしない。本気でお前を叩き潰す。再起不能になったとしても恨むなよ?』
「その時は未熟な私自身を恨みます。ですが、生憎とそうなる予定はございません」
リアは力強くそう言い放つと、俺に向かって不敵な笑みを浮かべていた。
〈アメリア視点〉
身体中が痛い……けれど心は全く折れてはいない。
酷いダメージのせいで身体が思うように動かせない……けれど、だからと言って諦めるつもりは毛頭無い。
私は一旦深呼吸をすると、笑みを浮かべながら兄様にこう言った。
「兄様……私は兄様から見たら全然未熟者かもしれません。ですが、この気持ちは、この想いは決して誰にも負けないという自負があります。ですから今からその想いを兄様に全力でぶつけます。もちろん、受けて下さいますよね?」
その言葉に兄様はキョトンとしていたが、直ぐにその場で構えを取った。
「もう少しだけ兄様に挑みたかったけれど、残念ながらこれが最後になります。この最後の一撃に全てを込めます。行きますよ兄様?避けられるものなら避けて下さいね♪︎」
そうして私は思いっきり息を吸い込む。
あの屋敷で一人、こっそりと練習し続けていた技……。
屋敷の人達から無茶だと言われても、決して練習を止めなかった技……。
この技に私の全てを込めて兄様に放つ!
「〝
開いた口元に力を集め、徐々に球体を象ってゆく炎熱。
まだ最大にまで至るまでに時間はかかるけれど、それでも今の想いを全力でぶつける為にはこれしか無い。
「〝
この時点で兄様もこの技のヤバさを理解したのだろう……自身の前に何枚もの法術の障壁を展開し始める。
そして今出せる最大火力まで集束したそれを、私は兄様目掛けて撃ち放った。
「
そうして放たれた
〈景久視点〉
〝避けられるなら避けてみろ〟と言って力を込め始めるリアを見ながら、俺はその様子を冷静に観察した。
(口元に力を集め始めた……竜の特性の一つである〝息吹〟を放つつもりか?)
息吹ならば幾らでも対応の仕様がある……が、問題はどのような息吹なのかだ。
炎であれば広範囲に及ぶ放射系だが、あまり飛距離は出ないので避ける事は可能だろう。
逆に光線系であれば威力と範囲は劣るも速さと飛距離が優れている。
これは障壁で防いでやれば済む話だ。
(とは言え油断は出来んからな……先ずはしっかりと観察してから判断を────ん?)
「〝核熱〟……〝竜爆〟……」
徐々に集束してゆくそれを見た時、俺は無意識のうちに数枚の法術による障壁を展開していた。
(何故かは知らんが、あれは不味い!息吹なんて生易しいもんじゃねぇ!)
今のところ五枚ほど展開はしたが、それでも不足に感じるほどの力の塊。
そしてリアは十分にチャージを終えたのか、その力の塊を俺に向けて放った。
「〝撃砲〟!!」
『────!!』
それは予想通り息吹なんてレベルのものでは無かった。
全てを破壊し焼き尽くし消し去る一撃。
展開していた五枚の障壁のうち四枚は容易く砕かれ、残る一枚に俺は全力を込めてリアの砲撃を受け止める。
(チッ……四枚も砕いただけでも脅威だってぇのに、威力が全く落ちてねぇだなんて脅威どころじゃねぇ。これは受け止め続けるのは不味いか?)
ある程度のタイミングで避けた方が良いだろうと判断した俺は足に力を込める。
しかし横へと飛ぼうとしたタイミングで俺はある事に気づいた……いや、気づいてしまった。
(おいおい……まさか……)
そう思いリアを見ると、リアはこちらを見て不敵にほくそ笑んだ。
(やられた────)
リアの言う〝避けられるものなら避けてみろ〟という言葉は、〝超高速の強大な一撃を放つから避けてみせろ〟という意味ではなく、〝避けたらどうなるか分かっているよね?〟という意味合いであったことに気付いた俺は心の中で〝ちくしょう〟と悪態をついた。
これは避けようと思えば避けられる……俺ならそう難しくは無いだろう。
しかしこの威力と速さから察するに、俺が避けたとしてもこの一撃は先の方まで飛んでゆくだろう。
その先には何があるのか……それは他でもない首都だ。
つまりリアは俺の位置の延長線上に首都がある事を理解した上でこの一撃を放ってきたのである。
(はっ!血が繋がってねぇってのに、紛うことなき兄妹だよ俺達は!)
どれだけ満身創痍であっても、どれだけ追い込まれようとも決して冷静さを失わない。
そしてその冷静さで状況をしっかりと把握する。
まったく……我が義妹ながら末恐ろしい奴だ。
しかしこうなってくると非常に不味い状況だ……このまま防ぎ続けても駄目、避けても駄目、こうなりゃ逸らすしか道はないか。
そう判断した俺はリアの砲撃を上空へと逸らすために障壁を斜めに傾けようとした。
しかし────
(ククッ……一ミリも動かせやしねぇ)
リアの砲撃の威力があまりにも強過ぎて障壁を動かす事が出来ない。
まるで至近距離で高圧力の放水を食らってるかのようだった。
(仕方ねぇ……出来るかどうか分からんが、消し飛ばすしかねぇ)
そうして俺が思い至ったのがリアの砲撃を相殺する事だった。
俺は左手で障壁を維持しながら右手にありったけの氣を集め始める。
そして障壁を消すと同時に今度はその右手で砲撃を抑え込みながら空いた左手に右手同様氣を集める。
最終的に両手でリアの砲撃を抑え込み始めた俺は、そのまま周囲の氣を集め取り込みながらそれらを全て両手に込める。
そして両手で一斗缶を潰すイメージでリアの砲撃を抑え込み続けるも、その余波で仮面にヒビが入り、戦闘服も破れ始める。
(いい加減……消し飛びやがれ!!)
バァ────ン!!!!
けたたましい爆発音と共に消し飛ぶリアの砲撃……それに対し安堵したのも束の間────
リアの砲撃が消し飛んだ直後に目の前に爪を振り上げこちらに飛びかかってくるリアの姿があった。
『────!!?』
「隙ありです兄様!」
(おいおいマジかよ……まさかあの砲撃の中を突っ込んできたってぇのか?)
リアは先程の砲撃に〝核熱〟という文字を付けていた……もしその文字の通りであれば普通ならばその中に身を投じればその熱で一瞬で灰も残らず消えていてもおかしくは無いはずだ。
(いったいどんなトリックを使いやがった?)
そう思いリアの身体をよく見てみると、淡くだが氣の膜が彼女を覆っているのが分かった。
『まさか……氣を纏ってあの熱を防いだってのか?!』
「流石です兄様」
そうしてリアはその爪を俺へと目掛けて振り下ろした。
あまりの展開に対応が遅れた俺は防御が間に合わず、されどギリギリでその爪を避けた。
カツン……
そんな音と共に俺の仮面が外れ、地面へと投げ出される。
避けることは避けたが、爪の切っ先が仮面に掠っていたのかもしれない。
だが避けた。
そして俺は
「流石に避けられますよね……」
「当たり前だ。耐えて見せろ……リア」
そうして俺は拳に力を込め、それをリアの腹部に捩じ込む。
「〝乖離崩天撃〟」
これは法術では無い……氣を用いた近接徒手空拳だ。
しかしもはや余力すら残っていなかったリアに防ぐ手段はとうに無く、それを受けたリアはそのまま気を失い崩れ落ちる。
俺はそんなリアの身体を優しく受け止めたのだが、その際にリアの口からこんな言葉が聞こえてきた。
「悔しいなぁ……」
その言葉を最後にリアはそれ以上何も言わなかった。
ただ〝すぅすぅ〟という寝息だけが聞こえてくる。
俺は腕の中でリアの体勢を直しながら抱き抱えると、そのままゆっくりと地面の上に座り込んだ。
「な〜にが〝悔しいなぁ〟だよ……俺をここまで追い込みやがって。これじゃあ認めざるをえねぇだろうがよ」
俺の腕の中で幸せそうな笑みで眠るリアに俺は完全に負けたような気がした。
〝試合に勝って勝負に負ける〟ってぇのはこの事だろうなと、心からそう思えた。
「お〜い、誰かシャマル殿を連れてきてくれ。こいつを治療してやらんと戦えんだろうが」
城壁に向かってそう言い放つと、それを聞いた兵士達から歓声が上がる。
どうやらいつの間にかリアを応援していたようだ。
まったく……これだと俺が悪者になったみたいで罪悪感に苛まれるだろうが。
そうして暫く待つとシャマル殿が兵士達と共に駆けつけ、俺は彼女にリアを任せた。
それと同時に何者かが俺に落ちていた仮面を渡してくる。
それを受け取った俺は仮面を付け直していると、その人物は笑みを浮かべながら声をかけてくる。
「今回はしてやられる事ばかりであったな。どうだ?可愛い妹にしてやられる気分は?」
「最高に最悪だよ……って、あーあー変声機がイカれてらぁ」
よく見れば視界にもノイズが入り、逆に目が悪くなりそうになっていた。
「幸いにも機械に詳しい者もいるのでな、その者に直してもらえば良かろう」
「そうさせて貰うよ。それで総統閣下から見てリアはどうだった?」
「まだ学生を戦いに出すなどと文句を言われそうではあるが、我としては文句無しといった所だな。とは言ってもまだ及第点という意味だがな」
「まぁそうだろうな……なので参加させてもいいが、極力前には出さんぞ」
「構わん。それにしても困ったな……」
「なにが?」
「アメリアを参加させるとなると、必然的に彼女の友人達も参加の意を示すかもしれん」
「そうなりゃ実力を確認して、リアと共に行動させればいいだけの話だろ」
「ほぅ……てっきり認めないと思っていたのだが?」
「〝三人寄れば文殊の知恵〟ってな……いや、この場合は〝三本の矢〟か?とにかく一人一人は未熟だろうが、協力し合えば一人前かそれ以上の実力を出せるだろうさ」
「フッ……お前、どうやら吹っ切れたようだな?」
「まぁあれだけ全力で兄妹喧嘩すればな」
「兄妹喧嘩ときたか」
「あぁ喧嘩だよ……ある意味な」
「そうか……まぁそういう事にしておこう。さて、お前もさっさと身支度を整えて来い。改めて作戦会議をせねばならんからな」
「へぃへぃそうさせて頂きますよ」
そうして俺は仮面の修理と着替えの為に戻るのであった。
ちなみに高町達やリアの友人達から何かしら文句を言われそうだったので、見つからないようコソコソしていたのは我ながら情けない姿だと思ったのはここだけの話である。