魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
生き物が酷く焼けた臭いが漂う中、俺は無惨にも横たわる女性の身体を抱き寄せながら声にならない声で慟哭していた。
その日はリサンデラ総統閣下からの勅命で国内に現れた超大型の禍憑……通称〝巨獣〟の討伐を行う日であった。
寂しさを堪えながらも見送るリアを背に出立した俺と師匠は、現地で他に協力要請を受けて来た討伐師達と合流し、対巨獣作戦を練って討伐を迎えた。
巨獣は事前に貰っていた情報よりも遥かに大きく、見解では目撃されてからも他の禍憑を捕食して更に成長していたのではないかというものであった。
その事には納得がいった……だが、だからと言って受け入れ難いものでもあった。
「これは……ここで必ず討伐せねば、万が一逃したとあればその後の被害が計り知れんな」
もはや存在自体が大災害と言っても過言では無い巨獣の討伐とあって現地に来ていたリサンデラ総統閣下が、遠くから確認出来る巨獣の姿を見てそう呟く。
「こりゃあ、更に増援を要請した方が良いんじゃないですかね?」
「やはり貴様もそう思うか?安心しろ、既に要請は済ませているし、そもそも事前にこの可能性も考えて準備させておったわ。連絡した際は直ぐに出立すると言っていたのでな、そう時間もかけずに着くであろうよ」
流石は若くして総統となった方だ……あまりにも仕事が早すぎる。
リサンデラ総統閣下の、頼もしい一面を垣間見たという事で俺達は一斉に巨獣へと立ち向かった。
巨獣との戦いは正に死戦だった。
その巨体に討伐師達は次々に倒れ、食われ、中には無惨にも踏み潰された奴までいた。
しかも今回の巨獣は〝
しかも突進の際の速度が異常に速く、時速180kmは出ているのではないかという程で、その突進を受けた討伐師は身体がバラバラに飛び散っていた。
しかも動く度に地面が揺れるものだからまともに踏ん張ることが出来ない。
思わずよろけてしまい、その隙に巨獣に食われる奴らも多かった。
「〝
こちらへと突進しようとしてくる巨獣に俺は法術で白色の岩壁を出すが、その突進に岩壁は脆く儚くも砕け散る。
既のところで避けれたから良いものの、まったく凶悪この上ない。
「鋼鉄製の外殻のせいで斬撃も効かねぇなんて、どうすりゃいいんでしょうねこいつぁ」
「その外殻をものともしない一撃をお見舞いしてやれば良いのだろうが……やれやれ私一人では難しいものがあるな」
「あのふざけた角、へし折って屋敷に飾ってやりてぇくらいだ」
「ふっ……そうなるとどこに飾るかで揉めそうだな」
そんな冗談を言えるくらいには俺も師匠もまだ余裕はある……が、それでもジリ貧になるまで時間の問題だろう。
「一秒でも早く決めねぇと駄目ですね」
「これは……リサンデラにとっても完全に予定外だろうな」
そう言われそちらへ目を向けてみれば、その視線の先でリサンデラ総統閣下が苦々しい表情で巨獣を睨みつけていた。
「情報が入ってからここまで成長するなんていったい誰が予測できます?もしそんな奴がいたとするなら顔を拝みてぇくらいですわ」
「私もそう思うよ。さて……可愛いリアも心配しているだろうし、ここらで勝負を決めねばならないだろうな」
師匠はそう言うと俺へと顔を向けてくる。
「カゲヒサ、今回だけ許す。思いっきりやれ」
普段は本気を出すなと言われている俺……なんでも俺はその力が強すぎる余りに本気を出せば大きな影響を与えかねない危険性があるそうだ。
なので普段は力を抑えて法術を使っていたのだが、ここに来て師匠がそういうと言う事はそこまで切羽詰まった状況にまで陥っているという事だ。
だから俺は大きく頷いてそれを了承した。
「わっかりました!それじゃあ師匠、時間稼ぎお願いします!」
「分かった。準備が出来たら合図をくれ」
そうして俺は大技を繰り出す準備を始める。
法術は無詠唱で使うとこも出来るが、詠唱をすれば更にその威力は強まる。
つまり俺が本気を出す為には詠唱が必要というわけで、それを唱え終えるまでの間、師匠に巨獣の気を引いて貰うというわけだ。
「ふーっ……〝我が放つは神の炎なり────」
「そうらこっちだ!」
俺が詠唱すると同時に師匠が巨獣の注意を引き始める。
手当り次第、法術をぶつけながら巨獣の注意が俺に向かないようにし、その隙に俺は詠唱を続けてゆく。
「〝手にするは太陽。全てを灰燼すらも残さぬ炎の檻、つまりは炎獄なり〟」
「頼むからカゲヒサに注意を向けてくれるなよ?」
「〝我、その炎を以って我が敵を焼き────」
あともう少しで詠唱が終わるという所で最悪の展開になってしまった。
俺の法術の気配を感じ取ってか、巨獣の視線が俺へと向けられていた。
お陰で俺と巨獣の視線がぶつかる。
(やべ……目が合っ────)
「詠唱を止めるなカゲヒサぁぁぁ!」
身体を襲う衝撃……目の前に降りる巨獣の脚……そして巨獣の脚が上げられた際に残された師匠の上半身……その下半身は無惨にも潰され消失していた。
「あ……あぁ……」
「え、詠唱を……ゴホッ……詠唱をつ、続けろ……カゲ……ヒサ……がフッ……がハッ……」
「あぁぁぁ!〝我、その炎を以って我が敵を焼き滅ぼさん〟!〝
その瞬間、巨獣の身体を超高温の炎が包み、その炎は鋼鉄製の外殻諸共巨獣を焼き尽くした。
それが次第に火柱へと変化し、更にその温度を増す。
その影響で周囲の木々が燃え始め、俺と師匠の身体に火傷が生じ始めるが、俺が法術による結界で巨獣を包んだ事で致命傷にはならなかった。
そして数分間巨獣は燃え続け、最後には灰も残らず消滅した。
俺は火傷により右目が痛むのを耐えながら横たわる師匠を抱き起こす。
「師匠……待ってて下さい……今……治療を……」
「よせ……もう無理……なのは……私も……理解……して……いる……」
「そんな事を言わないでください……」
「お互い……ボロボロ……ゴフッ……だな……」
「師匠……リアが待ってます……」
「そう……だな……五体満足で帰ることすら……できないような……不甲斐ない……母親だ……私は……」
「いえ……師匠は立派な母親でした……リアにとっても……そして俺にとっても……」
「ふふ……ようやくお前の口から〝母〟と聞けたな……ゴホッ……最後に……それが聞けて……良か……った……」
「師匠……」
「カゲヒサ……私の分まで……あの子の事を……頼む……」
師匠はそう言いながら俺の頬に手を寄せる。
だが数秒と経たずしてその手は力なく地面へと落ちた。
「師匠……?」
そう声をかけるも師匠からの返事は無い。
師匠はそれはそれは安らかに、そして幸せそうに、満足そうな表情で死んでいた。
俺は師匠を抱き寄せ、その手に力を込めながら震える声でこう言った。
「ねぇ師匠……俺ァあの時嬉しかったんですよ……このまま孤独に死んでゆくものだと思っていた俺を見つけてくれて……そしてここまで育ててくれて……可愛い妹も出来て……ずっとあの幸せな日々が続くものだとばかり……」
そんな事を話しても師匠は二度と返事をすることは無い……俺は駆け寄り茫然としているリサンデラ総統閣下にも気付かず天へと顔を向ける。
「────────────────────────────!!!!」
俺の声にならない慟哭は降りしきる雨の音に掻き消え、厚く重い曇天の空へと吸い込まれるのであった。
その後、師匠の遺体と共に帰還した俺は、出迎えた屋敷の人達の顔を見る事も出来ずにただただ俯いていた。
その様子にデイモンさん達は直ぐに何があったのかを察し、そして俺の隣に師匠がいないこと、その代わりに一つの棺桶が置かれた事で次第に泣き崩れる者達が現れた。
その中で未だ何があったのか理解出来ていないリアが俯く俺の顔を覗き込んで問いかけてくる。
「兄様、ヴァローナ義母様は?」
「〜〜〜〜っ!」
そう問われた時の俺の表情はなんとも酷いものだっただろう。
誤魔化すことなど出来ない……いや、リアに誤魔化すことなどしたくは無い。
俺は正直にリアに打ち明けることにした。
「し、師匠は死んだ……」
「しんだ……?ヴァローナ義母様とは、もう二度と会えないの?」
「そう……だ……」
俺の肯定の言葉にリアの目に涙が浮かんでくる。
そしてリアは俺に掴みかかるとそのまま押し倒し、凄い剣幕で俺を捲し立て始めた。
「どうして!兄様がいたのに!どうしてヴァローナ義母様は死んじゃったの!」
「巨獣から俺を庇って……師匠は俺の目の前で巨獣に踏み潰されて……」
「どうして……どうして兄様はヴァローナ義母様を助けてくれなかったの……」
その言葉に俺は頭を重い鈍器で殴られたような感覚を受けた。
何故助けられなかったのか……それは俺の力が至らなかっただけの事だ。
その事は理解していたつもりだったが、改めてリアにそう言われたことで酷く痛感させられていた。
「……」
「……嫌い」
黙る俺にリアがポツリとそう溢す。
見上げてみればリアは大粒の涙を流しながら俺を睨みつけていた。
「リア……」
「嫌い!ヴァローナ義母様を助けなかった兄様なんて嫌い!」
「リアお嬢様!」
「嫌い嫌い嫌い!皆嫌い!兄様なんてもっと嫌い!ヴァローナ義母様を助けられなかった兄様なんていなくなっちゃえばいいんだ!」
「リアお嬢様、なんて事を!」
ジャンヌが思わずそう声を上げるがリアは脇目も振らずに走り出すと、そのまま自室へと閉じこもってしまった。
屋敷の中から外まで聞こえるほどのドアをが閉められる音に、俺達は沈黙に包まれる。
「若様……酷くお疲れのようで、自室にてお休み下さい」
「そう……だな……そうするよ……」
「あの……カゲヒサ様……リアお嬢様のお言葉は本心などではなく……」
「分かっているさジャンヌ……だが今はあの子をそっとしておいてやって欲しい」
そうして屋敷の中へと入った俺はシャワーを済ませ、自室のソファーへと座る。
シャワーを浴びたからか思考はスッキリとしており、お陰で色々と考える事が出来た。
そしてそれから数日後に師匠の葬儀が行われ、埋葬前の墓地には師匠の訃報を聞いて駆け付けた者達で溢れていた。
神父による最後の言葉が終わり師匠は丁重に埋葬され、俺達は師匠の墓に手を合わせた。
その間もリアは終始無言のままで、一度として俺と目を合わせることすらしなかった。
俺も無理にそうさせようとは思わず、ジャンヌに連れられリアが去って行った師匠の墓の前にて、残っていたリサンデラ総統閣下に俺は声をかけた。
「総統閣下」
「なんだね?」
「俺を国家討伐師にして下さい」
「……別に構わぬが、貴様は国家討伐師の条件を知らん愚物ではなかろう?」
「国家討伐師になるには一級討伐師以上が条件ですよね?知ってますよそれくらい」
「ほぅ……ならば何故、そのような事を我に頼んだ?」
「二年……」
「うん?」
「たった二年で特級討伐師になってみせますよ。これは宣言じゃなく、確定事項としてね」
「確定事項だと……?」
俺の言葉にリサンデラ総統閣下は眉をひそめていたが、次第にその表情が崩れると途端に吹き出し高らかに笑い始めた。
「ぷっ……ふはははは!通常、二級討伐師になるにも三年の月日は必要であり、特級となれば更にそこから十年もの歳月が必要とされている上で、たった二年で特級討伐師になるときたか!あまり舐めてくれるなよ小僧!」
その口調に次第に怒気を含み始め、最終的に怒声を浴びせてくるリサンデラ総統閣下に、俺は怯むことなく睨み返す。
「だから確定事項だっつってんだろ?酔狂で言ってるわけじゃねぇ、あんたじゃ推し測れない程の覚悟の上で物を言ってんだこっちは」
「ほぅ……物怖じるでもなく我を睨み返すか」
リサンデラ総統閣下は暫く俺を見据えると、静かに口を開いた。
「良かろう。特例で貴様を国家討伐師にしてやろう。だが条件付きの仮の状態でだがな。正規の国家討伐師になりたくば先程言っていた通り二年で特級討伐師になって見せろ」
「あぁ、なってやるよ」
「ふむ……ならば差し当たって貴様、我の元へ来い。我の傍で鍛錬を重ね、その二年間を数多の任務を受け続ける事に費やし、流暢に遊ぶ暇すら無い日々を送るようにしろ。それも条件として加えるとしよう」
「分かった」
「ほぅ、即答か?つまりあの屋敷を出るという事だぞ?愛する妹と離れ離れになるという事だぞ?それでも良いのか?」
「構わねぇよ」
「ふっ……これも即答とはな。分かった、ならば貴様はこれより〝鴉〟と名乗れ。その名の一部に含まれており、またその右眼の火傷の痕も鴉のように見えるしな」
そう言われ俺は右眼に出来た火傷の痕を触れる。
この火傷の痕は法術で治療せずにあえて残していた自身に対する〝戒め〟だ。
無力で大切な師を失った己との訣別────
こうして俺はリサンデラ総統閣下からの条件を全て飲み、コルニクスの屋敷を出る事になった。
帰宅し必要最小限の荷物を纏め、その日の夜中の内にデイモンさん達に見送られながら屋敷を後にした。
その間もリアは俺に姿を見せることは無かったが、今となってはそれで良かったと思っている。
もしリアの姿を見てしまったらこの決意が揺らぎそうになったかもしれないのだから。
そうしてこの日を境に〝鴉丸景久〟という人物はその名も情報もリサンデラ総統閣下により削除され、新たに〝鴉〟という討伐師がデータに記録された。
そして〝鴉〟を名乗る黒いカラスの面を付けた討伐師が現れる事になるのはそれから二年後の話である。