魔法少女リリカルなのはEXCEEDS〜RAVEN and DRAGON STRIVE〜 作:ΣiGMA
ここはメディウス・ロクス連邦にある国際禍憑対策委員会と国際討伐師協会の合同庁舎────
その最上階にある総統専用執務室にて、一人の若者が総統である〝リサンデラ・ギルナスティス〟と相対していた。
「ふん、よもや本当にたった二年で特級討伐師になるとは思わぬかったわ」
偉そうにふんぞり返りながらも目の前にいる若者に心の底で褒め称えるような目を向けるリサンデラ。
対する若者もまたその態度に怒る事も、その言葉に反論することもなくただただ佇んでいる。
しかもその顔に黒色の鴉の顔を象った仮面を付けているものだから、その表情も伺うことが出来ない。
『当然だ。言っただろう?〝確定事項〟だと』
仮面にはボイスチェンジャーが内蔵されているのか、機械的な声が室内に響き渡る。
「その不遜な態度も相変わらずか。やれやれ、ヴァローナに対してのように我にももう少し温和な態度を示しても良いではないか?」
『心よりそう望んでいるのならばそうするが?』
「いや、いい。考えただけでも寒気がしてくる。貴様は今のままでいる方が我としては心地良い」
『そうか……ならばそろそろ俺をここに呼びつけた理由を聞かせて貰おうか?』
「いつもならばそう急ぐなと言うべきところではあるが、残念ながらこちらとしても事は急を要する事態でな。〝鴉〟よ、先程南西部の街べスティアにて禍憑が大量発生しているとの報告を受けた。今から向かいこれの対処へと当たれ」
『了解した。それでは向かう』
〝鴉〟と呼ばれた若者はそう言うなり一瞬にしてリサンデラの前から姿を消した。
それを見てリサンデラは先程まで鴉がいた場所を見ながら呆れ声でこう溢す。
「ふん……ヴァローナでさえ習得が叶わなかった瞬間移動の法術をこうも容易く使うとはな。ヴァローナよ、貴様の息子は貴様すら超える傑物となったぞ」
リサンデラは今は亡き親友に向けて皮肉を漏らすと、苦笑を浮かべてコーヒーに口を付けるのであった。
そのタイミングで彼女の正面……少し離れた先にあるエレベーターの到着を告げる音が鳴り、そのドアから一人の男性が姿を現した。
「おぉ、ようやく来たかダリルよ。あまりにも待たせるものだから、我はキリンにでもなってしまいそうであったぞ」
「お戯れを閣下。それに待たせたと言ってもほんの数分ではありませんか」
リサンデラの冗句に冷静に返すこの男性はリサンデラの補佐官……つまり秘書を務めている人物でその名を〝ダリル・エドウィン〟と言う。
ダリルはつかつかとリサンデラの側へと歩み寄ると、その手にあったカップを奪うようにして手に取り、そして飲み口を鼻へと近づけ匂いを嗅ぐ。
「まさかとは思いましたが、またウィスキーをコーヒーに混ぜて飲んでおりましたね?業務中に隠れての飲酒はおやめ下さいとあれ程申していたでしょう?」
「貴様が業務中の飲酒を禁止にしてくれおったからそうして飲む羽目になったのではないか」
「そもそも業務中に酒を飲むトップがいったい何処におられるのですか?」
「目の前にいるではないか」
「閣下、私はとんち比べをしている訳ではありません。やれやれ……これは秘蔵の酒すらも全て取り上げ、全ての酒場や酒屋に閣下への酒の提供を全面的に禁止にするよう掛け合う他ありませんな」
「分かった。これからは貴様の言う通りにするのでそれだけはやめよ。我から唯一の楽しみを奪うな」
誰に対しても傲岸不遜なリサンデラではあったが、唯一ダリルにだけはどうにも頭が上がらなかった。
毎度のことしてやられる事が多く、そもそもダリルはまだリサンデラが新人の国際禍憑対策委員会の職員であった時の教育係であった人物だ。
今でこそ立場は逆転してしまっているが、リサンデラにとってダリルは唯一尊敬出来る上司であった。
「やれやれ……毎晩大酒を食らって愚痴製造機になってたあの頃から変わりませんね、貴女は」
「やめよ……あの頃の事は我としては黒歴史以外の何物でもないわ」
「でしたらその黒歴史とやらを踏み台にこれからも良きリーダーとして活躍して下さい。という事で本題へと移りますが……」
「お主も淡々と業務をこなす様は相変わらずだな」
「褒め言葉として受け取らせて頂きます。それで例の件ですが、先方より引き受けてくださる旨を頂戴致しました」
「でかした!これで現状解決に大きく歩を進める事になるであろうな」
「はい、実に喜ばしい事です。それに関して向こうから二名ほど派遣されるらしく、そのサポート役が必要とのことですがいかが致しましょう?」
「たったの二名か?」
「はい。ですが、その個々が軍ひとつ程の戦力であるらしく、しいてはかつて地球という世界で二度もその危機を救った当事者達であります」
「なるほど、数に勝る質の者達ということか。ならばそのサポート役はダリルよ、お主に任せる」
「はい、それでは私の方でサポート役の選任を……」
「違う違う、お主がその者らのサポートをせよという事だ」
「私がですか?」
リサンデラの言葉にダリルは目を見開く。
「良いのですか?私がサポート役になれば貴女の補佐が出来なくなりますが」
「構わぬ。それにお主の尽力の甲斐もあって若手が力を伸ばしておるからな。お主の代理を務められる者達はいくらでもいるであろうよ」
「そうですか?私でなければ貴女の態度に精神的に参ってしまう被害者が量産されそうな恐れがあるのですが」
「お主は余計な一言を言わねば気が済まぬ病なのか?」
「まさか、私は至って健康体ですよ。それに……」
ダリルはそこで言葉を区切ると、徐ろにリサンデラに身体を寄せ、その手で彼女の髪をひと房取り自身の顔に近づけながらこう言った。
「愛しい君には私以外の男を近付けたくないですしね」
「やめよ……まだ業務中だ……////」
熱の篭ったダリルの視線と声にリサンデラは冷静にそう返すが、その頬は僅かに赤く染まっていた。
公にはしていないがリサンデラとダリルはそういう関係性でもあった。
そもそもリサンデラからダリルにアプローチしており、きっかけは嫌な上司に目を付けられたリサンデラをダリルが庇った事で、リサンデラの中にあったダリルに対する尊敬の念が恋心に変わったことだった。
それから暫くリサンデラはアプローチを続け、最初は年齢差を理由に断り続けていたダリルだったが、結局のところは折れて秘密裏に恋仲となったのだった。
話は逸れたが、リサンデラは嫉妬心を向けるダリルに〝補佐代理は女性にする〟と言って落ち着かせ、また本題へと戻す。
「……という事でダリルよ、お主をその二名のサポート役に任命する。しかと務め上げよ」
「かしこまりました。それでは私は準備へと赴きます」
そうして執務室を後にするダリル。
リサンデラはそれを見送ったあと、残る先程の余韻を払うように持っていた資料の束で顔を仰いでから、その資料に目を通した。
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リサンデラは資料に添付された高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの写真を見ながら、不敵な笑みを浮かべるのであった。