チート悪転生トレーナー「お前らさぁ、いい加減卒業してくんない!?」 作:弥栄実
うまぴょいしたいという不純な目的ももってトレーナーになった闇のチート転生者である自分は、現在ある問題に遭遇していた。とても深刻な問題である。なんと最近、小皺ができているのだ。
使っていないサブモニターの黒い画面には小皺の浮いた自分の顔が見えている。疲労が溜まっているとはいえ、普段はチートマッサージをすることでなくしているというのに。
歳をとってしまったということを実感してしまう。ウマ娘世界の補正で抑えられてはいたが、自分はお兄さんキャラとしての描写からおじさんキャラとしての描写に移行してしまうのだろうか。悲しい、あまりにも悲しい。
無駄なことを並列思考をしながら思考し、トレーナー室で事務作業をする。手をカタカタと動かし、隣から差し出されるコーヒーをすする。コーヒーではなく甘いココアだった。
一口で全て飲み干し、机にマグカップを置けばそれがその人物に回収される。
ターン!とEnterキーをわかりやすく押し、仕事と無駄思考にわけていた並列思考を無言でコーヒーを差し入れてきた担当へと向けた。
「お前生徒会の仕事は?なんでこっちでコーヒーの差し入れしてんの?」
「キリがついたからね。君に渡されていたトレーニングも済んで少し暇ができたわけさ」
自分の初めての正式な担当。その名をシンボリルドルフ。
前世で1984年にクラシック三冠を誇り、あのミスターシービーをも打ち破ったという馬の大スターシンボリルドルフを元としたウマ娘。
「なるほど。自分に構ってていいのか?ここで休憩するならともかく、コーヒーを差し入れしたりしてて疲れたりしない?」
「ふふ。君に尽くすことを苦に思ったりはしないさ。これも私の休憩の一つだよトレーナーくん。それにしても、休憩を君がいうのかなトレーナーくん?普段はない隈も小皺ができているじゃないか、とても疲労の溜まっているように見える」
前半で歳で小皺が増えたと言ったが、その理由は歳もあるが、疲労によるものが大きくもある。歳もあるが。
歳に関しては自身のチート的マッサージ。まぁあんしーんのアレみたいなぶっ飛んだ効果をもっているのだから多少の老化、疲労くらいはどうとでもなるのだ。
ただ、疲労も溜ま日時間もないのでマッサージやお手入れを怠ってこうにもなる。そもそも歳的には常時小皺があってもおかしくないのだが。
「書類上でも担当契約を解除してくれたらマネージャーとしての職務も減って多少楽になるんだけど」
「おっと、それを言われると弱いな。だが解除する気はない」
「もうドリームリーグへの移籍も何年も前に済ませてるしトレーナーの必要性は薄いでしょ?契約解除しても普段通りにしてていいからさ、だめ?」
「悪いが無理だ。君の初の担当ということには誇りを持っていてね。少なくとも卒業をし、私が一人、君と対等な大人となるまではこれを捨てる気にはなれない」
実際、彼女が便宜上でも自分の担当ウマ娘から降りてくれれば一気に楽になる。彼女は言うなれば日本のトップスターだ、連日取材の申し込みが来るし連日写真撮影やらメディア出演、イベントへの誘致などが行われている。
担当トレーナーはそういうことの管理も行うのだ……あれ自分トレーナーじゃなくてマネージャーだったっけ。実質兼任だよ。
なのでやめてもらえればそこら辺の管理がトレセン中央のスタッフが行うことになるので自分の仕事が減るのだ。
「それに、君の担当バから降りれば私はほかのトレーナーに目をつけられるだろう?引退した身とはいえ、ドリームリーグでは未だ戦績を上げているからね。君は良いのかい?私がほかのトレーナーに取られることは」
「ならはやいとこ卒業してくんない?」
「私もそうしたいのは山々なんだが、残念だけどそればっかりは時間が経たないとどうにもならないよトレーナーくん。まぁ安心するといいよ。私は
だが本人は辞めたがらないのだ。これが面倒くさいのである、あちらが了承しない限り、自分から契約を打ち切ることは基本できないのだ。することはできる。
しかし、場合によってはその後に残るのは単純に契約を破り、その上慕ってくれているウマ娘を振り落とすという外道の称号である。
「進級したら卒業する?そう言ったんだな?なら進級はいつだ」
「あ、あぁ、そ、その、トレーナーくん急に近くてね。もう少し心の準備を」
「あ、すまない」
椅子の肘から乗り出して彼女へと顔を近づけていたがその顔を戻しせきにつきなおす。
「……一応言っとくが、3度=サンド、砂=サンド、挟む=サンド、サンドイッチはもろサンドで4段駄洒落したつもりかもしれんが、挟むの意味として使われるサンドはサンドイッチを略した和製英語だし同じ言葉にならないか」
「おや、手厳しいね。確かにこれは
「お前の洒落はおい
「おや、トレーナーくんも
自分が洒落に乗ってしまったこともあり、彼女は自身の言葉も無視して駄洒落を紡いでしまう。放置していればさらに紡ぎ出し、どこぞの副生徒会長が絶不調からの悪コンディションを会得してしまう(一敗)ので終止符を打たねばならない。
「勝手だが、ここまでの話の流れは一旦終止符を打たせてもらう。いくつか質問があるんだが答えてくれないか?」
「!おっと、私も楽しみすぎて我を忘れていたよ」
自分が真面目な雰囲気で話し出すと彼女は駄洒落を紡ぐのを辞め、会長としての真面目モードへと移行した。
「今、何歳?」
「……女性に歳を聞くのはあまりよろしくないね。くれぐれも私以外にはしないようにしたまえ。17歳さ」
「なら俺は何歳よ」
「少なくとも三じゅ」
「オーケーオーケーそこまでだ。それ以上はいい」
小皺が常時できていてもおかしくない歳というのはそういうことである。自分は既に三十路も超え、二十代と呼べる時期すら超えてしまっているのだ。時の流れというのは残酷である、時の流れとはいろんな意味で残酷である。
少なくとも三じゅなのでもしかしたらもっと先かもしれないが秘匿させてもらう。
「それで、不思議には思わないか?」
「……何も疑問点は見つからないが、トレーナーくんはここにどんな疑問を見つけ出したんだい?」
シンボリルドルフは本当によくわからないという感じで首を傾げている。
まぁいい、ここまでは予想していたことだ。これがおかしいというのは、当事者なら気づけるかもしれないというおかしな点でしかない。
今の状況そのものになぜか疑問を抱かないシンボリルドルフが気付けなくとも無理はない。問題はここから先だ。
「ルドルフ、仮にだが、12歳の子供がいたとして10年以上あとに何歳以上になる?」
「二人きりなのだからルナと呼んでほしいね。あと、あまりにも明快な質問が続く、引っ掛けがあるのではと勘繰ってしまうが、普通に答えるのなら22歳以上だろう?」
「あぁ、そうだな。そして、自分は歳が20の時、お前と契約を結んだよな?」
「そうだったね。あの時が懐かしい、今でも鮮明に思い返せるよ」
「そんな20だった俺は三十路すら超えて30以上になってしまったわけだ。つまり、最低でも契約時から10年は経過している。となるとだ、契約当時で12歳以上だったルナは、今何歳だ?」
「?17歳だが」
「そこがおかしいんだよ!疑問をもて疑問を!」
ルナは本当に何もわからないという表情をしている。
そう、そもそもおかしいのだ。この時空は歪んでいる。何年経とうと一年に一回のレースが何回行われようとなぜか卒業もしていないのだこの会長は。
つまり一応ここはウマ娘プリティーダービーの世界のくせにゲームのご都合設定が残ったままというわけである。
「なんで中等部の生徒が9年経ってもまだ成人すらしてないんだ、他所の同級生みてみろやすでに大学生とか社会人だぞ?
「……すまないが本当にわからなくてね。私と君は心も通じ合う仲であると自負していたのだが、それでも理解ができない。よければもう少し詳しく教えてもらえないだろうか」
なんか世界の裏側に踏み込みそうだなと思いここまで黙っていたが流石に限度に達したので初めての担当である彼女に聞いたのだが、やはり世界的に認識阻害的なものもかかっているらしい。
同期だった葵の誕生日を祝ったが歳が追加されなかったことに誰も違和感を持っていなかったことからもなんとなく察していた。
まぁ、これがこの世界の宿命というものならどうにかして受け入れるしかなかっただろう。ゲームの世界ってこういうふうに動いてたのかーってどこか納得もしただろう。
しかし、そうともいかないのである。
「……自分は契約時から10以上歳をとってるのに、なんでルナはそんなに歳も取らず高等部に所属している?」
これである。な、ぜ、か、自分だけはご都合時空に囚われずに順調に歳を重ねているのだ。
自分へのチートマッサージで若々しさを保っていたせいで歳の進みがよくわからなくなっているとはいえ、歳をとっていることには流石に気づく。疑問を持って確認した学園の書類上ではちゃんと自分は歳をとっていることになっていた。
つまり、自分はウマ娘のご都合サザエさん時空に置いてかれてしまっているのだ。いや、この場合はループもどきを置いて行っているというのが正しいか。
「?それに何か問題でもあるのかな」
「さっきまでしてた質問と同程度に明確な問題、矛盾があるよ……なぁルナ。駄洒落合戦になる前、進級してたら卒業する的な意味のこと言ってたよな」
「あ、あぁ、言ってたが」
「進級って、最後何年前にしたっけ。次何年後にするの?」
「年単位もないと思うんだが……本当にどうしたんだい?その、こう言うのはあまり良くないとは思うんだが、頭を病院に見てもらった方が」
「頭はおかしくない」
更には経過年数についてもまともに認識できていないご様子である。これはあまりにも重症が過ぎている。
全世代の名馬たちを中央トレセン学園に一挙集めたい三女神の陰謀だろうか。だとしてもなぜ自分だけのけものにされている?転生者だからか?転生者だからか。
しかし、本人の認識の矛盾を突きつけることでサザエさん時空の解決の糸口にできないかという策は失敗したわけだ。
そうなると、真面目にとある大問題が出てくる。老化に関してはマッサージでどうとでもなるとはいえ、それでもこのままなら戸籍上おかしな年齢になりかねない。
それに、まず第一の問題がある。それは、今後自分がどうにかしてウマ娘に惚れてもらえたとしても、うまぴょいができないということだ!更にはもうこの歳なので見た目が若くても惚れてもらえる可能性は薄い。
これはうまぴょいを目的にトレーナーを始めた自分にはあまりにも絶望的な事実である。
トレセンで現役のウマ娘とうまぴょいは論外。あと、歳差を埋めるために意図的に惚れてもらおうとするのも論外。相手はどっからどう見ても成人であれ、あくまでも中高生である。自然に好きになってもらえ、尚且つそれが卒業してまで継続してやっとうまぴょいに至るのだ。
だがその卒業がいつまで経っても訪れないときた。仕方がない、かくなる上は。
「ねぇルナ。生徒会権限で自由に卒業できるようにしない?」
「……できるわけないだろう。悪いが限界だ。君がたとえ否定しようと病院についてきてもらう」
「あ、ちょっ、やめてっ、一応まだ仕事がっ、あ、あぁぁぁぁ」
オリ主は人間の癖にどこぞのあんしーんみたいにたづなさんからにげおうせる速度があります。