チート悪転生トレーナー「お前らさぁ、いい加減卒業してくんない!?」 作:弥栄実
「……知ってるカフェだ」
「はい。あなたの愛バです」
目を覚ませばそこは理科室で、そしてこちらを覗き込む漆黒の髪をしたカフェがいた。カフェってこんな返しする娘だっただろうか。長い月日で性格も変わるものである。
体勢と後頭部に感じているスラーっとしながらも柔らかさや弾力のあるこの感触はカフェのももなのだろう。俗にいう膝枕というやつだ。
そして、おそらく今自分の足に感じている何かが載せられている感覚はお友だちだろう。なぜお友だちは自分の足を枕にしているのだろうか。
そちらに少し目を向ければ、ぼんやりその存在を認識できているお友だちがこちらに向かって手を振っていた。こいつ、さては自分から溢れ出るチート生命力を吸っているな。
チート生命力とは、まぁ多少死んでも問題ないくらいの生命力である以下略。
つまり、そんな自分が気絶する劇薬、タキトレことモルモットや自分以外が飲んでいればどうなっていたことか。
「なぁカフェ、膝枕されてるけどどういう状況?」
「あなたがタキオンさんに飲まされた薬で気を失ってしまっていたので、私が介抱しておきました」
「ありがと。んで、件のマッドサイエンティストは?」
「あちらに」
あちらにと言われた方向を見れば、縛られたタキオンとそれで遊ぶ分裂したお友だちがいた。
「やぁやぁモルモット2号くん!目覚めたのなら皆を止めてくんんっー!」
「ほどほどにねー」
こちらに手を挙げてよりタキオンで遊び始めている。彼女らにとってはこれまではほどほどよりも軽かったようだ。タキオンが吐きそうになっている。
「トレーナーさんは用があって理科室に来たと聞きましたが、何か御用でしたか?」
「トレーナー契約そろそろ必要ないから解除する?ってのといつ卒業すると思ってる?っていう確認。」
「解除はしません」
「だろうね」
「卒業は、時に身を任せるとしか」
「だろうね」
カフェは唐突にこんな質問をしてきた自分に対して疑問を浮かべている。元々表情に乏しい彼女ではあるが、昔に比べれば微細な変化もわかるようになっていた。かれこれ長い付き合いである。本当に。
「自分今絶賛怪奇現象にあっててさ、いや、自分が合ってるというより自分以外のみんながあってる?自分の認識の上で時間の流れが明らかおかしいんだけど、何か気付いてたりしない?」
「時間、ですか。すみませんが、何も」
「そっかー。まぁなんとなくわかってはいた」
お友だちや怪奇現象に比較的詳しいカフェなら知っているかもと5%くらい思っていたのだが、さすがに知らないらしい。
絶賛自分の膝で寝ているお友だちからはモールス信号で気づいてるよーと返事がきた。お友だちは気づいてるらしい。
まぁ、君は歳とかなさそうだし、仮定犯人の三女神の対象にもなってなさそうだもんね。足の筋肉の力を入れたり抜いたりして同様にモールス信号で返事をする。
『そのせいで自分だけもう三十超えてんだけどー』
『わろたんぬ』
まぁ、これまで複数のウマ娘に聞いてきたものの、この事実に気付いた存在がいてどうしろという話なのだが。何度もいうがうまぴょいをするために卒業を解禁しようとしているのであって、最悪時間はループしたままでも卒業さえできれば構わないのだ。
いや、成人はしないといけないから結局時は進んでもらわなければ困る。
「お友だちは気づいてるらしいよー」
「そうなんですか?……まぁ、教えてくれていないということは危険なものではないのでしょうね」
「まぁ、危険ではないね。うん」
自分の目的が果たされないだけで。なんやかんやみんな楽しそうにしているし。
「いつ頃から始まっているのですか?」
「自分の認識の上ではトレーナーになる数年前からかなぁ。自分よりも早く産まれたはずのマルゼンスキーがトレーナーになった時にはすでに年下。それが今や10歳以上年下だし。そのくせに年上として接してくることがある」
ちなみにマルゼンスキーは担当ではない。ルドルフやシービーの担当として結構顔見知りという関係。なぜか弟分みたいに見られているが、自分の方が年上である。本当に謎。
もしやマルゼンスキーの流行のチョイスが古いのってご都合サザエさん時空の影響?こんなところに悪影響が……悪影響なのか?
「?」
「まぁ理解できないのはわかってた」
「……トレーナーさんの認識と、私の認識はどこか致命的にずれてしまっているのでしょう……トレーナーさんは、その時間は嫌ですか?」
「んー?嫌か、かぁ。なんとかしたいって気持ちはあるけど、嫌かって言われるとそれはそれで」
「きっと、その時間があったからこそ、この学校でトレーナーさんや他の皆さんにも会えているんだと思います。私は、勝手ですけど嬉しいという思いがあります」
「あー。まぁそりゃそうかもね」
事実、この時間の流れだからこそ生まれているものというのは膨大にある。この時間の流れだからこそうし慣れているものというのもあるが。しかし、この時間だからこそ生まれているものというのは尊いものだ。
ウマ娘という作品はこの時間の流れがあるからこそ成り立っている節もある。ウマ娘とご都合サザエさん時空は切っても切り離せないものだ。
そう考えると、それをどうにかしようとしている自分はウマ娘という世界を侵略している立場なのかもしれない。
「……いや、だとしても自分だけ歳とってるのはきにくわん」
「トレーナーさんはあまり老けたようには見えませんが。それに、トレーナーさんは歳を重ねてもトレーナーさんです」
「まぁそりゃそうだけど。歳重ねれば重ねるほど、世間体がねぇ」
実際、自分は最悪の場合何歳になろうが自分という存在を保ち続けられるとは思う。チートもあるし。精神的に保つ場合、周囲に何もなければおそらく無理だが、幸いなことに彼女らがいる。
彼女らがいるからこそ、精神も肉体も自分という存在を保ち続けられる。
だがそれとこれは別問題である。
「世間体、ですか?」
「そう、世間体」
「……私は気にしませんが」
「カフェが気にしようが気にしないが関係ないよ。ところでさ、カフェ」
「なんですか」
「いい加減膝枕やめたいんだけどさ、起きあがろうとするたび力いれて抑えてくる手を離してくれないかな」
「遠慮せず休んでください」
「もう全快してますが???良い歳した男さらにトレーナーが膝枕されてんのは世間体が悪い!離せ!」
「私は気にしませんから」
「俺は気にする!」
へたに、あいつ歳下の教え子に膝枕させるようなやつなのよー?
へー、気色悪いおじさんトレーナーねー。
近づかないようにしましょ?
そうしましょそうしましょ。
なんてことになってはたまったものではない。
自分の膝をまだ枕にしているお友だちはモールス信号で今更か?と返してきた。正直反論できないので高速筋肉振動を食らわせれば、『ああああああああああ』と楽しげに反応していた。またお風呂に入れて鎮めてやろうか。
「はぁ、はぁ、ようやく解放されたよ。私が大変な時に二人していちゃいちゃするとは良い性格をしてるねぇ君たち」
「あなたがトレーナーさんに変な薬を飲ませたからです」
「えぇ?だから冤罪だと言っているじゃないか。ねぇモルモット2号くん」
「ギルティ」
「わかった認めようじゃないか!だからお友だちをこちらにむけないでくれ!君たちと違って私は完全に見えない相手に好きにされるのだよ!?どれだけ怖いことかわかるのかい?」
「さぁ?」
「無責任だね君ぃ!?」
自分は仕方がないと、傷つけないようにカフェの力が抜ける秘孔をついてから起き上がる。
んんーっと体を伸ばし、気絶していたからだをほぐしていく。タキオンが力が抜けてふにゃっているカフェをツンツンしているところを他のお友だちに絞められている。
膝にいるお友だちは重力なんて知ったことかと、まるで接着剤で固定したようにまだ膝に頭をくっつけていた。こいつはこいつで自分に懐いているなと感じた。
オリ主もある意味、一度死んで転生してるからオカルトの仲間だよね。