チート悪転生トレーナー「お前らさぁ、いい加減卒業してくんない!?」 作:弥栄実
それはある日のこと。唐突に頭にキュピーン!と懐かしい四つ足の馬の気配を感じとり、そんな黄金にも見える風に流されてやってきたとある丘。
「おや、トレーナーじゃないか」
「そういう貴様は、ステイゴールドっ!」
「おいおい、担当に貴様はどうなんだ?一応、私は君の愛バ、なのだろう?」
「そんな柄でもないだろお前」
「あはは。ひどいなぁ」
趣のある使い古された黄色いコートをはおりバイク乗りのゴーグルを首から下げている目が金色で印象的な身長142のくせに高等部なウマ娘。ゴールドシップの同室ことステイゴールド。
自分が持つ担当の中である種随一の問題児である。ある意味では1番理解者とも言えるかもしれないが。
「良いところに帰ってきた、担当契約解除させろ」
「おいおい。久しぶりの再会でそれはないだろう?」
「だまらっしゃい!何度エアグルーヴにステゴをどうにか登校させろと文句を言われたことかっ、お前の分の書類とか色々書いてんだぞこちとら!」
「なら答えはNOだ。君がここにいると思えば、まだ安心して旅を続けられるからね」
何が問題児かといえば何かと旅好きなことである。そのせいで不登校だからとエアグルーヴやたづなさんに苦言を呈されたりしている。しかし、本人がいないのでその苦言が飛んでくるのはトレーナーの自分になるのだ。トレーナーではなく保護者に言えや。
「一度は果てにまで付き合ったんだし、高等部の三年くらいは大人しくしててくれるかと思ったんだけどね?ね?」
「あはははは。もう3年なんてとっくに過ぎてるじゃないか、面白いことを言うなぁ君は」
「やっぱお前ご都合サザエさん時空に勘付いてるたちか。カフェのお友だちに続いて2人目だ」
ご都合サザエさん時空に気づいているであろう筆頭のウマ娘はこいつである。理由は当然、彼女が史実など色々を把握していることにある。
「当然だろう?私たちは互いに互いを共有した仲。君が気づいているこの異変に気づかないわけがない。だろう?」
「お前に関しては気づいてない方が楽だった」
「私としてはこの時空は好きに旅をしても進級とかの問題が全く起こらないから気楽で良いんだけどねぇ」
「そういう思考になるから気づいてない方が嬉しかった」
他のウマ娘なら悩みを共有できる仲としてまだ嬉しかった。しかし、こいつとなると多くの場合は旅に出ているので悩みの相談などはできない上、しかも時空を認識した上でそれを利用して趣味に奔放する奴だからその分こちらに迷惑が降りかかるのである。
「そもそも、君は私と契約を解消することはできるはずだよ?君にはその権利が認められているはずさ」
「勝手に解消した場合の悪評はどうするよ」
「私はすでに引退している。ドリームトロフィーリーグにも出ていない。さらに言えば、私は登校をしない問題児だ。ゴルシからは生きたダイオウイカくらいの確率とさえ言われている。君が一方的に切ろうが、悪評は君に向かないと思うけど?」
「……」
「……ふっ、相変わらずだなぁ君は。私たちに甘い。確かこういう感じをツンデレというんだったっけ」
「……」
「トレーナー?」
「……その手があったか」
「トレーナー?」
そっか。こいつと担当契約無理やり切っても印象あまり悪くならないじゃん。たづなさんや秋川理事長には良い顔はされないだろうが、しかし仕方ないかと納得はしてもらえるだろう。
そもそも引退後の契約に関しては結構両者それぞれの意思次第なところもある。ウマ娘贔屓のこの世界だからウマ娘自身が望んでいなければ基本解消されないが、トレーナーの意思でも解消は可能なのだ。
ステゴもウマ娘ではあるがしかしとてつもない問題児。贔屓目に見られることも他の担当に比べてはあまり大きくない。それに解消しても罪悪感がさしてない。
「早速たづなさんに」
「待ってくれトレーナー。冗談だよな?」
「解消届けを渡しに」
「トレーナー?」
「これでいろんな小言も減」
「……ゴルシ達にどんな目で見られるかな」
「ステゴ一族に滅多刺しにされるじゃねぇかっ」
どう考えてもゴルシ達に狙われる未来が見える。
『あぁん?パパとの契約を解消しただぁ?』
『おやおや、アネゴのトレーナーさんは少しおいたが過ぎるご様子で。山か海、どちらがお好きですか?』
特にこの2人。マメチン、ララは多分多少思いながらもステゴの自業自得として処理するだろう。いや、ドリジャもしてくれるだろうか。なんならゴルシも根はまともだし……自業自得、それはそれとしてゴルゴルキックをかまされそうである。
「全く、冗談が過ぎるよトレーナー」
「冗談じゃなかったんだがステゴ」
「まぁ、どちらにせよ君にはもうできないわけだ」
「こんにゃろう」
ステゴにはトレーナーとしての遠慮も距離感も作る気はない。高等部であることに変わりないのでうまぴょいの対象にはなり得ないが。共にいた時間自体はシービーらには劣るが腐れ縁度はステゴの方が高いだろう。
まぁ、その理由も彼女が前世、四つ足歩行の馬である史実を認識している点。ウマ娘のステゴはステゴであるが、ある種前世と言えるそれ。そして、前世にそれに酷似した世界をもつ自分ということで互いに理解者面をしているのである。
「ところでだトレーナー、君はあの学園で歳をとり続けているらしいが、私はどうだと思う?」
「少なくとも高等部であることに変わりないな。学年も変動していない」
「あぁ、そうだ。あの学園の外側、他国にいけばどうなっているのかとも気になっていたが、特段私には変動がないみたいだね。それに、海外のトレセンも同様だったよ。いまだ彼女が現役で凱旋門を走り続けていたことからもわかっていたが。まぁ幸いなことだね、これからも気楽に行けるんだから」
「さっさとこの時空が終わると良いのに」
「そう言いながら、君は今が気に入ってるんじゃないか?トレーナー。君の知っていた世界の構造じゃないか」
「……少なくとも目的の達成ができないからな」
「嫌とは言わないんだ。素直になれないところは君らしい」
実際、この時空自体は嫌いではない。自分が愛用していたウマ娘アプリと同じキャラの組み合わせを見れるのは大変好ましいものだ。通常の時間変化が起これば起こり得ないキャラの関係性が多くある。
ステゴ一族がここまで綺麗に一挙に集まることもないし、他にも色々。自分が好きなウマ娘というのはこの時空に詰まっている。
シングレだって最後の最後に時空歪みまくってたし。
それはそれとして目標達成できないのだが。
「んで、今回帰ってきたがいつまでいるんだ?」
「さぁ?まだ気まぐれにわたしは旅に出るさ」
「そうか」
「おや、止めないのかな?困るんだろ?私がいないと」
「相手の意思を無視してまで強制する気はない」
「そんなスタンスだから小言言われるんじゃないか?」
「うるせぇ」
もしも自分が行かないでくれと言えばステゴは止まってくれるのかと言われれば、確実に止まらないだろう。なぜかって?ステゴだから。信用信頼をいくつ稼いだところでその信用信頼を基に好きにする奴だ。
「まぁ旅の中で積もった話もある。そこのベンチに座ってでも話そうよ。あとお土産」
「穴空いた石?」
「ハグストーンというらしくてね。天然の穴が空いた石らしい。あぁ、この糸を持っててもらえるかな。この穴に糸を通してキーホルダーみたいにしてあげよう」
「ん?ありがと?いやお礼いうべき、ではあるか」
ステゴのお土産のセンスがよくわからないというのはよくあることだ。穴が空いた天然の石なんてあまり聞いたことがないが、いったいどこで見つけてきたのだろうか。
まぁ、こういうタイプのお土産ってなんか売られてるよね。
ハグストーンに糸を通して結ぶことでカバンに付けられるキーホルダーになった。
「ちなみにどこのお土産?」
「さぁ?私も適当に買ってきたから覚えていないな」
「おいこら」
「あとこれも」
「いやなんだよこの心臓をもしたのは。怖いんだけど」
「ミラグロっていうんだってさ。妙にリアルだろう?」
「いらんほどにリアル」
「後私のお古のオカリナもあげよう」
「いらねぇよ」
最後のに関してはお土産というよりかはいらなくなったから押し付けているだけだろうと思いつつもカバンに入れておく。
「あぁ、ところでトレーナー」
「なに?」
「ゴルシたちにトレーナー契約切ろうとしてたことは報告しておいたから」
「きさまっ、いつのまにっ」
「切ろうとした罰だよ」
ステゴはこの地方を利用して余裕で年単位の旅に出ます。たまにトレーナーを誘拐したりもします。パスポートの期限は実質無期です。