旧大陸 サードレマからファイヴァルに繋がる道の途中、栄古斉衰の死火口湖 その火口にて。
「ふぃ~やっと着いたっす」
lordは旧大陸に帰還していた。
まずlordがどうやって新大陸からコッチに移動したのかだが少し前、シャンフロ内時間で10日ほど前に次の調査船の運行周期を確認した所ちょうど来るのがひと月後だった。
そこから一月ただ待つのは開拓者として恥も良い所とlordは考えて考えて考え抜いて…その結果が
個人で運用できる船を作ってもらおうという物だった。
そこからは新大陸にいるその手の職に頭を焼かれる者達数名を焚きつけ報酬をちらつかせて強行、
出来立ての
次に何故いまコッチに来たのかだが…
「ここ数日は雨も降らず減水してるのは調査済み、深さからみても十分イケるっすね」
割と急がないとお目当てのナベブタが吹き飛んでしまうのだ。
現在新大陸には5体の竜がいる、必要な事なので二度言うが竜だ。
その内の一匹である赤ことアメンボには少々ご縁があるlordだが
今回の強行はある種その赤が発端となっている。
「着衣水泳は嫌いっすけど…しゃーないっす」
珍しく重たそうな重装甲の鎧を着こみ火口湖を潜る。
現状この火口湖のナベブタの正体を知る者は少なくとも5人はいないだろう。
そして自分がコレを知る理由は絶対に起こりえない事象ゆえに他と被る事はない。
「(角と牙の名残…あとは鱗だったもの…)モガガ…」
今回の狙いは火口湖を死山扱いにしているナベブタこと正式名 赤竜クレプトクルムの死骸だ。
当代赤竜であるあのアメンボから数えて2代前の個体が色々あってナベブタになっているらしいが
そんな事はどうでもいい。大事なのは赤竜の素材を安全に取れるって事だ。
ナベブタになってから相当の時間が経過しているものの角や牙、鱗をそうであると認識できる程度にはその形質を残しつつ岩石…化石のような状態でもあるこれなら受け皿として十分だろう。
このしたに存在する大量のマグマを塞いで尚その形を残すほどに高い炎熱への適応力にこそ
lordは価値を見出した。
「…プハッ!!もぅ~翼どこっすか!!」
「側位になってんだ、片翼しか見えてねぇさ」
「ぺしゃんこって話だったっすけどねぇ…ん?」
会話とは自問自答で行う事も出来るが基本的には自分と相手を含む二人以上で行う物である。
つまりここ、栄古斉衰の死火口湖には今会話ができる存在がいるという事、そしてそれは
今このタイミングでわざわざココに来る理由は開拓者にはない。
あるとしてもあのツチノコだけの筈だし肝心のツチノコがココに来るのは少し先の筈だ。
だからこの会話を成立させた相手という存在自体がおかしいのだが…
「…どちらさまで?」
「
数秒の思考停止からの驚愕を顔に出さずに水面から上がって鎧をその辺に転がして着替える。
何故?何故ここに来た?そもそもこのヴァイスアッシュなる極道ウサギが直接プレイヤーに
介入するのは兎食の大蛇討伐クエスト中にヴォーパル魂を稼いだ場合にラビッツで低確率発生する
遭遇イベだけの筈だ。
「お~寒…あ、†lord・ハンド★ヒット†っす。呼び辛いんでロードかハンドでいいっすよ」
「そうかい?ならロードって呼ぶぜ」
「しかし…ヴァイスアッシュって何か微妙に長いっすね。愛称とかないんすか?」
「あるとも、まだオメェさんにゃ教えてやれねぇがな。」
「それは残念っす。で?そのヴァイスアッシュさんは何しにこんな所へ?」
「強いて言えばオメェさんに会いに来たんだ。ちっとばかし目に通さにゃならんと思ってな。」
そういってキセルに火を付けてプカプカと煙を楽しむヴァイスアッシュを見ながらlordは乱雑に
置いた薪に向かって火をくべろとハンドサインをした。
「初対面に火よこせたぁ豪胆だな。」
「こちとら話す用事なんてねぇんすからそれくらい融通して欲しいっすよ。水で冷えて寒いんす」
「…これでいいかい?」
「あざすっす。これでも魔法使いのはしくれ何でこんなので火だしてちゃ面目がねぇっすから」
焚火で体を温めて数分、ヴァイスアッシュは本題に入って来た。
「おめぇさん、その亡骸をどうすんだい?」
「コイツの為の剣にするんすよ」
ここは嘘をつく理由はない。
本来の目的通りレーヴァンにしまう王剣の素材としてクレプトクルムを選んだのだから。
「……レーヴァンか、こりゃまた懐かしいもんが出て来たな。」
「行く先々でこのコレ知ってる人に合うっすねぇ…やっぱ有名なんすか?」
「おうとも。そいつぁ今より前、神代と呼ばれる時代よか進んだ古代の時代を生きたオメェさんの大先輩が担いだ名誉ある一振りだぜ?」
「ふーん…まぁ確かに強い剣なのはそうっすけどそんな偉い剣なんすねぇ」
「…しかしそうか、レーヴァンと言やぁ王剣が要る。んでソレか。」
「そうっす、
「…
「…あ」
「オメェさん、アレが亡骸だってどこで知ったんだい?今ソレを知るのは相当の歳よりだぜ?」
痛恨の会話ミス!!普通に火口なら耐熱金属とかありそうだから~とかで良かった会話!
わざわざコレが赤竜で出来てるなんて口に出す必要なんかないのに!!
「…ヴァイスアッシュさんは新大陸についてはご存じっすか?」
「あぁ。長生きしてりゃ嫌でも分かるからなぁ…それがどうしたって?」
「実はアッチの火山付近に拠点を貼ってた時期があったんす。その時に聞いたんすよ。」
「聞いたって、一体だれから?」
「当代の赤竜、あのクソアメンボっすよ…あ~腹立って来たっす。」
苦々しき交通事故の思い出に責任を擦り付けてlordはヴァイスアッシュに堂々と嘘をついた。
厳密にはドワーフの里でミダスからアメンボの愚痴を聞いている時にもさらっと名前が出たので
知っているといえば知っているのだが。
「アレから聞いた…か。まぁ筋は通ってる。で、見た所
「見た所…すか。」
…何となく話が見えた。このヴァイスアッシュは今おそらくだがNPCとして動いてない。
自分というキャラクターを通してそのゲームデータを洗っているのだろう。
つまる所、目の前にいるのはサブサーバー”ヴァイスアッシュ”ということ。
過去のログを含め効率的な行動や適回行動をとりすぎた事でグリッチ…もっといえば
『お前シャンフロのテスターだったりしねぇよな?』と疑われている訳だ。
シャングリラフロンティアオンラインというゲームは制作に関わった人物の全てがシャンフロの
実機プレイを禁止されている。加えてその手の情報を話すのも基本ご法度となっている。
それはオンラインサービス開始前のプレイヤー、
含まれるのだ。
「とはいえ、このまま何度も見に来る訳にもいかねぇ…おめぇさんに悪いが」
【クエスト:”兎国の盟主より
‥‥は?プレイヤーの意思に関係なくクエストの強制受注!?
そういう類いの機能も許されてるのか…
「足付けさせてもらうぜ。」
「…なにをすればいいっすか。」
「そうさな…さっき火山に拠点を持ってたって言ったな?なら行き先は」
【クエスト:”兎国の盟主より試練を”のクリア条件を更新】
【クリア条件:受注プレイヤーを含む二人以上10人未満でキャッツェリアに入国する】
「
「前人未到を切り拓くが開拓者…すか。」
「おうとも…おめぇさんのヴォーパル魂に幸あれ…だ。じゃあな。」
これは…めんどくさい事になった。
「ヴァルキュリアだったか?ロード…懐かしい気配を醸すもんだ」
キセルをふかしながらクククと笑う兎の大親分の顔に僅かな哀愁の影があった。