「どうしてこんなことに…」
俺は今現在軟禁されている部屋で枕に顔を埋めながら嘆いていた。
思い返すと今世では様々なことがあった。
日本という国に男として生まれ、高校への通学中に事故で死亡したという前世の記憶を持って剣と魔法で戦う前世の創作で読んだことのあるファンタジーのような世界に生まれた俺は、生まれて早々に捨てられた、孤児になった。
なんとか孤児院に入れてもらったと思いきや、神託だの神の恩恵を受けた子供だの言われて聖教の信徒によって教会に連れ去られ、聖女と呼ばれるようになる。
その後魔王を討伐するために勇者パーティの一員になり、前世のことを打ち明けるくらいには仲間との関係を深めて、旅の果てに魔王の討伐に成功した。
聖女の俺は所属している教会に帰還、勇者パーティの仲間達はそれぞれの道を歩むことになったのだが…。
教会の上の奴らがやらかしまして。
「我々には女神様と、その加護を受けた聖女様がついている!この戦いは聖戦である!」
なんて言いながら、全ての国を管理しようとか馬鹿なことを言い出したんですよね。
俺はもちろん反対したし抗議もしたんだが、聖女の俺はサポート特化、自分で戦う力はほとんどない、首謀者の手駒に捕まって、教会の奥で軟禁されてる状態って訳。
聖女は聖教にとっては象徴のような存在で、奴らからしても殺すわけにはいかない。
だから衣食住には困らないんだけれど…勝手に自分の名前を悪いことに使われてるのは気分が悪いし、申し訳ないんですよね…。
食事を受け取る際に外の話を聞くんだけれど、最近教会も押され気味らしく、教会が負けて潰されるのも時間の問題みたいだ。
教会はやり過ぎたのでこれ自体は好ましいことではあるんだけど…。
聖女ってお飾りとはいえ教会の上層部な訳で、この戦いが収まっても俺は無事でいられないんじゃないですかね?処刑とかされる?
まぁ…いいか、俺は既に一度死んでいる、この命もおまけとしてもらったようなものだと思えば、どうなっても…さ。
「せめて最期に仲間達とまた会いたかったな…」
「呼んだかい?」
「ふぇ?」
いつの間にか部屋に勇者パーティの天才魔法使いミスティがいた、というか俺が寝転がってるベッドに腰掛けていた。
「あぁ、ようやくこの場所に辿り着いたよルナ、神聖魔法による結界が幾重にも張り巡らされていて破るのには苦労した」
「ミスティ!?どうしてここに!?」
「キミに会いにきたに決まっているだろう」
「そっか…会えて嬉しいよ」
でもこのあと俺はどうなってしまうのだろう外の情勢も把握しきれているわけではないが良いものとは言えないだろう。
「外の事は把握できているかい?」
「女神と聖女の名を使い教会が世界に宣戦布告したけれど、教会が次第に押され始めているというくらいは…」
「そうか、キミが捕まっているのはこちらでも把握できていてね、エリオ*1、やレイナ*2も動いてくれてはいたんだが、助けるのが遅れてしまった…教会がキミの名を使い悪さをし過ぎたせいで、世間からはキミも悪く見られてしまっている…そして教会は間も無く敗れここにいるキミも捕えられる事になるだろう」
「仕方ない事だよ、止められなかった俺にも責任はある」
「この状況じゃキミにはどうしようもなかったとは思うんだがね…」
「それを言っても世間からの印象は変わらない、むしろ言い訳をしていると言われ印象が悪くなるだけだろう」
「このまま捕まれば教会の象徴として見せしめを兼ねて処刑されてしまうだろう、だからワタシが先に…キミを連れ出し……匿いたいと思うのだが…」
俺が普通の人間であれば受け入れたかもしれない、しかし俺は聖女でその身に特殊で膨大な魔力を宿している、ある程度の実力がある者であれば俺を探す事は容易だろう。
そんな俺を匿うというのはリスクが高い、ミスティの自由な生活を奪う事になる、それにミスティほどの実力者といえど世界中から四六時中狙われていればいずれ…だから…俺は…。
「ごめん、それは断るよ、俺はここで大人しく捕まるのを待つさ」
ミスティは諦めたような顔でため息を吐いた。
「ワタシ達のことを考え断ったのだろう、キミがそう言うのはわかっていた、そしてその選択を覆すこともないんだろうな、ワタシにはそこまで読めていた。だからキミのために一つ魔法を用意してきた」
ミスティがそう告げると、部屋中に魔法陣が浮かび上がる、繊細に編み込まれた術式は俺では到底理解できそうにはない。
「これは…?」
「異なる世界へ渡ることが可能な転移魔法陣だ、キミの魂はキミが元いた世界との繋がりがある、それを利用しキミを元いた世界に転移させる」
「え…帰れるの?」
「あぁ、可能だ、しかしデメリットも多い。まずキミが以前生きた体ではなく今の体のまま元の世界に帰ることになる、転移させる訳だからな。それに加えてこちらの世界と元の世界の時の流れが同じであるとは限らないと言う点だ」
「ここで俺が12年過ごしている間に向こうで100年経ってるかもしれないってこと?」
「あぁ、1000年経っているかもしれなければ、1年も経っていないかもしれない、キミが元の世界に帰ったとしても世界が様変わりしているかもしれないし、キミの友人達はもう生きていないかもしれない」
「逆にほとんど時間が経っていない可能性もあるんでしょ?」
「その可能性はある、しかし今の姿のキミを元のキミと認識してくれるかはわからない…」
「それは…そうかもしれないけど…」
「そして最後のデメリットだが、元いた世界に帰った後キミがこちらに戻って来れる可能性は限りなく低い」
「…………その魔法を俺に教えてもらったとしても無理なのか?」
「答えがわかっていて聞いているだろう、キミは神聖魔法にしか適性がない、転移を含む空間魔法は、闇属性魔法の領分だ、キミが使うことはできない、そもそもこの魔法をキミが理解することは難しいと思うがね」
「そっか…」
未練はある、仲間たちと共に過ごしたかった、けれど俺が平穏な生活を送れるような居場所はこの世界にはない...それに居るだけでも仲間たちに迷惑が掛かってしまう...それなら俺は...。
「このまま捕まって処刑されるよりはマシなはずだ、ワタシにもっと実力があればもっと良い手段が用意できたのかもしれないが…」
「いや、この凄い魔法を用意してくれただけでも嬉しいよ。それに元の世界に戻ってみたい気持ちはあったんだよね、生まれた時からさ」
ミスティが泣きそうな目で俺を見つめてくる。
「ワタシが不甲斐ないからキミを守ることができなかった…すまない」
「そんな悲しい顔をしないでくれよ、俺、元の世界に戻れるのが結構楽しみだったりするんだ、向こうに残していった人達にも会いたいし、久しぶりに食べたい料理や、続きが気になる娯楽小説だってある、戻れる機会をくれるミスティに感謝してるんだよ、だからさ後悔するんじゃなくて、送り出して良かったと思って欲しい」
「…努力する」
外が騒がしくなっているのを感じる、もう教会の奥まで攻め込まれているのだろうか。
「あまり時間がなさそうだ、魔法陣を起動するぞ」
「あぁ」
ミスティが魔法を起動している間に俺は部屋着としてきている質素な白のワンピースの上から白のフード付きローブを身に纏い部屋の中心に立つ。
魔法陣から強い光が溢れてくる、転移魔法が起動していると実感する。
俺は、最後にミスティに向かって言葉を残した。
「今までありがとうミスティ、皆の仲間で居られて、ありのままの俺を受け入れてもらえて本当に嬉しかった、エリオとレイナにも俺の気持ちを伝えておいてくれ」
「ワタシ達もキミが仲間で良かったと心から思っている、これからのキミの人生が幸せであるように、良い人に巡り会い、新たな居場所を見つけられるように祈っている」
・TS転生聖女ルナ
前世込みならギリ勇者パーティの最年長、実年齢は普通に最年少なのに『俺は一度死んでるから...』とか言って自己犠牲をしようとするので周囲は曇っていた。
仲間と出会いその精神性も改善の兆しが見えてきたところで教会が暴走してこの仕打ちなので普通に可哀そうな人。
・天才魔法使いミスティ
闇属性の魔法が得意な天才魔法使い、彼女に神聖魔法の適正があれば、ルナの魔力を隠して匿うことくらい余裕でできていた。色々と策を考えていたが間に合わなくて今回の決断をした。