ルナちゃんの首元に張り付いていた小さい魔獣を払う、それだけで消滅するような弱い魔獣だった。
弱いが故に気付かなかった。
私のミスだ、私がもっと警戒するべきだった。
多数の魔獣を呼び出しその魔力で誤魔化し本命の攻撃を忍ばせる、前回こいつがやったのと同じ手口だ……。
こいつ自身が前に出てきたから周囲への警戒を怠ってしまっていた……。
ルナちゃんは私達とは違う性質の魔力を使っているから、魔獣の魔力を感じ取るのが難しいと言っていた、だから私が気付くべきだった……それなのにっ!
「後は任せました……」
ルナちゃんが私に触れ魔力を流す、私を襲っていた酷い眠気が消えるのと同時にルナちゃんは意識を手放した。
毒を打ち込んできた魔獣は、魔力がとても少なく感知しにくい個体だった、隠密特化型で毒も強力なものではないはずだ、さっきまでその毒を受けていた感覚からしておそらく意識を奪うことに特化していて致死性はない……だからまずは焦らず目の前の魔人に集中する。
私は自分の身体能力を魔法で増幅し、魔人へと殴りかかった。
ルナちゃんの支援魔法が切れる前に倒しきる!
そう意気込んで攻撃を仕掛けるが、魔人の爪に受け止められる、なんでっ……!
「俺に受け止められるのが不思議か?」
「さっきまではもっと弱かったはず……!」
「そりゃそうだろ、魔獣に回してた魔力を先頭に回してるんだからな!」
魔人の爪が私の腕を掠める、大したダメージではないけれどこのままだとまずいかもしれない……。
「そもそも、前戦った時はここまで強くなかったはずなのに」
「お前を倒すためにいけ好かない男と契約したからな!前より強いのは当然だろ!」
誰かと契約して力を得たってこと……?
いや今はそんなことを考えている暇はない、こいつを倒さないと!
魔人が爪を使い連続で攻撃を仕掛けてくる、致命傷は避けているが、少しずつ傷が増えていく。
魔人は長く強固な爪を器用に使ってくるのに対して、こちらは拳や蹴りで対応しなければならない、そのまま受けるとこちらがダメージを受けてしまうのでかわす選択しか取れず防戦一方だ、このまま戦っていたら負けてしまう……。
扱いきれるかはわからないけれど、あれを試してみるしかない……。
爪を横から蹴り魔人の体勢を崩す、その隙に距離を取った。
私の固有魔法は『増幅』、普段は身体能力や自己再生能力を増幅しているけど使い道はそれだけじゃない、条件を満たせば魔法の効果を増幅することもできる。
今私に残されている手段はこれしかない!
私は固有魔法を使い、ルナちゃんにかけられた支援魔法の効果を増幅させた。
いつも通り魔人に殴りかかっただけのつもりだった。
体が物凄い速さで動き、廃工場の壁を殴りつけていた。
「は?何が……」
魔人は何が起きたかわからない様子だったが、自らの右腕を見て顔色を変えた。
「なんで腕がなくなってるんだよ!お前がやったのか!?何なんだよその力は!」
「これは扱うのが難しいね」
壁を殴り壊してしまったからだろう、天井が崩落していくのが見える。
崩落しきる前にルナちゃんを回収し、安全な場所へと移動させる。
魔人も天井の下敷きになることだけは避けられたようだった。
「魔獣のストックもねぇし……こうなったらっ……!」
魔人はまた逃げ出そうとしている、しかしあの時とは違い私も万全な状態だ。
逃げ出そうとした魔人に向け蹴りを放つ。
魔人は脚が消滅し、その場に倒れ込んだ。
人なら可哀想だと思うが相手は魔人だ、そもそも生物であるかすら怪しい存在に容赦はいらない。
「逃すと思った?」
「ひっ……い、命だけは助けてくれよ!そ、そうだ、取引だ!取引しよう!俺に力を与えた奴の事を教える!その代わりに見逃してくれよ!」
この魔人は以前戦った時より明らかに強くなっている、それに加えてこいつはルナちゃんを生け捕りにするよう指示されていたようだ、見逃す気はないけど話を聞く価値はある。
「力を与えた奴って、ルナちゃんを生け捕りにしろって言った奴と同じなの?」
「そ、そうだよ!そいつのこと知りたいだろ!?」
「貴方を見逃してあげたらどんな情報をくれるの?」
魔人はその問いに答えることはなかった、いや答える余裕がなかったのかもしれない。
「おい、なんだよこれ!やめろ!止まれって!」
突如慌て出した魔人の角から魔力が溢れ出し、爆発した。
咄嗟の出来事に反応できなかったが、その爆発で私が傷つくことはなかった。
「危なかったですね……目を覚ましたと思ったらこのような状況になっていたので焦りました」
ルナちゃんが結界を張って守ってくれたようだった。
「ありがとう、助かったよ!」
「いえ……起きるのが遅くなってしまってすいません」
「謝ることじゃないよ、ルナちゃんは私を治す事を優先してくれたんだから」
そう、ルナちゃんは私を優先してくれた、毒を打たれた時だけじゃない、私が触手に狙われた時も自分の体よりも私を優先していた。
私と初めて出会った時もそうだった。
「ルナちゃんはもっと自分を大切にしたほうが良いよ」
「大切に……?」
「そう、今回の戦いだって自分のことより私のことを優先してたでしょ?」
「その方が合理的でした、私は傷ついても自分で治せます、ロゼさんを守る方が良いと判断しただけです」
あの状況であれば最適解だったのは間違いない、けれど……。
「本当に合理的だからやっただけなの?何が他にも理由があるんじゃないかな……?」
確証があるわけではない、合理的だったというのも嘘ではない、理由はわからないけれどそれだけじゃないと私は感じていた。
ルナちゃんはしばらく考えた後言葉を絞り出した。
「多分俺は茜さんを失うのが怖いんだと思う、茜さんが居なくなってしまったらまた一人になってしまうから……」
「だから私を優先して守ったんだ……でもそれなら解決するのは簡単だね!」
「簡単……?」
「私が居なくならないと信じてもられば良い!それだけでしょ?」
ルナちゃんは驚いて固まっていた。
「今はまだ信じてもらえないかもしれない、異世界にいたルナちゃんの仲間と比べたら頼りないかもしれない、けどルナちゃんを一人にしないって信じてもらえるくらいには強くなるよ、だからルナちゃんは少しずつで良いから自分のことも大切にして欲しい」
しばらく経ってからルナちゃんはようやく口を開いた。
「……茜さんがそこまで言ってくれるなら頑張ってみる」
「うん!お互いに頑張ろう!」
そのあと私達は報告や後処理のために現場を調べていたんだけど……。
「色々ありすぎて報告が大変だね……廃工場もボロボロに崩れちゃってるし」
「まずは灯さんに伝えるのが良いのではないでしょうか、負担はかけてしまうかもしれませんが、勝手に動くよりは良いでしょう」
あ、口調が聖女モード?に戻った。
「そうだね、ルナちゃんのことも狙ってたみたいだから事情を知ってる人に話すのが一番かも」
ルナちゃんが魔人がいた所へと歩きしゃがみ込むと、周囲を調べ始めた。
「残されているのはこれくらいでしょうか」
ルナちゃんが拾い上げたのはおそらく角の一部だと思われる小さな欠片だった。
「そういえば、前にこの魔人と戦った時は角なんて生えてなかった気がする」
「外付けの爆弾……?」
「誰かから力を与えられたって言ってたからこれがその源だったかもしれない、僅かだけど魔力が残ってるみたい」
「何らかの目的で力を与え、負けかけた所を口封じの為に爆破したということでしょうか……」
「これも含めてお母さんに報告しようか」
帰宅しお母さんに全て報告した、その翌日酷い筋肉痛に襲われていた私は、ベッドの中でお母さんから話を聞いていた。
「これから1週間魔法少女としての活動はお休みしてもらうから」
「え!?」
「まともに動けてないじゃない、貴女は本当に無茶ばかりして……」
「これは筋肉痛なだけで……ルナちゃんが起きてきたら治してもらうから……」
「それだけじゃないのよ、ルナさんが人前で回復魔法を使ったでしょう?それが軽い噂になっているらしくて、ルナさんの正式な身分が決まるまでは休んでもらいたいの、目処は立っているから1週間あればなんとなかると思うから」
「それは……仕方ないね」
1週間の休みかぁ……最近は魔獣討伐も忙しかったしルナちゃんを遊びに連れ出して仲を深めるのも良いかもしれない。
わかりやすく書くと
(魔法少女の身体能力×増幅)×(ルナのバフ×増幅)
という感じですね、乗算は強いってゲームで習いました!
ロゼインパクトの魔法はルナとの相性重視で決めたところはあります。
話のキリが良いので次話から茜とルナの回想を1話ずつ挟んでまた本編に戻ろうと思います!
掲示板回を書いてみたい気持ちだけあるので入れるか悩んでいます。