今から大体4年前、この世界に魔獣や魔法少女が現れてから2年くらい経った頃の話だった。
当時は今より魔獣の出現頻度が低く、普通に生活していたら魔獣に出会う事なんてないし魔法少女になれるのもごく一部の人だけだった、ただの子供だった私からしたら魔獣や魔法少女なんて遠い世界の話だと思っていた。
学校に通い友達と遊んで楽しく過ごす、そんな日常がいつまでも続くと、その日までは思っていた。
幼馴染の
いつもは静かな道なのにその日はとても騒がしかった。
「魔獣だ!魔獣が出…」
「魔法少女は……!?」
「助けてくれ!命だけは!」
正面から悲鳴や叫び声が聞こえてくる。
「これって……」
「茜ちゃん、とりあえずここから離れよう」
「うん!」
このままここにいてはいけない、そう思って悲鳴がするのと反対方向に私達は走り出した。
しかし子供の体力では長時間走ることはできず、ある程度走ったところで2人とも息が切れてしまう。
「ここまで離れれば大丈夫だよね!」
「流石に大丈夫だと思いたいけど……」
悲鳴も聞こえなくなり、一度休もうとした時だった。
私達が走ってきた方面からドシリと音が鳴った、息もできなくなるような緊張感に襲われる。
音のした方向を見ると、曲がり角から黒く巨大で目玉が3つある狼のような怪物……魔獣がこちらを覗いていた。
「ひっ……」
初めて見る魔獣は不気味なオーラを纏っていて、私は恐怖で動けなくなってしまった。
「茜…走るよ!茜!動いて!茜!」
「あ、ごめ……」
慌てて逃げようとしたが転んでしまった、立ち上がろうともがいていたその時私の額に何かドロッとした液体がかかった感触がした。
「茜……逃げ……て……」
目の前の千尋が血を吐いていた、いやそれだけじゃない黒い爪のような何かで胸を貫かれていた。
「千尋……?」
「あか……逃げ……」
千尋の目が虚ろになって……。
「千尋?千尋!?返事をして!」
本当はもう助からないと分かっていた、でも認められなくて千尋に話しかけ続けていた。
千尋の胸から爪が抜かれる、傷口から血が噴き出して千尋の体が地面に倒れこむ。
顔を上げると目の前にいた千尋を殺した魔獣と目が合ってしまう、逃げ出そうとしたけれど恐怖でうまく動けず尻もちをついてしまった。
魔獣の爪が迫ってくる、私は死を確信した。
「あ……千尋……ごめ」
恐怖から目を瞑ってしまった私だったが、突如聞こえてきた爆発音に目を開ける。
すると魔獣は少し遠くに吹き飛ばされていて、魔獣と私の間に先ほどまではいなかった一人の少女が現れていた。
赤と白が混ざったドレスに身を包んだその少女は、千尋の遺体を見て目を細めたあと、私の方を振り向いてこう言った。
「安心して!君のことは私が守るから!」
「魔法少女……?」
「そう!この私魔法少女スーパーノヴァインパクトに任せておいて!」
魔獣がこちらに再び向かって爪で攻撃を仕掛けてくるが、それに合わせてインパクトさんが拳で殴りつける、殴りつけた場所が爆発して魔獣が吹き飛んだ。
「さて、さっさとやっつけちゃおう!」
インパクトさんの足元が爆発し、ものすごいスピードで魔獣の元へ吹き飛んでいく。
その勢いのまま魔獣を数回殴りつけると、物凄い爆発が連鎖的に起こった。
その爆発が収まると、魔獣は消滅し居なくなっていた。
「ふぅ、討伐完了っと」
魔法少女の凄さがわかると同時に、何故もっと早く駆けつけてくれなかったのかと思ってしまった。
もう少し早く駆けつけてくれていれば千尋も……。
「ごめんね……間に合わなくて」
本当は感謝するべきだった、けれど千尋のことがショックで何も言えなかった。
インパクトさんの顔を見ることすらできなかった。
インパクトさんを責めるのは違う、インパクトさんは私を助けてくれただけで何も悪いことはしていないそれだけは理解していた、ただこの暗い感情をどこへぶつければ良いのかわからなかった。
「親御さんのところまで送るよ!このまま一人で帰らせるのも不安だし!」
「……はい」
そのままインパクトさんと一緒に家に向かって歩いていた、他にもやるべきことがたくさんあるはずなのに私を優先してくれていた。
少し落ち着いたところでようやく私は感謝の言葉を口にできた。
「インパクトさん、助けてくれて本当にありがとうございました」
「無理してお礼を言わなくても良いんだよ、お友達を助けられなかったことに思うところもあるでしょ?」
「ないとは言いませんけど……でもインパクトさんが悪いわけではないですから」
「そっか、君は強いんだね」
「強い?」
「こういう時にさ、私のことを責めるのが一番楽だと思うんだ、でもそうしないでちゃんと現実に向き合えるのは心が強いってことなんだと思うよ」
「それは……実際にインパクトさんのことを責める人もいるんですか?」
「居るね、むしろ最近はそっちの方が多数派かも、何で守ってくれなかったんだ、もっと早く来てくれなかったんだとか、酷い時には無能だとか、使えないとか言われたこともあるよ」
あんな怖い魔獣と戦って人を助けているのに、そんな扱いをされるなんて……。
「辛くないですか?魔法少女を辞めたいと思わないんですか」
「そりゃ辛いよ、でも魔法少女を辞めたいと思ったことはない」
「どうしてですか?」
「酷いことを言ってくる人はいるけど、それでも私は多くの人を助けられてるからね、私は魔法少女として、君みたいに悲しい思いをする人を少しでも減らすことができたらそれで十分だから」
「誰かのために魔法少女をしているってことですか?」
「そうだともいえるし、そうではないとも言える、私は私が人助けをしたいから魔法少女をしているんだ」
「人助けが趣味……?」
「ふふっ、君は面白いことを言うね、でもその通りだね私は人助けが趣味な魔法少女だよ」
自分が助けたいから人を助ける、そんな風に語るインパクトさんはカッコよくてとても輝いているように見えた。
「私もそんな魔法少女になりたい……」
「魔法少女はさっき言ったみたいな辛いことも多いよ?それに命がけで戦わないといけない」
「それでもなりたい!インパクトさんみたいな魔法少女に!」
「嬉しいことを言ってくれるね、まぁ君みたいに心が強い子が魔法少女になってくれるなら頼もしいな」
「絶対に魔法少女になる!魔法少女になってインパクトさんと一緒に戦う!だからインパクトさんも私のことを待っててね!」
「そうだね、楽しみに待ってるよ」
この日千尋という大切な友達を亡くしたこと、そして魔法少女スーパーノヴァインパクトと出会い、憧れ、約束を交わしたことを忘れたことは一度もない。
けれどこの約束は未だに叶っていない。
私が彼女に救われた1年後、魔法少女スーパーノヴァインパクトは消息不明になった。
魔獣の討伐中にやられたわけでもなく、突如いなくなり行方が分からなくなったらしい、生きているのかどうかすらわからない。
もう約束が叶うことはないのかもしれない、でも私がスーパーノヴァインパクトという魔法少女を忘れることはないだろう、彼女との出会いがあったから今の私がいるんだから。
魔法少女プロフィールNo.3
魔法少女スーパーノヴァインパクト
固有魔法:『爆破』……自身の体や触れている物を爆発させる。
戦闘スタイル:爆破の魔法を推進力にしてステゴロで戦う前衛タイプ。
メモ:魔獣が発生し始めた最初期に魔法少女として活動していた、3年前から行方不明である。
茜が憧れた魔法少女であり、ロゼインパクトの名や戦闘スタイルに大きな影響を与えた。
次話はルナの異世界時代の話です、今回と違ってゆるい話だと思います。