転移魔法の光が収まった後、周囲を見渡すと滑り台やシーソー、アスレチックなどが目に入る。
公園、それも俺が昔子供の頃に遊んだことのある場所だ、劣化しているとはいえ形を保ったまま存在していることを考えると自分が生きていた頃と遠く離れた時代ということはないだろう。
それにここであれば実家が近い、魂の繋がりを元にして転移させると言っていたので、俺の魂が根付いていた、つまり俺が生前暮らしていた場所の近くに飛ばされた、ということなのだろうか。
今の姿は生前の俺とは大きくかけ離れている、信じて貰えるだろうか…。
いや妹であれば、昔の思い出と魔法という超常的な力を見せれば信じて貰えるのではないか、つまり愛と勇気とパッションだな。
懐かしい道を歩く、靴を履くこともなく転移してきたため裸足で足が痛いが実家はそう遠くはないので少しの辛抱だろう。
やがてたどり着いたのは
昔の記憶から経年劣化はしているが大きな違いはない。
フードを脱ぎ少し緊張した気持ちでインターホンを押す。
「少々お待ちください」
インターホン越しの声では誰か判別がつかないが比較的若い女性の声が聞こえた。
少し時間を置いてドアが開けられる、中から出てきたのは大学生くらいの女性、この女性はきっと……。
「み…
「は、はい、美咲ですけど、どちら様ですか?」
やはり妹の美咲だ…まずは俺も名前を告げる。
「俺は、
露骨に嫌そうな顔をされる、それもそうだ、これだけで信じて貰えるとは思ってない。
「何の冗談ですか、お引き取り願…」
「子供の頃怖い夢を見たと言ってそれからしばらくの間一緒のベットで眠ったよな」
「え…」
「木登りをして降りれなくなって困ってた姿も覚えている」
「それは…」
「俺が中学に入ったあたりからか、反抗期なのか露骨に避けられて悲しかった記憶もある」
「なんでそんなことまで...?」
少しずつだが信じてくれている...と思う、あとは決定的な何かがあれば...。
「他にも覚えていることは色々あるけれど、これを見せる方が手っ取り早いかな…」
そう言って光の球体を浮かび上がらせる魔法を使う、超常的現象を見せて転生という現象に真実味を持たせるのが手っ取り早い、そう考えた、これが決定的な間違いだと俺は思っていなかった。
「信じがたいことだとは思うんだけど、実は魔法のある世界に転生してさ?異世界転生ってやつ?そこから何とかしてここに戻ってき、それでこんな体になっちゃったというか………」
美咲が怯えたような顔で俺を見てくる。
「あ、いやこれは怖いものでも何でもなくてさ、魔法が使えるよ!って見せたかったというかね?殺傷能力はないんだよ?」
「魔人…」
「え…?」
「魔人がこの家に何の用ですか!お兄ちゃんのフリをしたのも魔法ですか!?記憶を覗いたんですか?それとも精神操作か何かですか!?」
「み、美咲?」
「まだお兄ちゃんの真似を続けるんですか!?私じゃ魔人相手に何もできないかもしれません、それでも大好きなお兄ちゃんとの思い出をこれ以上穢すなら私は…!」
魔人という言葉の意味も、何故こんな反応をされるのかもわからない、美咲を見ると怯えているのか全身が震えているし涙も出ている、それでも鋭い目で俺を見つめ、怒りの感情を露わにしている。
信じて貰えなかったのはとてもショックだ、でもそれ以上に美咲にこんな表情をさせてしまった自分が許せなくて…。
「…ごめん」
そう呟いて俺は走ってその場を離れていった。
街を歩き、この世界の情報を集めてわかったことがある。
この世界は4年ほど前から魔獣や魔人と呼ばれる発生原因や目的が不明な人類への敵対種族が現れ、それに対抗する手段として魔法少女というものが生まれたらしい。
魔法を扱えるのは魔法少女か魔人だけ、魔法少女への変身をせずに魔法を扱えるものは魔人,,,と思われたのも仕方がない。
魔人は様々な魔法を使う、過去には有名人の姿に変身して悪事を働いた魔人や軍隊を洗脳して戦力へと変えた魔人も居るらしい。
魔人が魔法を使って兄のフリをした、俺はそう思われたのだろう…魔法を使ったのが間違いだったのだろうか...。
美咲であれば信じてくれる、俺は心のどこかでそう思っていた...現実はそんなに甘くはなかった、家族に頼ることはもうできない....。
この世界に、俺が帰る場所はもうない。
考えることにも疲れた俺は、ぼーっとした頭で、行く当てもなく歩き続け、どれだけの時間が経ったのかすらもわからなくなっていた。
戸籍もない、お金もない、頼れる人もいない、そして生きる気力もない。
飲まず食わずでも回復魔法を使えば2、3ヶ月なら生きていられる。
回復魔法で最低限の回復をしていなければ俺は既にのたれ死んでいただろう。
でも、このまま生きている意味はあるのか?
もう死んでしまった方が楽なのではないか?生きていても居場所も家族も友人も…もう…。
『これからのキミの人生が幸せであるように、良い人に巡り会い、新たな居場所を見つけられるように祈っている』
ミスティが最後に残した言葉が頭をよぎる...ミスティ、君の願いは叶えられそうにもないや...。
暗い気持ちになりながら歩いていると、目の前にフラフラと歩く女の子が目に入る。
ピンク色の髪に、過度な装飾がされているアニメキャラの衣装のようなピンクミニスカートのドレス、魔法少女…だろうか、傷だらけで目の焦点も合っていない、今にも倒れそうだ。
彼女が俺の近くを通り過ぎようとした時、彼女の体がガクッと揺れ、倒れる。
俺は彼女の体を支えるついでに傷を見た、かなり深くまで傷付いている。
彼女はひどく冷たく、そして濡れていた。空を見上げると酷い雨が降っている、俺の服も水分を吸って重たくなっていた、雨が彼女の体温を奪う、このまま放置したら死んでしまうのではないだろうか?
俺の回復魔法なら、治せる。彼女の意識は既にないから魔人だと勘違いされて戦闘が起こる、なんてこともないだろう。
「最後に人助けをするのも悪くはないかな」
ボロボロな精神と肉体から魔力を捻り出し、彼女に回復魔法をかける、徐々に傷が塞がっていった。
彼女の傷が全て塞がったのを見て俺は立ち去ろうとした、その腕を掴まれる。
「待ってください!」
「意識はなかったはずじゃ…」
「貴女が傷を治してくれている途中で目覚めました!集中してるみたいだったので黙ってたんです」
「俺を捕まえてどうするつもり?」
「お礼が言いたい、それだけのつもりでした」
「まるで今は違うような言い方だけど」
「こんなにボロボロな人を見て見ぬ振りはできません、それが私の命の恩人となればなおさらです!私は貴女を助けたいです」
「ボロボロって…そんなこと…それに俺なんて助ける必要はないよ」
「手がものすごく冷えています、裸足で歩いているからか足もかなり傷付いていますよね?それに着ているローブも酷く雨に濡れていて、これでボロボロではないと言えるんですか?」
「体は治そうと思えば多分治せる、大丈夫」
「…顔を見せてください」
そう言って強引にローブのフードを外される。
「髪もボサボサで顔色もとても悪い、食事も碌に摂っていませんよね?」
「……おそらく数日は食べてないけど、別に問題はない」
「そして何より目、ものすごく腫れています、たくさん泣いた跡ですよね、心も深く傷付いているんじゃないですか?」
ああ、泣いてたんだな俺って、それすら自覚できないくらいには心がすり減っていたのかもしれない、気まぐれに助けた魔法少女に気付かされるとは思っていなかった。
「貴女の事情は私からは聞きません、魔法少女でも
「……否定はしないよ」
「私は命の恩人が死んでいくのを見過ごせません!貴女は死にたいのかもしれません、それでも私は貴女を助けたい!だから私は無理矢理にでも貴女を助けます、貴女は私に救われてください!」
答える間もなく俺は彼女に抱きかかえられた、彼女の力が強いのか、俺の力が弱いのかはわからないが抜け出せる気はしない。
心の傷に気付いてくれたのは嬉しくて、でもこんな自分より幼い女の子*1に助けられるのは申し訳なくて、複雑な気持ちのまま抱き抱えられていた。
この子の腕の中は心地が良くて、俺の意識は徐々に薄れていった。
「って、おでこめっちゃ熱いですね、熱…凄い、とりあえず私の家に連れて行きますから!」
ここから始まるサポート特化聖女とステゴロ魔法少女のTS百合バトル物。
多分続かない。気が向いたら続くかも。