18話『もう一度会いたい人』
あの日、お兄ちゃんの名を名乗った魔人と思わしき少女は一体何者だったんだろう。
1年くらい前、芸能人に化けて悪さをしていた魔人が居たらしいし、魔人や魔法という常識の外側にある力なら、お兄ちゃんに関する記憶を読み取ってお兄ちゃんのフリをすることくらい可能だと思う、あまり詳しくはないけれど。
彼女が浮かび上がらせた光の球体、あれは魔法で間違いないはずだ。
彼女は少し汚れのついた白いローブを着て、足元には何も履いていなかった、魔法少女ではないはずだ……魔法少女たちは特徴はそれぞれ違うが、華やかな衣装を身に纏っている事が多い、百歩譲ってあのローブが魔法少女の衣装だとしても、裸足なのはあり得ないだろう。
彼女の魔法に動揺して彼女の言葉を全てを聞き取れたわけではない、でも困惑こそしていたみたいだけれど魔人であるという事を否定する様子はなかった、もし魔法少女であったなら、魔人ではなく魔法少女であると訂正するはずだ、魔人を知らないなんて事はあり得ないだろうし。
それに魔法少女がお兄ちゃんの名を名乗る意味が分からない。
私が中学生だった頃、交通事故に巻き込まれて死んでしまったお兄ちゃん、客観的に見ても仲の良い兄妹だったと思う。
一時期、私がお兄ちゃんにべったりだったことを友達に揶揄われたりして、距離を取っていた時もあったけれど、結局また積極的に関わるようになっていた。
割と適当なお兄ちゃんだけど、困っている時は真っ先に助けてくれるし、嫌なことがあって泣いていた時には何も言わずに傍にいてくれた自慢……とまではいかないけど大好きなお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんの名を騙られたことは許せることではない、あの時の私に言い返さないという選択肢はなかった、相手は魔法を使える存在で自分では敵わないと言うのは分かっていたし恐怖で震えていただろう、実際魔人が走り去った後は緊張がほどけたからかその場に座り込んでしまったほどだ。
でもあの泣きそうな目で走り去っていった彼女の姿を思い出すとそれが正しかったのかわからない、お兄ちゃんは既に死んでいる、火葬されるのもこの目で見届けている間違いないはずだ。
ましてやあの女の子がお兄ちゃんだなんてありえない。
けれど魔法を使われるまで話していた間はお兄ちゃんの面影のようなものを感じられたのも事実で……。
こう思わせることまであの魔人の狙いなのかもしれないけど、あの日の出来事が頭を離れない。
お兄ちゃん……会いたいな……。
大学で学食を食べていると友人の
「今週の土日って暇?ちょっと出かけない?」
「……暇ではあるけど」
「面白いオカルト話があってさ!付き合ってくれないかなって!」
「えー……またそれ?」
千夏は重度のオカルト好きで、妙な噂が流れている場所や心霊スポットを巡っている、私もよく付き合わされるのでもう慣れた。
「冥界電話って言って隣のK県にある噂なんだけど故人に会える電話なんだって!面白そうじゃない?」
「故人に……」
「暇なら付き合ってよーお願いだからさぁ」
「仕方ないなぁ……付き合ってあげる」
どうせただの噂だ、実際に会えるわけがない、でも……もし……お兄ちゃんと会えるなら……。
数日後土曜日の夜中、千夏を連れて私の車でK県M市H山までやってきた、近くのコインパーキングに車を停めて徒歩で散策するようだ。
運転中に聞いた話によると、この付近に黒い電話がぽつんと置かれていて、それを使って会いたい人物を思い浮かべながら適当な番号に電話をかけると故人に会える、というのが冥界電話という噂の詳細らしい。
この山のどこかで見つけられるらしいけど……。
「まぁ、簡単に見つかったりはしないよねー」
「……眠い、毎回付き合わされる私の身にもなってほしいよ」
「ごめんごめん、今度何か奢るからさぁ」
「仕方ないなぁ……」
千夏には色んなところへ連れまわされてるけど何もないことがほとんどだ、雰囲気や調べることを楽しんでいると言っていたけれど私には理解できない。
何も見つからないまま暫く歩いていると……。
「あ!あれじゃない!?」
千夏が興奮した様子で声をかけてきた、千夏が指を刺した先を見ると、黒電話が岩の上にポツンと置かれていた。
黒電話に向けて走っていく千夏を慌てて追いかける。
「これが噂の冥界電話!でも会いたい故人とか居ないんだよね、美咲は誰か会いたい人はいる?」
「……居る」
「じゃあ先に使って良いよ、私はその間に考えておくからさ」
ただの都市伝説、根拠も何もない、お兄ちゃんに会えるわけがない、でも……もしかしたら……。
淡い期待を抱きながら電話を手に取る、お兄ちゃんを強く思い浮かべながら適当な番号へと電話をかけた。
何も反応がない、電話線も電気も繋がっていないんだから当たり前だろう。
「何も起きないね」
「じゃあ私も……」
人の気配を感じ、後ろに振り向く、道の曲がり角に高校生くらいの男の子がちらっと見えた、あの後ろ姿はお兄ちゃんに良く似ていて……。
視界から消えたその人物を追いかけようと私は走り出した。
「お兄ちゃん!」
「ちょ、美咲!?どうしたの!?」
しばらく追いかけたがその人物は見当たらない……。
「お兄ちゃん……」
後ろから息を切らした千夏がやってくる。
「急に走り出すからびっくりしたよ……何か見えたの?」
「いや、お兄ちゃんに似た人が見えた気がして……」
「会いたい人ってお兄さんだったんだ……美咲、顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫だよ、ちょっと動揺してただけだから」
「変なことにつき合わせちゃってごめんね?今日は帰ろ、運転も私がするしさ」
これ以上探しても見つかる気配はないし……そうするしかないのかな……。
「あ、でも、千夏は電話かけたの?」
「かけてないけど、もう良いよ美咲がそんなんだしさ」
「……大丈夫だよ、せっかく見つけたんだし千夏もかけたいでしょ?少し戻るくらいなら平気だよ」
「まぁ美咲がそういうなら……」
走ってきた道を戻ったものの黒電話が見つからない。
「ここら辺だと思ったんだけど……」
「あ!あの岩、さっき黒電話が置いてあった岩じゃない?」
「電話が無くなってる……」
「かけられなかったのは残念だけど、戻ったら消えてるってのはオカルトっぽくて良かったかな!久々の収穫だよ」
その後辺りを軽く探したが電話が見つかることはなく、今日は千夏の運転で帰ることになった。
冥界電話をかけてから3日ほど経過した、あれからも時折お兄ちゃんのような人影を見かけるが、追いかけても追いつけず見失ってしまう……。
そんな私の様子を見て心配したのか千夏が話しかけてきた。
「美咲、あれからどんどん顔色が悪くなってるよ、お祓いとか受けた方が良いんじゃない……?」
「お祓い……」
今見えているのがお兄ちゃんの幽霊なんだとしたら祓いたくはない、せめて一度話をしてから……と思ってしまう。
「まぁ、考えておくよ」
「大丈夫?私が誘っちゃったのが原因だし、お金に困ってるなら私が出すよ?」
「……そういうわけではないんだけど」
「本当に何かあったらすぐ連絡してね?」
「うん……」
「このままにしておくのは心配だな……私も色々調べよう……」
「千夏?今何か言った?」
「ううん、なんでもないよ」
千夏とそんな会話をしてから一週間ほど経過した、大学からの帰り道もう少しで家にたどり着くというところで
「お兄ちゃん……!」
距離が次第に縮まっていく。
あと少しで届く、そう思った時だった。
「……美咲」
「なんでここに……」
私の行方を阻んだのは千夏と……。