美咲の名前や俺の様子がおかしくなったことから状況を察したのか茜さんが小声で話しかけてくる。
「ルナちゃん、高宮さんのお友達ってもしかして……」
俺は無言で頷いた。
茜さんは心配そうにこちらを見ているがそれに反応をする余裕がない。
まさかこのような形で美咲と会わないといけなくなるとは思っていなかった。
前世で仲の良かった妹に拒絶されてしまったという経験はやはりトラウマなんだろう……手が震えて止まらない。
信じてもらえず拒絶されてしまったことは悲しくてショックだった、それに加えて俺のせいで美咲を怯えさせてしまったのはとても辛かった。
美咲と向き合うのが怖い、再び拒絶されてしまうかもしれないしまた怯えられてしまうかもしれない……間違いなく良い感情は持たれていないだろう。
でも美咲をこのまま放置していたら医療施設で見た被害者のように眠り続けることになってしまうかもしれない、それは許せることではない。
今はもう血は繋がっていないけれどこれでも俺は兄なんだ、怖がってる場合じゃないっ……。
頭の中で悩んでいると、手に何かが触れる、顔を上げて手を見ると茜さんが俺の手を握ってくれていた。
「大丈夫……とは言い切れないけど私も一緒に説明する、私もついてるから……」
そうだ異世界からこの世界に帰ってきたばかりの頃とは違い、俺には頼れる人がいるし、帰る場所もある、そう考えるだけでも少し気持ちが楽になる、それに茜さんがいれば俺一人でやるよりも上手くいくかもしれない。
「ありがとう……おかげで美咲と向き合う勇気が少し出たよ」
まだ怖いけれど覚悟は決まった、茜さんも背中を押してくれている、美咲を治しに行こう。
近くの駐車場に車を停めて俺の……いや前世の家に向かう、その途中だった。
曲がり角から走ってくる女性が一人、あれは間違いない美咲だ。
「お兄ちゃん……!」
そう呼ぶ声が聞こえ、反応しそうになるが我慢する、美咲は俺のことを兄だとは思っていない、おそらく冥界電話で俺と会おうとした結果、俺のような幻覚を見ることになったんだろう。
走ってきた美咲に対して最初に反応したのは高宮さんだった。
「……美咲」
「なんでここに……」
美咲は高宮さんを見て驚いた後、俺に視線を向けすぐに離し、茜さんと黒井さんを見た後再び俺に視線を戻し睨みつけてきた
「あの時の……!なんで千夏と一緒に……!」
この服装と髪色でもバレているようだ……まぁメイクも何もしてなかったから仕方ない、美咲が鋭いだけかもしれないけど……。
「この人たちは私が呼んできたんだ、冥界電話を掛けてから様子がおかしかったでしょ?このままじゃ危ないと思ったから、治してくれるって噂の人を連れてきたんだよ」
「心配してくれているのはわかるけど必要ないよ、お兄ちゃんに会えるかもしれないんだから、それにその子は……」
「このままじゃ危ないのは美咲自身もわかっているんじゃない?あれからどんどん体調が悪くなってるよね?」
「それは……そうだけど……でも……」
黒井さんや高宮さんもいる状況でどう話を切り出すべきか……。
「このままじゃ話が進まないので一旦向こうで私が説明しますね!」
そう言って茜さんが俺と美咲を引っ張って高宮さんや黒井さんから距離を取る、黒井さんは何か事情があるのを察したようでこちらに任せてくれるみたいだ。
「まず、私はこういう者です!」
茜さんが変身して魔法少女としての姿を見せる。
「魔法少女……」
「そうです!そして美咲さんの事情も少し聞いています、ルナちゃんのことを魔人だと勘違いしていることも知ってます!」
「勘違い?でもこの子は……?いやその姿は魔法少女なの……?でも前に魔法を使った時は変身していなかったような?そもそも何でお兄ちゃんの名を……?なんでそんなことを……まさか本当に……?いやそんなわけない、だってさっきまで……」
「冥界電話を掛けてから美咲に見えているお……兄の姿は幻覚で、そのまま放置していると危ないんだ、だから治療させてくれないか?」
「治療……?」
「冥界電話は魔人が作り出したもので、そのせいで目覚めなくなってしまった人もいるんです!」
魔人の魔法を解除する事が最優先だと思い、魔法を使おうとコンパスをセットしたロザリオを持って美咲に近づく、けれど美咲が俺から離れようと後ずさる。
「さっき見えたお兄ちゃんは幻覚……?冥界電話は魔人の仕業?そんな事急に言われても……もう……何が何だかわからないよ……!そもそも貴女がお兄ちゃんの名を名乗ったことすら訳が分からないのに……」
「美咲……」
そもそも俺が美咲の前に姿を見せてしまったから、兄の存在を強く意識させてしまったから冥界電話なんてものを掛けてしまったんじゃないか?こうなっているのも俺のせいなんじゃ……?
「ルナちゃんは……っ」
茜さんが何か言おうとしてくれていたが、それを止める、今茜さんの口から説明してもらっても余計美咲を混乱させるだけだ。
言おうとしてくれた気持ちだけで十分嬉しい、けれどここは俺が何とかしないといけないところだろう。
軽く魔法で身体能力を強化し距離を詰めて美咲を抱きしめる、そのままロザリオを持っていない手で頭を撫でる。
昔小さい頃の美咲が、怖いことがあって寝れず俺のベットに入り込んできたときにこうしてあげていた。
今は俺の方が小さくて不格好だけれど……。
「っ……!」
「美咲、ごめん……色々と迷惑をかけて……」
ロザリオに魔力を込めて魔法を使い、美咲に繋がっている物を解いて行く。
「急にあんな形で会いに行って混乱させたよな、俺のことが信じられないなら狂人の吐いた虚言だとでも思って忘れてくれても構わない」
「美咲が幸せでいてくれればそれが一番だから……」
俺の軽率な行動で美咲をここまで苦しめてしまった、美咲は高宮さんのような心配してくれるし気にもかけてくれる良い友人にも出会えているんだ、願いが叶うなら昔のように話したい、それが無理だったとしても美咲が幸せでいてくれるのであれば……それで……。
「お兄ちゃん……」
精神的に疲れてしまっていたのか治療が終わると当時に美咲は眠ってしまった。
だが繋がりも切れたし、減っていた生命力も回復魔法で治したので問題はないはずだ、目が覚めるまで傍にいたい気持ちもあるけれどまずは魔人の処理をしなければならない。
「茜さんが傍にいてくれたおかげで美咲と会う勇気も出たし伝えたいことを伝えられた、本当にありがとう」
「ルナちゃん……美咲さんに伝わってると良いね!」
「そうだね……でもその前に今は魔人を倒しに行こう……!」
黒井さん達と合流し、高宮さんに美咲を預けた、何か起きた時の為にと黒井さんが高宮さんに連絡先を渡していた。
高宮さんと別れコンパスが正常に動作しているのを確認した俺達は、支援魔法を使い身体能力を上げて移動する、相変わらず俺は茜さんに抱えられる形だ。
人目を気にしなければ車よりも早いので少しでも急ぎたいときはこの方法が一番だろう。
コンパスが指す方向へと向かう、やはりH山の方向だ。
最終的にH山から少しだけ離れた場所にある一つの建物へとたどり着く、廃ビルか……?
「2人共魔力は感じますか?」
「うん!薄っすらとだけど感じるよ!」
「下の方から感じるので地下か何かにいるんだと思います」
廃ビルに侵入した俺達だったが……。
「寒い!」
「魔人の魔法でしょうか?でもこのようなことができる相手とは思えませんが……」
精神に干渉している可能性や体から何かを奪われている可能性も考えて自身に魔法を使ったが異常はなかった、実際に気温が下がっている可能性が高いだろう。
「冥界電話の魔人とは別の魔人、または魔法少女がいるのかもしれません……」
俺達は魔人や魔法少女を警戒しつつ地下への入り口を探し始めた。
この後の諸々が片付いたタイミングで美咲視点も挟む予定です!