冷静になればわかることだけど感情のままに動いてしまってわからなかったり、現実を見たくないと意識することを避けてしまったりするのって好きなんですよね。
少女が私を抱きしめながら、頭を撫でてくる、どこかお兄ちゃんの面影を感じて振り払うことはできなかった。
「っ……!」
「美咲、ごめん……色々と迷惑をかけて……」
少女から、何かが流れ込んでくる、暖かくて心が安らいでいくような気がする。
「急にあんな形で会いに行って混乱させたよな、俺のことが信じられないなら狂人の吐いた虚言だとでも思って忘れてくれても構わない」
これがお兄ちゃんの名を使い私を騙そうとしていた人間の言葉なのかな……?
「美咲が幸せでいてくれればそれが一番だから……」
それが私が最後に聞いた言葉だった。
相手は自分よりも幼い子供で、背も低く頭を撫でる姿は不格好だ、でも幼い頃テレビの心霊番組を見て怖くて眠れなかった時や、悪夢を見て眠るのが怖くなった時に慰めてくれた兄ちゃんと同じ温もりを感じられて……。
「お兄ちゃん……」
私はそのまま意識を失った。
目を覚ました私は誰かの車の中に寝かされていて……。
「美咲!やっと目を覚ました……体は大丈夫……?」
「大丈夫、どころか久々に調子が良い気がする」
千夏が私の顔を覗き込んでくる。
「顔色も悪くなさそう……本当良かった……」
千夏が涙目になりながらも話しかけてくる、本当に心配かけちゃってたんだなぁ……。
あの少女の事は気になるけど、まずは千夏を安心させないといけないだろう、私の為に色々としてくれていたみたいだし。
私が心配だと言った千夏と、今日一日私の家で共に過ごすことになった、その夜の事だった。
少女と一緒に居た魔法少女が私と話したいと言って千夏に連絡してきたようだ、断る理由もなかったので話を聞くことになったけれど……。
その魔法少女は茜という名前らしく、あの少女が魔人ではないことを伝えようとしてくれていて、その為に魔人や魔法少女について説明してくれた。
ネットで調べて出てくるような情報もあり、茜さんの言葉は真実だと思う。
魔人じゃないからといって、あの少女がお兄ちゃんである証明にはならない、でもさっき交わした会話や感じた温もりは他人のようには思えなくて……。
あの少女がやっぱりお兄ちゃん……なのかな、あの日少女が魔法を見せてからは疑ってばかりでまともに話を聞いていなかった、しっかり話を聞いていれば何かわかったかもしれないのに……。
一通り説明をし終えた後、茜さんはルナという名前らしいあの少女と、もう一度会って話をしてほしいと言ってくれた。
けどあの少女がお兄ちゃんだというのなら、お兄ちゃんの話も聞かず酷い態度をとって追い払ってしまったのは私自身で……。
お兄ちゃんはそんな私に対して最後まで幸せを願ってくれて……そんなお兄ちゃんと再び会うような資格が私にはあるのかな……?
それに何をどう話したら良いのかな……?
それがわからなくて、茜さんのお願いに対して返事をすることができなかった。
私の様子を見て心配したのか千夏が電話を代わってくれて、その後も何か会話をしていたようだったけれど、私の耳には入ってこなかった。
数日後、千夏にオカルト調査に誘って巻き込んでしまったお詫びをしたいと言われ、待ち合わせをしている近所の駅前に向かったんだけれども……。
何故かあの少女がその場にいた、目が合ったけれど気まずくてお互いに目を逸らしてしまう。
するとタイミングを見計らったかのように千夏から連絡がくる、急用で来れなくなったらしい。
この状況で素直にその言葉を信じることはできない、少女がお兄ちゃんの名を名乗ったということは隠したけれど色々と吐き出してしまったからだろうか、もう一度会って話がしたいという私の本心に気がついた千夏が気を遣ってこのような場を用意したのかもしれない……。
どうしようかと悩んでいると再び少女と目が合う。
確かに前に会った時はお兄ちゃんの面影を感じたはず、けれどばつが悪そうな顔で髪をいじっている姿は年相応の少女にしか見えない。
気まずい雰囲気に耐えられず声をかけようとする。
「「あの……」」
しばらくの間沈黙した後、少女が先に口を開いた。
「えと……ランチを予約してあるんだけど連れが急用でいなくなっちゃって……一緒にどう……かな?」
不安気に上目遣いで見つめてくる少女に対して私は無言で頷いた。
少女に案内されてたどり着いたのはとある洋食店、昔イベントやお祝い事がある時に家族で食べに行っていたお店で、お兄ちゃんが死んでからは来なくなってしまったお店だ。
経年劣化か所々古くなっているところもあるが、昔の雰囲気がそのまま残っている。
「懐かしいな……」
さっきから年相応な少女としての言動と、どこかお兄ちゃんの面影を感じさせる言動を行き来してるせいで、私の脳は処理が追いかない。
テーブルに案内され、私はナポリタンを、彼女はハンバーグセットを注文した。
料理が届くまでに時間がかかるので、その間に私は少女と話をすることにした。
「本当に貴女はお兄ちゃんなの?」
「……少なくとも俺はそう思ってる」
「……どうしてそうなったのか話を聞かせてもらっても良い?」
「うん」
お兄ちゃんは交通事故で死んでしまった後、異世界で女の子として生まれ、紆余曲折あって聖女になり、魔王とかいうやばい奴を倒した後仲間の手によって、この世界に戻ってきたらしい、魔法を見せたのもこの世界に存在しないと思っていた魔法を見せることで異世界の存在を証明しようとしていたみたいで……私が追い出した後は拾ってくれた茜さんのお世話になっているようだ。
魔法少女や魔獣なんてものが存在するとはいえ異世界だ転生だというのは普通なら信じられる話ではないけれど……不安そうに語っている姿はこちらを騙そうとしているようには見えない、既に住む場所もあるらしい彼女が私を騙す理由もない、それに彼女の言動やあの時の会話にお兄ちゃんの面影を感じたのは間違いなくて……。
「冷静になってからわかったよ、簡単に信じてもらえるような話じゃなかったって……それに魔法がこっちにも存在してるだなんて思わなかったし……頭のおかしなことを言ってるようにしか思えないよね……」
「それでも私は信じることにするよ……お兄ちゃん、こうして話している姿を見ているとやっぱり他人のようには思えなくて、あの日追い出したのに今更何言ってるんだって話だけど……」
「あの日の事は……良いよ、何も考えずに家に行った俺も悪かったし、結果的に良い出会いもできたからさ、それに美咲とこうやって話せるだけで俺は嬉しいから……」
お互い少し泣いてしまっていたけれど、料理が届くころにはある程度落ち着いて、そのあとは食事をしながら話すことになった。
「……お父さんやお母さんは元気?」
「うん、お父さんは相変わらず仕事ばっかで家にいる時間は少ないけどね」
お父さんは出張も多くて家に滅多にいない、魔獣が現れ始めた頃は頻度も減ったけれど今はまた元通りだ、そんなお父さんでもお兄ちゃんが死んでからはしばらくは家族を優先して家にいる時間を多く作ってくれてたな……。
「元気にしてるなら良かった、会いたい気持ちはあるけど流石にこの姿で親に会うわけにはいかないからね……戻って来てから真っ先に家に行った俺が言っても説得力はないけど……あ、でも美咲の友達ってことにすれば会いに行くくらいはできるかな?」
親に他人として扱われるのは辛くないのかな、とはいえ本人の意思に反してお兄ちゃんの事を両親に伝えるというのも良くないとは思う、私は最終的に信じたけれど最初は信じていなかったのも事実だ、両親も信じてくれるような保証はない。
「でも友達って言うには歳が離れすぎてるか……」
「今のお兄ちゃん、見た目は中学生か小学生くらいの女の子だからね……」
お兄ちゃんの姿を改めて良く観察する。
中学生くらいの年齢らしいけれど、かなり小柄で見方によっては小学生にも見える、異世界生まれだからか日本人とは明らかに違うけれどかなり整った顔立ちと、プラチナブロンドの綺麗な髪に、色白で綺麗な肌、宝石のように輝く瑠璃色の瞳、お人形さんみたいに可愛い女の子と例えられるタイプだと思う。
仕草や所作もお兄ちゃんの面影はありつつもちゃんと少女らしい、この子がお兄ちゃん……なんだよね?
「……?なんか変?さっきからジロジロと見られてる気がするんだけど」
そうやって首を傾げる姿も可愛らしい。
「お兄ちゃん、随分可愛らしくなったなと思って」
「別になりたくてなったわけじゃないし、生まれ変わったらこうだったんだよ……」
一度死んだ、大好きだったお兄ちゃんが女の子になって帰ってきたと考えると結構ありなのかも?
同性になったからこそできることもあるだろうし……。
今のお兄ちゃんには量が多かったみたいで苦戦していたけれど2人共食事を終えたところでお店を出る、お互いにまだ話し足りないので近くを歩きながら話を続けることにした。
書くタイミングがなさそうだった茜や千夏の裏の動きはこんな感じです。
茜が真那経由で千夏に連絡する。
↓
茜と美咲で話す
↓
茜が千夏に、ルナと美咲の2人に会話の機会を与えたいと言う
↓
千夏が会わせるべきか判断するためにさりげなくルナの事を美咲に聞く
↓
茜と千夏で協力して2人に会話の場を設ける
↓
何かあった時の為にこっそり後を付ける(ルナと美咲は余裕がなくて気付いていない)
次話はルナ視点でそんなに時間がかからないうちに出せると思います!多分。