説明多め回です!多分次回くらいにはバトル展開ができるのではないかと……。
K県M市H山付近の地下、魔法少女ホーリーベルのファンミーティングが行われる会場からそう遠くない場所に存在する、魔力を遮断する建材で囲われた施設で、スーツの男と魔法少女スピカアルケミストが一つの遺体を眺めている。
その遺体にはいくつかの管が繋がれていて、何かを流し込まれているようだった。
そこに影使いの魔法少女、魔法少女シャドウルーラーが影から現れた。
「……実験は順調?」
「ええ、尤も私が求めた結果を得られるかはわかりませんが」
「あの魔人を確保できなかったのは痛かったね、アレの言葉を信じるのであれば、魂というものが存在するんだろ?ボク達にはそれを認識する手段はない、アレを手に入れられていれば実験もより効率良く進められただろうに」
「それはその通りですね、魂という物が何なのか、魔人にも存在するのか、今の私達ではわかりません」
「私が上手く立ち回っていれば……あの魔人を確保できていた……」
「あの状況では致し方ない事でしょう、それにその際に邪魔をしてきた彼女は興味深い発言をしていたようですしね?」
「そんな深い意味がある発言でもないかもしれない、けどあの魔人が残した言葉を考えると……」
「私達の目的、死者の蘇生、それができる可能性はあるでしょう、もしかしたら彼女自身がその一例なのかもしれません」
影使いの魔法少女は少し悩んでから発言をした。
「捕まえてくる……?時間も残り少ない……少しでも可能性があるというのなら……」
「彼女は回復魔法だけではなく、魔角で強化されたバーサクメイデンの攻撃も防げる程の強固な障壁を張ることができるようですから、貴女の能力では捕まえるのは厳しいでしょう、後々手に入れるという事も考えてはいますがね」
「……わかった、私にできることならなんでも言って……お姉ちゃんの為なら私は……」
「キミ達がそこまでして死人にこだわる気持ちなんてボクには理解できないね、まぁボクはボクで好きにやらせてもらっているから別に良いんだけどさ」
シャドウルーラーはスピカアルケミストを睨みつける。
「私には貴女があんな理由でこちらに付いているという事実が全く理解できない……心底くだらない」
「くだらないなんてボク自身が一番わかっているさ、でもボクが居なければキミの望みも叶えられない、そうだろう?」
「……そんなことは私だってわかってる」
「はぁ……ここで争わないでくださいね?貴女も変に刺激することを言うのはやめなさい」
「…………」
「……地雷を踏んでしまったようだね、ボクが悪かった、気を付けるよ」
「さて、スピカさんの想定通りであればそろそろでしょうか」
「魔法少女の遺体に魔人の魔力を注ぎ込んで目覚めさせる……だったよね?」
「そうだよ、キミ達が得た魔法少女の死体を操る魔人がいたという情報のおかげでここまで辿り着いたのさ、魔法少女の魔力は魔人の魔力とは相容れない、魔法少女に魔人に魔力を注ぎ込んだところで打ち消しあうだけで意味はないだろう……しかし、既に空っぽになった遺体なら……?」
「受け入れることが可能……?」
「そういうことだね、それに加えて今までの研究で魔人や魔獣は肉体が魔力で構成されているという事がわかっている、魔力を集めることで魔獣であれば生み出すことにも成功しているわけだしね」
「魔人に使役させたあれか……」
「魔人と魔獣の大きな違いは知性、そして魔力量なんだ、魔人として形を成すことができるだけの魔力を集めれば理論上は魔人を生み出すことができる、ならそれだけの魔力を魔法少女の死体へと注ぎ込んだらどうなる?」
「……どうなるの?」
「ボクの想定通りなら魔法少女の死体を元にした魔人が生まれるだろうね、魔人の特性を持ちながら、人に近い肉体を持った新たな魔人と言ったところかな、これがキミたちの望んだものになるかはわからないが」
「それは……」
「死者を利用して魔人を生み出すというのは初めての試みです、魔人の肉体や人格がどうやって生まれるのかはまだ未知数、私達の望んだ結果になる可能性もあるでしょう」
「お、終わったみたいだね」
少女の遺体が目を開けると同時に変身し、赤と黒が混ざったドレスを身に纏う。
少女は困惑している様子だ、影使いの魔法少女はスピカアルケミストとスーツの男の前に立ち戦闘態勢に入っている。
「ここはどこ……?」
「ここはですか……そうですねぇ……ここは魔法少女協会の施設ですよ、貴女の名前は?記憶はありますか?」
「名前?わからない思い出せない、魔法少女協会……?そうだ私は魔法少女として……うっ……何この記憶……何で?どうして私がこんな思いをしなきゃいけなかったの?」
「ふむ、どのような記憶を思い出したのですか?」
「魔法少女として人を助けて、でも全てを救うことはできなくて、それで助けた人にも責められて……」
「それは酷い話ですね」
「それでも私は戦い続けた……それには理由があったはずなんだけど思い出せなくて……辛かった記憶しか……」
その言葉を聞いて影使いの魔法少女は口を挟んだ。
「昔はそんなこともあったんだ……今とは大違いだね」
「今の魔法協は魔法少女のイメージアップにも力を入れていますからね、メディア戦略部によるアイドル魔法少女などを利用したイメージ戦略も良い成果を出しているようですから」
魔人は不思議そうな顔をしてスーツの男へと尋ねた。
「アイドル……?」
「貴女が眠っている間に魔法少女を取り巻く環境もかなり変化したんですよ」
そう言ってタブレットを取り出し動画を再生した、魔法少女ミラクル☆アイナのライブ映像だ。
「これが今の魔法少女の姿……?」
「これは極端な例ですけどね、ですが昔の貴女のように非難されるような事は少なくなったのは事実です、昔と比べれば良い環境になっているんですよ」
その映像を見た魔人はその言葉を聞いて顔を歪めた。
スーツの男は特に狙いがあってその発言をしていたわけでは無かった、魔人が魔法少女であった時と変わっていなければ特に問題はなかったのだろう。
しかし魔人は生前とは大きく変わってしまっている、断片的に思い出した記憶はどれも悲惨な過去ばかりな上に、魔人の魔力を注ぎ込まれて生まれた事によってその性格は大きく歪められてしまっていた。
「私の時はひたすら戦い続けて……それでも助けた人から責めらていたのに……今の魔法少女はこんな……」
顔を歪めたまま何かを呟いている魔人を横目に見ながらスーツの男がスピカアルケミストへと話しかける。
「ふむ、生前とは性格が大きく異なってしまっているようですね」
「魔人になったことで変容したのかもしれない、魔人は人と比べても生存欲求や負の感情が強い傾向にあるからね」
「負の感情ですか……」
「数年前の魔法少女たちの境遇は良い物だったとは言えない、その時代を戦ってきた記憶その中でもとりわけ悲惨な記憶を持ち、負の感情が大きくなっている魔人が、今の魔法少女の事を知ればどうなるか、想像するのは容易い、生前の彼女であれば違う反応をしたのかもしれないけどね」
スピカアルケミストの言葉を聞いたスーツの男は少し考えてからシャドウルーラーへと話しかける。
「これは利用できるかもしれませんね……シャドウルーラー、彼女達はホーリーベルのイベントに参加すると言っていたのですよね?」
「うん、話しているのを聞いたから間違いない……」
「上手く誘導すればこの魔人と彼女達をぶつけられる、この魔人の相手をさせて隙を作り出せば彼女を手に入れることもできるかもしれませんね」
「実戦データも欲しい所だし丁度良いね、試運転の相手としては十分だろうさ、けど良いのかい?あまり派手に動きすぎるとまたエンプレスに怒られるよ?」
「確かに……あの魔法少女の魔法は派手だから……」
「別に構いませんよ、結局彼女は私達に付いてくるしかないのですから」
魔法少女シャドウルーラー 本名:
固有魔法:『影支配』……影を操ることができる魔法、『影縛り』『影渡り』『影創り』という3種類の技を使い分けている。
『影縛り』……影が繋がっている相手の動きを拘束、消費魔力も軽い、影を基準に動きを縛るので口や臓器の動き、魔法の発動までは止められない。
『影渡り』……自身や触れている対象を影の中へ仕舞い移動させる、転移ほど高速ではないが走るよりは早く移動が可能。運ぶ物の質量によって消費する魔力量が変わる、魔人や魔獣を運ぶ場合消費魔力が大幅に増える。
『影創り』……影を武器や防具の形にする、他の技と違い光で照らされても維持が可能だが、魔力を消費し続ける。
戦闘スタイル:影渡りを使った不意打ちや影縛りを使ったサポートが主体、直接的な戦闘能力は高くない。
メモ:スーツの男が個人的に雇っていて、魔法協には所属していない。
影創りで生み出したフードを被り顔を隠している。
約一年前に姉を亡くしているらしい。