「あの、もし良かったら貴女の事情を聞かせてもらえませんか?勿論辛かったり、言いたくないことがあったりするなら無理して話さなくても大丈夫です!」
どこまで話すべきか、悩んでしまう。
何も言わなければ彼女…茜さんはこれ以上追求してくることはないだろう、でもここまでお世話になっていて何も言わないのは気が引ける。
「本当に言えないなら大丈夫なんです」
茜さんが俺の手を握り、目を合わせてくる。
「私は貴女のことが知りたいんです、どうしてこんな姿で歩いていたのか、今までどんな経験をしてきたのか、どうしてあんなに寂しそうな表情をしていたのか、貴女の事を私に聞かせてくれませんか?」
何故そう思ったのかは自分でもわからない、ただ、彼女が真正面から気持ちをぶつけてくる姿と、真っ直ぐに俺を見つめてくる目が、かつての仲間、勇者エリオによく似ている気がして…。
事情を話しても良いかもしれない、そう思った。
「話すよ、俺の事情を…荒唐無稽な話だから、信じてもらえなくても構わないけど…」
異世界からの転移という荒唐無稽な話を信じてもらえるとは思わない、信じてもらえないだけなら仕方ない…けど拒絶されてしまったら?美咲みたいに怯えられてしまったら?そう思うと怖くて言葉が出なくなる。
「信じます」
「まだ何も言ってないのにそんなこと言って良いの?」
「これから嘘をついて人を騙そうとしている人がするような顔じゃありませんから、どんなことを言われても私は貴女のことを信じます」
本気で言っているのが伝わってくる、この子なら信じてくれる、そう思う自分がいる。
怖い気持ちはまだ残っている、でも…話してみよう。
「そっか…わかった話そう、俺が何者なのかを」
茜さんに見つめられながら俺は話を続けた。
「俺はルナ、此処とは違う世界で聖女と呼ばれていた存在だ」
そこから俺は、ルナとしてこれまで経験してきた事を茜さんに話した。
孤児として生き、教会に連れ去られて聖女になった事を、仲間と共に魔王を討伐した事を、そしてその後の結末を。
転生や美咲に会いに行ったことは話さなかった、信じてもらえないと思ったわけではない。
小鳥遊裕也としての自分への向き合い方がまだわからなかった、だから話したくなかった、それだけだ。
勢いで話しているから何を言ったか自分でも把握しきれていない、最後の方は随分と感情的になってしまった。
それでも茜さんは黙って話を聞いてくれていた、それだけのことがとても嬉しかった。
「これが俺の事情…聞いてくれてありがとう、おかげで少し楽になれたよ」
話し疲れて休もうとしたその時、体が暖かい何かに包まれる感覚がした。
俺は茜さんに抱きしめられていた。
「ルナちゃん!辛かったよね…大人に利用されて世界から嫌われて…大切だった仲間とも離れなきゃいけなくなって…それで頼れる人もいない知らない土地に放り出されていたんでしょう?もう大丈夫なんて軽いことは言えないけど、ルナちゃんがこの世界で生きれるように私も手伝うから…!」
話を信じてくてくれたことも俺のことを気にかけてくれることも嬉しい、けれど既に1度死んでいる俺なんかの為に何かをしてもらうのは申し訳ない…そう思うとなんて返せば良いのかわからなくなる。
悩んでいると頭に何かが触れる感覚がする、頭上を見上げると茜さんに頭を撫でられているのがわかった、何故かは分からないが安心できる、そんな気がした。
「ルナちゃん、私は私がルナちゃんを助けたいからこうしてるんだよ、自分が辛い時でも私を助けてくれる、そんな優しいルナちゃんには幸せな人生を歩んで欲しいんだ」
俺が素直に助けを求めることができないと見抜かれているんだろう、自分がやりたいからと言って助けてくれるつもりなんだろう、その気持ちはとてもありがたいけれど…。
『これからのキミの人生が幸せであるように、良い人に巡り会い、新たな居場所を見つけられるように祈っている』
ミスティの残した言葉が頭をよぎる。
美咲に信じて貰えなかったことで、小鳥遊裕也としての俺は死んだ、小鳥遊裕也の居場所はもう無くなった、ミスティの願いを叶えることはできなくなってしまった、そう思っていた。
けれど、ルナとしてなら新たな居場所を見つけ幸せな人生を送ることができるかもしれない。
良い人には巡り会えた、ルナとしてこの子と共に前向きに生きても…良いのかもしれない。
「うん…それじゃあ、少し頼っても…良いのかな?」
「うん!大丈夫!私に任せて!あっ…ごめんなさい!抱きしめたり撫でたりした上に馴れ馴れしく話しちゃって…」
「気にしないで欲しい…その…嬉しかったから…」
「嬉しかったなら、いくらでも抱きしめてあげるし撫でてあげるよ!」
「いや、流石に恥ずかしいからやめて欲しいかな…」
長時間話したせいか、2人共かなり疲れていて、そのまま眠り、気がついたら朝になっていた。
「おはよう、ルナちゃん」
「あ、そのまま寝ちゃってた…おはよう」
「その…お母さんにルナちゃんのことを説明しても良いかな、力になってくれると思うんだ、もちろん異世界とかあまり触れられたくないだろうことは避けるから」
どうするべきかは悩んだ、けど茜さんは俺のことを信じてくれたから、今度は俺が茜さんのことを信じてみよう、そう思った。
「いいよ、任せる」
茜さんは彼女のお母さんを部屋に連れてくるとこう言った。
「この子はルナちゃん!遠い国の聖女様?で逃げ出してきたみたい!ここに住ませてあげたいんだけど…どうかな?」
俺も彼女のお母さんも固まっている。
…この子を信じて任せたのは失敗だったな?
全く伝わってなさそうなので、俺から説明をした、異世界関係のことは隠し、遠い国のとある宗教団体で魔法を使い聖女として活動していたがその宗教団体が解体されることになって、友人の魔法で遠く離れたこの国に逃げてきたということだけを伝えた、世界を跨ぐ程の遠い国ではあるが間違いは言ってない。
茜さんのお母さんは明らかに困った顔をしている、茜さんは住ませたいと言っていたが、こんな得体の知れない女を家に置くなんて考えられないだろう、それに茜さんだけでなくそのお母さんにまでお世話になって良いのかもわからない。
「えと…流石に茜さんやそのお母さんにお世話になるわけにはいかないので外で住む場所を探しますよ、体調もある程度は良くなりましたし…」
「ちょっと待って、行く当てもお金もないでしょう?それに戸籍は?この場合って不法入国になるのかしら…?」
「戸籍はありませんね、この国の戸籍だけではなく、外国籍も持っていないはずです、特殊な環境で暮らしていたので…不法入国になるのかは私には分かりませんが」
「…とりあえずしばらくの間はここに居て良いわ、娘の命を救ってくれたんだもの、このまま追い出すなんてできない、出来る限り力になってあげたいけれどこの先どうするかは…少し考える時間をちょうだい」
「ありがとうございます、しばらくの間お世話になります」
ありがたいけど申し訳ないんだよなぁ、とはいえこのまま出て行っても生きていくアテはないわけで…。
「よし!ルナちゃん!朝ごはんにしよう!」
そう言って茜さんが俺のことを無理矢理外に連れ出した、こうして引っ張ってくれるのは考えがまとまらない今の俺からしたらありがたい。
俺の分も用意してくれたらしく、3人で世間話をしながら朝食を食べる。
食パンにサラダとソーセージという一般的な朝食だがとても美味しかった。
誰かと落ち着いて食事をするのはいつぶりのことだろうか…お腹だけではなく心も満たされるような感覚がある。
ご飯まで用意してもらって何もしないのはまずいだろうと思い、片付けをしている茜さんのお母さんである、
「私も手伝います」
「ルナさん気持ちはうれしいけれど…そのまえに、体調が治っているならお風呂に入ってきなさい、まだ入っていないでしょう?」
「あ…すいません」
色々あったせいで忘れていたが、流石に体を清める必要があるだろう、魔法でもある程度はできるけれど、気持ち的にもお風呂には入りたい。
「茜もまだでしょう?一緒に入ってきなさい!」
「は~い」
え?これって一緒に入るってこと!?
ルナが本調子であれば多少の体調不良どころか四肢欠損くらいまでなら余裕で治せるけれど、茜と出会う前は、死んでも良いかと悩むくらいのメンタルだったので、最低限の回復魔法しか使っていませんでした。
その結果魔法を使うのに影響が出るくらいボロボロになって、その状態で魔力を無理矢理捻りだして茜に回復魔法を使った結果自分が倒れてしまったという流れですね。
精神的な不調と栄養不足は、魔力の生成に影響が出るのでそれで魔力が少なかったのも理由の一つです、ちゃんと食べて寝て健康的な生活をしよう!
後、ルナは心を許していない相手には聖女時代の口調で話しています。