シャンプーは、掟の外で乱馬を選ぶ―らんま1/2・女傑族の村残留IF― 作:エーアイ
翌朝。
乱馬が目を覚ますと、右肩にはまだ鈍い張りが残っていた。昨夜よりは軽い。腕を前へ伸ばす程度なら問題ないが、頭より上へ持ち上げようとすると、肩の奥が少しだけ引っかかった。
「……まだ残ってんのかよ」
寝台の上で肩を確かめていると、隣から玄馬の声がした。
「昨日あれだけ使えば当然だろう」
「起きてたのか」
「父は息子の身体を常に案じている」
「じゃあ何で俺が山羊追っかけてる間、おまえはいなかったんだよ」
「仕事が別だったからだ」
「便利な言葉だな」
乱馬は寝台から降りた。
昨夜、ムースの鎖を直すときにも右肩を使わないよう気をつけた。それでも、一日分の疲れまでは消えないらしい。
赤い上着へ腕を通していると、外から戸を叩く音がした。
「乱馬」
シャンプーだった。
「起きてる」
戸を開ける。
シャンプーは乱馬の顔より先に、右肩へ目を向けた。
「肩は?」
「昨日よりまし」
「全部治ったのか」
「そこまでは言ってねえ」
「なら、今日も重いものは持つな」
「朝からそれかよ」
「今日は放牧地へ行く」
乱馬の眉が上がる。
「また柵直すのか?」
「直さない」
「じゃあ何しに」
「昨日直したところを、担当に見てもらう」
乱馬は少し間を置いた。
「俺たちで昨日全部見たぞ」
「それでも見る」
「またそれか」
「朝食を食べたら行く」
シャンプーはそれだけ言い、母屋へ戻っていった。
乱馬はその背中を見送る。
「ちゃんと直したのにな」
後ろから玄馬が言った。
「ちゃんと直したと思っているから、見てもらうのだろう」
「親父がまともなこと言うと腹立つな」
「なぜだ」
「知らねえよ」
朝食を終えたあと、乱馬とシャンプーは北の放牧地へ向かった。
昨日と同じ山道だった。
乱馬は手ぶら。シャンプーも、小さな木札と記録用の板しか持っていない。
「本当に何も持たなくていいのか?」
「今日は確認だ」
「壊れてたら?」
「必要な道具を取りに戻る」
「先に持ってけばいいだろ」
「使わない物まで運ぶ必要はない」
「昨日までだったら、俺に持たせてたくせに」
「肩が治っていない」
「それは分かってるけどよ」
二人は斜面を上っていく。
昨日、乱馬とムースが何度も往復した道だった。
放牧地へ着くと、すでに一人の女が柵の中にいた。三十代から四十代くらいの、袖をまくった仕事着姿の女で、山羊の脚や蹄を一頭ずつ確かめている。
昨日逃げた大きな山羊も、その近くで何事もなかったように草を食べていた。
「昨日の修理をした乱馬を連れてきた」
シャンプーが言った。
女が顔を上げる。
「ムースは?」
「分家の仕事だ」
「なら、二人分まとめて見ておこう」
女は柵の外へ出た。
最初に向かったのは、昨日の午前に交換した横木だった。
両手でつかみ、強く前後へ揺らす。
横木は動かない。
「ここは問題ない」
「だろ?」
乱馬が言った。
「まだ一つだ」
女は次の支柱へ移った。
乱馬が横木として短く切ってしまった材木を、補強材へ転用した場所だ。
斜めに入れた補強材。下へ敷いた石。打ち込んだ釘。接合部を順番に触っていく。
「これ、誰が考えた?」
「俺」
「短く切ったのも?」
「……俺」
女が乱馬を見る。
「なら、最後まで言え」
「別に隠してねえよ」
シャンプーが横から言った。
「横木として短く切った。乱馬が補強材へ使うことを考えて、ムースが加工した」
「二人で直したのか」
「そうだ」
「そういうこと」
女は補強材を靴先で軽く押した。
動かない。
「悪くない」
乱馬の口元が少し上がる。
次の支柱も確認する。
こちらには、湿った地面へ木が直接触れないよう石が入っていた。
「ここもいい。ただし」
女がしゃがみ、支柱の根元へ指を当てた。
「次に強い雨が降ったら、もう一度見る」
「何で?」
「昨日の雨で地面が緩んでいる。いまは固まっていても、次に水が入ればまた動くかもしれない」
「補強したのに?」
「補強したから絶対に動かないわけじゃない」
乱馬もしゃがんで根元を見る。
見たところ、昨日と変わらない。
「今は平気なんだろ?」
「今はな」
「じゃあ次に雨降ったら見るのか」
「そういうことだ」
「面倒だな」
「山羊が逃げる方が面倒だ」
「昨日それやったから分かるよ」
女は少し笑い、門へ向かった。
ムースが直した蝶番を何度か開閉する。
音はしない。
途中で引っかかることもなかった。
「これはムースか?」
「そうだ」
シャンプーが答える。
「さすがに慣れてるな」
「やっぱりあいつ、こういうのはできるんだな」
乱馬が言う。
「昨日一日見ただろう」
「見たけどよ。本人が黙ってりゃもっと分かりやすい」
「それはムースに言え」
「言ったら余計うるさくなる」
最後に、昨日の午後に壊れた古い柵へ向かった。
新しく入れた横木。
割れた支柱を補強した金具。
そして、昨日ムースの鎖を使って仮止めした場所。
鎖は昨夜外され、代わりに新しい縄が巻かれている。
女はその縄へ手をかけた。
「ここは、もう少し締めてもいい」
「緩いのか?」
「今すぐ外れるほどではない。ただ、山羊が何度も身体をこすれば少しずつ動く」
女は結び目を乱馬へ見せた。
「このくらい遊びがあるだろう」
乱馬が指で押す。
確かに、わずかに動く。
「昨日は気づかなかった」
「昨日は壊れた直後だ。止めることを優先したんだろう」
「そのあと全部見たぞ」
「見たな」
「じゃあ何で」
女は縄を締め直しながら言った。
「直した者ほど、直ったと思って見るからな」
乱馬が黙る。
「自分で取りつけた場所は、どうしても『ここは大丈夫だ』と思って触る。別の人間なら、最初から疑って見る」
「俺たちが手ぇ抜いたって言ってんのか?」
「違う」
女は結び目を固定した。
「信用することと、確認することは別だ」
乱馬の顔が少し変わる。
「……それ、昨日も聞いた」
「なら覚えているな」
「シャンプーとばあさんに言われた」
「三人目だ」
「何回言われんだよ」
「おまえが納得するまでじゃないか?」
シャンプーが言った。
「もう分かったよ」
乱馬は締め直された縄を引いた。
今度はほとんど動かない。
「昨日の俺たちの修理が駄目だったわけじゃねえ。でも、別の奴が見れば違うところに気づくってことだろ」
「そうだ」
女がうなずいた。
乱馬はもう一度、修理した柵を見る。
昨日、自分とムースで直した。
一度は二人で確認した。
シャンプーも夕方に確認した。
そして今日、担当者がまた確認した。
「一つ直すだけで何人見るんだよ」
「逃げた山羊を何人で追った?」
乱馬は答えなかった。
昨日の斜面を思い出す。
ムースが網を張った。
乱馬が山羊を戻した。
どちらか一人だけなら、畑まで逃がしていたかもしれない。
「……そういうことか」
女は最後に柵を一周し、木札へ印をつけた。
「今日はこれで使える。雨が降った翌朝に、根元だけもう一度見る」
シャンプーも自分の木札へ記録した。
「分かった」
「乱馬」
「何だよ」
「昨日の修理は悪くなかった」
「最初に言えよ!」
女が笑った。
村へ戻ると、コロンが宗家の前で待っていた。
「柵はどうだった?」
「大きな問題はない」
シャンプーが答える。
「縄を一か所締め直した。支柱の根元は次の雨のあと再確認する」
「そうかい」
「俺たち、ちゃんと直してたぞ」
乱馬が言う。
「疑っていたわけじゃないよ」
「じゃあ何で見せたんだ」
「自分で答えられるだろう?」
乱馬は少しだけ嫌そうな顔をした。
「信用するのと確認するのは別」
「覚えたじゃないか」
「三回も言われたからな!」
「なら、しばらく忘れないね」
コロンは満足そうに杖を動かした。
「今日は右肩を休ませな」
「また休みかよ」
「何もしないとは言っていない」
「嫌な言い方だな」
「倉庫へ行きな。昨日使った道具と材料を確認する」
「それ仕事じゃねえか!」
「重い物は持たせないよ」
「細かい仕事の方が疲れるんだよ」
「肩は疲れない」
「頭が疲れる!」
「ちょうどいい修行だね」
乱馬は何か言い返そうとしたが、コロンはもう歩き出していた。
シャンプーが横を通る。
「行くぞ」
「おまえも?」
「帳面を確認する」
「昨日も帳面見てただろ」
「昨日と今日では数字が違う」
「毎日変わんのかよ」
「使えば変わる」
「面倒な村だな」
「昨日、材木を一本無駄にしかけた者が言うな」
「無駄にはしてねえ!」
「だから数える」
「分かったよ!」
倉庫の中は、朝でも少し薄暗かった。
壁際には材木。
棚には釘や金具、縄、油、工具。
朝市で仕入れた品も、まだすべて配り終わったわけではない。
乱馬は低い台の前へ座らされた。
「本当に座ってていいのか?」
「右肩を使わない仕事だからな」
シャンプーは木札を数枚、乱馬の前へ置いた。
「昨日、放牧地へ持っていった釘は二十四本」
「覚えてる」
「使ったのは?」
乱馬が少し考える。
午前の横木と補強材。
午後の古い柵。
「……十二?」
「十五だ」
「そんな使ったか?」
「午前に八。午後に七」
「三本くらい誤差だろ」
「釘三本で補修できる場所もある」
「またそれかよ」
「残りは九本」
シャンプーが小さな袋を乱馬へ渡す。
「数えろ」
「信用してねえの?」
「確認しろ」
乱馬が顔をしかめる。
「便利な言葉になってきたな」
袋を開け、一本ずつ台へ並べる。
「一、二、三……」
九本。
「合ってる」
「戻せ」
「数えたのにまた戻すのか」
「使わないからだ」
乱馬は釘を袋へ入れ直した。
次は端材だった。
昨日残したものが三本。
短いものが二本。
まだ別の補修へ使える長さのものが一本。
「これは捨てねえのか」
「使える」
「どこに?」
「まだ決まっていない」
「使う場所決まってないのに取っとくのかよ」
「使えるからだ」
乱馬は端材を見る。
昨日、横木として短く切ってしまった材木も、結局は補強材として使えた。
以前なら「余ってるなら一本くらい」と考えていただろう。
今日は少し違って見える。
「じゃあ、これも次に何か壊れたら使うのか」
「長さが合えばな」
「合わなかったら?」
「別の場所へ使う」
「ずっと合わなかったら?」
「薪にする」
「最後は燃やすのかよ」
「最後まで使う」
「徹底してんな」
次は、昨日ムースが使った工具の木札だった。
金槌。
錐。
鉋。
油差し。
「これはムースが戻したんじゃねえの?」
「戻した。だが、油差しの口が少し曲がっていた」
「直した?」
「分家で直して、今朝戻っている」
「何でも記録すんだな」
「誰かが次に使う」
乱馬は木札を裏返した。
そこには小さな印と数字が並んでいる。
「読めねえ」
「数字は読めるだろ」
「数字はな。こっちの字」
シャンプーが指を置く。
「油」
「これは?」
「修理済み」
「こっちは?」
「分家」
「全部覚えろって?」
「今日はそこまで言っていない」
「そのうち言う気だろ」
「必要ならな」
「絶対言うな、それ」
シャンプーは返事をせず、次の荷札を取り出した。
太い縄の束だった。
「これは放牧地へ追加で回す」
「昨日の古い柵用?」
「予備だ」
「また壊れたときの?」
「壊れる前にも使う」
「やっぱり先のことばっか考えてんな」
乱馬が縄についた荷札を見る。
大きな文字が二つ書かれていた。
「これ、何て書いてある」
「青河」
乱馬の手が止まった。
「青河?」
「そうだ。青河を経由して入った縄だ」
「ああ」
乱馬は荷札をもう一度見る。
文字そのものはまだ覚えていない。
だが、その地名は覚えている。
朝市の日に、自分で帰る道を尋ねた。
村から東へ進み、下の分岐を通る。
石塔。
川の音。
その先にある町。
「青河までは分かるんだけどな」
乱馬が言った。
「何がだ」
シャンプーが手を止める。
「道だよ」
「青河までの?」
「そこまでは、あの商人に聞いた」
乱馬は荷札を指で軽く叩いた。
「その先だよ。日本へ戻るなら、どっちへ行くのか」
シャンプーは少し考えた。
「青河から先は道がいくつもある」
「どれが一番早い?」
「目的地による」
「日本だって」
「日本のどこだ」
乱馬が口を開く。
だが、すぐには答えなかった。
「……港とか」
「港も一つではない」
「面倒だな」
「道はそういうものだ」
「おまえは分かるのか?」
「青河から先なら、知っている道と知らない道がある」
「全部知ってるわけじゃねえんだ」
「村から出れば、知らない場所もある」
「そりゃそうか」
シャンプーは荷札を縄へ戻した。
「ひいばあちゃんの方が詳しい」
「じゃあ、ばあさんに聞けばいいか」
「聞きたいならな」
「……今すぐじゃなくていい」
「なぜ」
「まだ呪泉郷の記録も待ってるだろ。今日出ていくわけじゃねえし」
「そうだな」
それ以上、シャンプーは聞かなかった。
乱馬も荷札から手を離す。
青河までなら分かる。
その先は知らない。
今は、それだけだった。
倉庫の作業は、午前だけでは終わらなかった。
使った道具を棚へ戻す。
木札を一枚ずつ確認する。
残った縄を長さごとに分ける。
釘の袋へ、数を書いた札をつける。
力は使わない。
右肩も痛まない。
その代わり、乱馬は何度もため息をついた。
「まだあるのか」
「あと三つ」
「さっきもあと三つって言っただろ」
「あれは棚が三つ」
「今度は?」
「縄が三束」
「同じ言い方すんな!」
シャンプーは気にせず縄を並べる。
乱馬も文句を言いながら手を動かした。
途中で文字の分からない札が出れば聞く。
シャンプーは答える。
数字が帳面と合わなければ、二人でもう一度数える。
昼食を挟み、午後までかけて倉庫の整理は終わった。
最後の札を棚へ戻したとき、乱馬は大きく伸びをしようとした。
「肩」
「分かってる!」
右腕だけ途中で止め、左腕だけを上へ伸ばす。
「これでいいだろ」
「最初からそうしろ」
「一日中座ってた方が疲れるんだよ」
「明日、肩が治っていれば動ける」
「本当だろうな」
「私が決めることではない」
「じゃあ誰が」
「おまえの肩だ」
「それ言われると何も返せねえな」
夕方。
宗家へ戻ると、コロンがその日の木札を確認していた。
シャンプーが倉庫の記録を渡す。
「放牧地の縄を一束追加。釘は九本戻した。工具は全部戻っている」
「ご苦労」
コロンは札を重ねた。
乱馬は近くの柱へ背を預ける。
「今日はもう終わりだろ」
「夕食まではね」
「何だよ、その言い方」
乱馬の顔が険しくなる。
コロンはシャンプーを見る。
「今夜は西から北の外周を回る番だったね」
「そうだ」
シャンプーが答えた。
「見回り?」
乱馬が聞く。
「夜の外周を見る」
「何を見るんだ」
「柵、水路、火の始末、獣の跡。外から入った者がいないかも見る」
「昼にいろいろ見たばっかりだろ」
「夜は夜だ」
「また仕事かよ」
コロンが乱馬を見る。
「おまえも行きな」
「何で俺まで!」
「肩を使う仕事はさせられない」
「だったら休ませろよ!」
「歩くくらいならできるだろう?」
「できるけどよ」
「村の中だけ見ていても、村がどこまでか分からない」
乱馬は少し黙った。
これまでにも、昼間の村はかなり歩いた。
東から商人が出ていく道も見た。
西の水路も。
北の放牧地も。
だが、村の外周を一周したことはまだない。
「外まで見るのか?」
「境までだ」
シャンプーが答える。
「夜に?」
「夜だから見る」
「暗いだろ」
「提灯を持つ」
「問題がなかったら、歩くだけ?」
「歩くだけだ」
乱馬が少し安心した顔をする。
シャンプーが続けた。
「問題がなければな」
「先にそれ言うなよ!」
コロンが杖で地面を一度叩いた。
「夕食までは休みな。右肩もその間に休ませるんだよ」
「見回りで何かあっても、俺は肩使えねえぞ」
「シャンプーがいる」
「俺、何のためについてくんだ」
「見るためだよ」
「俺が?」
「おまえが」
乱馬は少しだけ考えた。
今朝は、自分たちが直した柵を別の者に見てもらった。
倉庫では、使った物と残った物を確認した。
この村では、終わったと思ったあとにも誰かが見る。
「……見るだけなら行く」
「そうかい」
「勝手に決めんなよ。俺が今、行くって決めたんだからな」
「分かってるよ」
コロンはそれ以上何も言わなかった。
シャンプーは、「自分で決めた」と言い張る乱馬を見て、ほんの少し口元を緩めた。
「何だよ」
「何でもない」
「だったら笑うな」
「笑っていない」
「笑っただろ!」
夕食が終わるころには、空はすっかり暗くなっていた。
乱馬が離れの前へ出る。
昼間まで見えていた山の稜線は黒い影になり、村の家々には小さな灯りが残っている。
少し離れた道から、光が近づいてきた。
シャンプーだった。
片手には提灯。
腰には短い棒と、細い縄。
昼間とは違う、夜の見回り用の道具を身につけている。
「本当に行くのか」
乱馬が言う。
「行くと言った」
「一周だけだからな」
「見回りは一周だ」
「途中で仕事増やすなよ」
「問題がなければ増えない」
「その言い方、今日二回目だぞ」
シャンプーは提灯を少し上げる。
「肩は?」
「歩くだけなら平気だ」
「なら行くぞ」
乱馬は離れの戸を振り返った。
中では玄馬がすでに横になっている。
「親父も連れてけよ」
「玄馬は夜の見回りに向かない」
「何で」
「暗いところで食べ物を見つけると、そちらへ行く」
乱馬は少し考えた。
「……否定できねえ」
離れの中から玄馬の声が飛ぶ。
「聞こえているぞ!」
「起きてんなら来いよ!」
「今日は疲れている!」
「都合いいな!」
乱馬はため息をつき、シャンプーの横へ並んだ。
提灯の光が、二人の足元を照らす。
昼間なら見慣れ始めた村の道も、夜になると別の場所のように見えた。
「どっちから行く?」
「西からだ」
「水路の方か」
「そのあと北へ回る」
「山羊んとこも見る?」
「外から見る」
「今日三回目じゃねえか」
「夜は夜だ」
「その言葉、便利すぎるだろ」
二人は村の家々を抜けていく。
灯りが少しずつ後ろへ遠ざかる。
その先には、まだ一周したことのない村の外周が、夜の暗がりの中へ続いていた。
シャンプーの提灯を先頭に、乱馬もその暗がりへ足を踏み出した。