シャンプーは、掟の外で乱馬を選ぶ―らんま1/2・女傑族の村残留IF―   作:エーアイ

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第26話 シャンプーは、乱馬を夫と呼ばない

 翌朝。

 シャンプーが目を覚ましたとき、右肩に鈍い痛みが残っていた。

 

「……痛い」

 

 寝台の上で腕を上げる。

 

 動く。

 骨に異常はない。

 昨日、乱馬の蹴りを受けた場所だ。

 頬にも、拳がかすめたところへ少し熱が残っている。

 

 左脚を伸ばす。

 

 こちらも痛む。

 

 最後。

 白い境界線の内側へ残した足。

 

 ほんの半歩。

 乱馬の指が袖から離れるのが、あと少し遅ければ。

 自分の左足が、あと少し外へ動いていれば。

 昨日の勝者は違っていた。

 シャンプーは寝台へ座ったまま、自分の左足を見る。

 

「勝った」

 

 小さく言う。

 

 昨日。

 三度目の勝負。

 

 乱馬に、初めて勝った。

 それを思い出すと、胸の奥が熱くなる。

 

 嬉しい。

 

 今になっても、はっきり嬉しかった。

 だが。

 窓の外から聞こえてきた声は、昨日までと何も変わっていなかった。

 

「それ俺のだ!」

 

「早い者勝ちだ、乱馬!」

 

「俺の皿から取ったら早い者勝ちじゃねえだろ!」

 

 シャンプーは窓の外を見る。

 

 もう朝食が始まっているらしい。

 

「……いつも通りだ」

 

 昨日、乱馬は負けた。

 それなのに。

 朝から玄馬と喧嘩している。

 シャンプーは着替え、宗家の食堂へ向かった。

 


 

「返せ!」

 

「父の身体を作る栄養になるのだ!」

 

「自分の皿の食え!」

 

「親子で分け合うのが家族というものだ!」

 

「だったら親父の肉よこせ!」

 

「それはわしのだ!」

 

「都合よすぎんだろ!」

 

 食堂へ入った瞬間から、いつもの声だった。

 長い卓の一角。

 乱馬と玄馬が、箸で一切れの肉を挟み合っている。

 リンファが少し離れたところで汁物を配りながら、もう止める気もない顔をしていた。

 

「朝から元気ね」

 

「リンファ、こいつ止めてくれ!」

 

「親子喧嘩でしょう?」

 

「食料問題だ!」

 

「家庭内の問題だな」

 

 玄馬がうなずく。

 

「家族扱いすんな!」

 

 肉が箸の間から抜けた。

 宙へ飛ぶ。

 シャンプーは片手を伸ばした。

 肉を受け止める。

 乱馬と玄馬が同時にこちらを見る。

 

「シャンプー」

 

「それ俺の!」

 

「わしの皿にあった!」

 

「親父が俺のから取って自分のに置いただけだろ!」

 

 シャンプーは肉を見る。

 少し考える。

 二つに裂いた。

 一方を乱馬へ。

 もう一方を玄馬へ置く。

 

「半分ずつ」

 

 乱馬が自分の肉を見る。

 玄馬の方を見る。

 もう一度、自分の方を見る。

 

「……親父の方が大きくねえ?」

 

「同じだ」

 

「いや、こっちの方が」

 

「敗者は細かいな」

 

 乱馬の目が止まった。

 シャンプーも止まる。

 

 言ってから。

 少しだけ口元が上がった。

 

「おまえ!」

 

 乱馬の眉が跳ねる。

 

「今それ言いたかっただけだろ!」

 

「何がだ」

 

「敗者って!」

 

「事実だ」

 

「くっそ!」

 

 乱馬が椅子から立ち上がる。

 シャンプーは半歩だけ横へ避けた。

 乱馬の手が空を切る。

 勢いのまま玄馬へぶつかった。

 

「ぐおっ!」

 

「親父、邪魔!」

 

「飛びかかったのはお前だろう!」

 

 二人で床へ転がる。

 リンファがため息をついた。

 

「食事中よ」

 

「こいつが!」

 

 乱馬がシャンプーを指す。

 

「昨日勝ったからって調子乗ってんだ!」

 

「勝ったのは本当だ」

 

「一回だろ!」

 

「昨日は一回しか戦っていない」

 

「そういう意味じゃねえ!」

 

 シャンプーは席へ座った。

 

 粥を取る。

 乱馬は床から起き上がりながら、まだ何か言っている。

 

 昨日。

 乱馬は負けた。

 

 それでも。

 自分へ頭を下げない。

 

 勝者だからといって、シャンプーの言うことを聞こうともしない。

 腹を立てれば怒鳴る。

 

 玄馬とは肉を取り合う。

 食事も普通に食べる。

 

 昨日の午後だって、同じ屋根へ上がって一緒に仕事をした。

 

 勝者だから。

 敗者だから。

 そんなものは、仕事にも食事にも何も関係なかった。

 

 シャンプーは箸を止める。

 

「何だよ」

 

 乱馬が気づいた。

 

「何が」

 

「また見てるだろ」

 

「見ている」

 

「だから何を」

 

「おまえ」

 

「俺?」

 

「ああ」

 

「昨日もそれ言ってたな」

 

 乱馬は自分の席へ戻る。

 

「負け方がどうとか」

 

「昨日より分かった」

 

「何が?」

 

「負けても、おまえは変わらない」

 

 乱馬が首を傾げる。

 

「当たり前だろ」

 

「そうなのか」

 

「何で負けたくらいで別人になんだよ」

 

「……」

 

「悔しいけど」

 

 乱馬は肉を口へ入れる。

 咀嚼する。

 飲み込む。

 

「負けたのは昨日の勝負だろ」

 

「ああ」

 

「だったら次に勝ちゃいい」

 

「それだけ?」

 

「それだけっていうか」

 

 乱馬は少し考えた。

 

「他に何かあんの?」

 

 シャンプーは答えなかった。

 

 以前の自分ならあった。

 敗北は、その後を決める。

 死の接吻。

 求婚の接吻。

 負けた瞬間から、それまでとは違う道へ進む。

 

 だが乱馬は違う。

 負けても、乱馬のまま。

 勝敗は乱馬の一部ではあっても。

 乱馬全部を決めるものではない。

 

「変な奴だな」

 

 シャンプーが言った。

 

「何でだよ!」

 

「負けた次の日まで普通だからだ」

 

「普通じゃ駄目なのかよ!」

 

「駄目ではない」

 

「なら言うな!」

 

 リンファが笑った。

 玄馬は、その隙に乱馬の皿へ手を伸ばした。

 

「親父!」

 

「隙を見せる方が悪い!」

 

「やっぱ今日もう一回負けたの親父にしとく!」

 

「何の勝敗だ!」

 

 シャンプーは二人を見ながら粥を食べた。

 

 昨日勝った味は。

 朝になっても消えていなかった。

 それでも日常の味も、何も変わっていなかった。

 


 

 朝食のあと。

 シャンプーは宗家から共同倉庫へ向かっていた。

 

 今日は午前中に、水桶と担ぎ棒の点検をする。

 そのあと、水汲み。

 午後は別の仕事がある。

 いつもの一日だった。

 

 広場へ出ると、声をかけられた。

 

「シャンプー」

 

「何だ」

 

 昨日、修練場にいた女だった。

 その隣にも二人ほどいる。

 

「昨日は見事だった」

 

「ありがとう」

 

「最後、よく左足を残したね」

 

「あれ以上外へ出ていたら負けていた」

 

「見ていたよ」

 

 別の女が笑う。

 

「乱馬の方も、あと少しだった」

 

「ああ」

 

「今度やったら、どちらが勝つか分からないね」

 

 シャンプーは少し考えた。

 

「私が勝つ」

 

 女たちが笑う。

 

「そう言うと思った」

 

 シャンプーも、少しだけ口元を緩めた。

 

「二度負けた分は取り返した?」

 

 別の女が聞く。

 シャンプーはすぐには答えなかった。

 

「昨日は勝った」

 

「それで十分?」

 

「昨日の勝負については」

 

「そう」

 

 それなら、と女もそれ以上聞かなかった。

 だが。

 少し離れていた別の女が口を開いた。

 

「それで」

 

「何だ」

 

「乱馬との婚姻も、これで決まったのだろう?」

 

 シャンプーの足が止まった。

 周囲の声も少し小さくなる。

 

「何が決まった」

 

「おまえは、求婚の接吻を与えた男へ勝った」

 

「昨日の勝負に求婚の接吻は関係ない」

 

「それは聞いている」

 

「なら」

 

「だが、おまえは勝った」

 

 女は悪意があるようには見えなかった。

 本当に分からないという顔だった。

 

「二度負けた相手へ、今度はおまえが勝った。それなら、今度こそおまえの方が乱馬を夫として──」

 

「違う」

 

 シャンプーが言った。

 女の声が止まる。

 

「昨日の勝負に婚姻は関係ない」

 

「でも」

 

「勝負の前に決めた」

 

「勝つ前の話だろう?」

 

「だから何だ」

 

「実際に勝ってみたら、気持ちが変わることもある」

 

「変わっていない」

 

 シャンプーは即答した。

 

 昨日の朝。

 自分で乱馬へ言った。

 

 勝っても何も求めない。

 修練場では、長老たちの前でも確認した。

 

 婚姻。

 村への残留。

 仕事。

 再戦。

 何も要求しない。

 

 勝てるかどうか分からないときだけの言葉ではない。

 

 勝ったからこそ。

 守る。

 

「乱馬は私の夫ではない」

 

 広場が少し静かになった。

 女が尋ねる。

 

「求婚の接吻が消えたのか?」

 

「違う」

 

 シャンプーはすぐに言い直した。

 

「以前の求婚の接吻については、まだ裁定が続いている」

 

「なら」

 

「それと昨日の勝負は別だ」

 

 シャンプーは女を見る。

 

「昨日、私が勝ったからといって、乱馬を夫として扱う理由にはならない」

 

「でも勝った」

 

「ああ」

 

 シャンプーは胸を張った。

 

「勝った」

 

 その言葉だけは、少し嬉しそうになった。

 

「それだけだ」

 

 女たちは黙る。

 シャンプーは続ける。

 

「私は乱馬へ勝った」

 

「……」

 

「だが、勝ったから、乱馬の人生を決める権利を得たわけではない」

 

 自分で言って。

 少し不思議だった。

 

 以前なら。

 勝敗が相手の人生を変えることに疑問を持たなかった。

 

 掟がそうだったから。

 

 だが今は。

 昨日の乱馬が思い浮かぶ。

 

 負けた直後、白い線の外でもう次の勝負を考えていた乱馬。

 その日の午後、自分から次を申し込むと言った乱馬。

 今朝、肉の大きさへ文句を言った乱馬。

 

 勝ったからといって。

 その全部を自分のものにするような感覚はなかった。

 

 ただ昨日一つの勝負で自分が勝った。

 それだけで十分だった。

 

「その言葉」

 

 少し離れた場所から、コロンの声がした。

 シャンプーが振り返る。

 コロンが杖の先に立っている。

 

「長老たちの前でも言えるかい」

 

「言えます」

 

「求婚の接吻の裁定とは別だと?」

 

「はい」

 

「昨日の勝利を理由に、乱馬を夫として扱わない?」

 

「はい」

 

「勝った後でも?」

 

「変わりません」

 

 コロンは少しだけ目を細めた。

 

「誰が決めたんだい」

 

「私です」

 

 シャンプーは答える。

 

「乱馬も、その条件で戦うと決めました」

 

「そうかい」

 

「ひいばあちゃん」

 

「何だい」

 

「裁定がどうなるかは、まだ分かりません」

 

「そうだね」

 

「でも」

 

 シャンプーは少し言葉を探す。

 

「昨日の勝負で決めたことは、裁定が出る前でも守れます」

 

 コロンはしばらくシャンプーを見た。

 

「そうだね」

 

 それだけだった。

 


 

「おい」

 

 後ろから乱馬の声がした。

 シャンプーが振り返る。

 乱馬が担ぎ棒を肩へ載せている。

 左右には空の水桶。

 

「何してんの?」

 

「話していた」

 

「何の?」

 

 シャンプーは普通に答えた。

 

「おまえは私の夫ではないという話」

 

 乱馬の足が止まった。

 

「……何?」

 

「聞こえなかったか」

 

「聞こえたよ!」

 

 乱馬は警戒するようにシャンプーを見る。

 

「何か裏ある?」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「何度聞く」

 

「だっておまえ」

 

 乱馬が少し声を落とす。

 

「前は勝手に夫にするとか言ってたじゃん」

 

「昨日の勝負では言わないと決めた」

 

「それは知ってるけど」

 

「なら問題ない」

 

「急にまともになると怖えんだよ」

 

 シャンプーの眉が上がる。

 

「以前の私はまともではなかったのか」

 

「勝手に人の人生決めてた奴がまともなわけねえだろ!」

 

 周囲から笑い声が上がる。

 

「笑うな!」

 

 乱馬が怒鳴る。

 シャンプーは担ぎ棒を見る。

 

「水汲みか」

 

「ああ。ばあさんに、朝飯食ったなら働けって言われた」

 

「当然だ」

 

「昨日負けた罰じゃねえよな?」

 

「違う」

 

 コロンが答える。

 

「村にいる者の仕事だよ」

 

「ならいいや」

 

「何でそこだけ安心してるんだい」

 

「勝負と仕事混ぜられたら困るだろ」

 

 シャンプーは乱馬の片側の水桶を見た。

 

「私も行く」

 

「おまえも?」

 

「今日の当番だ」

 

「じゃあ最初からそう言えよ」

 

「聞かれなかった」

 

「またそれか」

 

 シャンプーは別の担ぎ棒と桶を取った。

 二人並んで歩き出す。

 


 

 村の外れにある泉までの山道。

 昨日の勝者と敗者が、並んで歩いていた。

 

「なあ」

 

 乱馬が言う。

 

「何だ」

 

「昨日の最後さ」

 

「またか」

 

「まだ聞いてねえことあんだよ」

 

「何だ」

 

「あの左足」

 

「どの左足だ」

 

「最後まで内側に残したやつ」

 

「それが?」

 

「俺が袖つかんだとき、ほんとにぎりぎりだったよな」

 

「昨日も話した」

 

「違う。あの後」

 

「何だ」

 

「俺がもっと下から引いてたら、おまえ回れなかったかなって」

 

「次に試せ」

 

 乱馬が止まりかける。

 

「言ったな?」

 

「何を」

 

「次に試せって」

 

「おまえが次は自分から申し込むと言った」

 

「覚えてた?」

 

「昨日の話だ」

 

「だよな」

 

 乱馬は少し満足そうに前を向く。

 泉へ着く。

 二人は桶を下ろした。

 水を汲む。

 乱馬が自分の桶を一つ満たしたところで、シャンプーが言った。

 

「今日は敗者が四桶運べ」

 

 乱馬の手が止まった。

 

「は?」

 

「昨日負けたから」

 

「勝負の条件に仕事は入ってねえだろ!」

 

「昨日、おまえは午前の仕事をしていない」

 

「おまえも試合してただろ!」

 

「私は勝者だ」

 

「勝者でも働け!」

 

 乱馬が即座に返した。

 シャンプーは真顔で乱馬を見る。

 

 数秒。

 

「冗談だ」

 

「本気の顔だったぞ!」

 

「半分は」

 

「どっちだよ!」

 

 シャンプーは自分の桶へ水を入れる。

 

 一つ。

 二つ。

 乱馬も二つ。

 結局、同じ数だった。

 

「ほら」

 

 乱馬が言う。

 

「勝者も二桶」

 

「当たり前だ」

 

「なら最初から言うな」

 

「敗者の反応を見たかった」

 

「絶対楽しんでんだろ!」

 

「少し」

 

「認めやがった!」

 

 乱馬は担ぎ棒を肩へ載せた。

 立ち上がり先に歩き出す。

 水面が大きく揺れた。

 

「速い」

 

 後ろからシャンプーが言う。

 

「こぼしてねえよ」

 

「二人で運ぶなら、速い方が合わせるのだろう」

 

 乱馬の足が少し止まる。

 

「……それ」

 

「何だ」

 

「俺が言ったやつ」

 

「覚えている」

 

「いろいろ使うな、おまえ」

 

「役に立つ」

 

「都合いいな」

 

 乱馬は舌打ちした。

 それでも歩幅を少し小さくする。

 シャンプーが追いつく。

 

 右。

 左。

 

 右。

 左。

 

 二つの担ぎ棒が、同じ間隔で上下する。

 桶の水も、大きくは揺れなくなる。

 

 しばらく。

 二人とも話さなかった。

 

 鳥の声。

 桶の水。

 土を踏む音。

 昨日までと同じ山道だった。

 

「シャンプー」

 

「何だ」

 

「次」

 

 シャンプーは前を向いたまま答える。

 

「申し込むのはおまえだ」

 

「分かってる」

 

「なら自分で決めろ」

 

「今日でもいいけど」

 

「昨日、同じことをしても意味がないと言ったのはおまえだ」

 

「分かってるって」

 

「肩の見方も考えるのだろう」

 

「それも」

 

「戻り方も」

 

「それも!」

 

「次に私が何を持つかも」

 

「そこまで覚えてんの?」

 

「昨日、屋根の上で聞いた」

 

「全部じゃん」

 

「聞いていたからな」

 

 乱馬は少し黙った。

 

「じゃあ」

 

「何だ」

 

「一月後かもしれねえぞ」

 

「そうか」

 

「待てんの?」

 

「待つ」

 

「本当に?」

 

「次を決めるのはおまえだ」

 

 乱馬が横目で見る。

 

「半年とか」

 

「待つ」

 

「一年とか」

 

「長い」

 

「そこは長いんだ」

 

「長いものは長い」

 

「でも待つ?」

 

「おまえが決めるなら」

 

 乱馬は前を向く。

 少し考える。

 

「日本へ帰る直前かもしれねえぞ」

 

 シャンプーの足が。

 ほんの少しだけ。

 遅れた。

 桶の水面が揺れる。

 

 乱馬も気づいた。

 横を見る。

 

 シャンプーはすぐに歩幅を戻した。

 

 残れ。

 そう言おうとは思わなかった。

 

 日本へ帰るな、とも。

 

 昨日。

 勝っても乱馬の人生を決めないと、自分で決めた。

 

 今も同じだった。

 

「それでも」

 

 シャンプーは言う。

 

「おまえが決めること」

 

 乱馬はシャンプーを見る。

 

「そっか」

 

「ああ」

 

「……そんなに待たせねえよ」

 

「なぜ?」

 

「負けたままじゃ飯がうまくねえ」

 

 シャンプーが乱馬を見る。

 

「今朝、玄馬と肉を奪い合っていた」

 

「あれはうまかった!」

 

「なら問題ない」

 

「それとこれとは別なんだよ!」

 

 シャンプーは笑った。

 

「何笑ってんだ!」

 

「飯はうまいのだろう」

 

「勝負の話!」

 

「分かっている」

 

「だったら笑うな!」

 

「待っている」

 

「だから分かってるって!」

 

 村の門が見えてくる。

 

 昨日。

 一人は勝った。

 一人は負けた。

 けれど、今日持っている水の量は同じだった。

 

 昨日の勝者と敗者は、同じ数の水桶を運んでいた。

 

 シャンプーは乱馬を夫と呼ばない。

 乱馬もシャンプーに従わない。

 それでも二人は、次の勝負まで同じ道を歩く。

 

 掟がつけた名前ではなく。

 自分たちで選んだ約束だけを持って。

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