帆羽くれあヤンデレ概念 作:あわわぜ
遊園地の中央広場。そこは戦場と化していた。
メリーゴーランドは破壊され、異国を彷彿とさせる小洒落た街灯も、今や根本から倒れている。
「──っ、アンサー! そこの足場気をつけて!」
「……え? てっ、──わわわっ、落ちちゃう!!」
名探偵プリキュア──その称号に恥じない機動力で攻撃を躱し、売店の屋根へと着地したアンサーだが、直後足場が崩壊する。
「はははっ、気をつけろよ〜!」
笑いながら気遣うような声を上げるゴウエモン。しかしその間もロイのプレゼントから生まれたハンニンダーに指示を飛ばし、攻撃を止める気配は皆無である。
「な、なんか今回のハンニンダー強くない!?」
「……う、うぅ、確かに……!」
そう、確かに今回のハンニンダーは、いつもに増して強力だった。技も多いし、耐久値もすこぶるある。
「ははっ、なんでだろうな! 質の良いマコトジュエルが宿ったからじゃないか? それだけあのプレゼントにこもった想いが強かったんだろうな!」
やや困惑気味のプリキュア二人に対して、笑いながら答えるゴウエモン。
「え、質の良いマコトジュエル!? なにそれ知らない! 違いとかあるの!?」
「さあ? そんなことは知らん。まあそういうこともあるんじゃねーか?」
それはあくまで推測に過ぎないモノだった。だが、やけに勘のいいゴウエモンの言葉なので、
「若干あり得そうなのが怖い」
「……でも、どちらにしても、ロイさんとくれあさんからプレゼントを奪ったことは許せない! 行くよっ!」
負傷など気に留めず、二人は立ち向かう。
だが、
『──ハッ、ハ ン ニ ン ダッ!』
ハンニンダーによる強風が吹き荒れ、彼女たちが近づくことを許さない。二人は飛ばされ、壁に身を打ち付けられた。
「……こっ、これ、本当に不味い」
「まだ、やれる……っ、」
しかし、立ちあがろうにも体が動かない。ゴウエモンの援護射撃もあって、明らかに苦戦していた。
「はっはっは! この程度か? ちょうど良い! この際プリキュアも倒してやろう!」
「……っ」
ゴウエモンが扇子を構え、戦闘を再開しようとする。といっても、もはや一方的なものになる他ないだろうが。
名探偵プリキュアは、たったこの前、ウソノワールの襲撃に万全の対応ができなかったのだ。その悔しさを糧に新たな決意を固めたのに、早速の絶対絶命。こんなところで倒れる訳にはいかないのに。
しかし、現実は無情である。
「これは良い土産になりそうだな! ──あばよ、楽しかったぜプリキュア!」
「……そんなっ」
「……!」
『──ハ ン ニ ン ──ダッ!』
ゴウエモンの合図で、ハンニンダーがぐんと距離を詰めた。一層に暴風が悪化し、目を開けることも、抵抗も許さない。そのままトドメの一撃を刺そうとして、そして──
「──そうはさせないわよ」
紫色の閃光が降り注いだ。
『ハッ、ハ ン ニ ン゛ッ』
「ぬぅ!? なんだとぉっ!?」
たちまち、すべての攻撃は相殺され、ハンニンダーは後方に吹っ飛ぶ。
暴風は止み、ひとまずの静寂が訪れる。
「……え?」
目を伏せていた二人は、突然の乱入者と軽々と撃退されるハンニンダーを目にして、呆然と座り込む。
黒を基調とした衣装と、金髪を覆う紫色のヴェール。手には〝灰色の〟ロッド。
「……キュアアルカナ・シャドウ?」
ミスティックが呟いた。それは、最近彼女らを悩ませる正体不明のプリキュアだった。
森亜るるか。またの名をキュアアルカナ・シャドウ。名探偵──ではないものの、プリキュアなのになぜか怪盗団ファントムに所属し、盗みを働こうとするミステリアスな少女だ。しかし目立った悪意などは感じられず、ウソノワール襲撃時は二人を庇ったりもして。
「──おいアルカナシャドウ! これは一体どういうつもりだっ!?」
驚愕を浮かべたゴウエモンが、アルカナシャドウに抗議の声をあげる。……当然だ。両者共に怪盗団ファントム。本来なら仲間同士なのだ。
しかし、
「別に。ただ、貴方は超えてはいけない一線を超えた。それだけよ」
彼女は髪をファサ……っと手で撫でて、澄まし顔で言った。実に様になっていたが、なんだか妙にわざとらしかった。
「おい、なんだ今の仕草」
「……?」
もっとも本人は、なにもわかっていないようである。「なにかおかしなところでもあったかしら」というような、あっけらかんとした澄まし顔だ。
「あれ、るるかさん、なんかいつもと少し雰囲気が……」
「そう……? 私はいつも通りだと思うけどなぁ。でも確かに、いつもと全く同じかと言われれば……」
どうやらプリキュアの二人も、アルカナシャドウに対して懐疑心を抱いているようだった。壁に埋もれたハンニンダーなど、もはや誰の眼中にもありはしない。
そして遂に、ファントム一の洞察力を誇るゴウエモンが、その質問を口にした。
「……おい、お前本当にアルカナシャドウか……?」
「──っ」
ピクっとした。ミステリアスな雰囲気はそのままに、整った澄まし顔もそのままに、凛とした佇まいもそのままに、わずかに気配が揺れた。
「む、やはり図星か」
「……なんのことかしら」
疑いの目を向けるゴウエモンと、否定しながらも明らかに目が泳いでいるアルカナシャドウ(
?)である。その様子を見て、プリキュア二人の懐疑も膨らんでいった。
「え……偽物?」
「で、でも、どこからどう見てもそっくりだし……あ、でもあのティアアルカナロッド、なんかいつもと違うような……」
そう、アンサーの疑問はもっともだ。アルカナシャドウのメインウェポンであるティアアルカナロッドは、本来紫色である。しかし今のはどうだろうか。どこからどう見ても、──灰色である。
その指摘もあってか、ゴウエモンは殆ど確信したようであった。
「おいお前、何者だぁ?」
「だ、だから、見れば分かるでしょ」
とうとうアルカナシャドウ(?)の声が微かに震え始めた。なにか誤魔化す方法を必死に模索しているようである。
結果、
「……私はっ、キュアアルカナ…………じゃなくて、シャ、シャドウわよ」
「お前今シャドウつけ忘れたなぁ!? やっぱり偽物か!?」
「偽物じゃないわよ……! 神秘と……えっと秘密で、包み込むんだから!」
盛大にボロを出した。もはやミステリアスのカケラも消えかけてる。
「おいおい、セリフすら曖昧じゃないか。これじゃあもはや、キュアアルカナ・ジャドウだな」
「誰が邪道よ。チッ、やかましいわね。なにも面白くないわ。──《アルカナスターレイン・オールレンジ》」
クソみたいな親父ギャグに、とうとうアルカナジャドウの堪忍袋の尾も切れたらしい。そこには本気の殺意があった。
「……は? オールレンジぃ!? ──って、どわわっ! お前殺意たけぇよ!」
「うっさいわよ! 大人しく消えて!」
アルカナジャドウの瞳に星が宿り、閃光もかくやという速さで距離を詰める。
《きらめきタイム》。それは、他でもない──
「そ、それはっ!? キュアエクレ──うわっ」
「その名前を口にしないことね」
ゴウエモンの胴体に、きらめきタイムで加速されたティアアルカナロッドが命中し、その巨体が後方に吹っ飛ぶ。
『ハンッ、ハッ。ハンニンダッ』
「……邪魔よ。
『──ン゛ッ!?』
彼女が手をかざせば、透き通った灰色の障壁が瞬く間に現れた。復帰したハンニンダーの攻撃を軽々と受け止める。
「……え、あれって、」
「……私の、ミスティックリフレクション!?」
ハンニンダーを牽制し、ゴウエモンと同時に相手取る。それでも、アルカナジャドウは怯まない。
つまるところ、実力差は歴然だった。
アルカナシャドウとしての力に加え、エクレールやミスティックの能力も使用する。もはや何でもアリだった。
そして決着は、あまりにも早くついた。
「……っ、お前っ、なんつー強さだ……!」
『……ハンハン』
ボロボロのゴウエモンは地面に膝をつき、ハンニンダーは仰向けに倒れ込む。それを見下すのは、傷ひとつないアルカナジャドウ。
彼女はそれを冷めた目で一瞥すると、
「さあ、そこのハンニンダーにトドメを刺しなさい。名探偵の仕事でしょう?」
唖然として傍観に耽っていたアンサーとミスティックに、淡々と呼び掛ける。
「……え、私たち? あ、そう、そうだね!」
「うんっ、行くよ、アンサー!」
彼女に呼ばれて、二人は顔を上げる。その目に光が戻った。
『──オープン《プリキットミラールーペ》』
「ポチポチっ!」
アンサーとミスティックが並び立ち、いつの間にかポチタンも加わる。
特殊な色合いのマコトジュエルが現れ、ミラールーペにセットされる。
空気が変わる。
ハンニンダーが怯む。
ゴウエモンは阻止しようとする──が、アルカナジャドウにぺちんと平手打ちされて、黙った。大したダメージもないだろうに、やけに悲しそうに黙った。
やがて、色とりどりの光が二人を照らし、包み込む。空気の変質が著しくなり、
『これが、私たちのアンサーだっ!』
二人が手を合わせた。
──《プリキュア! フライング・スペクトル!》
紫と桃色の閃光が煌めいた。それは抵抗を与える隙もなく、ハンニンダーを完全に飲み込んだ。情けない声を上げて、消滅してゆく。後に残ったのはマコトジュエル。それはそのまま、ポチタンに吸収されて行った。
「ったく、予想外だったぜ! プリキュア……それにアルカナジャドウ! 今回は負けたが、次は同じようには行かないぞ! 首を洗って待っているんだな! あばよっ」
ゴウエモンは負けたにも関わらず、どこか楽しそうな様子で逃げ去って行った。
そうして結界が解除され、倒壊した建築の数々が元に戻る。
「──あのっ」
最初に口を開いたのは、アンサーだった。その声の向く先は──アルカナジャドウ……否、偽物のキュアアルカナ・シャドウだった。
彼女はゴウエモンの逃亡を不満そうな目で見送ったあと、要は済んだとばかりに姿を消そうとしていた。のだが、
「……なに」
呼びかけを完全に無視することはなかったらしい。背中は向けたまま、興味なさそうに返事をする。ティアアルカナロッドは相変わらず灰色で、オリジナルのものとは異なっている。
「るるかさんじゃ、ないんですよね?」
「……るるかだけど」
「じゃあ私たちの初対面の状況を説明してみてください!」
「……」
黙ってしまった。そりゃそうである。この偽物のアルカナシャドウは──ロイがプリキットグロスで作った変装姿なのだから。るるか本人ではないのだ。
しかし、ああ偽物なんだな。と確信した上で、二人は追求をやめなかった。
「さっきの、私のミスティックリフレクションの再現とか、あと、なんか凄く速いやつとか、びっくりしました。どうやったんですか?」
「それは秘密。秘密よ。神秘の中の秘密よ」
彼女は髪をファサ……っと手で撫でて、澄まし顔で言った。実に様になっていたが、なんだか妙にわざとらしかった。
「……」
「「……」」
両者の間に気まずい沈黙が訪れる。
「……なんか言ってよ」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「うん、か、かっこいいと思います! 本物のアルカナシャドウみたい!」
アンサーとミスティックは愛想笑いで褒め称える。恐怖五割、ノリ二割、気遣い三割である。のち、ミスティックが逸らすように話題転換させた。
「と、というかファントムに敵対しているみたいでしたけど、えっと、アルカナジャドウさん? ……は、私たちを助けてくれたんですか?」
「邪道って言わないで」
鋭い睥睨がミスティックを貫いた。
「ひえっ、……すみません! でもじゃあ、なんて言えば!?」
彼女は涙目になりながらも尋ねる。ここで「コイツめんどくせー」とか思わず、素直に謝罪するあたり、育ちの良さが伺える。
ところで、それに対する偽物のアルカナシャドウの返答は、
「──偽アルカナシャドウでいいわ」
当然の如く仏頂面で、言い放った。
「……えー、偽はいいんだ。違いがはなまる理解できな──あ、はい分かりました。分かりましたから睨まないでくださいっ!」
「許す。あと私は別に、あなたたちの味方ってわけじゃないから。そこのところよろしく」
「許してくれた……? ──あ、ありがとうございますっ。って、え、味方じゃないの!?」
許しが与えられて安堵した様子のアンサーだったが、ついでに加えられた「味方じゃない」発言により、また困惑をあらわにした。本当に忙しい少女である。
「えっと、本当に、味方にはなってくれない……?」
「うん、味方じゃない。さて、私はもう帰るから」
満足そうに頷いた偽アルカナシャドウは、今度こそあっけなく踵を返した。
「えっ、ま、待って!」
「ちょっと偽アルカナシャドウさん!?」
引き止める二人だったが、ついぞ彼女は、その場から姿を消してしまったのである。
⚡︎──⚡︎
怪盗団ファントム本拠地。
オペラハウスのような作りの、その空間に、低く恐ろしい声が響く。
「──キュアアルカナ・シャドウの偽物が現れた、か」
ファントムの首領、ウソノワールである。他とは明らかに違う強者の風格。丈夫そうな金属の鎧が全身を包み込んでいる。
「なるほど興味深い」
彼はゴウエモンからの報告と、証拠映像を確認し、感情のない声でそう呟いていた。そして、
「キュアアルカナ・シャドウ、この件についてなにか知っていることはあるか」
「っ」
当然、その疑問の先は、キュアアルカナシャドウ──すなわち森亜るるか本人に向けられる。
しかし、当のるるかは黙り込んでいる。無口ゆえか、否、それには別の理由がある。まあ、要するに、
「…………っ」
「うふっ、ふふふふっ、も、もうお腹痛いわ!『秘密よ。神秘の中の秘密よ』ファサ……だって! うっふふ! あの子ったら最高よ!」
珍しく頬を紅潮させて俯き、ぷるぷると小刻みに震える森亜るるかと、映像を見て腹を抱えて転げ回る占いの妖精がいたのだった。
後日、るるかがロイを痛めつけたのは、いうまでもない。
くれあ出せなかったのは許してちょ。るるくれ和解の頃にはロイくれの決着もほとんど付ける予定です。結ばれた後はイチャイチャフィーバーが始まります。